まだ3話なのに評価ゲージが赤でランキングの一番上にいてびびった。
感謝感謝…………って、本当にいいんだよねこれ?
あとサブタイに大した意味はないです。
空間震。
その恐ろしさは、士道の世代ならもはや教科書で何度もやって頭から抜けなくなっている。
対応も、同様に。
ここ天宮市は特に空間震が多発する地域でもあり、その予兆を観測するセンサーも、住民が避難するシェルターも、入念に設置されている。
そうなると――――空間震が恐ろしいものだとは分かっているし警報が鳴れば避難はもちろん可及的迅速に行うものの、慣れというものが生じてしまう。
特に復興部隊によって壊滅した街が一夜で復旧するご時世、ひとたびシェルターに入ってしまえば――――、
(うちの方に直撃しないといいなー。避難所のベッド固いし)
なんて軽いノリの考えもどこかにあるのかもしれない。
というか、あった。
「もうあんなこと言っちゃダメだからな」
「ごめんなさい、おにいさん」
その日、いつも通り―――と言っては釈然としなくもないが―――発生する空間震に警報が鳴ったので、学校帰りだった士道もシェルターに避難した。
適当な場所に座ったところで、隣の3、4才くらい下の子供がそういうことを言っていたので、彼を叱るのに警報が鳴りやむまでの時間を使っていたのだ。
「いいか、それが一番危険なんだからな」
「うん、“なれ”は心のてきなんだね!」
「怖いことをいつものことだって思ったら確かに怖くなくなる。でも、そういう“慣れ”が本当は一番怖いものなんだ。だから、背を向けたらダメだ」
「わかった!!」
叱る……?感染させる…………??
まあ、間違ったことは言ってないのでいいのだろう。
数年後に思い出して転げまわったりしない限りは。
そんな士道がシェルターから出て帰途に着き、もうすぐ家といった辺り。
無人から少しずつ人影が見えるようになってきた街中で、こちらをじっと見つめる視線に気づいた。
「………七罪。ってなぜ逃げるっ!?」
「――――あぅ!」
振り返る。
目が合う。
七罪、脱兎のごとく逃げ出す。
反射的に呼び止めようと張り上げた声に驚いたのか、足をもつらせこける七罪。
士道は既視感を覚えながらそれに駆け寄ると、手を差し出した。
「ほら、もう……どっか擦り剥いたりしてないか?」
「………っ」
ただ前回は、娯楽施設で床がつるつるで綺麗だったのに対し、今回の地べたは路上のアスファルトだ。
心配三割増しで繊細に助け起こすようにした士道だが、その七罪はというと起きるときに握った手をそのまま見つめていて、暫くした後何かの覚悟を決めたかのように一度自分で頷いた。
そして―――――、
「…………」
「………?」
「………っ」
「…………」
「~~~~~っ!」
「な、なつみ……?」
不安げに上目遣いで見てくる七罪の視線と、困惑する士道の視線が交錯し、妙な沈黙が支配した。
口が微かに動いてはいるのを見る限り、何か頑張って言おうとしているが結局覚悟は決め切れておらず、状況を進めることもできないといったところなのか。
とはいえこのまま路上で黙ったまま硬直しているシュールな状況を続けるのも嫌だったので、士道の方から口火を切ることにした。
「七罪………デート、するか?」
先に交わした約束を執り行う、確認の言葉。
それを聴いた七罪はビクリと一瞬大きく震わせ、
「す、するっ!するわよ!今日こそあなたの企み見通してやるんだから!」
「お、おう………?」
「どうせ心の底では思ってるんでしょ?コミュ障で根暗な上に疑り深いなんて性格ブスの三重苦だって――――せめて見た目が酷いんだから中身くらいって何言わせてるのよ!!」
「ええぇっ!?」
「そんなのとデートするほどの理由なんてよっぽどのものよ!隠し通せると思わないことね!!………………、くっ……!」
「今自分の言葉のナイフで自分傷つけなかったか!?やめてっ!」
先ほどが嘘のように喋り出した。
返事は、まあイエスと思っていいのだろう。
ただ、喋りのトーンが先日より上ずっていた。
また、手も握りっぱなしで、しかも心なしか向こうから少し力を強めに握ってきている。
(……………ん?)
