デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 本気で何やるか決められなくて、なんか書いてなんか違う、と途中で放置。

 行き詰った末…………そうだ、いつものサッドライプをやろう!
 みたいな。

 狂三スタチューの後、美九にゃんが士道さんを一日監禁するお話です。




籠の主は囀らない

 

「ん………っはあ……!!」

 

 焼けるような吐息を、柔らかなベッドマットへとシーツ越しに吸いこませる。

 体重を預ける彼の顔の横に沈めるようにして、美九はその細い喉を士道の肩に擦りながら額をついた。

 

 鍵を掛けた密室、更に天蓋付きの高級ベッドが幕を悉く閉ざし、たった二人の狭い世界に愛しい人を誘い込んだ背筋のぞくぞくする退廃感。

 艶めかしく素肌を絡め会い、熱を発しては際限なく相手に与えあう体温はどちらがどちらのものかも曖昧だ。

 

 擦れ合う肌の柔らかさの間で、纏わりつく薄布はただのアクセント。

 モラルを、清純さを、節度を、人として捨ててはならぬ理性を脱ぎ散らかし、咎める者(他人)など居はしない。

 

「んう、だーりん、だーりん………っ!」

 

「み、く……」

 

 こんな風に世界に彼と自分しかいないなら―――当然覚える寂しさと恐怖と不安と、“だからこそ”彼に彼だけにどこまでも溺れていけるだろう、そんな昏い欲望が美九の脳髄に重く刺激を響かせながら居座る。

 

 そして、そうなったら五河士道もまた、誘宵美九というただ一人のオンナに縋り、頼り、溺れ、そして沈んでいってくれる。

 それは美九の勝手な想像だとは分かっていて――――しかしありえた一つの可能性であったこともまた、分かってしまっていた。

 

 もし仮に士道を慕う女が彼の周りに美九しかいなければ、そして美九というオンナの心がもうほんの少しだけ脆くって、最早どんな言葉を投げかけてもどうしようも無いくらいに壊れ切っていれば。

 きっと一人ぼっちで壊れていく美九を見捨てられずに一緒に沈んでくれる。

 自分が愛した人はそんな男なのだと、彼を見つめながら彼と共に過ごす彼との幸せな時間の中で、分かってしまっていた。

 

 困ったことに。

 ああ、本当に困ったことに。

 

 誠実で、優しくて、甘くて、愛おしくて。

 その全てに心が惹きつけられてやまない。

 

 

 

 困った、本当に困った――――こんなにも愛させてくれるから、この暗く淀んで濁って腐った欲情も消えてくれない。

 

 

 

 そう、どろどろに甘えた文句は言葉にならずに吐息に侵食し、汗と唾液と僅かの涙と、二人の間に充満する水気に毒を垂らそうとする。

 今自分の息に色が付いて見えるなら、きっとそれは錆びた赤の混ざったピンクか妖しげかつ怪しげに光を吸いこむ紫か。

 一番それを気色悪く思うのは他ならぬ美九自身だろうと、自覚していた。

 

 そんなもので彼を汚したくはないと考えたのは、自分の為か相手の為か。

 奔る激情に曖昧な認識のまま、口をベッドマットに押しつけて毒々しい息を吐き出し切った美九は―――。

 

 

「んちゅ、ちゅるるるるるるるるるるッ、ちゅば………っ!!」

 

「~~~~~~~~、ぐ、けほっ、けは……み、み……く…!?げほっ」

 

 

 代わりの空気を士道の肺の中のそれで満たす。

 乱暴なキスとも言えない悪戯に咳き込む士道を蕩けた視線で見つめると、今度は優しく口づけた。

 

「ん、ちゅ……ごめんなさい、ごめんなさい、だーりん………」

 

「―――、………」

 

 ぽんぽん、と。

 ほら、こんなひどいことをしてさえ優しく頭を撫でてくれる。

 

 もぞもぞと仰向けの士道に覆いかぶさる美九は全身をくねらせてその肢体を押し当てる。

 誘惑するにしては力強く、挑発するにしては切実で。

 

 その早熟にして成熟した肉体を全て捧げる―――捧げきってしまいたいのだと、縋って。

 

 そんな美九の体重を黙って受け止めて、士道はただ美九の長い髪を梳く。

 際限なく甘えさせてくれる士道に―――結局、美九は周囲など関係なく溺れるのみなのだ。

 

 そんな風にして過ごす時間。

 

