デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 狂三について色々

「狂三はシドーに助けてもらえなかった私」という原作十香の言葉が正しいとすると、狂三の最初の殺人って仕方なかったとかもののはずみとかだったのかなと考えた。
 十香と違って狂三燃費最悪だし(飲食的な意味ではない)。

 で、それがいつしか不必要な殺人も好んで行うようになってしまい、それを“惰性の人殺し”と痛烈なひとことを喰らって揺れたのがこの話での分身狂三。

 そして士道さんはそれを庇って一回死んだわけだけども、本体狂三からしてもそれは「士道さんはわたくしを命を張って助けるべき相手だと見てくれていた」という認識をしても、まあ間違いではない。
 実際そうだし。

 で、狂三的には借りでもある為、士道が大切にしていた女の子達が絶望して反転したり、後追い自殺しないようにいっちょ仇役をやって生きる目的をとりあえずぶら下げておいてあげるくらいはいいか、ということでロールプレイ気味なことをしていた。
 殺したのが故意か事故かの違いで犯人が狂三であること自体は変わらないのだが。

 しかし、そこに七罪という最悪のイレギュラーがいた、と。


 以上、そういうわけで実は前話の時点でかなりデレていた本体狂三のわりと読み飛ばしても問題ない話でした。





狂三スタチュー

 

 蹂躙。

 

 その必要すら、なかった。

 

 

 

 七罪の様子に不吉な予感を覚えた狂三が分身を嗾けようと指令を出す。

 耶倶矢達にかなりの数を減らされたとはいえ、二十もいれば何をしようともその動きは止められると。

 だが、止まったのは七罪の動きではなかった。

 

 ばきり。

 

 その挙動を見せた狂三達だけに、その足が“割れる”音がする。

 

 動かない。

 壊れたものが動くわけがない。

 だが、痛みも違和感すらも一瞬で消えて失せて。

 

「ひ………!?」

 

 ドレスの下、狂三の足を包むブーツが何故か灰色にくすんでいる。

 最初は見間違いだと思った。

 何かの汚れだと…………意思を込めても動かない、麻痺したどころか全く感覚がなさ過ぎておかしいとすら思わない、故にその変色はただ何かが付着したものだと、理解を拒んだ。

 だが、周囲に何人もの同じ目に遭った“狂三”がいて、“折れた”足が地面をいくらも転がっていて、いつまでも自分を誤魔化し切ることなど出来はしない。

 

「士道が、耶倶矢といつもみたく馬鹿言って、人の天使の使い方とか色々勝手に考えてくれちゃって。

…………そう、これ士道が考えたの。ねえ時崎狂三、」

 

「わたくしの体を、石に……っ!?」

 

 

「バシリスクって、知ってる?」

 

 

 七罪の手に天使である〈贋造魔女【ハニエル】〉の姿は無い。

 光の粒子となって分解された後、全て七罪の瞳に吸いこまれている。

 

 今の七罪の瞳は極彩色に“濁る”。

 入ってきた光が分解され、色を散乱させながら万華鏡のように煌びやかに反射を繰り返し、外から見た彼女の魔眼は鮮やかに輝いていても、内側の七罪の視界に残るは白と黒のモノクロだけだった。

 

 七罪にとって、士道がいない世界に色が着いていようがいまいが、どうでもいいことだが。

 

「私は知らない。士道がなんか語ってたけど聞き流してた。私が分かっているのは一つだけ」

 

「………っ」

 

 

「――――――怖いでしょう?」

 

 

 無意識か、思わず足を一歩退いた被害を受けていなかった分身体が、そのままモノクロームに沈んだ。

 否、その一瞬で足だけ石に変化させられていた狂三達全員もまた、全身を出来のいい石像へと変化させられる。

 自らに何が起こるのか、反応する暇もなく恐怖に引き攣った表情を固定されて晒さずに済んだのはまだましだったのか。

 そしてその心配はむしろ、残った狂三達に当てはまることだった。

 

「生きながらにして石になるの。私の〈贋造魔女【ハニエル】〉は、霊装だろうが随意領域【テリトリー】とやらだろうがまとめて変化させる。けれど、“変質”は出来ない。対象の性質を、わずかにでも残さないといけないの。ねえ、これってとても残酷。

―――――その残り滓で、石にされた体を動かせるか、試してみる?」

 

「なんなんですの……なんなんですの、貴女は!!?」

 

 七罪の“目の届かない場所”、死角から回り込んで奇襲をかけようとした分身が石になる。

 わずかな重心のずれからその石像はバランスを崩して倒れ、その衝撃でバラバラに壊れた。

 

