は?ニャルガキなんかに負けないんだが?   作:胡椒こしょこしょ

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生意気な子に偶に弱いところ見せられると何かしてあげたくなるので初投稿です。


電車で眠っただけなのに 終

「...はくち、駅.....。」

 

呆然と目の前の駅の名前を呟く。

ボロボロでもはや人は使っていないかのような整備の整っていない駅。

それを前に電車は停車していた。

そして、ゆっくりと電車のドアが開く。

まぁ電車なのだから駅に着けば開くか。

 

まさかマジで異界駅に来てしまうなんて。

隣の少女は目の前の光景を見て、俺の服の裾を摘まんでいた。

不安...なのだろうか?

 

いや、普通に考えたら当然か。

気づいたら赤い光が差し込み、赤い雨に濡れる電車の中。

自分と目の前の俺以外誰も居ない状況から電車が止まったと思いきやこのまるで廃墟のような駅にたどり着いたのである。

駅にも人の気配はない。

俗に言う無人駅ってやつだろうか。

 

「クソ田舎かよ....いや、異界に田舎もクソもないんだろうけど。」

 

「...どう、なさいますか?」

 

彼女は俺に上目遣いで問う。

その瞳は揺れている。

やはり不安なのだな。

どうするべきか。

ここは確固たる指針を示すべきだろう。

 

普段であれば、そんなこと聞かれても困ると言っているだろう。

しかし、俺は実は今案外落ち着いていた。

確かに異界の駅にまで人っ子一人居ない電車でここまで来たんだ。

だけど、この駅ははくち駅。

朝にスレで見た駅と同じはず。

そして、異界駅物で共通して言えることは一つ。

 

安易に電車から降りるべきではないということだ。

 

そりゃ考えてみれば分かる。

電車から降りて、電車が行ってしまえばこの異界に取り残されてしまうのだからであれば電車に居る方が良いに決まっている。

少なくとも電車と言うのは巡っているものであって、帰ってこれる可能性が高いのはここだろう。

 

だからこそ、彼女の頭に手を置いて撫でる。

 

「ここに居る。降りると電車が出てしまうとここに置いてけぼりになるからな。...電車なんだからずっと言ってれば車庫とかあるんじゃないの?そこに職員の人とか居るでしょ。それに...こういうのは留まった方が良いって定石で決まっているんだよ。」

 

俺が言うと、彼女は表情を変えずに前を向いた。

 

「...貴方がそう決めるのであれば、私はそれに従いましょう。」

 

...なーんか、えらく子供っぽくないガキだな。

大人しいというよりは落ち着いている。

てっきり不安に思っていると思ったんだが....。

 

まぁ、なんにせよ待てばいいのだからであればここで立ってる必要もない。

席に座ってゆっくりと発進の刻を待とうじゃないか。

そう思い、椅子に座ろうとすると座席が埃被っていることに気づく。

ここの車両の席は全体的に汚いな。

こんなのに座ったらブレザーが汚れちゃう。

....あの子、俺の制服なんかより遥かに高そうな着物着てるよな?

気にならなかったのだろうか?

 

不思議に思いながら椅子の埃を払おうと手を付ける。

その瞬間。

 

駅の方から微かに太鼓と鈴の音がした。

身体が強張る。

そりゃ、唐突にそんな音が聞こえたのだから当然だ。

正直めっちゃビビった。

 

音は断続的に一定のリズムでなっている。

でも、鈴と太鼓の音は本家のスレでも記述があったし不思議ではない。

ここはきさらぎではないが、そこは共通した場所なんだな。

かなり遠くの方からなっている感じがする。

 

「太鼓と鈴....気にしなくていい。この車両から出なければ....。」

 

「...どうやら、おいでなさるようです。」

 

「は?....なにが?」

 

俺が少女を安心させようと言葉を掛けると、彼女は駅の方をじっと見たままそう呟いた。

何を言っているんだ?

...さっきから、この子...ちょっとおかしいぞ。

そう思い、彼女の方を向いたその瞬間また鈴と太鼓の音が響く。

そしてあることに気づく。

 

音の感じが、違う。

太鼓と鈴の音がさっきよりも大きく、近く感じる。

こちらに近づいてきている。

 

それと同時に、電車から金属を叩くような音が響く。

びっくりした。

それはまるで鉄板を力一杯叩いたかのような音。

そして、それは背後から鳴った。

 

ゆっくりと、背後の窓を見ようと振り返る。

赤い露に塗れた木々が見える。

なんだ....?

