デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 七罪攻略!

 あと作者の過去作を知ってくれてる人が感想板に書き込んでくれてかなり嬉しかったので、本人証明がてら理想郷のチラ裏に置いてたSAOの短編二つをこっちにも投稿しときます。

 まあ暇つぶしくらいにはなるかと。




七罪ランデヴーズ・ナイトフィーバー

 

 

『士道へ

 

 今日の午後8時半に、天宮駅東口のサンダース翁前に来て

 

                         七罪』

 

 

 そんな手紙が、宛名だけ書いた封筒に入れて家のポストに投函されていたのは、七罪と公園で遊んだその次の日のことだった。

 

 誘いと待ち合わせ。

 正直士道としては昨日最後にやらかしたことが気まずいというか恥ずかしいというか、つい二の足を踏んでしまいそうになる。

とはいえ―――。

 

「行かないって選択肢は、無いよな」

 

 逆に向こうから昨日の今日で会ってくれるというのだからと考えることにした。

 実際精霊だからかどうか知らないが、士道の方から七罪にコンタクトを取る術は無いのだ。

 

 問題は中学生の士道がそんな時間に出歩くことだが、友達と花火の余りを今年中に盛大に使い切る約束をしているとか言ったら両親は気持ちよく家を送り出してくれた。

 普段の素行を信頼されているということなのだろう。

 玄関までじゃれながら見送ってくる妹をあやしつつ、それに対し嘘をついてしまったことに士道は罪悪感を覚えたが、約束の時間に間に合うように家を出た。

 

 そして―――――。

 

 

 

―――――拝啓 父さん母さんそして琴里

 

      士道は悪い子になってしまいました。

 

 

 

「……………」

 

「ほーら“士道くん”、ぐいっといっちゃえ!」

 

 薄暗い照明に、妖しいネオン。

 カウンターに椅子が並び、英字の瓶が奥の棚で存在感を醸し出す。

 微かに香る上品な匂いは―――――アルコール。

 

 

 どう考えてもそこはあと一回りは大人にならないとダメなお店だった。

 

 

 しかも、士道の隣にはとびきりの美女が座っていて、積極的にオレンジジュース“っぽい”液体を勧めてくる。

 梳けばこぼれおちるようなさらさらの髪、メリハリの利いた抜群のプロポーション。

 目鼻立ちのすっとした、絵に描いたようなすれ違うだけで誰もが振り返る美女が、妖しい笑みを浮かべて士道に視線を送っている。

 

 こんな状態になったら、普通の男なら骨抜きにされてなんでも言うことを聞いてしまうだろう。

 だが、“中身”を知っている士道からすればどきどき…………しなくはないが、どことなく無性に悲しくなるのだった。

 

 この美女、顔のパーツをよく見れば面影がなんとなく見える。

 実際集合場所に現れた彼女に「七罪のお姉さんですか?」と訊いた士道を爆笑しくさったのも彼女で、そのまま街の士道にはあまり馴染みのない方向のこの店に引っ張ってきたのも彼女―――――七罪だった。

 

「なあ、七罪。なんだそれ……」

 

「ん~~?やあね、さっきも言ったでしょ?これが私の〈贋造魔女【ハニエル】〉の変身能力」

 

「いや、そこじゃない。それも気にならない訳じゃないけど、問題はそこじゃなくて――――、」

 

 そう言って、目の前に置かれたグラスとオレンジっぽい液体を指さす。

 

「これ、なんて言って注文した?」

 

「えっと、たしか…………スクリュードライバー、だったかしら?かっこいい名前よねぇ」

 

「かっこいいよ!でもなんか違うっ!!」

 

「でもこれジュースって言われたことあるわよ?」

 

「そう、なのか…………?」

 

 違います。

 

 スクリュードライバー―――ウォッカのオレンジジュース割り。

 甘口であまり酒の匂いがせず、周りが酒臭いと本当にオレンジジュースにしか感じられないが、アルコール度数は低くはない。

 悪ーい大人が相手を酔いつぶす酒の一つである。

 

「い、いや、ダメだ。こんなところで出されたんだから、ちゃんと確認しないと。アルコールは20からだって」

 

「えー。士道くん、私の出したの、飲んでくれないの?」

 

「それは……未成年の飲酒は健康にもよくないらしいし」

 

「…………ちっ」

 

「!?」

 

 悪ーい大人(?)が舌打ちしていた。

 

