今までの幕間とは違うテイストで送ります。
某あとがきの病気を読んだ時の寛容さの準備をよろしくお願いします。
一体何紙さんなんだ………。
4月×日
その日、私は運命の再会を果たした。
五河士道。五河士道。五河士道。彼の氏名。
中性的な顔立ちはあの時と比べ成長していたが、確かにあの時のひとだった。
まさか同じ学校の同じ学年になったとは………後で分かった話だが、残念ながらクラスは別だったが。
それだけでも、私が高校に通う価値が出来たというものだった。
そう、まさに運命――――だが、運命とは常に私に逆風を運んでくるものでもあるということのようであった。
だーりん?だーりんとはなんなのだ駄乳。
両側からにじり寄るな双子。あのひとが怯えている、抱きつくなど以ての他。
そして何故制服を着て高校に来ているのか分からない小児。
家で、とは一体何の話なのか。
尋問に踏み切るには時間が足りなかったので残念だったが、とりあえず私の敵は新たに確定したようだ。
あの四人をまず排除しなければならない。
それと並行して彼、五河士道の情報を収集する。
彼が魅力的だから雌猫がたくさん寄ってくるのは仕方ない。
だがここに誓おう。
万難を排し、彼の恋人の座に納まるのは私であると。
4月○日
敵が増えていた。
彼の学校初めての隣の席という極めて、そう極めて羨ましい居場所にいた女、時崎狂三。
仲よさげに彼と話す姿は、しかし感覚的なことを言うならば違和感が存在する。
…………ひとまずは彼の情報収集を優先事項とする。
放課後彼の机を探るのは、基本。
今日は運がよく、毛髪を採取することができた。
4月□日
特殊災害指定生命体、精霊。
私の両親の仇であり、異なる世界より現れては空間震を発生させて街を破壊する、人類の敵。
対抗手段として訓練された魔術師【ウィザード】を集めた、私も所属する陸上自衛隊対精霊部隊ASTが、ここまで混乱したのはおそらく初めてのことだっただろう。
かくいう私個人もまた混乱を否定し得ない。
この日己の霊力に反応した空間震警報が鳴る前から、出現の余波である筈の空間震も無しにこの世界にいた精霊、〈ナイトメア〉。
そして同じく空間震無しで現れ、〈ナイトメア〉と交戦する複数の精霊。
それら全てが、私の知った顔であったのだから。
〈ナイトメア〉―――時崎狂三。
〈ディーヴァ〉―――誘宵美九。
〈ベルセルク〉―――八舞耶倶矢・夕弦姉妹。
そして〈ウィッチ〉―――篠上七罪。
このことに対する私の驚きを余所に、精霊同士の激突は熾烈を極め、そしてその脅威をまざまざと我々に突き付けた。
〈ベルセルク〉二体の風を操る力は――――しかし直接的な能力の分他に紛れて感覚が麻痺してしまっているのだろうか、竜巻クラスの風をデフォルトに纏っているのですら温いと感じてしまう。
〈ナイトメア〉は時計を象った天使の能力でおそらく時間を操って加速・減速を巧みに使いこなし、さらに一人一人が天使を使えないまでも霊装は纏った分身を何百も生み出し数で圧倒してみせ。
〈ディーヴァ〉は―――データベースに存在せずこの日初めてコードネームがつけられたが―――聞く者の精神を破壊する歌でその数に対抗する。
巻き添えに音声観測を行っていたスタッフが被害に遭い、顕現装置【リアライザ】での処置が間に合わなければ廃人となって二度と戻らないところだった。
そして、〈ウィッチ〉。
〈ベルセルク〉・〈ディーヴァ〉相手の三対一を制してみせた〈ナイトメア〉ですら手も足も出なかった石化能力。
