デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 悪魔の声が聞こえる………。


「皆さーん、クリスマスの予定はなんですかー?()」


…………さて。

 今連載中のやつがすっごく頭が悪い話なのに、やけに書くのに頭使うのでちょっと休憩。

 何も考えずに適当に書こうかー。
 内容にサブタイ関係ないけど時系列は取り敢えず狂三編後、ストーカーさんがハッスルしてる時期の冬くらいの話かな。





クリスマスなのでリア充爆発させてみた

 

 

「お泊まり?」

 

 何やらそわそわしながら、急な頼みごとがあるという夕弦の言葉に二も無く頷いた士道の、内容を聞いて出て来た疑問符だった。

 言葉の意味自体は知っているが文脈がうまく繋がらない………と“放課後すぐの教室”で呆ける士道を揺り戻す様に、蜂蜜色の髪を編んだ白皙の美貌を持つ少女は重ねて言い募る。

 

「確認。夕弦は今日、士道の家でお泊まりというものをしてみたいです。

……………だめ、でしょうか?」

 

「あー、と。父さんも母さんも例によっていないし、琴里もなんか友達の家に泊まるって言ってたから、今日家には誰もいない、けど」

 

「好機。だから、です」

 

 制服の厚めの黒ブレザーでもその存在を主張する胸の膨らみに手をあてながら「だめ、でしょうか」のところで不安そうに首を傾げる仕草は天然のあざとさだろう。

 意図してようがしていまいが士道に効かない訳もなく、少し焦って半ば了承するような言い回しをする揃いの制服の少年の返答に、安堵したように夕弦は唇を緩めた。

 

 父母―――大手企業に勤める実の両親に似たのか影響を受けたのか、士道の義妹の琴里は小学校の頃から外泊が多い。

 友達の家に泊まっているという話だが、士道も手本とすべき両親がそもそも家を空けがちだし、“普通の”年頃の少女の生態なんて殆ど知らないので特に疑問に思うでもなく納得していた。

 

 まさかあの天真爛漫を絵に描いたような琴里が“余所で猛勉強していたり”“大人の男を相手にいかがわしいことをしていたり”は、まさか―――まさかないだろう。

 むしろ想像が及んだことすらなく、友達と普通に遊んだり話を楽しんで夜を過ごしているのだろうと思っている。

 

 それはさておき、そんな事情で学生ながら家で一人で夜を過ごす事も多い士道は、寧ろこれ幸いとばかりに“普通でない”年頃の少女達が嬉々として招待してくるのに乗って自分も外泊するということは頻繁にしている。

 

 結局妹のことを言えない兄なのだが、この日もそのパターンなのは彼女達に伝えてあったし、普通に学校から美九の家に直行でそのまま泊まるつもりで、今朝は鞄に明日の分の時間割の教科書も突っ込んで来ていた。

 どうもその教科書達は、机の中で意味もなしに置き勉されることになりそうだったが。

 

「根回。美九達にはもう伝えてあります。…………代償は結構高く付きましたが」

 

「そっか。まあいつも俺が泊まる側っていうのもなんだしな、俺なりにもてなしてみるよ。

 四人泊まるのも、うちなら大丈夫だろ」

 

「心外。士道の家に泊まるのは、夕弦一人ですよ?」

 

「え?」

 

 無断で申し訳ないが不在の両親と妹の寝床を借りて、あとは来客用の布団を引っ張り出せば皆寝られるだろう、問題は外泊のつもりだったから五人分の夕食と朝食の材料を買い出しに行かないと……と頭の中で勘定し始めた士道を遮るように、少し拗ねたような夕弦が静かに勘違いを指摘する。

 

「本当に、夕弦が一人でうちに来るのか?」

 

「反証。みんなが居たらいつもと同じです。言ったじゃないですか、『代償は高く付いた』と」

 

「そ、そうなのか?」

 

「………」

 

「えっと……」

 

 頬を赤らめる夕弦に釣られて士道も意識してしまい、二人の間に微妙にこそばゆい空気が満ちる。

 不意にその空気をそっと押しのけて、夕弦は士道の耳に唇が触れるくらいにまで背伸びをしながら近づき、囁いた。

 

 

「―――今晩。ふたりきりです」

 

 

「~~~っ!?」

 

