デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 壊れるなあ……




あんこーる・びふぉあ・えんどろーる2

 

 午睡と呼ぶにまさに相応しかったであろう。

 

 ある休日のことである。

 きっかけは昼下がり、夕弦と耶倶矢が四糸乃を連れて買い出しに行ったことだった。

 どうも二人は四糸乃を気に入ったようで、彼女に構ってはよく可愛がっている。

 直接そうと聞いた訳ではないが、今まで身内では自分達が後から入ってきた組だったので、さしづめ気分は新しく妹が出来て嬉しい末っ子といったところだろうか。

 

 学業と両立させているメイド業務の時間のやりくりは見事のひとことなのだが、それでもこうして休日にも色々と仕事をしている様子を見ると頭が下がる。

 家事自体は士道もしているが、たった二人で庭園まで含めた邸宅の管理をしている彼女らとは手間が段違いだろう。

 

 なのでそれを余所にして、やはり夕弦と耶倶矢がベッドメークした士道用にあてがわれている部屋の寝床で一人目が覚めた時感じたのは――――しかし、ていの悪さも全部吹き飛ばすような驚きだった。

 

 そもそもこの日士道はここで優雅に昼寝と洒落こんだ記憶は無い。

 眠気のままにふらふらと歩いていってしまったのか、ソファーかどこかで居眠りした士道を誰かが運んでくれたのか。

 

 おそらく後者、と推察する。

 

「んにゅ、むふふ…………士道、くぅーん………っ?」

 

「~~~っ」

 

 自分の体を抱き枕にして一緒に眠っていたのが、大人の姿に変身した七罪だったから。

 体格差的な問題から運ぶのが難しくてわざわざ精霊の力を使ったのだろう。

 

 だが、起き抜けにこれはいささか毒だった。

 およそイメージ出来る限りの美しさというものを追求した今の七罪の肢体は締まったお腹のくびれとその上下の肉付きの良さのメリハリが半端ではなく、密着した感触の心地の良さはまさに天国のよう。

 肌のすべすべさとその細さにも関わらずしっとりと柔らかい魔性の肉体が、すらりと伸びた長い脚を士道のそれに絡めて寄り添ってくるせいで、頭の中のいけない回路にびりびりと電流が走る。

 

 若く青い衝動に突き動かされる前に、士道はつつ、と身を引いた。

 だがそのせいで士道に体重を預けていた七罪の体勢が揺らいで、眠った意識を浮上させてしまう。

 

「………にゃあ?」

 

「え、ちょっ、七罪!?」

 

 とろんとした半開きの瞼も絵になる顔つきを緩ませて、上体を起こした七罪はそのまま士道にじゃれついてきた。

 何故か、〈贋造魔女【ハニエル】〉でその緑髪の中にネコ科のもふもふした耳と、後ろ腰の下辺りから一本のしっぽを生やしながら。

 

「おまえ、寝ぼけ………、ていうか何の夢見てるんだよ!?」

 

「ごろごろすりすりー…………んう」

 

 毛玉で遊ぶネコそのもののようにじゃれついてくるのだが、今の七罪の体で摺り寄られると理性が危ない。

 元の癖毛が全く見当たらないロングのさらさらな髪から妖しい匂いまでしてくるのだ。

 

 だが、そんな士道の内情を察してではないだろうが、まだ眠そうな七罪は何故か不満げな唸り声を出すと、光に包まれ大人状態の変身を解除した。

 

…………何故かネコ耳しっぽは残して。

 

 そして七罪は士道の胸元に包まるように潜り込むと、全身でごろごろすりすりし始めた。

 

「やっぱり、こっちの方がいい……しどー……」

 

 サイズ的にじゃれつくには色々持て余していたようだ。

 

「って、流石にこれは起きてるだろ、七罪!」

 

「なんのことか、にゃー?」

 

 顔だけ眠そうにしながら、楽しそうに体いっぱいで士道の温もりを堪能する七罪。

 そして何の悪戯か、丁度いい位置にあった首筋にはむ、と甘噛みをお見舞いしてきた。

 