 士道に酒の知識なんて無いが、もう殆どクロだと判断してグラスに手をつけないことを決める。

 それを察してか、大人の七罪はそのグラスを横から持ち上げ、くいっと喉に流し込んだ。

 細い首筋が微かに波打つ様が艶めかしい。

 

 士道に法律違反をしてまで飲酒をする気はなかったが、七罪が飲むのはいいのだろうか―――――今の見た目と今いる場所にあまりに違和感が無いのと、そもそも精霊に年齢という概念があるのかもよく分からない為止めることはないかと判断した。

 

「ふう……仕方ないなあ。士道くん、オレンジとウーロン、ジンジャーエールならどれがいい?」

 

「え?じゃあウーロン―――、」

 

「店員さーん、モスコミュールとウーロンハイ」

 

「―――烏龍茶なっ!」

 

 流石にウーロンハイがチューハイの仲間であることには気付けた士道。

 

 そんな妙齢の美女が見た目自分の半分くらいの少年にバーで絡んでいる奇妙な光景に、店員は黙って注文されたものを出すだけだった。

 どちらかというと口出しするのが面倒だっただけみたいな様子だったが、まあ士道には普通に烏龍茶を出しただけでも良心的だったのだろう。

 

 

 

 そんなこんなで。

 

 互いに飲み物だけを手に静かなバーでしっとりと話を……とは行くわけがない。

 少なくとも士道少年はそんなキャラじゃない、という以上に大人の七罪に形容しがたい居心地の悪さを覚えていたからでもあった。

 

 そもそもが何の前振りもなくこの姿で会いに来て、こんな場所に連れてきて、いつもとは違う少しお姉さんぶった態度で士道をからかってくる。

 確かに七罪のコンプレックスは自分の容姿みたいだったから、こんな風に変身したら性格も変わるのかもしれない。

 だがそんな理屈で切り捨てきれない違和感が士道の胸の内に凝っていた。

 

「それでね、お姉さんいっぱい声掛けられちゃって――――」

 

「…………」

 

「ちょっとー、士道くん聞いてる?」

 

 だから七罪との会話にも身が入らない、当然気付かれる。

 

 

「ねえ、こんな綺麗なお姉さんと話してて面白くないの?」

 

 

 眉をひそめてそんな風に士道の変調を尋ねてくる大人の七罪、綺麗な七罪。

 そんな彼女に違和感は膨らむばかりで。

 

 

「―――――――――ごめんな、“どっちも”七罪なのに」

 

 そう、理屈ではそうなのだ。

 だが、ただ溢れてくる思いを士道には謝罪とともにこぼすしかなかった。

 

 

「俺とデートしてくれた七罪は、いっしょにいて話がしたいって思った七罪は、あの寂しやがり屋の小さな女の子だ、って。どうしても、思ってしまうんだ」

 

 

 

「…………ッッッ!!?」

 

 

 

 その瞬間、妖艶を演じていた七罪の顔が硬直した。

 グラスを掴んだままテーブルに乗せた手も、組んだ長い脚も、微動だにしない。

 

 その表情を見て、『泣きそうだ』と―――――。

 

 一瞬あれだけひどかった違和感が消えたのを感じた。

 どこかで一度見たあの表情。

 思い出す。

 

 

 

―――――――“大丈夫か?”

 

 七罪と初めて会ったあの人ごみ。

 差しのべた手を繋いだ時のあの混乱した彼女が、そのままそこに見えた。

 

 

 

 からん

 

 結露して滑ったグラスの氷が、小さい音でその硬直を破った。

 はっと少し躰を震わせた七罪が、目を伏せ、深呼吸する。

 

「…………店を出ましょう、“士道”。あともう少しだけ、ついて来てくれる?」

 

 士道は、迷わず頷いた。

 

 

 

 

 

 バーの会計を七罪が払い、夜の街の喧騒から離れ――――その間、一言もしゃべることはなく。

 適当に見つけた小さな公園に入ると、後ろを歩いていた士道の目を七罪の体を包む光が灼いた。

 

「…………っ、七罪……」

 

 眩んだ目が回復し、明りも頼りない街灯だけとなった時、微かな光のヴェールに包まれた魔女装束の、小さないつもの七罪の姿がそこにあった。

 それに安心感を覚え、知らず強張っていた顔が少しだけ緩む。

 

 

「……………本当に、こっちの私がいいんだね、士道は」

 

 

 その長く乱雑な前髪の下から、一瞬ほんの少し嬉しそうに言ったが、すぐに悲鬱な視線を士道に投げ。

 