 ふわりと香る優しい匂いと、密やかな甘い声と、耳たぶについた湿った暖かさにくらくらする…………が、耐えた。

 年頃の少女が二人きりになると分かっていて親しい男子の家に泊まり込む。

 “そういう”意味だとしたら、ここでがっつく必要もない―――なんて計算がある訳はなく。

 

「五河、大人の階段を上るのか……チッ」

「五河のことだから、もうとっくに上ってるんだろ……チッ」

「誰で上ったんだろうなー、やっぱ誘宵先輩か?……チッ」

「篠上さんじゃない?時々雰囲気が一番アレそうなのあの子でしょ……チッ」

 

 “放課後すぐの教室”でこんなやり取りをしていれば当然まだ数多く居残っている、お相手のいないクラスメートから殺意の視線を向けられる訳で。

 

「じゃ、じゃあ俺、買い物してから帰るから。夕弦も一旦美九の家戻るんだよな?」

 

「支度。着替えてお泊りセットを取ってきます」

 

「道は分かるよな?じゃあ、また後でな」

 

 気合が入ったような、むしろ勝負に赴くかのようなオーラを発し始めた夕弦と別れ、逃げるように士道は学校を後にした。

 そんな彼の後ろ姿を見つめながら、拳を握りしめ………すぐ傍の壁をドンと勢いよくぶん殴る影が一つ。

 

 

「――――由々しき事態」

 

 

 罅割れ欠けた壁面の塗装を後にして、白糸の髪が宙に踊った。

 

 

 

 

 

 色々と新鮮な感覚だった。

 

 普段美九の家に集まることばかりで士道の家にはほとんど来ない夕弦を、家のチャイムが鳴らされる中迎え入れたことも。

 夕弦の細身の体に合わせた水色のコートを当然だが男物しかない(しおりん………いや、なんでもない)士道の部屋のクローゼットのハンガーに掛け、それに合わせた白いもこもこの手袋と帽子は勉強机の上に陣取っていることも。

 きょろきょろと自室を興味深そうに楽しそうに見回しながら、おもむろにベッドの下を覗き込もうとする夕弦の頭を軽くぐりぐりしてじゃれたのも。

 複数人入っても出入りに困らない広めのキッチンで、夕弦と夕食を分担して作ったことも。

 普段家族で団欒している食卓で、夕弦と二人とろとろでほんのり甘いシチューを分け合ったことも。

 自分のベッドに妹でない女の子が埋もれながら、隣に腰掛けるこちらを見上げてくることも。

 

 新鮮で………心が暖かい。

 どこかくすぐったいような気分は共有のものなのだろうと、交わす微笑みで理解し合えた。

 

「至悦。………暖かいです」

 

「そっか」

 

 なんとはなしに士道がベッドの上についた手の上に、自分の掌を重ねながら夕弦は嬉しそうにただ笑っている。

 夕弦が嬉しいと、士道も嬉しい。

 

 常以上に素直な想いで、なんでも彼女が喜ぶことをしてあげたい、そんな気分になっていた。

 そんな気持ちのまま、ゆったりと時間が流れている。

 

 夕弦はこの家に来て、遊んだり何か特別なことをしたりはしないで過ごそう、と言った。

 士道の家で二人きりで過ごせる、それだけで常に無い特別なのだから、と。

 

 そう言った理由も分かる気がした。

 言葉で言い表すことはきっと出来ないが、表現しようとすることそれ自体がきっと無粋なのだろう。

 

 そうして、ただ意味もなく触れ合っていることが幸せだった。

 

「依願。士道、手を持ち上げて、ぱーしてください」

 

「ん、こうか?」

 

「安心。おおきいです」

 

 時折夕弦のリクエストに応えて触れ合い方を変える。

 士道の拡げた掌に指と指もぴったり合わせて、大きさの比べ合いのようにして。

 当然夕弦の細い指は長さでも士道に及ばないのだが、そんなことが何故か嬉しそうで。

 

「夕弦、くすぐったい」

 

「我慢。じっとしてください」

 

「あ、ああ」

 

 暫くすると、形や感触を隅々まで確かめるように両手であちこち撫でたり指で擦ったりし始めた。

 特に指と指の間の部分がくすぐったくて仕方ないのだが、満足するまで士道の手を弄んだ後は、その隙間に五指を絡めてくる。

 

「相互。握ってください」

 

「ああ」

 

 互いに指と指の間に相手の指を通して行く、俗に言う恋人繋ぎ。

 それに応えるのに言われるまでもないが、夕弦のお願いなら尚更拒まない。

 

 次は何をお願いされるのだろう?

