丁度お気に入り登録数1000、感想数100のところでランキングにキャッシュされてたのを見た時ちょっと感動した。
応援本当に感謝です!
…………ぶっちゃけデアラのss少ないからマイナーだと思ってここまで反響あるとは思ってなかった
五河士道はアウトドア派ではない。
特に最近ギターに熱中しているので、暇さえあれば触っていたいのだ。
触っていない間の“相棒”はどんどん熱が抜けていく。
暗いギターケースの中で冷たい、冷たいと凍えているかと思うと、たとえ弾いてやれなくとも毎日触っていないと落ち着かない。
とはいえ、士道は学生だ。
土日を除けば毎日規則正しく学校を往復する生活を送っているし、家の買い物だって最近はもっぱら士道の役目だ。
休日に出歩きもする。
また、七罪の遭遇率を頭に置くと、たまに外出しないと落ち着かないこともある。
家にまで来たことが何故か一度もない―――位置を知らないということは無いはずだが―――以上、家にいると士道を探して街をぽつり一人歩いている七罪の姿を想像するだけでなんとも言えない罪悪感が沸いてしまう。
………いや、士道の勝手なイメージでしかないのだが。
なにせ逆に適当に外をぶらついている士道をどう探しているのかを考えると、“まるで上空から鳥もびっくりの視力で捕捉している”かと思うほど出くわすときは出くわすのだ。
それはともかくとして、その日は普通に平日の学校帰りだったのだが。
「また、会えましたね」
赤フレームの伊達メガネから覗く柔らかな目つきと静かな熱を宿した瞳。
もこもこした白のコートに合わせた白帽子を頭に乗せ、美しく伸びた淡い色の髪を二つに分けて流している。
そんな常に無い容装ながらも瑞々しく清楚な色香を振りまく立ち姿に、士道は先日暴走してしまったイベントを思い出した。
宵待月乃。
出くわしたのは、アイドルだった。
…………一体なにが起こっているんだろうか。
士道と同じ帰宅部の学生もちらほら見える商店街をいつもより狭い歩幅で歩きながら、誰にともなく問いかける。
他の学生たちはゲーセンのゲームにはまっているとか、買いたい本の新巻が出ているとか、あるいはまっすぐ家に帰るのがシャクだとか、………男女ペアなら甘酸っぱい時間を過ごしたいとか、まあ色々な理由があるのだろうが。
では自分はどうなのだろう。
「えっと、宵待さん?」
「美九、って呼んでください。教えましたよね、本名です、“誘宵美九”」
「っ、そ、そうだよな、こんな街中で通ってる名前出したらまずいもんな!」
「…………あ。そういえばそれもそうですね」
「あ、ってなに!?」
何故自分はアイドルと一緒に歩いているのだろう。
男女ペアではあるものの、甘酸っぱい云々では多分ない………が、やけに距離が近い会話だし。
「それで、呼んでくれないんですか?」
「…………み、美九」
「……!えへへ、はい、しどーさんっ」
何かのドッキリですかこれ?
ライブではっちゃけたにわかファンをからかってるんですか?
はにかんで笑う姿は当然可愛いし、なにやらいい匂いもするしで。
男心をくすぐる仕草とか、半分以上天然であるだろうことが分かってしまうだけに性質が悪い。
そんな困惑をよそに、上目遣いであざとく士道を見上げてくるアイドル。
「ちょっと、お茶しません?」
「あらためて、このあいだはありがとうございました、しどーさん」
「しどーさんのこと、もっと知りたいです」
「ファンになってくれたきっかけ、教えてくれませんか?」
「……そうですか。ちょっと複雑ですけど、しどーさんがファンになってくれたことに変わりはないですから」
「お気に入りの曲とかありますか?」
「わあ!私も思い入れがあります。一度二番で一番の歌詞歌っちゃったんですけど―――――」
「この曲はAメロ最後のブレスがですね、」
「何か訊きたいことないですか?そんなに芸歴は長くないけどアイドル関連ならオフレコ暴露なんでもござれ!」
「あの素人歌番組なんですけどね、プロデューサーの選考基準がですね、おかしいんですよ。聞いたときびっくりしました。『そんな素人がいますかーっ』ってツッコミたかったです」
「そうだ!今度一緒にカラオケとかいきません?………え?いやですねー、ふ・た・り・でっ、です!」
「日程は、この日でどうでしょうか。私、しどーさんの為だけに歌っちゃいますっ」
