デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 最新巻「士道さんがハニエル使った!」

 つショタ士道

…………しおりんじゃない、だと………っ!?




十香ファッション

 

「ところでシドー、デートとはなんなのだ?」

 

 そんな問いを、十香にされた。

 

 さて実際デートとはなんなのだろうか。

 買い物に付き合う、部屋で一緒にくつろぐなど軽いノリのものから狂三との初めての時のように命に関わる覚悟をしていたものまで、士道の経験したものは数多い。

 

 安らいだり、気恥ずかしかったり、必死だったりと、そこに感じるものも種々であって辞書で単語を引くように一言で表現といきはしない。

 

 語義を考えればただ一緒にいることを指すのかも知れないが、そこに共通する何かを見出だすとすれば…………それは“一緒に何かを作り上げていく過程”なのではないかと思う。

 

 居心地のいい空気、より深い絆、共有する思い出。

 

「まだ秘密、かな」

 

「ぬ、なんだそれは?」

 

 十香と作り出す“何か”は、果たしてどんな風に描かれるのかはまだ分からない。

 だが振り返った時に、それを暖かく心の片隅にそっとおけるような“何か”を、彼女の内に生み出す。

 

 それが士道のしたいことで―――気取った言い方をするなら、“エスコートする男の義務”だろう。

 

 だから。

 

「じゃあ、行こうか十香」

 

「………うむ!」

 

 まずは躊躇いもなく握ってくれた、差し出した手に伝わる温もりを連れてゆっくりと歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 まず訪れたのは洋服のセレクトショップだった。

 

 鎧の霊装は大変目立つと士道が言うと、またもや士道と同じ服を構成し纏った十香だが――――いかんせん前回は接着剤付きのロープのせいで駄目になった上着を脱いだ状態の制服姿だったからまだ良かった。

 カッターシャツにネクタイ、スラックスといった格好の女の子二人並んでいたところで、ブラジャーをしていないという一部の方々が喜ぶような状態に目を瞑れば少し変わった趣向程度にしか見えまい。

 

 が、今回の士道の格好は私服である。

 モノトーンカラーのTシャツの上にギレットを掛け、下はジーンズパンツ。

 それ自体は何の変哲もないファッションだが、男女並んで同じ格好をしていればそれはいわゆるペアルックである。

 パステル色の無いTシャツだったからまだ雰囲気的にはましだったものの、バカップル御用達の上級過ぎる趣向を少しなんとかしようということで開店間もない適当な店の暖簾をくぐったのだった。

 

…………士道も流石にペアルックの経験は殆ど無い。

 

 

…………“士織”が美九と同じ格好をしているのは、何故か映像で美九の家のHDに色々と残っているのだが。

 

 ウサミミしっぽを装着して恥ずかしそうにしながら隣の美九に合わせて踊っている、きゃぴきゃぴふりふりした衣装の士織ちゃんとか。みみみん。

 

 

 士道の記憶からはそのステージは消去されているので話を戻すと、十香を洋服屋に連れてきたという話だ。

 ここに来るまでにすれ違う人すれ違う人に警戒する彼女を、警戒せざるを得ない彼女を、士道はやるせない思いを抱きながら宥め、落ち着いてきたところで。

 

「いらっしゃいませー」

 

「これは、服がたくさんだ…………どうするのだシドー?見せたいものというのはここか?」

 

「いや、微妙に違うけど。でも十香が気に入る服を取り敢えず探してみよう」

 

 そう言うと物珍しさにきょろきょろと店内を見回していた十香が逆に士道を見つめ、眉を困ったように下げた。

 

「私はこのままの格好がいいぞ。シドーといっしょの格好だ」

 

「う………でも男物の服だしさ」

 

「?シドーもそうではないか」

 

「そ、それは色々認識の齟齬というか行き違いというか…………あれだ、十香はもうちょっと可愛いのが似合うんじゃないか!?ほら、これとかっ」

 

「………、………」

 

 慌てながらも素早く見繕ったワンピースを十香に渡すと、それをまじまじと眺めた十香が訊ねてきた。

 小さい声で、躊躇いがちに。

 

「そう、思うか?」

 

「え?」

 

「む、む……シドーがそう言うなら、仕方ないな!」

 

 何かまたすれ違いがあった気がするが、少し頬を上気させた十香が上ずった声で呟きながらその衣服を仄かに輝かせ………せめて試着部屋でやるように言う。

 

 衣服のコピー、貨幣経済の概念を知っているのかどうかも分からない十香の、服屋泣かせの能力である。

 他の皆がやっているのを見たことがないが、十香オリジナルの能力なのだろうか。

 

 士道と十香のやり取りを見ていた女性店員が何故か引きつった表情で裏に引っ込んでいっていたおかげで誰にも見られなかったのは幸いだった。

 そう胸を撫で下ろす間にすぐに着替え(?)終わった十香に呼ばれ、試着室のカーテンを開けた。

 

「ど、どうだ………?」

 