首を傾げた、その瞬間。

 

バンッと自分の目の前の窓を下からヌッと現れた手が外から力一杯叩いた。

その手は外の雨露か血なのか分からないが真っ赤である。

 

「ひっ....!」

 

思わず、喉を引きつらせて床に尻もちをついてしまう。

すると、立て続けに窓に似たような手や何かがバンバンと連続で叩きつけられる。

な、なんだよ.....。

異界駅なんだろ...?こ、こんな話聞いたことも見たこともないぞ!?

 

バンバンと連続で窓を叩かれ、しまいには微かに車体自体が揺れ始める。

まさか...叩かれて揺れているのか!?

 

「な、なんだよ.....電車叩いてんじゃねぇよ!!話が違うだろぉぉ!!!!」

 

あまりに怖すぎて叫んでしまった。

正直ちびった。

 

「大丈夫...ですか?」

 

彼女は表情を変えることなくこちらに近づいてくる。

俺はそんな彼女の肩を掴んだ。

 

「大丈夫に見えるかよこの状況が!!どうなってんだよ!?お前なんか来る的なこと言ってただろ!?なんか知ってんのか!そもそもお前なんなんだよ!!!」

 

テンパってしまって声を荒げてしまう。

ガキに怒鳴り散らかすなんて人としてどうかとは思う。

だけど、それ以上に目の前の少女が不可解でならないのだ。

着物を着てて、なんかわかったような口を聞いて。

一体何者なのか、知らなければこの子も怖くてしゅうがないわ!!

すると、彼女は俺の手を優しく包み込む。

 

「大丈夫...大丈夫なのです。不安にさせて申し訳...ありません。私は確かに貴方に嘘をついていました。」

 

「嘘って....。」

 

「私は...貴方と同じく気づけばここに居たわけではありません。幽世に迷い込んだ貴方がこの世界から出るに値するか...見定めていたのです。今を生きる力を持つ...生者かどうか。」

 

彼女はゆっくりと語り始めた。

俺が...出るに値するか、見定めると言ったのか?

それはつまり....。

 

「...お前は、俺をこの場から出すことが出来るって...ことか?」

 

「えぇ。可能であると...存じます。」

 

彼女は俺の問いかけに頷く。

つまりは....コイツは、アレか。

異界駅において、帰ってきた奴がなんか一様に語る帰れるようにしてくれるおじさんや子供のような奴ってことで良いのか?

この女の子の判断で、俺が帰れるか決まるってことか?

 

「じゃ、じゃあ!どうだ!?俺、帰れるのか!?た、確かに普段から出不精でパソコンで人とレスバしたりしてるけど、直接的に人に迷惑を掛けたりしてはいないぞ!..な、なんならこの前部屋に居たハエトリグモ殺さずに外に逃がしたし!!」

 

やっべぇ....良い人間である自信がねぇ。

取り敢えず思い出せる範囲でやった善行をアピールしとこう。

頼むっ!俺を出してくれ!!

今度からアンタと同じような子供にやさしくするから!!

 

すると、そんな俺を見て彼女は口元に手を当てて鈴のように笑う。

 

「ふふっ...おかしな人。心配せずとも.....」

 

彼女が言葉を発しようとした瞬間、和笛の音が辺りを切り裂くかのように響く。

すると、同時に彼女の表情が強張る。

笛の音を契機に、空気が変わった。

こちらにべったりと纏わりつくかのような嫌な空気。

本能的に外を見る。

 

すると足音が目の前がどこからともなく聞こえてくる。

それは目の前の廃墟駅の階段の方から。

なんだ、この嫌な予感は。

 

階段の方へと目を向けると、そこからヌッと手のようなものが伸びる。

そして、それは階段を上って、姿を現した。

ヒト型の何か。

のっぽでひょろひょろした黒い影。

それは大挙を為して、電車の方へ歩いていくる。

 

アレはやばい。

何とは言えないが、見ていてヤバい気がする。

本能が危険だと訴えていた。

 

「お...おいおい、異界駅にも通勤ラッシュはあるってか?冗談じゃない...な、なぁ!頼む!!早く帰して!帰してくれ!出来るんだろ!?」

 

電車のドアは開いている。

このままでは連中がこの車両に乗るのは時間の問題だ。

だからこそ、早く帰してもらわないと。

 

彼女の方を向いて、そう訴えかけた瞬間。

彼女は電車の出口の方に手を翳す。

それと同時に一際大きく車体が揺れた。

 

「うわっ!!....うわぁ.....。」

 

驚いて扉の方を見ると、駅側の車体にべったりと所せましとヒト型のそいつがへばり付いている。

押し合いへし合い、まるで大都会の通勤、帰宅ラッシュ時の混雑のようである。

まさか、俺が目を離した隙にあの距離からここまで移動したのか?

