デート・ア・ライブ 士道リバーション   作:サッドライプ

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 美九さんが掛けてる催眠の内容は原作みたいに絶対服従なのではなく、美九を好きになって全力で味方しそれに疑問を抱かない、って感じです。
 美九の思想が原作と違うからですが、やってることはほんのちょっとの常識の改ざん(魅力のあるアイドルのファンになって、好きになったアイドルの味方をするのはある程度当たり前)なので、解けても記憶が飛ぶ訳でもなく、誰かによほど強く直截的に指摘されないとおかしいと気付けない、そんな仕様となっております。


 だから気付かなかったラタトスクwとか煽っちゃダメ!飴玉落としたことりんだっているんですよ!?



 今回かつてないサブタイ詐欺。





美九ホーリーナイト

 

「どうしよう……………本当にどうするんだこれ」

 

 雪の降りしきる街で、途方にくれる少女―――――もとい士道。

 駅前広場のベンチに腰を降ろしたそがれる彼の前で、時折人々の掛け声が飛び交っていた。

 

 五河士道を探せ、と。

 

 すぐそばにいるのだが、気付く訳もないだろう。

 

 さらさらと雪に照らされて薄蒼く光る長髪は鬘などではなく地毛になっているし、その面(おもて)は―――士道の面影を残していてちょっと改造すればこうなるかもと分かるのが逆に癪だが―――優しげな美少女。

 全身の骨格・体格からしてちょっとずつ細くなっている――――そのわりに身体能力は元と比較にならない程上がっている悲しさもある。

 最低限のプライドとして下についているものは無事だったが、代わりに上というか胸のあたりに柔らかい膨らみがあるのはもう考えないことにした。

 

 そんな姿なものだから、とりあえず追い回される状態から脱せてはいるものの、家族が操られていようがいまいがどのみち帰れない。

 

「そもそも――――俺はどうしたいんだろうな」

 

 何もかもが現実じゃないみたいだ。

 

 間断なく降りしきる雪の中で大して寒いと感じないこと…………というか今自分の体が五河士道のものかどうかも分からない曖昧な感覚が、理性に溶けていく。

 

 美九の歌が好きだった。

 一生懸命で、楽しそうで。

 踊るリズム、跳ねるメロディー、旋律に乗せて響く歌声。

 

 それが、街宣車の大音響で、耳障りに通りに響く。

 なかなか士道が見つからないことにしびれを切らし、捜索の手(ファン)を増やしに掛かっているのか。

 無駄だろうに………士道はここにいるというのに。

 駅前の最も人が多い場所にただ座っているのに誰も気づかない。

 誰もが五河士道を目を皿にして探していて、その光景を眼前に見ているのだ。

 

「これが―――――乖離」

 

 七罪の言っていたことが実感として沸いた。

 そして、本当の意味で“疲れ”ていることを、士道は自覚した。

 

 街宣車が遠くに行き、本当に頭の痛い歌が過ぎ去って…………こんなものを必死で我慢して聴いていたのかと、自分でも不思議に思う。

 ただ人を洗脳する為の歌。

 士道にとっては頭痛を引き起こすだけの―――――――あるいは、この頭痛がなくなる時、自分は楽になれるのだろうか。

 

 だんだんと霞み、雪に溶け行く思考。

 その中で、一つだけ熱を放ち強く存在している想いに気付いた。

 

 

「なつみは、ぶじかな…………?」

 

 

 この一年で、見せてくれる機会の多くなった彼女の笑顔が心に浮かんだ。

 七罪も精霊だから、こんな歌は効かないと思いたいけど。

 あるいは士道をこんな風に変身させて助けたのもきっと七罪だから、大丈夫なのかもしれないけれど。

 

 ただ、一つ思った。

 

 

 

「あいたいよ、七罪」

 

 

 

 会って無事を確認したい。

 あの寂しがり屋の七罪の心を操る――――弄ぶような真似をしたりしていたら、きっと士道は美九を“もう”赦せなくなると思うから。

 

 それは七罪を想うと同時に、“美九を赦したいとまだ考えている”馬鹿な少年の甘さでもあった。

 

 今宵は聖夜。

 そんな少年の願いにこそ、奇跡は舞い降りる。

 