 士道と共に寄り添いながら眠りに就いて、朝起きてから食事も忘れて貪り続けている時間。

 こんなにも、幸せで。

 

 なのに――――。

 

 

「美九、お願い、泣かないでくれ――――」

 

「~~~~、だーりんっ」

 

 

 どうしてこんなに悲しいのだろう。

 これ以上ない幸せの筈だ、これが理想だった筈だ。

 

 お金だってある、異能だってある、このまま二人狭い世界で居られるなら、あんな風に愛しい人の惨い光景を見せられることだって無い。

 長く、永く、共に朽ち果てるまで、邪魔するものは何もない。

 

 それが、どうして―――。

 

 

 それまで曇り空だったのが途切れたのか、窓から差し込んだ強い陽の光が幕を突き抜けて二人を照らした。

 

 

「あ………」

 

 士道の腕に抱かれながらも、おぼつかない手つきで幕を捲ると、日光の眩しさと裏腹に寂しく暗い部屋が広がっていた。

 窓から精一杯光を取り入れても、美九の広い部屋を十分に照らすほどのものでは無い。

 

 そして四角く切り取られた空は、雨戸を閉めるだけで容易に閉ざされるのが連想できるくらいに、狭く脆く。

 

 

「―――そう、だったんですね。やっぱり私には“歌”なんだと、そういうことなんですね…………」

 

 

 唐突に、納得した。

 

 あんなに狭い空では、私は自由に歌えない。

 そんなせせこましくて、鬱々しくて、出来そこないの歌を―――――――士道<だーりん>に聴かせられるものか。

 

 愛する人に、自分を受け止めて欲しい。

 士道なら美九のどんなに醜い心だって受け止めてくれるけれど――――どうせならそんなものよりずっと綺麗なものを渡したいに決まっているではないか。

 

 それが人を好きになるってことだろう。

 

 だからこのどこかもの悲しい幸せは、やっぱり今日一日限りのそれだ。

 

 すっと胸の内に沁み込むように、美九はそう納得した。

 

 

「やっと、笑ってくれたな」

 

「え?」

 

 

 微笑みながらその頬を撫でられて、美九は知らず知らずに笑顔に緩んでいることに気が付いた。

 狂三に“殺された”士道を見せられてから、美九が初めて心から笑えた瞬間。

 

 自分でも分かるくらいに表情筋の固まった引き攣ったそれでもなく、まして士道を失う恐怖に心が塗りつぶされた冷たさも今だけはなく。

 

「笑顔の美九が、やっぱり一番いい」

 

「…………。ほんとに、もー、だーりんってば」

 

 喪失への恐れから絶望に走る気持ちも、嫉妬や独占欲に走る浅ましさもあるけれど。

 置き去って逝かれるトラウマから抜け出す強さもまだ無いけれど。

 

 もっと素敵なものをいくらだってくれて、壊れて堕ちそうな時何度だって救ってくれる本当に素敵な美九の“だーりん”。

 

 五河士道は誘宵美九の生きる理由で――――彼を好きになれてよかったと、きっと死ぬその瞬間まで思っていられると確信していた。

 

 だからせめて、ありがとうの思いを込めて、彼が褒めてくれたばかりのとびっきりの笑顔を贈ろうと思う。

 これだって彼がくれたものなのに、と少しだけ可笑しく思いながら。

 

 

 

「大好きです、だーりん!!」

 

 

 

 

 

 以上。

 

…………。

 

 おかしいな。

 

 壊れて重くて救えない感じのがいつものサッドライプさんだった筈なのに。

 士道さんのせいで作者も浄化された感じのサムシング?

 

 ちょっと短いし、仕方ないのでもうちょっと美九にゃんといちゃついていてくださいな。

 時系列は適当で、ただ士道さんがデートしているだけのお話↓

 

 

 

 

 

 カラオケボックスは美九の独壇場である。

 

 歌唱力を武器にしていた元アイドルは伊達ではなく、歌っている間の美九の存在感は常にも増して大輪の花が咲くような華やかさを纏っている。

 芯の通った歌声は透けるように高らかに、力強さを持ちながら可憐さを振りまいて太さや鈍さを全く感じさせない。

 

 一度聴いてしまえば無意識でも彼女の至高とすら言えるその歌と比べてしまう、それが分かっていて同じ土俵に立てると言うなら、それは美九と同じくらい歌に沢山のものを懸けて生きている者だろう。

 勝負好きで負けず嫌いの風の姉妹が何十回も挑んで一度も遅れを取らず、完敗を認めさせた美九の歌の牙城は欠けることすら想像できない。

 