さっきの車体の揺れからそのスピードが並大抵の物ではないということは想像に難くない。

張り付いている様を見て、ドン引きしてしまう。

 

しかし、それと同時にあることに気づく。

開いているはずの扉。

だというのに電車に殺到している黒い影はまるで見えない壁に阻まれているかのように入ることが出来ていない。

未だにゆらゆらと電車は奴らに押されて揺れていた。

 

「これは....アンタが?」

 

彼女は手を翳していた。

何かをやったと思ってもおかしくはないだろう。

しかし、だとすればいよいよ彼女は一体何者なのか気になる....。

 

「はい....結界を張ったのです。私は、内阿羅と申します。貴方が住む土地を守護する神なのです。」

 

「急にそんなこと言われても.....。」

 

なんかいきなり神だなんだと言い出したんだけど....。

正直、平常時なら痛いなぁと思うのだが事実彼女があの影の侵入を防いだのだ。

であれば、その自称にも説得力が出るものだ。

内阿羅。

そんな神とか聞いたことないけど....まぁ、そもそもそういう宗教とかそういうの知らないから、居るんだろうな。

 

一人で納得していると、彼女が顔を顰めた。

初めて表情を変えたのだ。

それと同様に、腕の辺りが薄れていく。

 

「えっ...なんか消えてってるんだけど。なに?おま...内阿羅様は消えなさるおつもりですか??えっ、俺帰りたいんすけど。帰れるんすか俺!?」

 

一応神様だし、下手に出ているが内心ドキドキだ。

だって頼みの綱の神様がカミングアウトしたかと思ったら急に消え始めているんだから。

何かの間違いであってほしいよ。

 

すると、彼女は初めて微笑みを見せる。

 

「私が幽世に居られる時間まで限界に近いです。しかし、心配は..要りません。貴方は...帰るに値する生者です。だからこそ...これを。」

 

彼女は片方の手を懐に入れる。

そして、そこから何かを取り出して俺に差し出してきた。

それは、まるで鏡でも見ているかのように精巧に俺の顔を模した仮面。

ただ一つ違う点と言えば、口元を歪ませて笑みを浮かべている点だろう。

なんだろう、見ていてあまり良い気分にならないタイプの笑みだ。

 

「えっ...なにこのキモイ仮面。」

 

正直まんま自分の顔だし、きっしょい笑みを浮かべているので見ていて気分の良い物ではない。

 

「えっ、これを付けろってこと?自分の顔の仮面を??」

 

「そう..です。そうすれば、幽世から脱しゅ...っ!」

 

話している途中に彼女は顔を顰める。

そしてまるで点滅するかのように腕が薄れ始めて、電車の揺れが激しくなる。

あたかも目の前の彼女が完全に消えるのを待っているかのように。

 

「...時間が、ありません。はやく....!」

 

彼女は真剣な顔でこちらを急かす。

うぅ~、なんかなんでか気が進まないけど...このままだと彼女が消えてしまうのも時間の問題だ。

であれば、言うとおりにする以外にあるまい。

付ける!....付けるぞぉ...!!

 

右手で仮面を顔に近づけていく。

途端に、なぜか鼓動が早まる。

何を緊張しているのか分からない。

本当にここから出れるのか?っという不安か?

いや、そんな感じではない。

なんだか....どうしてもこの仮面は、好きになれない。

 

鼻先が仮面に触れる。

無機質な冷たさ。

そのまま仮面を顔に付けてしまおうとしたその瞬間。

鼻先にほんのりと熱を感じた。

 

「っ!?な、なんだ!!?...仮面が、燃えてる...!?」

 

さっきまで無機質な冷たさを感じていた鼻を襲う温もり。

それに驚きと少しの気持ち悪さを感じて仮面を手放してしまう。

見れば、仮面をゆらゆらと真っ赤な炎が包みこんでいる。

これは...炎?

