デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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――――よかろう、ならばくれてやるっ!

 なんてプレゼントしてくれる耶倶矢は二次元にしかいないんですけどねー。
 それはともかくガイアが囁いたのさ、バレンタインをやれと……っ

 つーことでいっちょ出張ってもらいましょうか。
 時系列は八舞編と狂三編の間、士道さん中三の冬で厨二の二月十四日。
 つまり………分かるな?


 さあ作者と一部読者のメンタルをごりごり削る作業が始まるおー。




――――チョコレートが欲しいか?

 

 生憎の雨模様、というのはテレビの天気予報でよく聴く言葉だが、なかなか上手い表現だと思う。

 ただ『雨です』と事務的に過ぎる報告でもなく、それでいて語呂や言い回しが悪くないので、聞き慣れはしてもなかなか陳腐にならない言葉だ。

 こういう部分が美しきかな日本語……などと言っても。

 

 

「言葉の上に水滴が落ちることなど無いのだからな。雨も嵐も吹雪でさえも、文の上では如何様にも繕い、風流の一言で済ませられる。

 “まこと、美しきかな日本語”……………くくく」

 

 

 士道<シド>さんマジぱねーっす。

 

 大粒の雨が強い風にも煽られて窓に叩きつけられる様を見て暗黒微笑を浮かべている我らが士道さんは、まあ実際のところそうすることで気力を立たせている側面がなくもなかった。

 我が家の外はそれこそ生憎の大雨、雪などよりよほど体温を奪われるこの季節のそれの中を行軍しようと思えば、どんな雨具を纏おうがなかなかに辛い行程となるだろう。

 

 だが、それでも―――士道に、この日外出しないという選択肢は無かった。

 

 この日―――二月十四日、バレンタイン。

 日本においては、女の子が異性にチョコレートをプレゼントする祭りとされている。

 それがお菓子メーカーの陰謀であるか否かはともかくとして、好意の証として渡されたならば、それを嬉しいと思わない男はいないだろう。

 だから美九達の待っている場所へ、士道は行かねばならなかった。

 

 彼くらいの反抗期と思春期が重なった年代だと、『チョコなんかに何必死になってんだよ格好悪い』などと斜に構えた態度の素直になれない男も割と周りにいるものだが。

 そんなにがっつくのは何か“負け”なのではないか、なんて。

 ある意味では大人以上に体面というものを気にする少年達は、そうやってあったかもしれないチャンスを逃すのだろう。

 

 士道にしたって、確かに大っぴらにそう宣言するのは気恥ずかしいものはやっぱりある。

 だけど、見ていたから。

 

 小さな背で苦労しながら、キッチンで菓子作りの練習をしていた七罪の姿を。

 だーりん、楽しみにしててくださいねー、とか言いつつ貰う側の士道よりもこの日を楽しみにしていた美九の笑顔を。

 何か勘違いして大量の原産カカオを屋敷に入荷していた夕弦に耶倶矢……も、まあ好意はあったようだし。

 

「―――――勝ち負けではない、これは願いだ」

 

 その記憶があるならば。

 

 

「それでも俺はチョコレートが欲しい…………っ!」

 

 

「よく言った士道!!」

 

「耶倶矢ッ!?」

 

 ロボットアニメごっこをしていた士道の部屋の窓が開け放たれ、掛けていた鍵が千切れて犠牲となる。

 いや遊んでないでいい加減さっさと出発しろよと言わんばかりに窓辺に現れたのは、果たして風の精霊姉妹の片割れ、八舞耶倶矢だった。

 

 いきなりのことに一瞬あぜんとした士道だが、雨粒が部屋に吹き込んで来―――ないことに気付いて、もう一度耶倶矢の服装をよく見る。

 編んだ蜂蜜色の髪が映えるような黒いコートを装飾している……様に見えて、霊装のベルトが巻きついていた。

 

「えっと……どうしたんだ、耶倶矢?」

 