決着までに観測機がおそらく流れ弾で破壊された為顛末は見ることが出来なかったが、今までにない出現と圧倒的過ぎる戦闘能力は隊員達を尻込みさせるには十分過ぎたようで、更に〈ディーヴァ〉・〈ウィッチ〉に関しては能力が問答無用過ぎて絶対に勝てないという声すら見られた。
確かに脅威、確かに理不尽。
だが、屈することは許されない。
どれだけそれが困難であろうとも、全ての精霊を駆逐し尽くしてみせる。
私はそう、誓いを新たにした。
5月1日
この日付けで私は一等陸曹に昇進すると共に、新たに独立した任務を受領することとなった。
来禅高校に生徒として紛れ込んでいる、〈ディーヴァ〉〈ベルセルク〉〈ウィッチ〉の監視。
私は精霊が人間の少女の振りをして学校に通っていること、〈ナイトメア〉時崎狂三はあの日以来学校を休んでいる―――精霊反応の計器ログから、殺されたわけではないと推定されている―――が、彼女以外は何の変化もなく平然と過ごしていることを胸に抱いた危機感と共に上申した。
だが、帰ってくるのは煮え切らない対応ばかり。
精霊が市民に紛れて行動しているのならば下手に攻撃することは出来ない、複数で徒党を組んでいるのならばなおさら。
何より、観測機では現状精霊反応が検出できず、ただそっくりなだけの一般市民であれば取り返しがつかない。
〈ディーヴァ〉がそれまで活動を確認出来ず、〈ウィッチ〉〈ベルセルク〉も暫く活動を止めていた上に四体の狙いがひたすら〈ナイトメア〉だったことから、現状の有害性は低いものとして扱う。
そんな理屈を並べた挙句、定期的に報告書を私の分かる範囲で書くだけの、ろくなバックアップも無い監視任務でお茶を濁されたのだった。
そして、この情報は私と直属の上司であるAST隊長、そして幕僚クラスのみの知る極秘情報として緘口令が敷かれている。
情報共有の不徹底で被害を蒙るのは現場なのだが…………従わざるを得ない。
例え何か問題が起こったときにスケープ・ゴートとして一番に切り捨てられるのが、私だとしても。
5月△日
例の〈ナイトメア〉の戦闘映像を閲覧する代わりとして、ASTの制式装備であるCR(Combat Realizer)ユニットの開発元、DEMインダストリーからオブザーバーとして社員が一週間程派遣されてきた。
それが私よりも幼い少女だったことには驚いたが、訓練では確かに出力の大きいユニットとそれを扱いこなすことによる魔力フィールド“随意領域(テリトリー)”の密度で遥かに上の技量というものを見せつけられた。
その後〈ナイトメア〉の資料映像を食い入るように見つめる彼女は何か私的な因縁があると直感したが、私が踏み込むことではないだろう。
出向期間が明け、彼女は『有意義な時間でやがりました』と残し去っていった。
私にとってもまた、訓練の質という意味で有意義な時間と言えた。
5月末日
近々とみに感じている不満の原因の一つなのだが、〈ウィッチ〉達の監視任務といっても私は特別なことを何一つしていない。
彼、五河士道の情報を集めるのは当然のことで、しかし五河士道の周りには常にあの四体の内少なくともいずれかは纏わりついているのだ。
入学当初はまだ五河士道が時崎狂三と話をすることができたくらいには拘束していなかった筈なのに、今ではまるで取り決めているかとでもばかりに彼の近くに誰かしら付いているので、日課である彼の観察でついでに監視任務もできてしまうのだ。
忌々しい。
忌々しい。
ああ、とてもとても忌々しい。
6月●日
五河士道は、自分の周囲にいる者達がどれだけ危険な存在か、果たして認識しているのだろうか?
