デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 更新速度ちょっとずつ落ちてるなあ。
 速けりゃいいってもんじゃないのは分かってるけど。




あんこーる・びふぉあ・えんどろーる3

 

 とある日、まだ明るい内に美九の屋敷から家に帰った士道と四糸乃は、そのまま琴里に言われて〈フラクシナス〉へと連れて来られていた。

 遥か頭上を飛ぶ船へと距離を超えて移動する、その狂った重力の感覚と一瞬の内に変化する眼前の光景―――が、ふと思った。

 

 一番最初にこうなった時含め、自分の知る科学の常識で測れないこんな摩訶不思議な事態に呆れるほど驚きが少ないのだ。

 耶倶矢と共に数百キロメートルを生身で飛行したり、美九が沢山の人間を洗脳して差し向けてきたり、果ては自分が女の子の姿に変身までしてしまったのだから、今さらといえば今さらだからであろうが。

 

 それでも自分の中の常識が世間一般とずれているというのは漠然と不安になるものだった、何かを自覚なくやらかしてしまいそうで。

 

 むしろやらかした結果が今の五河士道を取り巻く状況なのかも知れないが。

 

「士道、さん……?」

 

『ぼーっとしちゃって、疲れちゃった?四糸乃で癒される?』

 

「あー、癒される癒される」

 

「な……、ぇぅ……よ、よしのん!?」

 

「………ん?あれ、あ……ごめん四糸乃!」

 

 そんなことを考えている内に〈フラクシナス〉に呼ばれた目的―――四糸乃の検査だか検診だか、見ていても何が何やら良く分からない―――が終わったらしく近寄ってきた四糸乃、というよりよしのんに生返事を返していると、気がつけば四糸乃を抱きしめて頭をよしよししていた。

 パペットの身で士道の腕をどう誘導したのかは不明だが恐るべし技量であった。

 

 四糸乃は恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらも士道から離れる気配は欠片もなく、寧ろ無意識にであろうがすりすりと士道に体を擦りつけてくるので妙な空気になり、しばらく硬直する二人。

 そこに呆れたような琴里の声が投げられた。

 

「何やってるのよ、あなたたちは………」

 

「何、って………なんなんだろう?」

 

「私に訊かないでよ。もう、本当に心配になってくるわ」

 

 周囲の職員と一人だけ意匠の異なる制服を纏った琴里が、例によって飴を咥えながら腕を組んで半眼でこちらを睨んでくる。

 そして、気持ちいつもより固い雰囲気を纏いながら言ってきた。

 

「――――士道、結構真剣に質問するけど、四糸乃に変なことしてないでしょうね?」

 

「変なこと、ってなんだよ」

 

『えっちいことじゃないかなあ?でも士道くん結構―――もがもが』

 

「わああ、よしのん、だめ………っ」

 

 パペットの口をもう片方の手で慌てて塞ぐ四糸乃。

 一見シュールな一人芝居だが、やっている方は真剣なのだろう。

 

 いったいよしのんが何を言いかけたのかは不明だが、琴里の視線がきつくなっていくのを見て少し真面目に士道は返した。

 

「少なくとも四糸乃が嫌がると思ったことはやってないよ。する筈ないだろ」

 

「………まあ、そこは信用するわよ。でもね」

 

 

――――今から4時間くらい前。四糸乃、精霊の力使ったわよね?

 

 

「あー………」

 

 この〈フラクシナス〉はそんなことも感知出来るセンサーを持っているらしい。

 それが働くのは、七罪達に対してもか今回のように検査を受けてデータが揃っている四糸乃だけなのかは不明だが。

 

「あなたに封印された精霊の力は、感情の揺らぎ、特に不安や恐怖で少しずつ逆流するの。それぐらい知っているんでしょう?」

 

「いや、割とノリで使ってたりするからなあ、特に七罪は………」

 

 それこそ便利だからという理由でたまに大人の姿になったり、寝ぼけて何故かネコ耳しっぽを生やす程度には。

 七罪曰く、何年も封印と付き合っていると、それが限定的に解ける感覚も分かっていて、やろうと思えば自力で完全に能力を解放出来るらしいが。

 

 と言っても今回は美九の悪ふざけだった。

 