 なので―――みんなで和気あいあいと、というならともかく士道と二人きりでカラオケデートに洒落こむのは美九の専売特許だった。

 当然のように美九の家には店に置いてあるものと同じカラオケ機材も、コアなメタルを大音量で流しても近所から苦情が出ない防音部屋もあるが、そこはデート。

 

 大事なのは、雰囲気と気分だ。

 

 綺麗に飾られた部屋に心許した相手と遊びに入るわくわく感、歌うという行為によって普段と違う自分をさらけ出す興奮、そんな高揚した気分で過ごす時間を相手と共有するこそばゆさ。

 

 ただ気持良く歌う以上の多くのものがそこにある。

 

「~~~~っ、………。ありがとうございましたー」

 

「うん。やっぱすごいや、美九は」

 

 小さい頃にやっていて毎週見ていた記憶だけがあって内容は全く覚えていない、そんなよくある少女ヒロインのアニメの主題歌をやけにクオリティー高く歌い上げた―――プロ顔負け、というより元プロだが―――美九に拍手をしながら笑いかける。

 拙い賛辞を受け止める美九も、気持ち良さそうににこりと笑みを返した。

 

「次、だーりんの番ですよー?」

 

「あー、っと。何にしようかな」

 

「このバンドの曲とかどうですー?最近だーりん歌ってないじゃないですかー」

 

「…………。わざと言ってるだろ美九」

 

 美九が曲リクエスト用の端末を操作して開いたのは奇妙な冒険漫画に名前が出て来そうな洋楽バンドの曲目だった。

 何の意味もなく英詩に無性にカッコよさを感じて嵌り、俄か知識で語っては美九にネタを振られて斜め上の答えを返した恥ずかしい思い出があったりなかったりする。

 

 だが、名曲で好きな曲には違いが無いので折角だから歌うことにした。

 カラオケはある程度慣れがあれば歌えるものだ、まして身近に最高のコーチがいる士道は歌うのは苦手ではない、が………それでも若干キーが高く歌いづらい曲だったのに気付いたのは一番のサビを歌い終えてからだった。

 

「……ぁっ、く……お茶、ってなくなってるんだった。さっき注文したからすぐ来るかな」

 

「はい、だーりん。わたしのどーぞぉ」

 

「さんきゅ」

 

「それよりきつそうですけど、ガイドボーカルやってあげましょうかー?」

 

「っ!?」

 

 言いつつ美九が声を吹き込むマイクは―――士道が手に持ったそれ。

 

 慌てながらもイントロは終わり、歌詞がテレビ画面に表示されて歌いだしになってしまう。

 

 美九がリードしてくれるので高音も歌いやすいが…………一つのマイクを二人で共有しているせいで、吐息がもろに感じられる。

 更に士道のマイクを握る手の上から重ねて添えてきた掌の柔らかく暖かい感触のせいで、歌いながらも集中しているのはそちらになってしまっていた。

 

 そんな士道のことなどお見通しなのだろう、悪戯で愉しげな視線を横目に送ってくる。

 至近距離の愛らしい挑発に、士道の心は一気に高ぶった。

 

 気付けば歌もすぐに終わっていて。

 マイクを降ろせば――――近づいた士道と美九の唇だけがそこにある全て。

 

「んふ、だーりん?」

 

「美九、美九…………!」

 

 

 

「お客様ー、レモンティーお持ちしました」

 

 

 

「うわああっ!!?」

 

 ぷるんと潤い溢れた美九の魅力的な唇に誘われる、その丁度いいタイミングで店員が部屋に入ってくる。

 慌てて椅子に座り直す士道を見る店員の目は心無し冷たかった。

 

 まあ、向こうは仕事なのでそのまま飲み物をテーブルに置いてすぐに出ていくのだが。

 閉まったドアにほっと息を付いた士道に、ついっとまた美九は距離を近づける。

 

「てへ、失敗ですー。残念でしたぁ」

 

「まったくもう………」

 

 どちらにとって残念だったのか。

 きっと言うまでもないことで―――。

 

 それでも言葉に出ることの無いように、美九はお互いの唇に人差し指の先をくっつけた。

 

 そのままウインク一つ。

 

 ああ、もう。

 まったくもう。

 

 可愛くて仕方なかった。

 

 

 

 





 よし、明後日からヒーロージェネレーションだ()

…………まあ、なんというか暫く迷走すると思うので生温かい目で見守って頂けると幸いです。


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