「ふふっ、どうでしょう。楽しみです」
「しどーさん、しどーさん、しどーさん――――――――」
「………………本当に一体なにが起こったんだろうか。」
女性が話好き、というのはよく聞く話だが、実際にそういう女性と話したのは初めてだと思った。
あれよあれよとなにやらオサレげな喫茶店に連れ込まれ、コーヒー一杯と水で二時間弱。
非常に迷惑な客……というか、どこがちょっとなのだろうか。
地味に次の約束までしていったし。
「というか、これデート?…………いや、ないか」
別に士道はアイドルは恋愛禁止、などと思ってはいないが、スキャンダルで酷い目にあったばかりの美九はその辺り避ける気持ちが働くだろう。
人懐っこい印象もあったし、それが生来の彼女だとしたら、こちらと仲良くしたいというのを無碍にするのも気が引けた。
その歳で多くの人々に注目される仕事をしている美九を、こっちは自業自得だがたかだか数百に注目されて感じた圧迫感を知っている士道は尊敬する。
その分尋常でなくストレスも溜まるだろう。
そんな彼女が士道と個人的に仲良くしたいというのなら、放っておける訳もない。
向こうが満足するまで付き合おう――――、
「――――なんて。優しい“しどーさん”は考えてくれているみたいですねえ」
“初めて”の時と同じように、学校が終わる時間よりちょっと早く仕事が上がったので、士道の通う中学の校門より少し離れた位置で彼を待ち伏せながら、変装した美九は“あの人”の心情を推し量る。
あれから、美九の用事が空いた日に数回、お誘いして付き合ってもらった――――デートに。
少なくとも美九はそのつもりで毎回変装の範囲でだがおしゃれも頑張り、メイクもきっちり決めている。
それと、交わすメールのやりとり。
男の子なのに、美九のメールを面倒がらずに全部返してくれる。
それらの時間的には短い付き合いだけで彼の気持ちが推し量れるほど、五河士道という年下の男の子は、優しく裏表のない人なのだと分かった。
そんな人だから自分を破滅の瀬戸際から掬い上げてくれたのだし、……惹かれている。
――――自分がどんなに馬鹿なことをしているのかは分かっている。
ただでさえ酷い噂の流されている中で“七十五日”も過ぎぬままに今度は本物のスキャンダルを流されれば、流石にもう“宵待月乃”のアイドル人生は終了する。
理屈で言えば、こんな変装していてもいつばれるか分からない男の子とのデートなどしていい訳がないだろう。
だが、それでも。
そもそも美九の問題はなんら解決していない。
士道が現れてくれたおかげで“歌を失う”という最悪は免れても、相変わらず心無い誹謗の声は美九の心を切り裂くし、仕事だって新人の頃以上に逆風で辛い。
応援してくれるファンにしたって□□時、士□□いなけ□□□局□□を見捨□てい□□□うに―――。
そんな中で、士道の存在だけが心のオアシスなのだ。
心のオアシス。
ありきたりだが、本当はとても重い言葉だと思う。
だってオアシスが無ければあたり一面は乾燥した砂漠。
カラカラに渇いて、息もまともに吸えやしない。
彼がいるからまだ頑張っていられる。
彼の姿を確認すれば、安心して心がぽかぽかと暖かく、なる――――――。
「士道くーん、抱きっ!」
「七罪!?」
「―――――――、え」
一瞬でその熱を持った心が凍りついた。
校門から出てきた士道に、はし、と抱きついた女がいた。
絶世の美女と言っていい女だった。
美九よりスタイルがよく、美九より背が高く、顔は遠目でも分かるくらいの美貌で、その色香は同性すらも眩ませるほどに麗しい―――――まるで“イメージ出来る限りの最高をそのまま具現化したような”。
勝てない、と思わされてしまった。
「お前どうしたんだよその姿!?」
「ふふ、今の七罪お姉さんは大人なのでーす。……いや、この格好だと都合のいいというかできることも結構あるからね」
「………ほどほどにしとけよ」
「うーん。じゃあ士道くんもお姉さんと一緒に来ない?オトナなところ」
「行く訳ないだろ!?お前がオトナでも俺はまだ中学生だ」
「またまたー。ハジメテじゃない、でしょ?」
「あれはお前が―――――」
(やめて………っ!)
そんな女が、士道にその豊満な肉体を擦り寄せて。
“あの人”を誘惑している。
そして、関係を仄めかすような事を、その口から。
(やめてぇーッッッ!!)
