デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 話の構成こねくり回すよりも実際に書き進めた方が話が繋がるのはよくある話。

 そのせいでよくキャラがその場のノリで暴走するんだけどな!




Encore before the end

 

 天宮市陸上自衛隊駐屯地機密区画。

 

 市民・マスコミはもちろん一般職員も踏み入れない、特殊部隊に割り当てられた隊舎。

 一般に情報の公開されていない“生物災害”に対策する為の部隊ASTの拠点としては、演習場や武器庫など相応の広さのものが割り当てられていても、人数相応最低限までのそこに明らかに過密な人員がその日会議室に詰め込むように集合していた。

 

 空調で無理やり誤魔化している人いきれの中で無表情をその場のほぼ全員が保っているのは、見た目の不気味さは別にして軍人のあり方として考えると評価に値するのかも知れないが―――モスグリーンの“制服組”が何かを押し殺すように表情を固めているのに対し、対比するように黒いスーツを着た集団は何の感慨も無さそうに口を引き結んでいるだけで、雰囲気で言えばまるで対照的だった。

 

 それもその筈、スーツの集団はそもそもが軍人ではないのだから。

 

「共同作戦、ですか………」

 

「ええ、“ご協力”よろしくお願いします」

 

 AST隊長、日下部遼子は済ました表情で書類を渡してくる白人女性に抱く隔意を毛筋ほども表に出すことなく、一刻も早くこの密集空間を解散させるべきと心に必死に言い聞かせていた。

 

 近年の精霊出現の増加傾向の中、上層部から降りた辞令――――自分達の制式装備CRユニットの開発元のメーカー・DEM(デウスエクスマキナ)インダストリーの私設部隊との合同作戦。

 内容は、対精霊戦における新方式の装備および運用の実戦検証、その補佐として作戦区域外にて不測の事態に備えること。

 

 つまりは精霊と戦闘する実験がしたいからどいていろ、と言われているのだ。

 言うまでもなく無茶苦茶なのだが、軍上層部と兵器開発メーカーの分かりやすい癒着がこの名ばかりの合同作戦に現れていることを実感してもどうしようもない。

 

 どうしようもない、のは分かってはいる。

 だが、国民の為に戦う最前線の軍人の矜持が、上層部(うえ)でついた折り合いに現場で食い下がるような事を言ってしまうのを抑えられなかった。

 

「しかし、実験というのは………精霊相手に、それもAAAランク・〈プリンセス〉を想定してなどと―――、」

 

「あら、信頼できるデータがあるからこそ我が社はより高性能な装備を貴女方に提供できるのです。お分かりでしょう?」

 

「……。だから、私達に精霊出現に際してもただ見ていろ、と?」

 

「仕方ありません。こちらも危険は承知していますので、残念ながら“練度に差のある連携への不安要素”を現場に持ち込む訳にはいかないのです」

 

「――――ッ」

 

 淡々と見下した事を言ってくれる金髪女を頭の中で何十回も銃殺しながら、ぎりぎりのところで激昂を抑え込む。

 これ見よがしに視線で差されたのは、去年に一週間ASTに出向してきた泣きぼくろの特徴的な黒髪の少女、崇宮真那。

 欧米人の多いDEMの部隊にあって目立つ黒髪黒眼に、更に歳の頃もまだ中学生ほどの彼女に―――、しかし演習において部隊の全員がかりでも彼女一人を墜とすことが出来なかった。

 

 その厳然たる事実を差され、反論も封じられる。

 そして、だから、自分達が護る国土の上で外国人が災害相手に好き勝手に“実験”を行うことも、ただ見過ごすしかない情けなさを言わずとも部下全員で共有するしかなかった。

 

「他にも、何か?」

 

「………いえ、ありません」

 

 まだ自分も部下達も抑えが利く内に話を切り上げる。

 他に選択肢を持てない惨めさを、その身にひしと刻まれていた。

 

 

 

 

 

 そんな知らない仲でもない相手達が背中にネガティブな感情を負いながら静かに部屋を出て行く後ろ姿を、内心で嘆息しながら見送る、話題に出た少女、崇宮真那。

 

(なに私をあてつけにしてやがるんですかメイザース執行部長。勘弁しやがりくださいませです)

 

 無駄に敵意を煽る上司のこのようなやり方には、以前からいまいちついていけなかった。

 