仮面が唐突に燃えたのか....?

目を見張ると、視界の隅に仮面以外の同じ揺らめきが見えた。

 

「ちょっ....右手が燃えてるんだけど!!やばいやばい消さないと!!....なんで左手まで燃えてんだよ!!!」

 

慌てて服に手を叩きつけて、のたうち回ろうとする。

...が、まったく熱さを感じないことに気づいた。

どうなって....。

 

戸惑う中、燃焼して黒くなりながらも仮面が床に落ちた。

途端に、床を素早く這いまわるがごとく電車に炎が回る。

炎に囲まれて、周りを見回す。

すると窓の外が風景ごとまるでスクリーンが燃えるかのように焼失していく。

 

「これはどういう....、俺は言われた通り仮面を.....。」

 

俺に仮面を付けろと言った内阿羅の方を見る。

俺と彼女の間を炎が分断する。

そして彼女は顔を伏せて表情を伺えない。

しかし、彼女の呟く声が聞こえる。

 

「...ン=ガイの大火か。星が地平に並んでいないにも関わらず邪魔をするとは....忌々しい。」

 

「は?何のはな...し....。」

 

煙を吸い込んだのか段々と意識が遠くなっていく。

意識が薄れて....。

こちとら、なんも状況が分かってないんだぞ。

だというのに、ここで落ちるわけには.....。

 

途切れ行く意識の中で、俺はまるで藁にも縋るかの如く彼女を見つめる。

すると、彼女は顔を上げた。

 

「まぁいっか、こんな茶番。そこそこ面白かったし。」

 

顔を上げた彼女の顔はさっきまでの乏しい表情が嘘のように、口元に刻み付けたかのように歪んだ笑みいを浮かべて嗤っていた。

炎が視界を防ぎ、何も見えない。

倒れ伏すと頬で床を感じる。

床も燃えたのか、電車とは違った感触を感じる。

これは、まる...で.....。

 

 

 

「...ンァ...ンン...だいりせきっっ!!!!」

 

「うぉわ!?びっくりした....!」

 

目を開くと、そこは照明で照らされた場所。

周りを見回すと、炎もなく広告やつり革がぶら下がっている一般的な電車の車内。

外は別段赤くもなく、真っ暗で夜であることが分かる。

そして、目の前で車掌と思しき中年男性が俺を見ていた。

 

「ここ、もう終点ですから。降りていただけませんか?」

 

終...点?

寝起きでぼやけた頭を押さえる。

見れば、尼僧ヶ坂駅とある。

確かに終点だ。

 

.....やばくね?

今、何時よ??

見れば、すでに時計の針は8時30分を回ろうとしていた。

 

「あっ、す、すいません!!」

 

俺は車掌に頭を下げながらもとにかく電車から降りる。

ヤバいヤバい!

ここから家の駅まで行くとする10時くらい。

当初の用は無理として、普通に帰っても叱られるぞ。

今日は確か鍋食った後に映画見るとか言ってたしな。

 

取り敢えず連絡入れとくか。

そう思って、右手で携帯をポケットから取り出す。

そして画面を見た時に、ふとあの時の光景が頭を過った。

異界駅に行ったかと思えば、最終的には手から火が噴き出していたあの光景。

身体にはなんら火傷もなく、きれいな肌をしている。

 

「夢...か?」

 

よくよく考えてみたら、手から火が吹き出たり電車が燃えて消えたりと滅茶苦茶だったしな。

それに、そもそもアレが現実だとしてもなぜあの神様とか名乗っている奴が俺の身近なガキとそっくりだったのか説明付かないからな。

ネットの与太話だし。

それにしたって....。

 

「....。」

 

胸を押さえる。

なぜか、あの夢の中。

仮面が頭に残る。

...なんで、あれを思い起こすたびに嫌悪感にも似たような感覚を覚えるのだろうか。

自分と瓜二つでありながら、気持ちの悪い笑みを浮かべた仮面。

夢診断とかのフロイト先生はなんて言うのかな。

....リビドーとか性欲とかで片付けられそうだな。

 

向かいの電車を待ちながら、電話の通話ボタンを押して耳に押し当てた。

 

 

 