「~~~っ、!?」

 

 先ほどから興奮して火照ってしまったところに強烈なのを貰って、咄嗟に七罪の両肩を押して距離を取ってしまう。

 それに不服そうにしてまた口をあーんと開けて迫ってくる七罪に、慌てて右掌を顔の前に持っていって制止しようとする士道、だったが―――、

 

「あむあむ………むゅ、みゃー」

 

 攻防は七罪が上手だった。

 というより目の前にあった士道の人差し指と中指を咥えこんでしまったのだ。

 

 ぴちゃぴちゃと唾液を絡めてその小さな唇で挟みこんだり、吸ったり、舌を這わせたりとやりたい放題である。

 生温かくも不快でない奇妙な感触にぞくぞくと背中に震えが走るのを感じた。

 

 いかなる理屈か耳もしっぽもぴこぴこと上下し、まさにご満悦でやりたい放題の七罪、そんな彼女を―――、

 

 

 

「七罪さんだーりんと楽しそうですねー。いいにゃー?」

 

 

 

「………………、…………、…………、にゃ?」

 

 見ていたのは士道だけではなかった。

 ベッドの脇、いつの間にやら部屋に入っていた美九がいつものにこにこ顔で二人の様子を観察している。

 

 びくっ、びしっ、さぁぁぁっ。

 

 驚き、硬直し、顔色をなくすまさにその擬音が聴こえてくるような七罪のリアクションだった。

 士道の指をくわえたままそんな態を晒す彼女の顔を覗きこむ美九はとてもとても楽しそうに―――モノマネして、“鳴いた”。

 

「うふふ。にゃー」

 

「…………」

 

「にゃー?」

 

「ぅ………!!」

 

「にゃーにゃー、にゃー」

 

 

「にゃああああああああああぁぁぁっっっ!!!!?」

 

 

「うわ、七罪―――!?」

 

 顔を真っ赤にしてぷるぷると身を震わせた七罪は、耐えきれなかったとでも言うようにその場を脱走する。

 その瞬発力はまさにネコ科の獣そのものだった。

 

 彼女が出て行って開け放した部屋の扉を見てやれやれ、と肩を竦めるジェスチャーをしながら美九は苦笑してコメントした。

 

「七罪さんともそこそこの付き合いになりますけど、たまに恥ずかしがるポイントがよく分からないですー。変なところで照れますよねぇ、彼女」

 

「うん、まあ、なんというか」

 

 どう答えたものか困っていると、美九がによによと笑みの質を変えて士道の頬を両手で挟みこんだ。

 

「それでー、だーりんが可愛がるペットちゃんは七罪さんだけですかぁ?これでも元アイドルです、その手のアクセも色々揃えてますよぉ?」

 

「元アイドル関係あるのかそれ」

 

「百聞は一見にしかずですしー、とりあえず実際に装着したところをお披露目しちゃいますねーっ!」

 

 

 何故かそういうことになった。

 どういうことかって?

 

 

 つまりはいつもの、作者の病気です。

 

 

 

※うさみみく

 

「うーさみんっ、はい!」

 

「っとと、はい!」

 

 ぱんっ!

 

「えへへー、流石だーりん、よくアドリブで合わせてくれましたー、ぱちぱち」

 

「まあ、なんとなくな。それで、ウサ耳?」

 

「しっぽのポンポンもありますよぉ、ほら」

 

「み、美九、その姿勢は……っ」

 

「あらー、どきってしちゃいましたぁ?衣装もスカートふりふりで可愛いですよねー、もう一着あるので士織さんとおそろい、いきません?」

 

「いきません!…………でもウサミンか、懐かしいなあ。幼稚園のころ教育番組でやってたなあ」

 

「え?新人の頃によく競ってた先輩アイドルの持ちネタなんですけど、ウサミン星のお姫様って」

 

「え?」

 

「え?」

 

「「…………」」

 

 

 

※悪魔のように黒く、天使のように純粋……?