 

 

「なんて格好してるのよ。おかげで見つけるのに手間取っちゃったじゃない」

 

 

 

 銀の雪が降りしきる夜空に、箒を手にした魔女が歩いてくる。

 黒を纏ったその少女の姿は、幻想的であってもユメマボロシなどでありはしない。

 

「大丈夫?」

 

「…………ぁっ」

 

 そして、いつかの正逆。

 士道に差しのべられたその手の暖かさと眼差しの優しさに、七罪のココロを確信する。

 

「七罪………っ!おまえこそ、無事で…………よかっ、…ぅ、ぐすっ」

 

「あぁもう、このバカ………!」

 

 まるで今の見た目相応に、涙が溢れて止まらなくなった士道を七罪が優しく胸に抱きしめた。

 

 13、4の少年が、啜るように静かに嗚咽する。

 想いを裏切られ、苦悶を踏みにじられ、群衆に曝され、孤独に追われ、帰る家すら無い。

 それでも泣かなかった五河士道が、七罪が七罪でいてくれたことに安心して泣くその在り方に、痛ましさと複雑な感情を向けそうになる。

 

 時として自分さえ傷つけるほどに相手を思いやってしまう優しさと、そんな彼だからこそ救われた自分。

 だがそんな葛藤など全力で投げ捨て、七罪はただ己の熱を士道に伝えた。

 

 いつか彼がくれた暖かさが、冷え切った今の彼に少しでも返せるようにと。

 

 

 

 

 

「ここなら、あの不愉快な歌も聴こえてこないでしょう」

 

 そう言って少し落ち着いた士道を連れて入ったのは、裏手の寂れたカラオケボックスだった。

 七罪が手を繋いで先導してきたのだが、士道は少しばかり俯いたまま。

 まだ落ち込んでいる――――わけではなく、ただ恥ずかしそうにしている。

 まあ“女の子の胸で号泣する”なんてやってしまった―――しかも何度も言うが場所は駅前の群衆ド真ん中―――からには無理もないが、ただ。

 

「ねえ、赤面するのはいいけど、今のあなたじゃ恥じらってるようにしか見えないわよ、“士織(しおり)”ちゃん?」

 

「………お、俺の名前かよ、それ」

 

「しど美の方が良かった?」

 

「やめて、それだけは」

 

 なんてからかいつつも、ぎこちないながらも反応を返せる程度には元気が出たことに七罪は安堵する。

 だから、もう少し踏み込んだ。

 

「何があったか、聴かせてくれる?なんだって、聴いてあげる」

 

 

 あまり整理できた内容ではなかったけれど、士道の話を七罪は宣言通り最後まで聴いてくれた。

 

 ライブで思わず声援を飛ばしたことがきっかけで、美九と親しい友人になったこと。

 それからしばらくして、美九の歌を聴くと頭痛を感じ始めたこと。

 彼女から送られたCDではその頭痛が半端ではなかったこと。

 それを押して行った彼女に招待されたライブで、頭痛の正体がファンを増やす洗脳能力を持つ歌で、士道に効かない代わりに何故かそういう効果になっていたことを知ったこと。

 それから操られた彼女のファン達と逃走劇を演じ、そのうちに女の子に変身したことでやり過ごせはしたものの途方にくれ、そんな中で七罪に会えたこと。

 

 

「なあ。この格好、変身したのはやっぱりお前の能力(ちから)なのか?」

 

「………まあ、そうね」

 

 嘘は言ってない。

 話をそらす……訳では断じてないが、一度もう一方の七罪から見た状況も併せて士道の話を整理することにした。

 

「といっても私からの情報なんて大したことないんだけどね。ちょっと騒がしくて何事かと思ってたら士道を探して連れていけ、なんて話だったから慌てて飛び回って。合流できてよかった」

 

「…………ありがとな。お前は美九の歌、大丈夫なのか?」

 

「少なくとも機械越しに来る分は霊装を展開してさえいれば軽く弾けるみたい。普段もテレビの方はもともと大して見ないし、“宵待月乃”がちょっとでも出そうだったら電源切ってたし、外歩くときはなるべくヘッドホン必須で」

 