あの後、母に連絡を入れた。

最初、俺が当初の予定であるオカルトショップやカードショップでまだ遊び歩いているのかと勘違いして滅茶苦茶怒っていた。

ただ、俺がただ学校から終点まで寝過ごしていただけと言うと爆笑していた。

アンタ帰宅部の癖に何終点行くまで眠ってるのよと笑われたのだ。

別に、帰宅部でも帰り際に眠りこけていいだろ。

なんにせよ、叱られることはなかった。

 

はぁ~、サイトでケサランパサランの軌跡とかいう本を新規入荷したと見たから興味があったのになぁ。

行きたかった,,,,魔堂。

肩を落としながらも、帰り道を歩き進める。

 

自分の街にたどり着いた頃には時刻は9時40分。

余計に疲れた気がする。

夢で見た仮面の事もあり、気分も少し沈んでいた。

ほんと意味わかんない。

 

とぼとぼと肩を落として歩いていると、ついに自分の家に着く。

鍵を開けて、玄関に入る。

 

「...はぁ~、たでぇまぁ~。」

 

気怠さを全面に押し出して声を発する。

飯は確か父が遅くなるから、待つって母は言ってたな。

父さん帰って来てるかな。

そう思いながら、靴を脱ごうとするとドタドタと走る音がした後にリビングの扉が開く。

そして、小さな人影が扉から飛び出してきた。

 

「おかえりなさぁい♪ねぼすけさんのお・に・い・さ・ん❤」

 

「うげっ....なんで居るの?つーかねぼすけってお前なんで知ってんだよ。」

 

そこに立っているのは何が楽しいのかニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを出迎える夏逢の姿。

朝に会うだけじゃなくて、家にまで居るとか....。

夢で似たような少女がよく分からない感じになってたこともあって、勘弁してほしかった。

 

「しょうがないでしょ?冬乃ちゃんと旦那さん、今日は泊まり込みの仕事になって夏逢ちゃん家で一人になっちゃうらしいし。それに、普段から夜更かししてる癖に大丈夫とか抜かしている息子が寝過ごして終点とか面白くて周りに言っちゃったわ。」

 

「アンタ、息子のことホイホイ言って母親としてどうなんだ!!」

 

母さんが夏逢に続いて出てくる。

冬乃とは夏逢の母親らしい。

まぁ仲がいいからな、親は。

それにしたって息子の恥ずかしい体験を周りに吹聴するなんて....、世が世なら絶縁だぞ!!

母親をジト目で見ていると、不意に夏逢が手を差し出す。

 

「そーいうことなんでぇ、今日一日よろしくお願いしますねぇ?とりあえずぅお荷物お運びしますよぉ?」

 

「...ふーん、良い心がけじゃん。頼むわ。」

 

「はーい❤」

 

彼女は笑顔で元気よく返事すると鞄を持って階段を上っていく。

...まぁ親が居ないなら母がお世話するって言うだろうし、しょうがないな。

それに、荷物を運んでもらえるのは普通に助かる。

こういう感じでいつも役立ってくれたらなぁ。

 

「健気ね...まるで新婚さんみたい。アンタがあんな良い子連れてきてくれたらねぇ?...今のうちに夏逢ちゃんにアプローチでもする?」

 

母が階段を上る夏逢の後ろ姿を見ながらもそうしんみり呟くと、俺に冗談めかして尋ねてくる。

冗談じゃないよ、何言ってんだこのおばさん。

 

「俺はガキは嫌いだ。」

 

「そうだったわね。...息子としては間違いとかなくて安心だけど、子供嫌いと明言してるのは人としてないわ~。」

 

「うっざ。携帯充電してくる。」

 

呆れた表情を浮かべる母親から視線を外して、靴を脱いで階段を上っていく。

見れば、自分の部屋の扉が開いていた。

大方、中に彼女が居るのだろう。

特に気にすることもないので、部屋に入る。

鞄はちゃんと置かれていた。

 

「あんがと。」

 

「いえいえぇ...❤ただ、それだけ長いこと眠っていたんですよねぇ?良い夢....見れましたぁ?」

 

彼女はニヤニヤとそう言ってくる。

夢....。

あのよく分からない夢か。

異界駅の体を取っている時点で、自分は骨の髄までオカルトが好きなんだなって再認識させられる内容だったな。

ただ仮面とかよく分からない要素もあるけど。

ただ、そんなことを馬鹿正直に言うつもりはない。

 

「別に。夢なんか見なかった。」

 

俺がそう断言すると、ふ~んと言った後に彼女はまた笑みを浮かべながら距離を詰めてくる。

 