 

「くくく、今宵我の魔力は昂ぶりの余りに現し世に顕現してしまっておるわ。存分に中てられておるか、士道よ?」

 

「翻訳。ねえねえ士道、可愛い?――――この、バイキン○ンのコスプレ」

 

「ぷっ………ゆ、夕弦!」

 

「悪魔だし!士道もなに吹き出してんのよ!?」

 

「わ、悪い。それよりお前らもやるのな、でもケモ耳かそれ?」

 

「細かいことはいいの。せっかく楽しそうな遊びなんだから」

 

「同意。それより見てください耶倶矢の衣装、微妙に露出度高い上に真っ黒なので耶倶矢の白い肌が目立つなんとも言えないエロさです」

 

「ぅ………」

 

「~~~~っ。って夕弦、あんたが天使の方の衣装選んだのって、まさかッ!?」

 

「策謀。今さら気付いても遅かりしです、さあ存分に(士道の視線に)悶え苦しみなさい耶倶矢」

 

「天使のセリフとは思えない………!」

 

「否定。天使なので、悪魔な耶倶矢には攻撃しなければならないのです。心苦しいですが。非常に心苦しいのですが」

 

「ええい白々しい………っ、士道、我の代わりに反撃の矢を放て!我の借りを倍にして返すのだ!」

 

「俺!?……うーん、耶倶矢も、まあ刺激的だけどさ。夕弦も凄く可愛らしくなってるよ。白も似合うよな」

 

「~~っ!羞恥。でも、嬉しいです、士道―――」

 

 

 

※帰り道、神社の前

 

「ずいぶん楽しそうでしたわね、士道さん」

 

「うおっ!?………狂三、か?」

 

「ええ、ええ。お久しぶりですわ」

 

「おう久しぶり。って言っても意外にちょくちょく会いに来てくれるけどな」

 

「つれないことを仰らないでくださいな。これでも士道さんにお会いする時間を毎回とても心待ちにしているのですわよ?」

 

「っ、それは、その………ありがとう。そしてそれでその格好は、狂三もそういう趣向で?」

 

「相変わらず赤くなってくれて、可愛らしい士道さん。如何でしょう、こんこん?」

 

「黒い和服にキツネ耳、かあ。場所的に一瞬驚いたけど、なんだか一緒に遊びたくなるお稲荷さんだな」

 

「結んで開いて修羅と屍、と。それでは一緒に遊びます?」

 

「物騒な……。でも今から帰るところだし、時間はそんなに―――、」

 

「ちょっと一緒に歩いてくれるだけで十分ですわ。さあさお手を拝借」

 

「今日は心なし和風なんだな、ちょっと新鮮。じゃあ、短い間だけどよろしく」

 

「ありがとうございます。………ふふ、かーって嬉しいはないちもーんめ!」

 

 

 

※氷のゲスコット

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい、士道さん」

 

『おかえり士道くーん、待ってたよ』

 

「あれ、それ……四糸乃とよしのんもやってるのか?」

 

「はい……美九さんが、貸してくれました」

 

「でも黒いまん丸の耳?ふさふさしてるけど、何の動物だ?」

 

「さあ……?よしのんが、これしかないって」

 

『モノマネやってみるから、当ててみなよ士道くん!』

 

「へえ。どんなだ?」

 

 

『――――ハハッ、やあ、ぼくミkk』

 

 

「やめろおおおおおぉぉぉぉ――――――――――!!!!」

 

 

 

※耳?

 

「………」

 

「ねえ士道」

 

「なんだ琴里ー?」

 

「ソファーでくつろいでる妹のリボンをピコピコ動かしてるのは、どんな倒錯した性癖か訊いてもいいかしら?」

 

「いや、なんかミミって感じというか。慣れてるんだろうけど、器用に可愛い感じで結んでるよなこれ」

 

「何それ。訳分かんない」

 

「まあ、今日ちょっとな。で、もうちょっと遊んでていいか?」

 

「…………。ふん、好きにすれば」

 

 

 ぴこぴこ。

 

 

 

 





 ほんとなにやってるんだ俺………。


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