精霊と士道さんの愉快な暮らしを支える、原作ラタトスクの役回りを美九さんが大体引き受けてるこのお話。
でも美九の場合お仕事じゃなくて、純然たる善意と思いやりと士道さんへの献身から。
そう考えると美九にゃんはやっぱり天使、ファン辞めません。
……………誰だよ黒幕愉快犯<こはくさん>ポジとか言った奴()
天央祭が明けて。
おぞましい思い出を封印することによってなんとか立ち直った士道。
ついでに色々と記憶もすっ飛んでいるが、………美九の申し訳なさそうな顔はなんとなく印象に残っていた。
――――なあ、美九。迷惑かけたよな、覚えてないんだけど酷いこととかしてないよな?
――――どっちもいいえ、ですー。強引なのはむしろばっちこーい、なんですけどー、……………ふふ、だーりんはいつだって優しいだーりんでした。
錯乱していたのか耗弱していたのかは自分でもいまいち思い出せないが、その間ずっと士道の面倒を見ていたのは美九なのだと思う。
士道をあの格好で舞台に立たせたのも美九なら、あの騒ぎを引き起こした異能も元々美九のものだ。
責任を感じているのだろう――――そんな必要もないのに。
実行委員で忙しい美九に協力しようと最終的に決めたのは士道だし、美九から奪った天使の力を暴走させたのも士道だ。
話しているとそのことでお互い平行線の言い合いになりかけたが、それよりも士道が回復したことで気が抜けて、美九の意識が飛んでしまった。
今は、美九が士道の肩にもたれながら、彼女の部屋のソファーですーすーと寝息を立てている。
ぶらんと垂れてしまった手を取って膝に直してあげると、むにゃむにゃと嬉しそうな寝言が耳元で聴こえた。
「ぅ、だーりん、だいすきー………」
その声にくすぐったくも暖かい気持ちになって、士道はそのまま手を優しく包んだままにする。
すべすべした綺麗な肌の瑞々しさが心地よかった。
いつも愛すべき天真爛漫な笑顔で振る舞う美九。
言動は子供っぽく、話し方はもちろん悪戯っぽくからかったり時に大胆に甘えてきたりもする。
だが、その上で美九はやっぱり士道の一つ上のお姉さんでもあった。
この家の家事を引き受けるのは最近では八舞姉妹だが、みんなが集まるこの“家”を提供しているのは、美九だ。
それはこの家が美九の所有物だからというだけでなく、その居心地の良さを作り上げ、どうしたら皆が楽しく過ごせるかを彼女はいつも考えていてくれるから、そんなここを士道達はいつもの居場所にする。
頼みごとをすればこちらが申し訳ないくらいにこにこした顔で二つ返事だし、八舞姉妹を家に住まわせる時だって本人達も知らないところで色々と気を配っていたから、すんなりと互いに馴染んだのだ、きっと。
天央祭の実行委員になったのもその辺りの気質があるのだろうか。
美九がいくら精霊で体力があるとはいえ、大変な仕事をこなし、さらにダウンした士道の面倒まで見て、その上でやっぱり振る舞いはいつもの無邪気なそれなのだから、敵わないな、と士道は思う。
もちろん疲れはあるのだろう、士道に寄りかかって安らかな顔でそれを癒やす眠り姫。
それを優しく見つめながら、士道はそっと囁く。
「いつも、ありがとう。美九」
その無垢な表情を見ているだけで、こちらも安らぎを分け与えられる、そんな美九の寝顔。
士道もまた、美九の温度を感じながら、暫く一緒に寝ようと目を閉じた。
その意識が霞む直前聴こえた気がした、返事をするようなその言葉が本当に寝言だったのかどうかは――――――きっと些細なことなのだろう。
「だーりんの、ためならー、……………なんだって、へっちゃらぁ、ですー…………」
そして静けさに包まれた中、ただ穏やかに時が流れていった――――。
「学校に行きたい?」
そんなこんなで暫く経ったある日のこと。
どこかいつになく落ち着かなげな夕弦というか、どこかいつになくぼうっとした耶倶矢というか、普段の配役を逆にしたような様子で過ごしていた二人。
当然気付いて、士道・七罪・美九にどうしたのかと訊かれて返った答えがそれだった。
「祭りに行ってからぼんやりそんなこと考えてたんだけど」
「羨望。時間を置くたび強く思うようになりました。耶倶矢と夕弦ももっと士道と一緒の場所で過ごしたいと」
「祭りで歩いてたらときどき、私達の知らない人らと、士道が話してたのが悔しかったっていうか、その………」
「…………ああ」