「嘘...つきましたねぇ❤お目目が一瞬横にぴくっ❤ぴくぴく~❤って動いてましたよぉ?私にそんなに言えないってこ・と・はぁ~...私の夢を見ていたってことですかぁ?どんな夢を見ていたんだか。キャ~!お兄さんの変態❤どんだけ私のこと好きなんですかぁ?」

 

「は?お前の夢なんか見てないんだが?アレだ、確かに嘘っていうのは認めるが別に大した夢じゃない。ただ手に炎を纏う夢を見ていただけだ。言う必要もない。」

 

なんかしたり顔のアイツがイラつくので言葉を述べる。

...正直、コイツに似た女が夢に出たので一瞬ギクッとしたのは本当だ。

もしそんなことがバレれば、滅茶苦茶弄られるに決まっている。

そうなる前に早口で囃し立てたのだ。

別段、口にした内容も嘘ではない。

 

「へ~、手から炎ですかぁ?それってどんな感じぃ~?私ぃ、気になるなぁ...。」

 

夏逢がわざとらしく首を傾げながらそう聞いて来る。

相変わらずこちらを馬鹿にする気満々でムカつくガキだ。

だが、それでも夢の内容ではなく俺の醜態の方に意識が向いたのは良い傾向だ。

肉を切らせて骨を断つ。

ここは少しの嘲笑は受け入れるとしよう。

俺、年上だし。

 

「見とけよ...え~っと、はぁ~~!のゔぁさいざー!!」

 

両手で円を描くように動かした後に、両手を突き出した。

...思いつかないから適当にしたとしても酷いな。

ま、ここはこの仕草の滑稽さに意識が向けばそれでいい。

そう思った瞬間、夏逢は俺が広げた手に自分の手を合わせて恋人つなぎする。

 

「っ....なんのつもりだ?」

 

少し面食らってしまう俺。

それが分かったのか目の前のガキはにやりと笑みを浮かべた。

 

「ほーら燃えません❤良い歳こいてそんなごっこ遊びしちゃう可愛いお兄さんの為にぃ...げ・ん・じ・つ❤思い知らせちゃいましたぁ。ぷぷ...中二病❤夢見がち❤大人あかちゃ~ん❤」

 

「お前がどんな感じって聞いたんだろうが....。」

 

発言翻すの早すぎだろ。

そんな簡単に梯子外してたら碌な大人になれないぞ。

すると、彼女は何かに気づいたかのように口に手を当てる。

 

「あっ!もしかして今のってぇ~、中二晒したんじゃなくてお手々にぎにぎちてぇ~❤ってコトだったんですかぁ?気づかなくてごめんなさぁ~い、私大人赤ちゃんの気持ちぃ分からないからぁ~。ちゃぁ~んと言ってくれたら気が向いた時にはママくらいにはなってあげてもいいですよぉ~?チラ❤チラチラ❤」

 

「うっざい。出てけ。」

 

ああ言えばこういうガキだ。

面倒臭い。

すると、彼女は楽しそうに笑いながら出口の方へ駆けていく。

 

「キャ~~!こわぁ~い❤おーそーわーれーるー!」

 

そう言いながらも、彼女が部屋を出ると階段を下りる音がすぐに聞こえてきた。

 

「...人聞きの悪いこと大声で言うんじゃないよ....。」

 

溜息を吐きながらも、携帯を充電器に接続する。

父は帰って来ていないようなので、風呂に先に入ろう。

いつもなら風呂入って拭いたら全裸で2階の自分の部屋まで服を取りに行く。

だが他所の子、しかもガキとはいえ女の子が泊っているなら部屋着を風呂場に持っていくべきだろう。

そう思って部屋着を棚から取り出していると充電器に繋げた携帯が鳴動した。

 

メッセージが来たか。

見ると、幼馴染である『満仲千和』の文字が表示される。

正直、こんな時間にメッセージしたい相手ではない。

取り敢えず内容だけは見ておくか。

 

『電車で寝過ごしちゃったって聞いたよ!大丈夫?』

 

...なんで知ってるんだろ。

母さんが言ったか?

