デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 評価にあったとあるコメント“十香が好きな人以外におすすめ”

 反論できねえ、そういえばまともに十香に出番あったの病気のショタコンだけだ………!?
 いやね、違うの、作者だって十香好きなの、でも話のコンセプト上仕方ないの………。

 それはさておき、気づけばお気に入り数も感想数も4桁突破。
 UAはどう参考にすればいいのかよく分からんけど。
 始めた時は原作カテゴリに名前すらなかったデアラ二次が、三か月で来るとこまで来たんだなー………。
 暖かい声援いつも感謝です。




四糸乃ディープスノー

 

 精霊を対話によって対処し、能力を封印して人間と変わらない生活を送らせる。

 そんな〈ラタトスク〉の活動指針に不可欠な封印能力を持つ士道の協力を、今回限りは“琴里の我儘を個人的に聞く”という形で結果的になんとか取り付けた。

 

 だが、それはあくまで状況が整ったというだけで、本格的な作戦はこれからの話だ。

 精霊との友好的接触を試みる―――そんな前例の無い(どこかの誰かを別にして)作戦に緊張に包まれた艦橋に移動した琴里は、同道した彼女達四人に問いかけた。

 

「よかったの?」

 

「…………“私達構成員の行動から判断してもらう”、だったか?貴様が信の拠所と置いたのがそれだった時、我らは新手の芸人の類かと思ったわ。不愉快極まりない芸であったがな」

 

「矛盾。最も信を置くべき己の家族を蔑ろにし、夕弦達の前でよりにもよって士道を悲しませた。そんな姿を見せておきながら、何をもって信を語るのかと」

 

「……………」

 

 答えたのは、昨日怒りを見せて一触即発に場を乱した八舞姉妹。

 その今まで伏せられていた言い分に琴里は返す言葉もなかったが、手厳しい言葉と裏腹にこれまでの頑なさは僅かに和らいでいた。

 

「その様で士道の安全が確保されていると言われても怒りしか湧かぬわ」

 

「憤然。何も知らないくせに、と。教える気もありませんでしたが――――、」

 

 

「「お前達なんかに、士道の安全を託せるものか」」

 

 

 確かにそれは紛れもない彼女達の本音で、――――しかしそれを明かした分だけは、歩み寄る余地が生まれたということでもあったのだろう。

 耶倶矢が琴里と向かい合いながら言う。

 

 

「だが、なんだ。………少しはましな面もできるではないか」

 

「…………っ」

 

 

 言外に示しているのは、五河琴里個人に限ってはあの振る舞いからとりあえずの信用くらいはおいても構わない、という内容。

 勿論全幅の信頼とは程遠い、だからこそ七罪も美九も一緒に情報の得られる艦橋に待機していて、もしもの時は勝手に士道を助けに行けるようにしている。

 

――――当然、艦橋という艦の最重要部位の一つに部外者、それも状況によってこちらの指示を全く聞かないであろう武力を持つ存在を作戦行動中に招くなど組織規律に照らすまでもなくアウトなのだが、そこはそれでも曲げるしかなかった。

 

 少なくとも士道が精霊に攻撃されてそれで終了―――という結末だけはなくなったが、目指すべきは士道が精霊を籠絡し、かつその間無傷でいられること。

 当初よりも条件が増えたが、手間とは思わない。

 

 これより先は、僅かな気の緩みも許されぬミッション。

 艦長席に座り直し、琴里は静かに気合を入れ直した。

 

「さあ、私達のデートを始めましょう――――」

 

 

 

 

 

 時は遡る。

 

 士道と別れた後のゲームセンターで、四糸乃はかつてないほど上機嫌だった。

 浮かれていた、と言ってもいい。

 

「えへへ………」

 

『よかったね、四糸乃』

 

「うんっ」

 

 “故障中”の張り紙がされた筐体の横、奥まって人の来ない一角でよしのんと会話する四糸乃。

 士道がマシュマロを渡す時にした心配と裏腹に、今日の“戦果”であるところの飴玉の包みを片手で器用に開け、四糸乃は口に放り込む。

 舌に広がる甘さが四糸乃に幸せを運んでくれた。

 

 初めて見た、四糸乃に優しかった人間。

 彼、五河士道が微笑んでくれた顔を思い出すと、胸が暖かくなる。

 

 彼女の周囲には、いつだって四糸乃に害意を持つ人間しかいなかった。

 よしのんがうまくあしらってくれるから自身に危害が及んだことは無いが、それで幸せという訳には当然ならない。

 