「今度はお酒抜きでもイイトコ、教えてアゲル」
視界が、黒く染まった。
頭が、ずきずきと痛い。
その後、おそらく自分は逃げ出したのだろう。
どうやって帰ったのかも覚えていない。
気がつけば美九は家の自室で、クッション相手に当たり散らしていた。
「なんでっ、どうして………ッ!!」
気合いを入れたメイクを涙でグショグショに汚しながら、クッションを持ち上げてはベッドに叩きつける。
「あの女っ、なんでしどーさんをっ!!」
………そういえば、“あの人”に彼女がいるかどうかなんて訊いてはいなかった。
無意識に、こうなるのを恐れていたから。
「あれなら男なんていくらでも選びたい放題の筈です!なんでよりにもよってしどーさんなんですかぁっ!!?」
そして、“そう”なってしまっていた。
「私には、しどーさんしかいないのに……………」
何度も何度も、クッションカバーが破れて、ベッドのシーツや枕元のぬいぐるみが散乱しても、叩きつけて。
ぺたり、と、膝を落とすと一気に動く気力すらなくなっていく。
「こんなの、嫌です…………」
――――大丈夫だよ。彼を振り向かせる方法は、まだある。
「あはは………」
そんな彼女の耳に、声が聞こえる。
セキュリティの万全な美九<アイドル>の家に美九以外の人影など当然無かったが、眼前の空間にただぼやけたような存在感だけがあった。
「おもしろいこと言うんですね。なんです、それ?」
ショックのあまり幻覚まで見えたのかと思ったが、どうでもいいと美九は自暴自棄に応えた。
――――“力”をあげる。欲したものを奪い取り、誰にも渡さない、その為の“力”。
「ちから………」
虚ろな思考で為した返事は、ただの語末の鸚鵡返し。
だが、その思考の琴線に、微かに引っ掛かるものがあった。
本当にそんなものがあるのならば――――――、
「しどーさんを、手に入れる………それができるなら、なんだって、します」
――――そうか。じゃあ、頑張って。
そう言った“声”が美九に、紫の宝石のようなものを差し出した。
受け取った美九の胸の中に、それが眩い輝きを発しながら入っていった。
「―――――――ッッッ!!?」
痛み、ともちがう、魂が灼けるような激感。
その数瞬後に、美九はその宝石がどんなものだったのかを理解した。
「ふ、ふふふ、ふふふふ……………あはははははははははっはははははははっははははは!!!!そうだったんですね!?やっぱり私には“歌”なんだと、そういうことなんですね!!?」
自分が宝石を受け入れ、人ならざるモノになることで手にした“力”。
それが奇しくも、美九の命そのものである“歌”だったことに歓喜にも似た感情を抱く。
「いっぱい、いっぱい歌って、私の歌を。沢山の人に聴かせて。もう誰も私を傷つけないように、裏切らないように」
いつしか崩れたメイクは綺麗に剥がれ、美しくも妖しい輝きを放ちながら美九は詠う。
皺だらけになった服も、花を各部にあしらったまるでステージ衣装のような薄く光るドレスへと。
「歌いましょう。しどーさんをずっとずっと虜(とり)にする。私という籠の中にいてくれる、鳥(とり)になってもらえるように」
その瞬間を夢想してか、美九はとてもとても美しく微笑んだ。
「“だーりん”、ちょっとだけですぅ。待ってて、くださいねー?」
間延びしたその声は、先ほどまでが嘘のように落ち着いていた。
前話の前書きで言った筈。
『ここで幕ならHappy end』
五河士道は誘宵美九を本当の意味で救ってはいない。
“掬い上げた”だけ。
無論、それだけでも一人の少女が本当の絶望に浸るのを止めた以上、ヒーローの名が彼に相応しいことに否やはない。
だが、一日限りの急造の逆転劇ではまだ彼女は救われてはいない。
そう、“まだ”…………。
またヤンデレかよサッドライプェ…………とか言わないで(土下座)
一応プロットだと原作より二年ほど早く美九に渡された霊結晶なので、調整・実験不足で精神に悪影響を与える―――琴里のほど酷くはないが―――副作用があって、美九が暴走を始めるという分かり辛い展開になってたんだけど、……………この設定、必要なんでしょうか村雨解析官。
ていうか、書いてたら自然とこうなったのは作者がドSだからじゃない筈。
やっぱり精霊ヒロインは面倒(ry
※琴里といえばふと思ったこと
・実は二重人格
・実は秘密組織の司令
・実は精霊にされた元人間
・以上は家族や友達にも隠さなければならない秘密
・「く……能力を使いすぎた……」
・「破壊衝動に、意識が飲まれる…………!」
琴里ちゃんあなた立派に士道さんの妹っていうか士道さんのこと笑えな(ここから先はかすれていて読めない)