 どこか我儘を期待するようですらある視線を、掌の熱で繋がった夕弦に投げかける。

 

 なんでも叶えて差し上げましょうお姫様――――なんて。

 

 

「女体。つぎは士織の手のひらを」

 

「ああ、〈贋造魔女【ハニエ―――――とぁ!?危ねえ!?」

 

 

「………残念」

 

 さすがにそれはダメだった。

 

 くすくすと笑みを悪戯そうなものに変える夕弦と、危うく女になりかけた士道の耳に、その時ちょうど録音の案内音声が届く。

 夕食後にスイッチを入れた風呂のお湯張りが終わったらしい。

 

『お風呂が沸きました』

 

「勧誘。一緒に入りませんか、士道?今のお詫びに、背中流してあげます」

 

「……いいって。美九の家のほど広い風呂でもないし、一人で先入ってきな」

 

「指摘。第一、いま間がありました。第二、広かったら一緒に入ったのですか?

…………第三。狭ければ狭いで、士道と密着すればいいので大歓迎です」

 

「う……」

 

 若干崩れたものの、いい雰囲気になっていたところでこの誘いは士道もかなり揺らぐものであった。

 夕弦も夕弦で、いつになく攻勢に出るのは彼女も雰囲気に酔っているということだろう。

 

 ここがきっと分水嶺。

 ここで夕弦の誘いを受ければ、きっと今晩は行き着く所まで行き着く。

 

 とは言っても、士道に夕弦とそうなることへ否やがある筈もない。

 意識は既にここで頷くことを前提としていた。

 

 

 そんな不自然なまでに絶妙なタイミングで、五河家の来客を知らせるチャイムが鳴り響く。

 

 

「こんな時間に………誰か予定が変わって帰ったのか?」

 

「推測。あるいは耶倶矢が急ぎの用だったり、でしょうか」

 

 いぶかしみながら二人で玄関まで下りて、扉を空ける。

 闇夜に人影は見当たらず、乾いた冷風が吹き込むだけだった。

 

「………ピンポンダッシュか?でも、こんなの初めてだし」

 

「危惧。あの、士道、お風呂は―――」

 

「悪いけど夕弦、先一人で入っててくれ。ちょっと様子見て来る」

 

「っ!!?」

 

 微かに感じる不審な気配に真面目な顔をしながら、部屋へ引き返しコートを取りに行く士道。

 その後ろ姿を未練がましくジト目で睨みながら、渋々と夕弦は風呂場へと向かう。

 普段からあまり動かない夕弦の表情に変化は無いが………その肩を落とした歩みの鈍さと室内なのに髪を揺らす不自然な風の流れが、彼女の内心を物語っていた。

 

 

 

 

 

 そんな鬱憤をぶつけるように。

 

「なあ夕弦。――――楽しいか?」

 

「愚問。それなりにけっこう無茶苦茶愉しいです」

 

 家の周りを探ってみたものの、素人に見つかるような下手なストーカーは居なかったので成果なしで帰宅し、夕弦の後に風呂から上がった士道。

 寝巻代わりのジャージ姿で戻った士道のベッドの上で、夕弦はおんぶをねだる様にその背中にのしかかっていた。

 

 上体だけ起こして足を投げ出した姿勢で座る士道の首にそのしなやかな腕を絡め、回した手は胸板や腹をそっと撫で擦る。

 背中の上、首筋の辺りに薄手のシャツ一枚しか隔てない柔らかな胸を押し当て、まだ心なししっとりとした士道の髪にその口元を潜らせる。

 互いの体格差から膝立ちになっている夕弦だが、その股関節は鈍角に開いて士道の腰を咥え込むようにぴったりとくっついている。

 

 普段でもなかなか機会の無い士道をゆっくりと間近に体感出来ている現状に震える胸の鼓動が、きっと聴こえてしまっているのだろうと思いながら、夕弦は息をいっぱいに吸い込んだ。

 

「安心。………士道の匂いがします」

 

「え?シャンプーしたばっかだけど」

 

「反芻。確かにシャンプーの匂いが大半ですが……やっぱりこれは士道の匂いです。

 だって、こんなに胸がぽかぽかする」

 