 かといって臆病で小心な四糸乃はよしのんに任せずに見知らぬ他人と関係を築くことが難しいので、そこを踏み込んで暖かな交流を持てた、持ってくれたのは士道が初めてだったといってもいい。

 それで四糸乃が士道に好意を抱いたのは、言わば鳥の雛が初めて見る相手を親だと思い込む刷り込みにも近い。

 よしのんはまた別として、四糸乃は士道以外に優しい存在という比較対象を知らないのだから。

 

 もちろん、それで何か悪いという訳ではない。

 士道の小さな女の子が濡れないようにと傘を貸してあげたのは下心の無い純粋な善意だったし、その心に触れて四糸乃は確かに喜んだ。

 そして今日も彼は変わらずに優しく接していたし、五河士道という少年の性質を考えれば四糸乃の未成熟で繊細な心を裏切るような事態はそうそうないと言える。

 

 だから。

 

 問題は、気をつけなければならないのは、あるか分からない善意の行き違いよりも、どこにでもある些細な悪意。

 

『そろそろじゃない?』

 

「そう、だね。いつもなら向こうに戻るくらいの時間だと思うけど、でも―――、――!!?」

 

 口の中の飴が全部溶けたあたりで、四糸乃が立ちあがって歩き出す。

 ゲームセンター独特の暗がりと多い障害物の中でその小さな体は容易く隠れ、そこは死角同士となっていた。

 だからそれ自体は、ただの不運な事故だっただろう。

 

 狭いゲームセンターの通行スペース、上の階から階段を駆け降りて来た若い男の眼前に、ついと四糸乃は出てきてしまった。

 突然のことに互いに避けようと思う暇も無く、衝突というより身長差と階段の段差によって半ば男がつまずくような形で、二人は接触した。

 

「…………つぅっ!?」

 

「うおわっ!?……………、ってぇ……!」

 

 体の小さな四糸乃が弾き飛ばされたのはもちろん、男は転げるままに柱に強くぶつけてしまう。

 肩を強く打った男は、それを庇いながらふらふらと立ちあがって、怒りの形相で四糸乃に怒鳴りつけた。

 

「危ねえなクソガキっ!!ぃってぇ、マジふざけんな!」

 

「っ、ぁ………」

 

 四糸乃も衝撃にくらくらする頭を振りながら左手を掲げ――――そこには、ただ自分の小さく白い手があるだけ。

 うさぎのパペットが、外れて少し離れた場所の床に飛んで落ちてしまっていた。

 

 よしのんに、頼れない。

 一人では懐いた士道とのコミュニケーションにすら難儀する四糸乃に、自分だけで怒っている相手にどうすればいいのかなんて対処は荷が重すぎた。

 かたかたと震え、自分より遥かに背の高い男の睨みに萎縮する。

 体が竦んでよしのんを取りにいくことはできないし、それを相手も許さないだろう。

 

「ぃ、ぇ……っ」

 

「シカトかよ、謝ることもできないんか、あ?」

 

 男は下の方だったとはいえ階段から落ちて痛い思いと怖い思いをした捌け口に四糸乃に当たっているだけではある。

 小さい女子に暴力を振るって怪我を負わそうなんて気合の入った乱暴者というわけではなく、衝突に四糸乃にも非があったのは事実なので、とりあえず四糸乃がごめんなさいと一言謝ればそれでこの場は収めただろう。

 

 だが、威圧されてただでさえ対人能力の乏しい四糸乃にはその選択肢を思いつくこともできずに、ただおろおろとする様が男を苛立たせた。

 軽く四糸乃の肩を小突き―――それだけでもその小さな体は不安定にのけぞってしまう。

 

 ぽろりと、外套からまだ食べずに残しておいた飴玉が転げ落ちた。

 よしのんと一緒に、士道に取らせてもらった、今日の幸せな思い出。

 

「………っ」

 

 それを咄嗟に拾おうとした、四糸乃の前で。

 

 

 

 怒りのままに足を上げた男に、ばきりと、踏み砕かれた。

 

 

 

「―――――――――――」

 

 目の前で起こったことが信じられず、否信じたくなくて頭が真っ白になる感覚。

 特定の何か、そこにそれが存在するというだけで全身をざわつかせる黒い感覚。

 

 共にかつて感じたことのない感情で。

 

 次の瞬間自分が何をしたのか、四糸乃はよく覚えていない。

 

「あん、なんだよその目―――、」

 

 

 

「〈氷結傀儡【ザドキエル】〉ッッッ!!!!!」

 

 

 

 サファイアの瞳が輝き、四糸乃の小さな掌から白雪が氾濫する。

 空間そのものを埋め尽くし、その場の熱を奪い、氷の領域を構築する。

 屋内の電気系統は当然一瞬の内に死に、暗い黒い闇がそこに広がった。

 