 今日は妙に春先にしては過剰に暖かい日で、ちょっと涼んでみようと自宅のプールに十数センチほど水を張って、四糸乃に凍らせてもらってみよう、季節外れのスケート大会なんてどうでしょうみたいな試みをやった訳だ。

 とは言っても四糸乃にその“不安や恐怖”を憶えさせるようなひどいことを出来る筈もないので、最終的に観測されたのであろう〈氷結傀儡【ザドキエル】〉の発動を行ったのは――――士道だったりする。

 

 やってみたら出来たというだけの話だが、そういえば士織化を筆頭に基本怖ろしい筈の天使の能力をしょうもないことにしか使ってないなあ、と思わないでもない。

 

 士道が封印した精霊の能力を使うことが出来ることを〈ラタトスク〉が知っているのかは不明だが、自分から話すことではないんだろうなとその場はお茶を濁した。

 

 

「そういや、ちょっといいか琴里?」

 

「何よ、もう帰っていいけど」

 

「待った。普段琴里がお世話になってる人達………艦橋(ブリッジ)、って言うのか?この際だから、せめてそこの人達に一度挨拶しておきたいと思うんだけど」

 

「え゛」

 

 〈ラタトスク〉が胡散臭いのはやはり変わらないが、歩み寄って話し合わないと見えてこないものはあるだろう。

 かねてよりそんな風に考えて、この日士道は自宅の戸棚から鞄の中に菓子折りも入れて来ていた。

 

 

………何より、妹が働いている艦橋、もとい環境がどんなものか気になるし。

 

 

 そんな寒いことを考えてしまった―――自分でも次の瞬間無いな、と思った―――せいだろうか。

 

 やめましょう、面白いことなんて何もないわよ、などと言いながら嫌がる琴里の雰囲気が授業参観に保護者が来るのを嫌がる中高生そのものだったこともあり、逆に面白がりながら押し切ったことを後悔することになる。

 ある意味では非常に愉快な経験だったと言えなくもないのだが。

 

 

 最初はまあ良かった。

 

 解析官と名乗る目に濃い隈を作った村雨令音という女性が不思議な言動を繰り返していたが―――ほぼ初対面の割に妙に心を許されていた気がする―――寝不足ならそんなこともあるだろうから仕方ない。

 椎崎、箕輪と名乗る女性職員達は笑顔で普通に対応してくれたし、川越、幹本という中年の男性職員も気さくだったのは、ファーストコンタクトでかなりごたついていたことを考えれば人格者な対応な気がしないでもない。

 

『レボ☆リューション!!』

 

 中津川というお兄さんが何やら一人コントのようなものを始めたのも………きっとこちらと打ち解けようという涙ぐましい試みだったのだと思おう。

 

『士道くん、司令のお兄さん、士道くん、お兄さん、しどう、にい…………シドニー☆』

 

 なんて言われて素早く取りだした地球儀を示されても乾いた愛想笑いしか出なかったが。

 しかもそこがシドニーだと思ってオーストラリアの首都を示す赤い丸を指差していたのだろうが、オーストラリアの首都はキャンベラです、とは流石に指摘出来なかった。

 

 だが場の雰囲気を微妙にした彼に琴里がきつい言葉を浴びせ始めてからが、おかしくなった。

 副司令、らしい長髪の美丈夫が琴里の言葉に割り込んで、責めるなら自分を責めて、と言い出したのだ。

 部下を庇う美談………だと一瞬思った士道が馬鹿だった、

 

 ただのドMがそこにいた。

 

 しかも自分から罵声を浴び暴力を振るわれたがる気合の入りぶりは士道の人生に“たぶん”関わり無いであろう人種で、琴里も結構それに応えているように見えた。

 即時撤退を判断した士道の判断は称賛されるべきだっただろう。

 

『それじゃ、琴里、俺達はここらで。なんというか………“そこ”で頑張れよ』

 

『ちょっと、士道?なんで四糸乃の耳を塞いでるの?目を閉じさせてるの?なんで四糸乃と一緒に出口に後ずさってるの!?』

 

『いや、何も言うな。ようやく見つけた、“そこ”がお前のユートピアだったんだな……おにーちゃん頑張って応援するから』

 