 桃色の下の布地を、上から薄い白布を被せて上品さと愛らしさを両立させたワンピース。

 スカートのフリルと各所のアクセントのリボンが無垢な十香の清純さを引き立たせ、より良い方向に印象を変える役目を果たしていた。

 

「可愛いよ。そっちの方が絶対いい」

 

「そう、か」

 

 素直に褒めると、顔を少し背けて恥じらう仕草もまたその魅力の一つだった。

 

 そして十香は落ち着かなげに溢す。

 

「なら私は、これで過ごすことにしよう………」

 

 そして服屋を出る二人。

 

 服代は一応払いました。

 

 

 

 

 

 仮眠中に通信で起こされ、二人の遥か上空より見下ろす〈フラクシナス〉のブリッジの艦長席で琴里が見たのは、喫茶店のテラスで仲睦まじく談笑する士道と十香を映した映像だった。

 カメラはライブを示しており、今現在の状況であることがはっきり分かる。

 

「…………なんていうか、さすが士道ね」

 

 昨日の今日で精霊を口説いている。

 

 暫しの間唖然としたが、持ち直してもそうとしかコメント出来なかった。

 しかもインカムはわざとか忘れているのか知らないが付けていないが、こちらの指示が必要ないほど今彼と相対している精霊・十香の好感度も機嫌も高い数値を示している。

 

 琴里もこの為に学習時間の多くを裂き、対象の感情の動きすらも分析する計器と人工知能を以て部下達と共に士道をバックアップする予定であったのに。

 

 自分達の存在意義は果たして――――という精神衛生に悪い思考はぶち切って、果たして一応精霊である自分には彼はどんな風に口説き落としてくれるものだろうか、などと巡らせた。

 

(…………………はっ!な、何考えてるのよ!?)

 

 首を何度も振って、琴里を壁に押し付けながら顎をくいっと持ち上げて唇を奪おうとしてくる誰だよコイツとしか言えない脳内士道を追い払っていると、眠そうな声が掛かってきた。

 AIの分析機能を見事に使いこなすブリッジクルーの中でも特に重要な役目である解析官を務める村雨令音のアルトの声だ。

 眠そうなのは彼女の場合デフォルトであり、寧ろ睡眠不足を心配されたのは挙動も相まって琴里の方だった。

 

「集中出来ないならもう少し仮眠を取るかい?必要になったら起こすけど」

 

「そうもいかないでしょ、ただでさえ心配事があるんだし、いつ事態が急変するか分からないんだから、気が抜けないわ」

 

 そういう理由で気遣いを遠慮しつつも、琴里は普段と違う点を彼女に感じた。

 それは些細で、例えばほんの僅かだけ話ぶりが速い、多弁になる、くらいの小さな変化。

 

「令音?もしかして、機嫌がいい?」

 

「…………。さて、ね」

 

 曖昧に流されたが、否定はされなかった。

 そういえば、ごく最近にも一度だけ彼女がこうなったことがあった。

 

 あれは確か士道がこのブリッジに挨拶に来た時だ。

 初対面の士道をやけに気に入ったらしく、頬をぺたぺたと触ったり頭を撫でるスキンシップを何故かいきなりし始めていた。

 

 そしてそんな彼女に困惑しながらも次いで椎崎に挨拶に回る士道の後ろ姿に、何かを呟いていた。

 

「そういえば令音、この前士道に何を言っていたの?」

 

「何の事かな」

 

「“もう絶対”―――?」

 

「…………」

 

 音にならない声を拾うのは、琴里の付け焼き刃程度にしか修めていない読唇術では冒頭のそれくらいが限度だったが。

 

「士道と会ったこと、あるの?」

 

「作戦行動中だ、琴里」

 

「…………そうね」

 

 今話すことでもない――――そして

いつ話したところで帰ってくる答えが変わるものでもないと認識した琴里は目下の心配事に思考を移す。

 

 DEMインダストリー私兵部隊。

 それも総帥直属クラスが今強権をごり押してまでこの天宮市で作戦を展開していること。

 その目的は精霊・十香、少なくとも彼女に関係のある何かであることには間違いないのだろう。

 

 だが、何を?

 

 十香は最強と称されるまでに強力な精霊だが、何か特殊なことがある訳ではない。

 それこそもし出現してもほぼ放置扱いの七罪〈ウィッチ〉・美九〈ディーヴァ〉、そして〈ナイトメア〉といった“論外”の方が余程特殊だ。

 

 それを差し置いて、というなら果たしてDEMの目的は何なのか。

 

 琴里の脳裏に、一筋の光が疾った。

 

「っ、まさか――――!」

 

 琴里の中にある仮説、それは想像するだに恐ろしいもので、しかし伝え聞く自分達もその片鱗は見た民間人殺害や人体実験など後ろ暗い噂の尽きないDEMなら…………それですらあってはならないと信じたい、最悪の可能性。

 

 だって下手をすれば、この街どころか――――。

 

 指示を出すのは思考の完結よりも早かった。

 

「令音、可能な限り過去からの十香の出現データ、感情値をグラフにして出して!すぐに!!」

 

 