「何言ってんの、こんな雨の中士道を歩いて来させるなんて大変じゃない。風邪でも引いたらどうするのよ」

 

「それで、迎えにきた、って?」

 

「うむ。…………士道、今宵風の祝福が御主にはついている。水だろうが酸だろうが溶岩だろうが、その髪のひと房も汚すこと叶わぬわ」

 

 そう言って不敵に笑う耶倶矢に合わせて、士道もにやっと笑って返した。

 

「頼もしいな。それでこそ耶倶矢、私の魂の盟友よ。その大言、当然事実となんら差異はないのだと信じているぞ」

 

「僅かな暇もなくそうして自らを預けられる器量、嫌いではない。フッ――――さあ士道、手を差し出せ」

 

 言われるがままに耶倶矢と手を繋ぐと、いつかのように士道の体が風に包まれ、浮く。

 今回は何百キロも飛ばないだろうが、半年ぶりの空の旅の始まりだった。

 

 

 

――――捕捉。なお、放置されたままの士道の部屋の壊れた窓枠と、耶倶矢がいなくなって雨が吹き込み始めびしょ濡れになった窓際は、誘宵邸の優秀なメイド一号が後でしっかり修繕しました。全く、耶倶矢はおっちょこちょいです。

 

 

 

「あれ?耶倶矢、こっちの方って―――」

 

 過ぎゆく眼下の街並み、その地形から耶倶矢の飛行する方角が美九の家に向かっていないことに気付いた士道がそのことを尋ねると、耶倶矢はただいたずらな笑みを返すのみだった。

 

 やがて辿り着いたのは、街を一望する高台の公園。

 その場のノリで靴も履いて来なかった士道を慮ったのか、切り立った部分の落下防止用の手すりに士道を座らせると、耶倶矢もその隣にちょこんと座った。

 

「……?いったいどうしたん――――むぐっ?」

 

 

「寄り道。………と、みんなより一足先にプレゼント。いいでしょ、これくらいの役得」

 

 

 そう言って、士道の唇に一口サイズの何かを押し当てる耶倶矢。

 口に含むと、強い甘さの風味が広がる――――ミルクチョコレート。

 

 今日の主役を一番に食べさせて、ついでに士道の唇に僅かに接触した指を逆の掌で包み込みながら、耶倶矢は普段の強気で勝気な表情を収めてそっぽを向いた。

 士道はそんな彼女に苦笑しながら、優しい声で言う。

 

「おいしい。ありがとう、耶倶矢」

 

「べ、別に……私がしたかっただけで、士道の為にやったんじゃないんだからね……」

 

「………ぷっ」

 

「な、なによー!」

 

 本人にそのつもりはないのだろうが、もはやネタセリフとしか思えない言葉になってしまっている耶倶矢の発言につい噴き出してしまった。

 それに怒る、というかじゃれついて来る耶倶矢と触れ合って、いつの間にかそれが士道の肩にもたれかかっている体勢になって。

 

 ふと二人とも無言になって眼下の街並みを見下ろす。

 雨に霞んだ建物、ぼやける人々の営みの灯り―――なんだか幻想的なその景色を見ているのは、士道と耶倶矢だけだった。

 

「ぜいたく、だな」

 

「何が?」

 

「俺達だけだろ、この景色眺めてるの」

 

 当然だが、こんな寒さと悪天候の中わざわざ公園まで外出している物好きなどそうそうなく、付近に人影はない。

 例外は、風に護られて僅かも濡れることの無い士道と耶倶矢だけ。

 

「あれ?そういえば上着も着てなかったけど、なんか暖かいな」

 

「…………ボイル・シャルルの法則。気体圧力と体積の積を物理温度で除した値は、気体定数と物理量の積、すなわち一定となる。つまり気体のかさと圧力をいじれば暖めたり冷ましたりできる、ってこと」

 

「う……今勉強のこと言うのやめてくれ……しかもそれ勉強しちゃったけど高校入試に関係ない内容まであったじゃないか」

 