その確認と警告の為に、あとは話をするきっかけとして彼に接触しようとするのだが、どうもうまくいかない。
そもそも学校生活では違うクラスの男子と女子では、部活や委員会活動で一緒にでもならない限りほぼ接点が無い。
数少ない休み時間というチャンスもべったりと張り付いている有害物質が邪魔。
と思っていたところに、この日当番?だった〈ウィッチ〉がトイレに席を立ったところで彼が廊下で一人になった。
だが、私が接触する前に男子生徒二名が彼に絡んで、更に口汚い罵声を浴びせ始める。
『いい気になるな』『女に囲まれて調子に乗って』などと貧困な語彙を繰り返すだけだが罵声は罵声、優しい彼も困りながら少し心は傷ついているだろう、ここは助けてそこからラブストーリーが始まる場面―――。
と思って物影から出ようとしたところで、ふとその男二人の衣服がはらりと縫製が解けて、揃って全裸を公然に曝す。
そこに〈ウィッチ〉が戻ってきてしまった。
「あなた達、士道を変な目で見るのやめてくれない?ていうか、気になる相手をいじめてやろうなんて小学生でもあるまいし」
その彼女の言葉に、羞恥から悲鳴を上げる女子に混じってひそひそ話が充満する。
「え、ホモだったの?」
「しかも五河君狙いとか豪過ぎるでしょ」
「まじ引くわー」
結局男二人は顔どころか本当に分かりやすく全身を真っ赤にしながらその場を走り去って行った。
行く先々ですれ違う女子に悲鳴を上げさせながら、先生に止められるまで。
…………男の癖に恋敵になろうとしていたのか。
だが想い人の前で全裸になった程度で恥ずかしがって逃げだすなど程度が低い。
やはり敵は、あの精霊達だ。
7月初日
名案が閃いた。
これは革命、逆転の発想、ニュートンのリンゴ、まさに天啓と呼ぶにふさわしい。
男女別の体育の授業、〈ベルセルク〉などは何故か自然に男子側に潜り込んでいるようだが、流石に着替えの時間は彼一人になる。
その短い時間に接触出来れば、物影に連れ込んで、あわよくば――――いや、性急にものごとを進め過ぎるのもよくない。
とにかく、まずは話だ。
それだけでも達成しなければ。
そう念頭に置いて作戦を実施する。
幸い、授業は合同の時間割で体育、気配を断ってクラスを抜け出し、彼のクラスの男子が着替えを行っている教室に潜入すれば。
見えた――――――――!
上半身裸の彼の着替え姿、乳首は何故か光の加減だったり腕の角度が邪魔して見えない。
そしてすぐに体操服の上を着てしまう、だが、次はお楽しみ。
ズボンを脱いで、そのパンツの全容を明らかにする。
トランクスタイプで、青系統のストライプ…………いわゆるしまぱん。
はかどる、とてもはかどるっ、そこがロッカーの中でなければ肘を曲げて『きた―――!』とガッツポーズしていたことだろう。
当然ながら彼はすぐに体操服のズボンを履いてしまったが、半そで半ズボン姿もまたセクシー。
心のスクリーンショットに何枚も何枚も焼き付ける。
だが、焼き付け作業が容量が重くて処理がなかなか進まず、気がつけば彼も含め男子全員が体育に出てしまっていた。
今からではもう〈ベルセルク〉達が彼の傍に来てしまっているだろう。
作戦失敗を悟り、潜んでいたロッカーから出る。
そこで、視界に飛び込んできたのは、彼の残した着替え――――。
はふはふくんかくんかすーはーすーはーぺろぺろふんすふんすちゅっちゅぴちゃぴちゃすりすりごっくんかたかた、かたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたびくんっ!……………ふぅ。
きーんこーんかーんこーん
「…………?」
気づけば何故かもう体育の終了の時間のチャイムが鳴っていた。
この日はどこか時間の流れがおかしかったように思う。
もしや、これは〈ナイトメア〉の能力による仕業か。
おのれ時崎狂三。
一部の方が気になっているであろうASTの動きをとある人物の視点から語ってみた―――――あれ、なんかおかしい。
まあ、名前も分からない謎の人物の山もオチもない平凡な日常を書いているだけなので、退屈だろうが………申し訳ない、これで“次の年の4月10日<プロローグ>”まで書いてみる予定なんだ。
最初は一話でそこまで書ききれると思ってたんだけど、おかしい、一体何が………はっ、おのれ時崎狂三。
そしてしおりんではない士道さんのサービスシーン。
読者作者含め、誰得だよ!!