“不安げ”、“疑り深い”。
このあたりのキーワードに士道は少し引っ掛かりを覚える。
もしかして、だが。
最初の七罪の態度について士道の脳裏に浮かんだ一つの可能性。
もう一度現れたはいいが直前で士道の姿を見たところで急に先の約束を破られないかと不安になり、確認しようとしたけど本当に約束を否定する返事が来ると思うと怖くなっていた――――だったり、するのだろうか。
「ああ、うん……」
それが当たっている場合少しばかり脱力してしまいそうな気がしたので、とりあえず考えないようにした。
「……………じゃあ、俺達のデートを始めるか―――」
とはいえ。
空間震が収まった直後なので大抵の店などは開いていない。
なので、一度家に帰って物置から遊具を引っ張り出し、高台の公園で遊ぼうと考えた。
やろうと探したのはバドミントン一式、五河父が以前士道・琴里兄妹に買ったもので、ラケットもシャトルも本格指向ではなかったが、百円均一のそれほどちゃちでもなかった。
と、その辺りのことを七罪に話し―――空間震のくだりで七罪の表情が少し暗くなったのが気になったが―――、まずは二人で公園に足を向けた。
「ほら、士道!今度はそっちっ」
「わっ、とと」
数メートルの距離を空けた士道と七罪の間を白いシャトルが飛び交う。
空間震で雲が散らされたのか、気持ちよく晴れた空を通って、二人のラケットに軽快に跳ね返る。
士道の側ではスコン、と。
七罪の側ではスパンッッッ!!と。
なんか明らかに部活でやっている人のような見事なインパクト音だったが、七罪が経験者である筈はない。
さっきまで羽の呼び方がシャトルだということすら知らなかったことからも明らかだし、本当に最初のうちは空振りも多かった。
だが慣れてくるとすぐに綺麗に前に飛ばし始めるし、器用に左右に打ち分けて士道を振り回してくる。
「や、せいっ、……と!」
「えいっ!」
そうなると、少し悔しい士道。
妹の琴里と遊んでいる程度だが士道の方が慣れているし、スポーツが苦手な訳でもない。
何より男の子なのだ。
七罪のような女の子に運動で負けるのは………と思ってしまう。
「ていっ!」
芝生を蹴って左側に来たシャトルを、バックハンドで強振する。
空高く打ち上げられほぼ真上から落ちてくるシャトルに、七罪はラケットを縦に大きく振りかぶった。
(スマッシュ!?)
今日初めてバドミントンをやって、もうそんなこともできるというのか。
思わず身構えた士道。
ちょんっ
フェイントだった。
軽く当てただけで士道の目前一メートルくらいのところに羽がゆるやかに落ちる。
動ければ間に合わなくはない位置だったが、テンポを外されてラケットは届かなかった。
「…………休憩に、しようか」
がっくりとうなだれつつ、キリのいい時間になっていたので、士道はシャトルを拾いつつ七罪にそう伝えた。
二人並んで芝生に座りこみ、ゆったりと足を伸ばす。
水筒に補充してきた麦茶をコップの蓋に注いで七罪に渡し、士道はそのまま直で滝飲みしていた。
運動で疲れた喉を癒やす冷たい水分が心地いい。
一心地ついたところで、士道から会話を切り出した。
「七罪ってすごく運動神経いいんだな」
「健全とはなんの縁もなさそうな見た目で悪かったわね」
「言ってない!?」
まあ、“意外と”運動できるというニュアンスがあったのは否定できない。
「………私は精霊だから。これくらい当然――――って士道、なんで目を輝かせているの?」
「気にするな!で、精霊ってなんだっ?」
「え、ええ……?…………“精霊ってなに”、か―――」
そして出てきたファンタジーワードに反応する士道。
“ジャンル違い”とはいえ七罪関連では不可思議な体験もしているため一瞬で信じた。
そんな彼になんだか釈然としなさそうな雰囲気のまま、七罪は一度目をつぶり、
「〈神威霊装・七番【アドナイ・ツァバオト】〉―――――」
七罪の体が光に包まれ、現れたのは魔女の黒衣にエメラルドのあしらわれた尖り帽子。
それまで何の変哲もない普通の洋服だったものが、ゆったりした黒マントやファンシーなズボンに変化するのを見て士道はさらに目を輝かせる――――年齢を間違えれば、なんか変態っぽかったかもしれない。
そんな彼に、七罪も気分を害した様子は無かった。
「まあ、とにかく。この通りなんか強い生き物ってことだから、人間よりちょっと早く動けたりしても何の自慢にもならないわよ」
「へえ、そうなのか……!その、ちょっとだけこの服、触ってもいいか?」
「…………。構わない―――――まったく、またやり過ぎたかって思ったのに」
すごいすごいすごいすごい――――と、語彙を忘れたかのように繰り返しながら特にあまり意味もなく七罪の霊装の手触りを確かめていた士道だったが、七罪が洩らした呟きを今度は聞き逃さなかった。
「やり過ぎた?また?」
「っ!ええそうよ、前のホラーハウスだって最後のアレは私の〈贋造魔女【ハニエル】〉でやったイタズラよ!