「地球(ほし)に遍く在るエア―――それを操る八舞は、間接的に物質の熱量すら手中に収めているということだ、どう思う士道」

 

「そ、それはまさか――――耶倶矢、お前はかの“永遠力暴風雪【エターナルフォースブリザード】”、一度使えば相手を絶対零度の死に誘う技の使い手でもあるということなのか………!?」

 

「く、くくく、気付いたようだな士道――――あれ?」

 

「………あー」

 

 なんか一瞬ちょっといい雰囲気になっていた気がしたが、台無しだった。

 まあらしいと言えばらしいのか。

 

 それに今の時間が自分にとって幸せな時間だったことには変わりないので、もう一度士道は礼を言う。

 

「ありがとな、耶倶矢」

 

「…………ふん」

 

 それに一瞬間を置いて、それからの返事はやっぱりらしいと言えばらしいもので。

 

 

「勘違いするな、我は御主の為にやったのではないのだからな!!」

 

 

「あはは」

 

 それから二人はまた崖から身を投げるように―――宙に浮かぶ。

 さあ、今度こそ皆の場所まで文字通りひとっ飛びだ。

 

 今日はバレンタイン。

 女の子が愛する人に大切な気持ちを伝える大切な日

 男の子だって、その気持ちをちゃんと受け止めてあげる大切な日。

 

 だからみんなで―――いつものように、いつも以上に。

 楽しくて幸せな時間を、始めよう。

 

 

 

 

 

「……………」

 

 ねえ士道。

 士道は本当に、ありがとうなんて言わなくていいの。

 

 私、八舞耶倶矢は。

 あの子、八舞夕弦も。

 

 どうしようもなく孤独だった。

 唯一の片割れとは一緒に生きられない、殺し合う定め。

 その苛酷な運命に、他に目を向ける余裕も勿論無くて、自分が孤独だということにすら気付けてなかった。

 

 そんな中、楽しい時間をくれたのが士道で、向けられる優しさをくれたのも士道で、そして―――『死んでほしくない』と誰かに想われる暖かさをくれたのも、士道。

 

“死んで泣いてくれる誰かがいるのなら、それだけでも悪い生ではなかった”

 

 逆説的、かな。

 そう本気で思えたから、自分は穏やかに消えてしまえるなんて二人とも本気で思ってた。

 結果的に士道の力で二人とも生きることが出来て、それを心の底から喜んでくれたことが、まさかそれ以上の喜びになるなんて予想もしてなくて。

 本当に、本当に私達がどんなに嬉しかったか、士道はきっと知らない。

 

 知らなくていい、どうせこれは一生掛けても、それこそ永遠に返し切れる恩じゃない。

 だから何もかも、士道の為じゃなく、私が私の為にする自己満足。

 

 士道はありがとうなんていう必要は全くない。

 だって。

 

 

 私が生きていることに泣いてくれるあなたが、私のそばで笑っていてくれる。

 

 

 そんな泣きたくなるくらいの贅沢を過ごし続けていられることへの。

 これは私の、“ありがとう”の気持ちなんだから。

 

 

 

 





 だから、狂三に士道が殺されたと思った時の八舞姉妹の嘆きと憎悪が、どれだけ深かったか………なんてねっ!

 まあ実はリバーション書き始めた時に一番やりたかったのが美九編と八舞編だったので(なのに正妻やってるどっかのロリはほんとどうしてああなった)、今回丁度よかったし八舞編の補完も兼ねてみました。

 しかし我ながら、なんだかいつも以上にきれいなサッドライプさんやれていたかなー、って。
 厨ダメージもあまり来なかったし。

 これはやっぱり狂気を発散したおかげだな!()

 というわけで宣伝です。
 前回のあとがきで言ってた艦これもの始めました。

 ただしきたないサッドライプさんです。
 ただし全力の本気できたないサッドライプさんやってます。

 それで良ければ、興味のある方は作者ページからどうぞ。

 しばらくそっちの更新するけど、まあ気が向けばこっちの更新もするかも。
 ではまた。

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