「そ、そこまで嫌いだったのか………?」

 

「嫌いっていうか、だって士道が…………、――――――あああそれはともかくっ!」

 

 また今度は別の意味で七罪にとってまずい方向に行きかけた話題をさらに強引に転換した。

 

 

「これから、どうするの?士道」

 

 

「……………」

 

 これからどうする――――落ち着いてからまた考えても、やはり漠然とした指針すらも浮かばなかった。

 胸の内にもやもやしたものが蟠る。

 そんな士道の様子を見て取り、七罪は三本指を立てた。

 

 

「選択肢は三つ」

 

 

 一つめは、七罪にとっての理想案。

 

「一つ、舐めた真似をしてくれたあの女を私が出向いてボコしてけちょんけちょんにしばいてくる」

 

 ただし、ある事情で勝算は低い。

 

 二つめは、七罪にとっての最善案。

 

「二つ、全部放りだして私と二人でどっか逃げ出す」

 

 士道も変身姿ならどこを探しても美九には見つからないだろうし、士道一人しばらく食べさせるのに不安や問題も七罪には無かった。

 

 そして三つめは、七罪にとっての―――――、

 

 

「三つ、…………士道があの女を説得して、改心させる」

 

 

――――――最悪手。

 

 だが、七罪には不思議と士道がこれを選ぶだろうという確信があった。

 そしてそれは、士道も同じく。

 

「……………」

 

 三つめの選択肢など、勝算や見通し云々以前の問題だ。

 できるかどうかのめどすら立たない、曖昧過ぎる可能性。

 利口に考えるなら、選ぶべきは二つめで。

 

 なのに美九の顔が、声が、“歌”が頭にちらついて離れない。

 会って短い間柄だったのに、様々な思い出が蘇って―――――。

 

 最初のライブで美九が見せた、あの色のない絶望した顔を思い出したとき、選択肢は不思議と一択となっていた。

 

「三つめだ。俺が美九を説得する」

 

「どうして?あなたはあの女に裏切られた。その優しさを踏みにじって、何もかもを浅ましく思い通りにしようとして。士道は誰よりあの女に怒る権利がある。それは誰にも文句は言えないし言わせない」

 

 

「“だから”、行きたいんだ。美九に、大事なことを思い出させる為に」

 

 

 だって。

 “裏切られた”と思ったのは、それだけ信じているから。

 きっかけは美九にとっての最悪から始まったとしても、士道が好きになったあの音楽を、本物だと思っているから。

 

 

「…………そう」

 

 七罪は諦めたように嘆息した。

 本当は首に縄つけてでも無理やり二つめを選ばせてやりたい。

 だが、“これ”が士道だと思うと、手伝うことしか七罪にはできなかった。

 

「じゃあ私が士道の姿に変身して引っ掻き回すわ。その間にあの女と話をつけてきて」

 

「………!手伝ってくれるのか?」

 

 確認する士道に頷きを返す。

 同時に、心の内をあれ以来の再び明かした。

 

 

「―――――士道の手、さっき氷みたいに冷たかった」

 

「…………」

 

「いつだって握ってくれるって言ってくれた、士道の優しい手の温もりがあるから、今私の世界は暖かい。

――――――だからそれを凍らせるような、冷たい現実なんて絶対に許さない」

 

 その為なら、士道があのいけ好かない女を口説きにいくのだって応援しよう。

 求めているのは幼稚だろうが陳腐だろうが問答無用の“士道にとってのハッピーエンド”。

 手を握れば、その“幸せ【熱】”を士道は七罪に伝えてくれるのだから。

 

「だからきっと成功させてきなさいよね。そして約束!」

 

「………なんだ?」

 

「決まってるでしょう――――――今度私と、いっぱいデートすること!!」

 

「ああ!分かった!!」

 

 士道は強く答えた。

 自信が次から次へと湧いてくる。

 ここまで言われて失敗する気なんて欠片も起きない。

 

「ありがとう、七罪………」

 

 ただ、少しだけ照れくさくて。

 はにかみ笑いになった今の士道の可憐な外見だけが、少し締まらなかった。

 

 





……?これ美九編だよね?
…………?これ美九攻略中なんだよね?

…………………!?


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