 一か八かに賭けて早撃ちを試みた分身が、七罪に銃の狙いをつけたまま石になる。

 

 そして、竦んで何も出来ない分身が、石になる。

 

 一人一人、七罪の意思によって、その魔眼に映像を運ぶ媒介………光と同じ速さで悪趣味なオブジェとなる。

 回数を追うにつれ、出来上がる石像の表情の、なんと絶望に歪んでいることか。

 

 狂三には分かっていた。

 甚振られているのだ。

 

 その気ならば七罪は最初の一瞬で視界に映る狂三全てを石化させることができた。

 それをしなかったのは、本体が石になるのを免れているのは、ただ「お前が最後だ」という宣告。

 分かっていても、逃げることさえ出来ない。

 

 いくら時を操れても、決して光には届かないのだから。

 

「これが、わたくしの最後…………?」

 

「そんなわけないじゃない」

 

 カウントダウンを重ねるように、物言わぬオブジェが荒れた公園を飾る。

 一人、また一人。

 一体、また一体。

 

「死ぬことなんて許しはしない。あなたは永遠に時崎狂三よ。誰もそうは見てくれないけれど、ね」

 

「っ―――!」

 

「自分がどれだけ自分だと叫んでも、それは誰にも届かない。みんな悪趣味な石像としか見てくれなくなる。それとも、海の底に沈めてあげようかしら。

…………どちらにしても永遠の孤独。あなたは、世界から乖離する」

 

 魔女の怒りは深く、重い。

 そして、目には目を、歯には歯を。

 魔女が奪われたものに相応しい報復を。

 

「誰も本当の貴女を見やしない。哀れ石像は、中に魂を封じ込めたままうち捨てられる。ああ、まるで悪夢(ナイトメア)」

 

 でもね。

 

 目の虹色の輝きと対照的に、今までどこか茫洋としていた七罪の表情が、そこで初めて歪んだ。

 怒りと嘆きと憎しみと悲哀。

 世界を呪う魔女に相応しい狂相――――あるいは愛しい人のあとを追う前の、最後に出しつくす感情だったのか。

 こんな醜い姿は彼に見せられないから、ここに全て置いていくとばかりに。

 

 魔女は、吼える。

 

 

「あなたは悪夢(ゆめ)じゃ済まさない――――――っっ!!!」

 

 

 そして、全ての分身体は石くれと化し残るは本体の狂三一人。

 仇を見据え、七罪は大きく瞼を見開いた――――。

 

 

 

 

 

――――起きて、×××。

 

 声が響く。

 

――――起きて、×××。

 

「ん…………」

 

――――目を覚ますんだ、×××。

 

 厳しげな口調は、しかし低くゆったりした話し方によってひどく穏やかに聴こえる。

 夢うつつの意識に響き、どうしてか暖かさを覚える声。

 どこか懐かしく、しかし記憶にない。

 なのに無償の好意……そんなものが籠った、不可解な声。

 分かるのは、それが真実を話しているのだという謎の確信。

 

 そう。

 

――――立ち上がって、今動かないと大変なことになる。大切なものを、失うかもしれない。そうだろう、

 

 シドウ。

 

「え…………?」

 

 五河士道の意識が覚醒する。

 起き抜けの思考にぼやけた靄を振り払いながら、士道は周囲を見回したが、声の主は姿はおろか既に気配も無かった。

 

 否。

 無いのは“誰か”の姿だけではない。

 

 辺り一面に広がる暗黒。

 士道がいたのは、自分の他に如何なる存在を見出だすことの出来ない、そんな寂しい空間だった。

 

「死後の世界、なんかじゃないよな」

 

 自分はまだ死んでいない。

 異常な場所ではあるが、境界のどちら側かと問うのであれば、ここはまだ此岸だ。

 そんな納得と理解だけが、過程を飛ばして存在する。

 明らかに狂三によって貫かれていた体は、しかしどこも欠けた感触が無い。

 ぺたぺたと手で撫で擦っても、痛みを覚えることもない。

 “そんなことは当然だ”。

 

 この空間は何なのか。

 それは究極の平面である影を擬似的に三次元に引き伸ばし、無限の奥行きという距離を確保仕切った士道にとってはただのスペースだ。

 “分からない訳がない”。

 

 出るためには。

 擬似である以上無限といえども無尽とはいかない。

 空間全体に負荷をかければ一発で壊れる筈だ。

 “士道はそれができる”。

 