『応援って何を、いや頑張る必要って何、って待ちなさい、士道、士道!おにーちゃ――――』

 

 ぴしゃん。

 

『えっと、士道さん………?』

 

『ああ、もう目を開けていいぞ四糸乃。さあ、おうちに帰ろう』

 

『………はいっ』

 

 自動ドアの閉まる音に撤退の成功を確信した士道は、状況の分からないながらも笑顔を向けてくれる四糸乃と手を繋ぎながら転送室へと向かっていった。

 

『司令、もっと踏んでくださ―――あふんっ』

 

『…………神無月、この後CRユニットを起動せずに装着して艦内30周ーー!!!』

 

 残されたのは、部屋のクローゼットにSM用の鞭と緊縛教本があるのを見られている以上ガチで距離感引かれたのも割と仕方ない妹と、彼女に当たり散らされて喜んでいるいつぞやの不審者だった。

 

 

 

 

 

『いやー、愉快な人達だったねー』

 

「言うなよしのん…………まあきっと琴里にとっては、あれでいいんだろう」

 

 嫌な思いや無理をしているわけでもなければ、人として間違った道に歩んでいる訳でもないので、兄としては寛大に妹を見守る場面なのだろう、と考える士道。

 黒いリボンの琴里はしっかりしているのだろうし、きっとこれからもあの環境を満喫していく……のだろうか?

 

 はて、しかしいつかあの神無月さんに『お義兄さん』と呼ばれる日が来たりするのだろうか、などと、妙な気分になるのを、四糸乃と近所を散歩して紛らわしている。

 

 夕暮れ、朱を散らしていくアスファルトの地面を歩いていく、その歩幅は四糸乃より大きいが、四糸乃がこれでいいと言うので緩めていなかった。

 とてとて、と小走りに追い付いては少しずつ離れまた追い付いてくる仕草は雛鳥のようで可愛らしいが、四糸乃としても士道を追いかけるのが楽しいらしい。

 そんな四糸乃にたまに振り返っては、目が合った彼女と微笑みを交わす。

 

 ちょっとした遊びを繰り返す、まるで仲の良い兄妹そのものの二人。

 

 すれ違う人々も和みながらそれを見ていたが―――角に差しかかってそこにいた彼女に、緩やかな空気が俄かに硬直した。

 

 

「――――五河士道」

 

 

「鳶一?」

 

 そこに立っていたのは、クラスメイトの少女。

 寄り道して遊ぶタイプにも見えないが、午前様で終わった今日の学校の制服をまだ着たまま、その白い髪を夕日に照らされ微かな風に揺らしながら、じっと士道を見つめてそこに立っていた。

 それが視線を斜め下に逸らし、四糸乃の方を見る。

 

 その静かな視線に少し震えて、士道の腰の後ろにすり寄る四糸乃。

 

「…………。〈ハーミット〉」

 

「っ!?それって……」

 

 四糸乃に人間から付けられた、精霊としての識別ネーム。

 普通一般人が知る筈の無いそれを呼ばれ、士道に緊張が伝う。

 

「“バイト”、受けたの?」

 

「鳶一、お前いったい………!?」

 

「――――そう」

 

 なんというか、今までのパターン的に彼女も自分が精霊ですと言い出すのだろうかとも思ったが、少しの間をおいてそのまま彼女は歩き出した。

 まるでただふとすれ違った知り合いと声を交わしただけ、とでも言うかのように。

 

「おい、鳶一っ」

 

 呼びとめると、一度だけ振り返り。

 彼女は言った。

 

 

「私もそろそろ見ているだけではいられない。動き出す、色々なものが。

――――気をつけて。あなたが何を最悪と捉えるか、私は私があなたの最悪と思うものを、撃ち貫こうとは思うけれど」

 

 

 

 





 中の人ネタ。
 前トッキュウジャーにゴー☆ジャス出た時は驚きとか以前に「なんだこれ」状態だったけど、まあ懐かしい人ですな。

 あといい加減琴里ファンにキレられそうな気がしないでもない、でもイジる。


 そして。

「少なくとも四糸乃が嫌がると思ったことはやってないよ。する筈ないだろ」

 えっちいことをしていないとは、言ってない………!?



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