天央祭一日目、会場を巡り歩いていた時、当然同級生たちと何度かすれ違うのだから、一言二言交わすこともあった。
大概は美少女三人と天央祭を回る士道へのやっかみか好奇で絡まれたのだが、二人は二人で思うことはあったらしい。
とはいえ、そういう気持ちをいつもより素直に出すということは、自分達の願いが叶わないと諦めていることが、その態度から知れた。
確かに、これまでただ精霊として生きてきた二人がいきなり学校というのは、色々と難しいことがあるだろう。
「ん、じゃあ行ってみる?」
だが、あっけらかんと七罪は言い放った。
「私も興味あったし、折角時期的にもちょうどいいから………士道と一緒のタイミングで、春から来禅高校に入学するってのでどう?」
「え?いやいや待て七罪、大丈夫なのか?よく分からないけど、書類とかそういうのは―――――、」
「―――――飴玉から公文書まで、なんでもお任せ贋造魔女、ってね」
「犯罪!?」
反射的にツッコミを入れる士道、だが割とドヤ顔で七罪は切り返す。
「士道―――――犯罪ってね、人がするから犯罪なのよ?」
暴論に見えるが正論でもあった。
刑罰法規は、主体は人であることが前提である。
国からすれば人ではなくどちらかというと害獣扱いの精霊の七罪の場合、ばれなきゃ犯罪じゃないとかいうレベルを超えて、そもそも万が一その改竄がばれようとも犯罪とは呼べないのである。
「ま、モラルの問題ってあるからやりたい放題する気はさらさらないけど………学費払って学校に通わせてもらうくらいいいでしょ?」
「それは…………そうだな」
士道が納得―――言いくるめられた?―――あたりで、話を聞いていた耶倶矢と夕弦の顔がぱあっと明るくなる。
「確認。つまり――――、」
「私たち、学校行けるの!?」
「そーですねー。私からは学費は給料(おこずかい)からさっ引く形でー、あと忙しいかもですがメイドさんの仕事もちゃんとやってくださいねぇ、くらいですけど」
「当然。約束します」
「なら応援しますー。さすがに無条件で、って言えないのが心苦しいですけどぉ」
そうして体面的にはこの場合雇い主の美九からも現実的な部分から了承を貰う。
…………親に学費を払ってもらう士道からすればやや心に痛い会話でもあったが。
だが、二・三話を詰め、実際に学校へ行けることが分かると、耶倶矢も夕弦もぴょんと立ちあがってハイタッチを交わした。
「やった、やったね夕弦!」
「歓喜。言ってみるものでした!士道、一緒に学校、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。よかったな、二人とも」
「うん!ありがとう、七罪」
「いいわ、ついでだし。私もよろしくね」
そうして。
士道の精霊と送る学校生活は、決まったのだった。
※ある懸案~別名;士道さんと耶倶矢の特定の読者達の心を抉るやり取り~
「そうだ、私の苗字どうしよう」
「七罪さん?あー、確かに考える必要あるかもですねー」
「「――――――!!」」
「反応。どうしましたか、士道、耶倶矢?」
「ふ、ならばこの耶倶矢、七罪の名に相応しい姓(かばね)を見事考えてみせよう」
「私も参加させていただこう。そうだな…………姓とは一種の称号とも言える。ならば七つの罪、その重き宿縁を感じさせるに相応しいものは―――――神を弑(ころ)す、“弑神(しいがみ)七罪”などまずはどうか」
「!やるな、さすが我が盟友。だが、甘い―――――真なる言霊は分かたれた言語に囚われず、構築するものだ。七罪と言えばその霊装と天使は魔女のそれと聞く。魔女と、そして上位存在殺しを合わせればさらに重みが増すというものよ。そう、魔女の祝典と竜殺しの聖者を敢えて組み合わせ、“七罪・ヴァルプルギウス”!どうだ!!」
「………………………、………………。夕弦、美九。なんか案をお願い。できれば普通な感じで、あの二人を納得させられるものを」
「提案。士道のそれを改変して篠上(しのかみ)とでもすればいいのでは」
「!!それでいくわ!士道と、耶倶矢も、決まったから」
「………っ!夕弦もなかなかやるではないか」
「ああ、良き名だ!」
(篠上=しのかみ=死の神?………………いえ、私の勝手な想像ですし、黙っておきましょうかねー)
七罪の、一応決まったけど多分本編ではこれ以降使われない仮の名字のお話。
……………ぐふっ
今回いつもより短めだけど、もう無理……。
自爆テロとかするもんじゃないわー……。