アイツ、家に起こしに来たりするしあり得るな。

そうなると、うちの母親と幼馴染が連絡を取り合う手段があるってことになるのだが。

 

液晶を見ていると、またメッセージが来る。

 

『大丈夫?そうだよね...禊君、昔から夕焼け浴びるとねむねむしちゃうもんね....。ちっちゃい頃から見てたのに...なんで私は部活を優先しちゃったんだろう。今度、埋め合わせとして欲しいものおごってあげる!放課後に一緒に居れば起こせるしね!その...オカルト?っていうのも付き合うよ!!』

 

『来ないで。』

 

心から思ったことを打ち込む。

すると、すぐに返事が返ってきた。

 

『なんで?』

 

なんか怖い....。

なんでって言われても...そりゃオカルトとか趣味については他人に干渉されたくないし....。

別にお小遣いは割ともらっているし、借りとか作りたくないから奢りとかいらないし。

そもそも朝も思ったが、埋め合わせする必要ないでしょ。

朝の起こしにこれなかったはまだ分かるけど、俺が寝過ごしたことに対しての埋め合わせとかマジで意味わからん。

お前関係ないやん。

 

『なんでって...遊ぶときは一人で遊びたいし。そもそもそんなお金に困ってないので結構です。』

 

『なんでそんなこと言うの?昔は一緒に遊んでたじゃん。千和ねえ千和ねえって付いてきたこと昔のように今でも思い出せるよ?それに、お金に困ってるとか関係ないよ。私が払いたいって言ってるんだよ?』

 

『さよなら』

 

なんだこの圧、怖いよ....。

普段は人畜無害なツラしてる癖にたまに彼女の熱量に付いていけなくなるので苦手なのだ。

それに、人は成長する。

昔の事とか掘り起こされると恥ずかしいからやめてほしい。

 

取り敢えず、怖いので今はブロックしとこ。

どうせ、メッセージ責めされるのは目に見えるし。

この様子だと朝に起こしに来るだろうし、その時にブロックを外せばいいだろう。

 

彼女をブロックすると、再度充電を始める。

そして部屋着を片手に部屋を出て、下の階にまで降りて行った。

 

 

 

虫の音が外から聞こえてくる真夜中。

既に家の電気は全て消えて、家の主は寝静まっている。

そんな中、リビングに一つの影。

 

小さな体躯の人影。

左右に不気味に揺れながらも暗闇の中を歩いている。

暗い廊下の中、立ち止まるとそれは歪んだ笑みを浮かべた。

 

「夢から接触して失敗したのか...『私』は。わざわざ箱庭と人形用意して、生きた音も招き寄せて煽ったっていうのにそもそもの段階で躓くとか...本当、滑稽。まぁ設定とか影とか色々やっつけだったし、ああなるのも当たり前か。」

 

まるで誰かを馬鹿にするかのように『自分』を嘲笑う。

 

「夢っていうのはこちらの領域だから...そりゃああなるのは少し考えてみれば分かるというのに。初めてだから勝手が掴めなかったのかなぁ?」

 

一歩ずつ歩みを進める。

そして、足を止めた。

目の前には一つの扉。

隙間から光が漏れている。

 

「....夢の中じゃダメだった。でも...現実(こっち)だったらどうなんだろうね?」

 

目を細めて、笑みを浮かべる少女。

彼女はそのままドアノブに手を伸ばす。

そして、そのまま開けて部屋の中に入る。

 

部屋の中では一人の少年が机に座って、一心にパソコンに打ち込んでいた。

部屋が開いた音に反応して彼は振り返る。

 

「そんなところで何してんだ。...子供は寝る時間だろ?お前の寝床は客間だ。」

 

「...お兄さんも子供じゃないですか。」

 

「...あー、そのアレだ。今俺は顔も見えない相手と戦争中だから。これは不可抗力だから。」

 

レスバをしていることを良い感じに歪曲して伝える禊。

すると、少女は部屋に入るまでが嘘のように力のない笑みを浮かべた。

 

「それって....ネット上の人と喧嘩してるだけですよね?駄目ですよ、早く寝ないと。」

 

「....どうした?いつものお前はもっとキレがあるけどな。」

 

少女の様子を見て、微かに心配している様子を見せる禊。

そんな彼に対して、躊躇うような様子を見せながらも口を開く。

 

「その...怖い夢、見ちゃったんです。」

 

「怖い夢ぇ?...おいおいおい、まさか飯前に散々大人赤ちゃんだとか俺のこと煽っていた夏逢ちゃんがまさか一人で眠れないんでちゅかぁ~?ウッソだろ、冗談良してくれよ~。一人で寝れるって言ってたじゃんかよぉ~w」