………あんなに本気で怖がるなんて、思わなかったし……今日だって、つい気分が乗って人間の士道を振り回したし……」
そう言って、しゅんとなる七罪。
もしや七罪に運動で負けて少し悔しそうだった士道に気を使って自分の正体に言及したのだろうか。
そして、それで嫌われないかとおどおどしている、悪戯っ子の表情。
だとすれば―――――。
不安と怯えで殊勝にしている七罪に、士道は優しく声をかけた。
「いいよ。遊ぶときは全力で楽しんだほうがいいんだから。まあ、あの幽霊のイタズラはもう勘弁だけどな」
「………!ごめん、なさい………っ!」
「おうっ!」
許す。
はじめから怒ってなんていないし、そんなことよりも。
“気分が乗った”と、つまりデートを一緒に楽しんでくれているのだと分かったことの方が、ずっとずっと一番嬉しいことだったから。
暫くしてまたバドミントンを楽しんだ二人だったが、楽しい時間は、過ぎるのも早い。
まして士道も学校帰りだったから、先日より日が暮れるまでの時間そのものも短かった。
「ねえ、士道」
名残惜しいながらもラケットとシャトルをケースにしまい、出しっぱなしにしていた水筒やタオルなんかも片づける。そんな士道に、七罪は一つ訊ねた。
「もし………もしも、今日、空間震が起きてなかったら、どこに連れていってくれた?」
少し固い声音。
七罪の表情は、逆光と髪に隠れて見えない。
それを残念に思いながら、士道は思っていたことを思ったままに問いに答えた。
「二人で、美容院に行ってみようかなって。」
「――――。ふ、ふんっ。それはつまり私の髪の毛がもさもさしてて鬱陶しい―――――、」
「そんな風にっ、お前が自分のこと悪く言うのをもう聴きたくないッ!!」
「………っ!?」
いつものようにネガティブに走り出した七罪を、今回ばかりは強引に遮る。
「話してて分かるよ、お前は悪いやつじゃない。いいやつだ」
悪いことをしたと思ったら、反省して、その相手を気遣って、ごめんなさいが言えた。
そして何より――――――あれだけ人間不信なのに、出る悪口は全て“自分を”貶すもの。
それはただの、構われたがり屋の寂しがり屋の強がりだって、分かったから。
「お前みたいなやつ、俺は好きだ」
「~~~~っ!?な、なにを………!」
「だからお前の顔を見て――――面と向かって、話をしていたい。そうやって、髪でときどき隠れてるのが、残念だなって思う」
「そんなっ、…………そんな、わたしの、顔、なんて……」
「そういうのは無し。それに見た目、だって―――――、」
俯く七罪に近づいて前髪を持ち上げ、全てが露わになったその貌を覗き込んだ。
頬は赤らみ、瞳が潤んでいる。
細い眉をひそめ、小鼻は恥ずかしそうにひくひくし、全体的に小さなパーツの一つ一つが、いたいけな可憐さを醸し出している。
それがキスできそうなほど近くに見えることに、思わず緊張して唾を飲み込んだ。
今士道はとても恥ずかしい。
前髪を払い除けて女の子の顔を覗きこむとか琴里の少女漫画かよ、とか思う。
だが、そんな思いをしてまで確認したこの感情を、例えもっと恥ずかしい思いをしてでも伝えないといけないと思った。
自分が信じられない女の子……それで他人を信じるなんてできる訳がない。
そんな七罪を、士道は見捨てないと―――――――できることをしてあげたいと思っているから。
だから、言った。
「――――――七罪、可愛い。すごくかわいい」
「…………………、……?………………、………………………え、………~~~~~~~~~ッッッッッッッ!!!!??」
盛大にフリーズした後、顔の赤さが一気に全面まで拡がった。
取り乱し、振り乱し、一度停止し、ロボットみたいにカクカクした動きを無意味に繰り返す。
今七罪の感情を占めているのは、恥ずかしさ、だろうか。
そんなんで発散できる筈のない感情がすぐに飽和に達し―――――、
「うわがにゃあああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!??????」
「な、七罪っ!?」
上を向いて士道と視線があった瞬間、背を向けて奇声を上げながら猛烈な勢いで走り去り………また前と同じように夕闇の景色に霞んで消えていった。
それを呆然と見届けた士道は、そのままがっくりと芝生に手をついた。
「………………やっちまった」
勢いに任せた羞恥と後悔と自己嫌悪と。
暫く蹲って落ち込む青少年の士道なのであった。
も、燃え尽きた…………。
こんなべったべたやってなんでまだキスしてないのこの子本当に面倒くさい七罪可愛い!(錯乱)
………誰だよ原作時系列ほどコミュ障こじらせてないから難易度下がってるとか感想板に書いたの()