 何の意味もなく張る伏線。
 だが伏線は投げ捨てるもの(ry

 それはさておき、デビル折紙を出して欲しいとのリクエストがあった。

…………ネタがあれば斜め上にかっ飛ばすサッドライプにリクエストすることの意味を知らぬと見た。

 よろしい、ならば――――病気だ。



※もしデビル世界線の折紙がドエラい例のあるストーカーの闇日記を読んだら、略してもしドラ



 よし、病気具合は把握したな。
 ここからのスクロールは自己責任だ。

 原作11巻未読の人に分かりやすく言うとデビル世界線の折紙は五年前精霊に両親を殺されなかった折紙。
 が――――どのみちネタバレあるので先にそちらを読むことを推奨↓





 その日記は、知らない内に私の机の引き出しに入っていた。

 入れた覚えは当然無い。
 そもそもこんなノートに日記をつけた覚えも無い。
 けれど奇妙なのは、表紙に書かれた日記の文字が紛れもなく私の筆跡だったこと。

 気になって中身を開くと、更に奇妙なことが次々と増えていった。

 この日記は、“鳶一折紙”が高校生になったところから始まっている。
 でも、そんな筈はない―――私は明後日高校の入学式を控える身なのだ。

 もしかして未来の日記、などと戯れに考えてみたけど、それでもおかしい、私が通うのは“鳶一折紙”の来禅高校ではない。

 それでもその奇妙な日記に惹かれるものを覚え、私はページを次々と捲って行った。
 何故か止まらない、読み飛ばしている訳でもないのに素早く一瞥しただけでページを捲るペースなのに何故か全文が頭に入っていき、でも咀嚼する時間は無い。

 何かに突き動かされるような身体の動きが止まったのは、最後のページを読んだ後。
 暫く心を落ち着けながら改めてその内容を振り返り――――。



 ドン引きした。



 何やってるの私。
 どうやら好きな人がいるらしいのだけど、その恋に掛ける熱意が尋常じゃない、というか犯罪そのもの。
 盗聴器発信器は当たり前、訳の分からない理屈でその彼の着替えを覗く為だけに男子の着替え中のロッカーに身を潜めるし、というかその後彼のシャツで何をやって…………いや本当に何をやっているのか。

 数少ない接触のチャンスに全力で痴女行為に及ぶし、深夜に自宅に突撃した挙げ句自分を棚に上げて不審者認定した謎の男と格闘戦を繰り広げ撤退。

 どうやら日下部隊長にも迷惑を掛けているらしいけど、それ以上にこの五河士道という人に謝りたくて仕方なかった。

 だって最後のページ、『彼を今日保護する』で終わってる、これどう見ても監禁の比喩だ。
 この日記がまだ白紙のページがあるのにここまでで終わっている理由を想像したくない。

 しかし、気になることもある。

 その来禅高校に〈ウィッチ〉に〈ベルセルク〉、それに〈ディーヴァ〉というらしい新種、あとはもしかしたら〈ナイトメア〉というどれも反則級の精霊達が生徒として通っているという記述。
 しかもその中心もまた五河士道さんだとのこと。

 俄に信じがたいことだけれど、日記の持つ魔力とでも言うのだろうか、その真偽を疑う気にはなれなかった。
 ところどころ違和感のある記述もあるので、そのものズバリな事実が記されている訳でもないのかも知れないけれど、確認するだけならその手間を掛ける必要は十分だと思う。

 だから次の日、私は日記に書いてあった五河士道さんの住所に赴いた。
 不思議と初めてなのに迷うことなくあっさりと彼の家を発見し、玄関の表札も五河だった。

 そして何の偶然か、丁度買い物か何かで彼は家から出てきた。


――――偶然、じゃない。運命。


 彼の顔は、四年前両親を庇って光に包まれたあの人そっくりだったから。
 あの人の弟?…………違う、“私”の日記から考えれば、彼が本人だ。

 あの火災の中両親が助かって、結局一年ほどでいなくなっちゃったけど、それでもあそこで目の前で両親が殺されていたら私がどんなに絶望した人生を歩むことになったか分からない。

 その恩義と、その彼が生きてくれていた感動…………とは別に、彼の姿を見ているだけでふわふわと内側から膨らむ熱い感情、それが心臓を強く素早く高鳴らせる。

 確信した、これは確かに運命だと。

 内から沸き起こる炎のような情動に、この身が焼き尽くされても全く構わないと思ってしまった。
 それに動かされ、私はブロック塀の死角に潜り込むと同時にカバンからデジカメを取り出し、彼に向けてシャッターを押した。

 彼は気付かない。
 そんな後ろ姿の写真データを絶対消さないようにフォルダ移動しつつ、しっとりと尾行を開始する。

 その間にも、熱に浮かされる思考は尚も高速で回る。


(伝手を辿って、盗聴器と発信器を仕入れないと…………カメラももっと性能のいいものに買い換えて、出来れば彼の私物が手に入れられれば)


 そして、一番忘れてはならないことを頭に念入りに刻みこむ。



「――――そうだ、来禅に転校しないと」


 明日元の学校の入学式だった気がするけど、多分気のせい。



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