 

半笑いになって嬉々として煽るような口調になる禊。

そんな彼の言葉を受けてなお、少女は目を伏せてる。

 

「冗談...じゃないです。私、怖くて...一人じゃ眠れません。...虫の良い話、ですよね....。」

 

微かに震える少女の身体。

スカートを握りしめる手。

それに気づくと、禊はニヤニヤと浮かべていた笑みを消す。

 

「...じゃあ母さんと一緒に寝たら良いじゃないか。やっぱ一緒に寝てくださいって。」

 

そう言うと、少女はまた力なく笑った。

 

「貴方のお母さんはどうやらお父さんの部屋に行ったらしく、仲良さそうな声が聞こえてきましたよ?」

 

「あのおばさん...よその子が居る日にもいちゃつきに行くとかどうなってんだ.....。」

 

自分の母親に呆れたような表情を浮かべる禊。

そんな彼の顔を見て、同調するように微笑しながらも彼女は一歩踏み出す。

ゆっくりと彼に歩み寄ると、その服の裾を掴む。

 

「それに....私は、...今この家で一緒に居て安心する相手と聞かれたら、それは..貴方ですよ?お兄さん。」

 

「....意味わからん。」

 

「ですよね、なんででしょう?私も...分かりません。...それで、ダメですか?」

 

笑顔を見せながらも、禊に伺う少女。

その笑みを見て、溜息を吐くと彼は目を逸らす。

そして、パソコンをシャットダウンし始める。

 

「だっる....。...別にいいよ。普段生意気なガキが殊勝な様子で頼んで来たんだ。...年上に対しての振舞いを改めるんだな。」

 

PCを閉じると、席を立つ。

そして伸びをした後にベッドに横になる。

すると、そんな毛布に潜り込むようにゆっくりと彼女はベッドの中に入っていった。

 

「ありがとうございます....お兄さん、大好きです❤」

 

そう言うと、彼女は彼の体に腕を回して抱き着く。

強く力を込めて抱き寄せる彼女。

禊には彼女の不安が伺えた。

 

「あー、はいはい。俺はきらいぃ~。」

 

そう彼女の言葉を流しながらも、リモコンで部屋の電気を落とす。

そして目を閉じる。

少女の息遣いと熱を感じる。

そんな彼女の背中をゆっくりと撫で始める。

 

「...ん~?何してるんですかぁ?」

 

「ガキの寝かしつけなんてやったことないし...そうなると、自分の母親くらいしか参考にできるもんがないだけだ。...嫌ならやめるわ。これ面倒臭いし。」

 

目を閉じながら、そう呟く禊。

どことなく声が眠そうである。

そんな彼の声を聴いて、彼女は抱き寄せる力を強める。

 

「いいえ、ダ・メです❤...これなら、よく眠れますから。ずっと私が寝るまでやっててください?」

 

「....そうか。図々しいな、お前。」

 

そう言いながらも、背中を撫でるのをやめない。

時計の針の音が静まりかえった部屋に響く。

時間が経つごとに、彼の意識が夢に落ちているのか撫でるペースが落ちていく。

そんな中、少女はふと歪んだ笑みを再度浮かべた。

 

邨カ蟇セ縺ォ謾セ縺励∪縺帙s縺九i

 

「...ん?なんて??」

 

「ううん、なんでもないっ!おやすみなさい、お兄さん。」

 

そう言って彼女は禊の身体を強く抱きしめると顔を埋める。

そんな彼女の言葉を聞くと、禊はそのまま再度寝息を立て始めた。

 

彼女の表情は誰からも見られず、悟られることもない...。




夢の話ですね。
とある神話で夢っていうのはかなり特別な意味合いを持つものでもあります。

夢で見た内阿羅様。
本当に土地神様なんやろうなぁ.....(すっとぼけ)
気づかれないようにするけど、気づいてほしくもあるのかな。

ン=ガイの大火ってなんだよ、専門用語出すんじゃねぇよって思う方も居るかもしれません。
そんなあなたはンガイの森で調べてみよう!!

幼馴染の名前はモチーフにした概念のアナグラムだったりします。
みつなかちわをまんなかちわって読んでアナグラムしたら多分分かります。

普段生意気な子が大人しくて、それに近所のお兄ちゃんが世話を焼く構図良いですよね...。
ん?焼いてる相手...文字化け?
なんのことやら....。
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