 

「違うの、士道…………“どっちも”私なんて、そんなこと、ない」

 

 

 周囲に人影は無い――――ともすればこの夜の静寂にすらかき消されそうな幽かな声だった。

 一粒水滴を水面に垂らしたような………だが、ぽつりぽつりと雨のように言霊は連続し始める。

 

 そして七罪は士道に、己の心を語った。

 

 

 いつどうして生まれたかも定かではない精霊の自分。

 そんな彼女にとって、人の世界は好奇心の尽きせぬ広い場所だった。

 綺麗なものがたくさんある、おいしいものがたくさんある、面白いものがあふれてる。

 

 そんな中で、ふと自分の変身能力で自分を“綺麗なもの”にしたことがきっかけだった。

 変な小娘ではない綺麗なお姉さんに誰もが注目し、賞賛と羨望を浴びた―――――それが“裏切り”だと、被害者の七罪すら認識しないままに。

 

 最初は確かに“どっちも”七罪だった、その筈なのに。

 中身は同じなのに、外見の差で一方ではちやほやされ、一方では邪険にされる。

 悪意を映す鏡のように、異なる扱いをされる“自分”が乖離していく。

 

 綺麗な大人の七罪は演じる自分。

 醜く小さな自分は隠さなければならない自分。

 

 そんな乖離が心に変調をきたし、気づけばあんなに広かった世界が、息苦しいなにかに変わろうとしていた―――――そんな時だったのだ。

 

 

「士道の手が…………暖かかったの」

 

 

 二つに裂けようとしていた心は大いに混乱した。

 何もない、隠さなければならないような―――――でも本当の自分に優しくしてくれる存在がいたことに。

 

 

 いっしょにいたい<デートしたい>と言ってくれた、いい奴だって言ってくれた、可愛いって言ってくれた!

 

 

 その善意を疑って、その度にそれ以上の善意を与えてくれて。

 今日だって演じる綺麗な自分で士道を騙し、酒で酔いつぶして何か企みがあると吐かせるんだなんてそれこそ馬鹿な企みをしようとしたのに、…………本物の自分を見つめてくれた。

 

 嬉しくて、涙が出そうで、そしてようやく気付いた。

 

 

「疑うのは………信じたいから。あなたの手の温もりが真実(ほんとう)だった、って――――――私は信じたいよッ!!!」

 

 

 

「だったら、いつだって俺がお前の手を握ってやる!!」

 

 

 

 感情のままに張り上げた声をかき消すくらいに、士道渾身の叫びが、七罪の心を打った。

 七罪の手をとって、抱え込むようにぎゅっと、両手で包む士道の手が――――優しくて。

 

 涙が一筋、頬を滑り落ちるのを止められない。

 

「駄目……だよ、士道……?私みたいな面倒くさい女にっ…………そんなこと言ったら、……離れられなく……なる、よ?」

 

 そんな七罪を見る士道の目、声、何もかもも優しすぎる。

 

 

「俺はお前のこと面倒くさいなんて、欠片も思わない。一緒にいたいって言ったのは、お前がいい奴だって思ったのは、……………そんなニセモノの感情なんかじゃない!!」

 

 

「しどぉ…………っ!」

 

 負けだった。

 どんなに疑っても、善意しか帰ってこない。

 それがどんなにずるいことか、どんなに嬉しいことか、分かってやっているのだろうかこの男は。

 

 

「……………ぐす。じゃあ、証明して」

 

 だから。

 これは、いやがらせだと、目をつぶって軽く唇を突き出した。

 

 士道は責任をとって、もっともっと七罪を喜ばせないといけないのだ。

 デートしたい、可愛いって言葉を、最高の方法で身をもって証明しないといけないのだ。

 

 その瞬間、七罪の心から裏切られる恐怖も完全に消えていて、確かな敗北を宣言し。

 

 

 

 ちゅっ

 

 

 

 その手よりすらも遥かに暖かいキスの感触に、全てが塗りつぶされるのを七罪は感じたのだった―――――。

 

 

 

 





 キスで霊力が封印され、霊装が脱げる、七罪素っパに

「誰がここまでしろって言ったのよこのドスケベぇぇぇぇーーーーーーーー!!」

「ちが、誤解っ、俺にも何がなんだかぁぁぁぁ――――――!!?」

 この後不可避だが雰囲気ぶち壊し過ぎる一幕。


 つーかついに士道さんこの七罪を面倒くさくないとか言っちゃったよ……



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