 相手は選んでいるのだろうが、だからこそ共感できないし、そのとばっちりが来るのもごめんだ。

 周囲に人種差別主義者が多い中で日本人の真那が実力主義でもって部隊のナンバー2を出来ているのは、彼女と彼女が忠誠を捧げるDEM総帥・アイザック=ウエストコットが能力に主観を交えずに評価した結果だろうと思ってはいるが、自らを“世界最強の魔術師(ウィザード)”と自負して止まない彼女は単に自分と社長以外全てを平等に下に見ているだけなのではないか、と思う時もある。

 

 世界最強、と大きく出るに相応しい実力を備えているのも、寧ろ人類ほぼ全てを見下してみせる自我の強さがその一因なのではないか、と意地の悪い考えまで浮かんだ。

 

 さっぱりした性格の真那は普段こんな考え方をすることは殆どないが、それだけ気分の悪くなる一幕でもあったことだし、彼女個人にも事情があった。

 

――――これ以上〈ナイトメア〉を、追うな、と………!?

 

――――無駄と分かっているものにコストを掛ける訳にはいかないからね。ああ、君一人の責任ではないよ。我々はあの精霊が分身を使うこと、時間を制御する天使を使うことすら知ることが出来なかった。そんな状態でアレを殺し切ることに挑戦できるかね?精霊二体相手に勝ってみせた〈ナイトメア〉を?

 

 昨年の精霊同士の戦闘が起こるまで、能動的に人間を殺して回る最悪の精霊〈ナイトメア〉が現れては殺し、殺した筈なのにまた現れるのをまた殺しを繰り返していた真那。

 分身というそのカラクリが判明したことにより、その因縁は社長直々に預かりとなってしまっていた。

 

 自分の所属は営利企業で、〈ナイトメア〉討伐はその死体を実験サンプルとして解析する為のものであったが、時間経過によって実験施設に運び込むまでにその死体が消滅してしまうその原因も判明し、現段階でDEMが〈ナイトメア〉に手を出しても益は無いと判断した、という理屈だ。

 

 自分達はヒーローではない。

 やっつけたい悪を好き勝手に相手することは出来ない。

 そう行儀よく納得出来れば、どれだけ良かったか。

 

 今も世界のどこかで〈ナイトメア〉は殺戮の限りを尽くしているかもしれない。

 

 なのに自分は今こんな場所にいる。

 こんな“訳のわからない”作戦に従事する。

 そのことに苛立ちと鬱屈を抱えながら、真那は指示を出す自らの上司、DEM執行部隊ナンバー1、エレン=メイザースを静かに眺めていた。

 

 

 

 

 

 妙、不自然だ。

 

 今回のDEM部隊の“実験”に対し違和感を抱くのは、折紙でなくとも当然である。

 ASTとの両部隊の会合にもなっていない会合の後、昨年の出向期間中に話をする程度には関係を構築していた真那の愚痴を一方的に聞かされた折紙は、“実験”とやらが額面通りのものでないことは把握出来ていた。

 

 真那が機密に触れる事項を漏らした訳ではないが、DEMの抱える最精鋭の魔術師(ウィザード)達が支社があるとはいえわざわざ日本に集められたという話をされればどう考えても変だと思うし、しかも現地の軍にもこのようなごり押しの対応なのだから無茶苦茶にも程がある。

 

 だから何だと言えば、折紙個人としては例えDEMの思惑がどこにあろうと興味は無い、が。

 時期がまずい、と考えた。

 

 推論と予測、それもかなり荒唐無稽な想像も含まれているが、『バイト』とやらで精霊絡みで何か動いているらしき五河士道。

 彼が作戦中に関わりを持ち、DEMに目を付けられるという事態になればろくなことにならないとしか思えない。

 

 だから帰りしなに士道に忠告しに行ったのだが、………その時彼と一緒に〈ハーミット〉がいた。

 例によって精霊反応は検出されないのだろう、八舞姉妹などと同じように彼に甘えて楽しそうだった。

 

 これでは、生半な対応では却って事態を悪化させるだけだと思った。

 

 だから。

 

 

「んむー!むーーーーっ!!」

 

 

 彼を“保護”したのも仕方ないこと。

 

 DEMの作戦終了・撤収まで士道を匿い、ついでにその期間彼に精霊に対する正しい知識を徹底的に教えるのだ。

 それだけでは彼も退屈であろうから、そこは自分との愛の時間にもしたいと考えている。

 