 士道の右手に眩く闇を照らす光が集う。

 ずしりとした確かな重さと共に、顕現する機械仕掛けの弓。

 金属弓それ自体に見覚えはなかったが、あしらわれた鋼鉄の翼の装飾や、中心の支柱パーツ、ぐるぐると巻かれた鎖は知っていた。

 耶倶矢と夕弦の颶風騎士(てんし)だ。

 “使い方も当然知っている”。

 

「…………っ!!」

 

 顕現させるだけで、霊力が流れ込みただの人間である士道の肉体を蝕む天使。

 神経の内側に何かを差し込まれたような強烈な痛みが、暴れ狂い内側からずたずたに意識を切り刻む。

 “人間の肉体だからいけない”。

 

 贋造魔女、顕現。

 

 天使の副作用に苦しみながら、更にもう一つ天使を喚び出す士道。

 その髪が伸び、体は細身に、だが元のそれと比べ物にならない性能を持って。

 士道の顔は元の面影を残しながらも、可憐な少女のものへと。

 溢れる霊力の反動で受けていたダメージも、変化により元から無かったも同然となる。

 

――――最初の封印があの子、そして早期にこの天使を封印できたのは、×××にとっての理想形だよ。

 

 五河士織と呼ばれているその姿は、天使によって本人の意思で変化した姿。

 その性質上、天使を操るに最も適した肉体でもあるということ。

 

 例えば、本来持ち主の耶倶矢と夕弦が二人がかりで扱うものを、人間の士道が平然と一人で真上に向けて放てるような。

 そんな、何かの思惑が見えるような“幸運”。

 

「“そんなことは、どうでもいい”!!」

 

 先ほどから思考に混ざる知り得ない知識、その他さまざまな通常看過し得ないものを、士道はしかしこの時自分の言葉でまとめて切り捨てた。

 

 大切なものを、失うかもしれない。

 だったら今は動くだけだ。

 

 謎の声に導かれずとも、士道はもともと嫌な予感しかしていない。

 

 耶倶矢と夕弦が馬鹿をやり始めるような、美九が心を閉ざしまた暴走するような、そして、七罪が一人心の中で寂しく泣いているような。

 

 

「だから、力を貸せよ―――――――〈颶風騎士、天を駆ける者【ラファエル、エル・カナフ】〉!!」

 

 

 風の矢が、闇に閉ざされた空へと放たれ―――――切り裂く。

 

 風が二つ、螺旋に絡み合った鏃は進行途上の空気をも巻き添えに、進めば進む程逆に威力を増していく。

 世界を割った程度ではまだ足りず、上へ上へ――――その戦場を覗き見していた小道具は木端に消し飛び、上空を飛んでいた透明な“ナニカ”の横腹を深く抉り、遥か宇宙、星々の世界まで奔る。

 

 そんな好き勝手に飛んで行った矢はもう知らんと、士道は弓を消し、変身を解いて復帰した世界を見渡した。

 公園は無事に立っている木々が一本も無いほど綺麗に荒らしつくされ、何故か大量の狂三の石像。

 遠くに並べて寝かされているボロボロの美九・耶倶矢・夕弦と、向かい合った態勢のままこちらを見て驚愕に言葉も出ない様子の七罪と狂三。

 

(……………どいつもこいつも。酷い顔しやがって)

 

 

「しどう?」

 

「おう」

 

 

 

「………………士道っっっ!!!!!!」

 

 

 

 七罪が、直前まで怨み骨髄だった筈の狂三の存在も綺麗に意識から投げ捨て、士道に飛びついた。

 その小さな体を、頭を、何故か焼き焦げた跡のある穴の空いた士道のシャツにこすりつけ、嗚咽に震え泣きじゃくる。

 

「士道、士道ぉ……っ、しどうなんだよね、生きてる、本当に………、士道、ここにいるんだよね!!?」

 

「……どう思う?」

 

「意地悪っ!間違える筈なんかない、たしかに士道のぬくもりだよぉ………っ」

 

「そっか。………ごめんな」

 

 謝罪して優しく七罪を抱きしめると、より強く密着して肌の暖かさを確かめてくる。

 そして、遅れて狂三もゆっくりと歩いてきた。

 

「士道さん。生きていらしたのですね、あれで」

 

「ああ、なんでかな」

 

 しおらしげな狂三に、どこか調子を狂わされる。

 士道が右手を持ち上げると、狂三はまるで怒られるのを怖がる子供のようぎゅっと目をつぶり、首を竦めた。

 殺されかけたけれども、怒ってない、恨んでないと示す為だったのだが………行き先を失ったので、狂三のヘッドセットの上から頭を撫でてみる。

 その感触にぱちくりと狂三は目を見開くと、少しだけ唇を綻ばせたように見えた。

 

「これからどうするんだ、狂三」

 