「夕弦……」

 

「!接触。士道のえっち」

 

「ッ!?ち、違っ」

 

 無意識にその顔を窺おうとしたのか、首を上に向けて結果としてより深く夕弦の胸に後頭部を沈める士道。

 そんな彼を言葉と裏腹に逃すまいと更に引っ張っては囲い込み、逃げられないように抱きしめる力を強くした。

 

 体勢の流れで、下の士道と上の夕弦が上下逆さまに見つめ合う形になる。

 風呂から上がって後は寝るだけなので下ろしている髪が零れて士道の頬に掛かり、擽ったそうにする表情が、なんだか可愛らしいと思った。

 

 そんなお姉さんぶった感想とある意味での余裕を、ときどき意地悪にも士道は吹き飛ばしてくる。

 

 

「髪下ろしてる夕弦も、なんか綺麗なんだよな」

 

 

「―――っ!!?」

 

 邪気のない顔で言われて、頭が真っ白になった。

 いつも好意にはちゃんと好意を返してくれる士道でも、ここまで衒いも無く褒められる事は流石になかなかない為に、心の準備も出来ないまま夕弦の脳に喜びと恥ずかしさと驚愕が駆け抜けてショートする。

 

「ぁ、ぅ、……………ょ、呼掛。士道?」

 

 一体どれだけ停止していたのか。

 しばらく動きも思考もままならなかった夕弦がなんとか落ち着いて硬直から抜け出し、士道に礼でも返そうと声を掛けたが、返答は無かった。

 

「くー、すー………」

 

 まるで幼児のように、安らかな顔をしながら寝入っている。

 さっきのは眠気で蕩けた思考から放たれた言葉なのかと納得すると、なんだか弄ばれたような気がして少し釈然としなかった。

 

 まあ、そんな蟠りなんて長続きする訳もないのだが。

 

 曖昧な意識だからこそ綺麗と言ってくれたことに嘘偽りはないのだろうし、それに夕弦の腕の中で士道が安らぎ切った顔で寝ているという事実が、この上なく夕弦を幸せにしてくれる。

 

 肌の柔らかさ、感触。鼓動と息遣い。気配。匂い。優しく拘束する腕の重み。

 そんな夕弦のありとあらゆる要素を受け入れて、至近にあって心地よいと感じるものなのだと肯定してくれる士道が、…………たまらなく愛おしい。

 

 眠っていてすらこんなにも惹きつけてくる彼を起こさないように、夕弦はそっと士道を抱えたまま横に倒れ、自らも眠る体勢に入る。

 暖房と加湿器は動いたままなので風邪を引くことはないだろう、毛布を手繰り寄せて適当に羽織り、枕元のリモコンで部屋の電灯を消した。

 

「回顧。お泊まりに来てよかったです」

 

 そっと一人ごちると、夕弦にとっても安らぎ以外である筈もない士道を懐の内に感じながら瞳を閉じた。

 

 明日の朝はどうなるだろう。

 先に覚醒した自分がじっと寝顔を見つめる中、士道は一日の初めに何よりもまず夕弦の姿を目に写してくれるのか。

 それとも逆に寝ぼけた夕弦を優しく起こして、そのまま甘えさせてくれるのか。

 

 期待は止まず、それでも意識はゆっくりと落ちて行く。

 すぐに寝入った夕弦のリラックスしきった寝顔は、間近にある士道のそれと瓜二つの安らいだ顔だった。

 

 

 






 以上。

 やまなしおちなしいみなし!

 たまには砂糖でべったべたにしただけの飴細工もいいよね、的な。
 けど夕弦をピンで書くと何故かエロくなるので、R18回避の為にストッパー役にもさりげなく出張ってもらいました。

…………ストッパーさんの存在自体が18禁とか言っちゃいけない。

 ちなみに士道さんが風呂に入ってる間再発防止の為に夕弦が玄関のブレーカー落としてチャイム鳴らないようにしたり、それを受けてピンポンダッシュさんが今度は爆竹の用意をしてたとかいう攻防があったりなかったり。

 まあ今回みたいに特にネタは無いけどなんか書くか、みたいなノリでやるのに便利な作品なので、一応完結と言いつつ変な間を空けてちょくちょく掘り起こす士道リバーションなのですが。
 楽しんでいただけたら幸いです。


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