 翌日の学校で、昨日の今日で放課後二人きりの話がしたいと言い、誰にも行き先を言わせないで折紙の自宅まで誘い込めたので“奴ら”の妨害も無い。

 見返りも無く親身になってくれる信頼出来るクラスメイトと思ってくれていたおかげであっさりと事が進んだ、なんでもお礼を―――なんかお礼を、というのが正確なところだが都合よく改変を起こしている―――すると言われた時にのちのち意味を持つのだと自分に言い聞かせ断腸の思いで遠慮した甲斐もあったというものである。

 

 ジャミングもばっちり、携帯電話の電波から追われることもない。

 玄関を開けたところに不意打ちのスタンガンで失神させ、ベッドの上に移動させる。

 丈夫な麻縄で手足を縛り、猿轡を噛ませ、さてまずはパンツを開陳――――と思った時、折紙は自分の犯したミスを思った。

 

 

――――脱がしてから縛った方が、エロかったかもしれない………っ!!

 

 

 弱い電圧だったので失神させていた時間も短かったが、折紙も仮にも軍人、油断して不意打ちを当てた素人一人を剥いでから拘束するのに何の支障もなかったのに。

 

 しかし今さらやり直しというのも盛り上がらないし、やった彼女ですら拘束を解くのは手間が掛かるくらいにぎちぎちに縛って特殊な接着剤で上から固めてしまっているのである。

 

 まあ服の上から緊縛というのも風情があっていいか、と気持を切り替えた折紙に何故か手段と目的の逆転という単語が過ったが、一秒後にはそのまま過ぎ去っていっていた。

 

…………もしかしたら、手段も目的も五河士道を愛することであるのなら、逆転も何もないのかもしれない。

 

 だから、今飛び立つのだ、めくるめく愛の柵の中へと――――、

 

 

『Alart 精霊出現 AST各位は――――、』

 

 

(……………いいところでっ!)

 

 いかなる運命の悪戯か、彼女の邪魔をしたのはやはり“精霊”。

 

 AST隊員として、例え見ているだけで終了の作戦行動になるとはいえ出頭しない訳にはいかない。

 端末から、前兆である空間震の予測被害半径に自宅がないことを確認すると渋々折紙は家を出る、施錠代わりにありったけのトラップを全て作動させて。

 

「…………いい子にしてて」

 

 そう言い残した、彼女の想いは――――。

 

 

 

「―――――〈贋造魔女【ハニエル】〉、〈氷結傀儡【ザドキエル】〉」

 

 

 流石に聞く訳がなかった。

 

 士織に変身し、体が小さくなって緩んだロープを零下数十度まで瞬間的に凍結することで粉々に砕く。

 手足を振って感覚を確認しながら、少女姿の士道はゆっくりと立ち上がった。

 

「ええっと、そういうこと、だよな…………?」

 

 士道の認識では折紙は単に士道を家に監禁してわいせつな行為に走ろうとした―――言葉を飾らないなら痴女でしかない。

 まさかこれが精霊絡みだとは分かる訳がなかった。

 

 士道に分かったのは、クラスメイトの折紙がかなり歪んだ形だが士道に好意を持っていたということだけ。

 

 どうしたものかと思ったが外から響く空間震警報の音にそれどころではないと思い、まずはシェルターに避難――――と走り出そうとして、止まった。

 

 その眼前を素早く通り過ぎる、見るからに何かの液体が塗ってある飛針が反対側の壁に突き刺さる。

 

「……………」

 

 見れば元からそうだったかのように綺麗に偽装されているが、床や壁紙の一部に一度剥がして元に戻した継ぎ目が見受けられた。

 脱出防止用のトラップまで仕掛ける執念に戦慄する。

 

 だが、それでも留まっている訳にいかない士道は強硬手段に出た。

 

「あああなんとなくごめん鳶一!」

 

 玄関を氷漬けにして、全てのトラップを無力化させる。

 

 そうして脱出した士道だが、時間を取り過ぎたようだった。

 

 肌にびりびりと圧が走る、形無い空気が軋みを上げ、逃げ惑う。…………何から?

 

「これが本物の、空間震…ッ!?」

 

 マンションの折紙の部屋を出た士道の眼下に、その黒は膨張しその空間に収縮を強いる。

 そこに無い筈のものは世界に満ちることが出来ないのに、そこに在る矛盾が秩序を打ち壊していく。

 

 一切合財を抉り取る、残るは虚無――――それは、爆発と真逆の爆発だった。

 

 





 それぞれの登場人物達の考えとか、結構シリアスにやるつもりだったんだけどなー。

 折紙さん舐めてた………

 次回より、十香編です。


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