 そして、獣が現れる。

 雪の中を、狭苦しい天井に背中を擦りながら、ゲームの残骸を踏み散らし、その威容はただ儚い少女に侍るのみ。

 

 そう、その獣は天使。

 従える四糸乃は精霊。

 

 世界を引き裂きながら現れ、本気で暴れれば軋みと共に全てを崩壊させる生きた災害。

 

…………むしろ、衝動に任せた力の暴走でこの破壊規模は大人しい、とすら言えるものだっただろう。

 

「ぁ――――――」

 

 だが力の放出に我に返った四糸乃は見てしまう、見えてしまう。

 精霊の類稀なる身体能力、ここでは視力と暗視能力、そして自分の霊装の放つ仄かな光を明りとして――――自分がしてしまったことを。

 

 ぴくぴくと弱弱しく震えながら横たわる、あの男や他の不幸にも居合わせた客。

 今日楽しく遊んだ場所が呆気なく残骸と化し、元の雰囲気など欠片も留めない。

 そして、あのお菓子を取って遊んだクレーンゲームも………陥没しながら横倒しになって、二度と使い物にならないことは瞭然だった。

 

「ひ、いや、いや、そんな…………っ!!」

 

 痛いのは怖い、痛い思いを他人にさせるのも怖い。

 その筈だった。

 

 だが、眼前の光景は紛れもなく自分が作り出した有り様。

 

 認めたくなくて、目をきつくつぶって。

 もう一回開いても、それで現実が変わる訳はない。

 

「ごめん、なさ………ごめんなさい―――――――――!!」

 

 奇しくもその言葉を誰にともなく叫びながら。

 うさぎのパペットを口にくわえた獣の背に身軽に跳躍して乗り、それを操って四糸乃は壁を突き破って外に飛び出した。

 逃げ出したと呼んだ方が、あるいは正しい表現だっただろうか。

 

 まるでそんな彼女を責め立てるような大きな警報音が街中に響く。

 空間震警報、それは紛れもなく精霊の四糸乃が感情の揺れによって暴走させた霊力を検知された音でもある。

 そしてそれを聞いたことが今までなかった四糸乃は、さらに怯え、どこともなく〈氷結傀儡【ザドキエル】〉を走らせた。

 

 避難する―――逃げ惑う人々の頭上をビルの壁面を蹴りながら移動する。

 行くあてもないまま、雨模様の曇天を見上げ、四糸乃はただ祈るように口にした。

 

 

「士道さん、助けて………っ」

 

 

 同時刻。

 それは、彼女と対照的な炎の精霊が同じ人物に縋ったのと、ほぼ同じ言葉だった―――――。

 

 

 

 





 あれ?色々覚悟をしながら決め台詞をキリっと言ったことりんを余所に、遭遇した士道さんと四糸乃がいちゃいちゃしだすコントっぽい展開が当初の予定だったのに。
 なんかシリアス続きそうです。



 あと感想板で前話の夕弦のセリフから風と炎の相性について、って何人か触れてたので、以下まるで士道さんの黒歴史のような考察をば。
 読まなくてもまったくもって何の損にもなりません。

 属性的なことを言うなら、精霊の天使を使う能力は、願いというイメージに左右される。
 というより、デアラ世界の霊力とかあと魔力ってわりとなんでもありな力なので、その分なんでもを願うとイメージが漠然として逆に何も出来なくなるから精霊達は敢えて属性を固定させてるような。
 “だからこそ”物理法則に左右される、例えば琴里と四糸乃がガチったら同じ万能の力である霊力を変換してぶつけあっても“炎で氷は溶ける”というイメージのせいで琴里が勝つ。
 同じく空気(酸素)が薄ければ炎は燃えない、風とはつまり空気の濃いところから薄いところへの流れだから、好きに風を操れる八舞にイメージから負けてしまう、というのが個人的な見解。

………流石に琴里に消火器ぶっかけても炎は消せないと思うけども。

 そう考えると原作で強い精霊にもなんか納得。
 単純に“なんか強い破壊の力”という無属性攻撃を放つ十香や精霊折紙が単純火力でトップに立てるのもそうだし、変化という形である意味なんでも出来るを捻りなく体現する七罪がさりげなくチートなのもそう。
 あと時間という霊力だけでない代償を払う狂三は、作用反作用というか等価交換の原理というか、それで“代償を払うほどの力が弱い訳がない”というイメージで強くなっているのではと考えたり。

 まあ原作にそんな記述全くないので、全部作者の勝手な妄想理論だけどね!



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