「見逃していただけると、言うのなら…………一緒に学校へ行こうと言ってくださった士道さんには申し訳ありませんけれど、派手に暴れましたしほとぼりが冷めるまでまたどこかへ行きますわ。士道さんの力は、惜しいけれど諦めます。怖い魔女さんが、付いていますし」

 

 そう言って狂三は士道にぎゅっと抱きついて放さない七罪を見ると、七罪もまた顔だけを狂三に向け、虹色に輝く眼で威嚇していた。

 

「そっか。じゃあ、ほら」

 

「?」

 

 ズボンのポケットの中に入っていたものの袋を開封し、狂三の手のひらにそれを乗せた。

 包み紙にはやはりちょっと血がついていたが、内袋がビニールだったのでまだ無事だろう。

 

 

 

「今日のデート記念。今度は、また普通にデートしよう」

 

 

「………っ」

 

 狂三の目を盗んで水族館の売店で買っていた、クリスタルのイルカのストラップ。

 それを暫く見つめた後、胸元でぎゅっと抱きしめた狂三の頬に仄かな朱が散る。

 

 そして狂三は、士道に急に顔を近づけると、彼の頬にキスをした。

 

「お、おい!?」

 

「ええ、またデートしましょう。確かにここに約束しますわ。楽しみですわ、本当に楽しみですわ!

…………お返しのキスは、その時の“宿題”ということで預けておきます」

 

 そう言って狂三は、自らの影に少しずつ溶けていく。

 見送る士道に、飾らない笑顔を見せながら。

 

「士道さん、本当に馬鹿なひと」

 

 去り際の一言は、そんな言葉だった。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ぎゅううぅぅぅ

 

 狂三が去った後。

 七罪が、士道が痛くならないギリギリまで抱きしめる力を強める。

 

「な、七罪………?」

 

「士道は、本当に士道なんだから、もう」

 

 士道はそんな七罪の頭をポンポンとあやすように撫でると、苦笑しながら言った。

 

「文句はあとでみんなからまとめて聞くよ。今回はいっぱい心配かけちゃったもんな。

――――だから、今は、帰ろう?」

 

 その言葉に、七罪はしぶしぶといった様子で頷き。

 気絶した三人を美九の屋敷に連れ帰る。

 

 

 そのあとのことは、まあ語るまでもないだろう。

 

 

 

 





 よし、これでプロローグ時点までの攻略シーンは全部回収!

 ラタトスクやASTは士道さんがなんか派手にぶっ壊したせいで顛末を見届けられないのだったー、と。
 どうだこのちみつなせってい(ノーガードツッコミ待ち)


 そして狂三攻略?今までのまとめ

 七罪:デートしまくってやっとデレた
 美九:デートしたら病み(デレ)ました
 夕弦:デートしながらデレてきた
 耶倶矢:魂の盟友
 狂三:デートしてデレさせた

 耶倶矢…………!?


※しどうとかぐやのかんがえたかっこいいさいきょうの能力(別名、主人公の黒歴史爆弾)

〈贋造魔女【ハニエル】〉、“邪眼【バシリスキア】”

 原案、八舞耶倶矢。構成、五河士道。
 馬鹿二人が全力で馬鹿やって考えた能力が並みの最強の筈がなかった。
 効果範囲、視界内いっぱい(精霊はアホみたいに目がいい)。
 効果対象、任意で選択可能。
 効果、回避不可能・耐性貫通の石化付与。

 馬鹿の極みである。

 さらに使用中は七罪の魔眼()はプリズムで色を散乱させ極彩色に輝き()、当の七罪の視界はそれらの色を全て除いた白黒の世界()となる……………ごろごろごろごろ

 こんな役満を実際にやらかした七罪はもしかしたらそれ以上の馬鹿なのかも。


………ただ、七罪は原作で戦闘態勢のエレン・メイザースの通常防御を完全無視してバステかけてるんだよなぁ。

 どんなに性質が悪いとしても、いたずらの範疇でしか使ってなかった変身能力、吹っ切れてエグい使い方し始めたら本気でヤバくね?という発想でした。

 でも実はこの能力、再生能力のオリジナルである琴里とガチると多分惨敗する。
 吹雪で視界を最悪にする四糸乃もワンチャン?

 そう考えると、精霊間の三すくみというか相性が見えるような見えないような。

 十香(火力で圧殺)、折紙(威力で殲滅)、八舞(手数で封殺) > 琴里、四糸乃(耐久型)
 琴里、四糸乃 > 狂三、七罪(特殊能力で翻弄)
 狂三、七罪 > 十香、折紙、八舞

 ランク外:美九、ってことで。



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