とある科学の亜空切断 作:ガギャギャァッ!!!
※展開をとある科学の超電磁砲アニメ版第一話の方に出来るだけ近づけるように修正していますのでご注意ください。
時は男、真珠空白が
そのためか、普段の精神状態ならばすぐに看破出来たであろうソレを、男は不幸にも見逃してしまっていた。そして、ソレとは。
「全員手を挙げろ!」
銀行にやって来る犯罪者と言えば、銀行強盗かテロリスト、物好きな変態しか存在しないが、今回の場合は銀行強盗らしい。その乱暴な脅しに銃声。そのたった二つの行動だけで、銀行内部の殆どの音が消えた。聞こえるのは自分が口座から金を引き落とした事を伝える場違いな明るい音のみである。銀行内の全員がこちらを見た気がするが恐らく気のせいだろう。
その犯罪者達はどうやら店員に警備ロボの停止と防犯シャッターの閉鎖を指示しているらしく、そしてそのあと、待ってましたと言わんばかりに、目的である金を要求した。防犯シャッターの付近にはどうやら三人の仲間がいるようだ。自分は犯罪者です、とでも言わんばかりに顔を隠している。
そしてこの時、初めて男は自分が銀行強盗に巻き込まれた事を理解し、ソレに気づかなかった自分に呆れて。そして、この状況に果てしなく辟易していた。能力で逃げてもいいが、もしも自分が目立ってしまえばそれもまた面倒な話である。ここは大人しくしているべきだろう。いずれにしても、あの
そう考えた男は、大人しく相手の指示に従う事にした。ーーーしたのだが。
「それじゃあそうだなぁ。……そこの女と、今金引き落としたお前、こっち来い!」
“今金引き落としたお前”とは、一体どこの誰なのであろうか。少なくとも自分ではないことはわかっているし、そこの女というのも知らない。そう思い込んで、彼らの命令をガン無視していると、強盗は痺れを切らしたのか、床に向かって拳銃を発砲した。
ーー仕方がない。これでは行かねばならないだろう。男は指示に従って強盗の方へ歩き出した。人質は、”そこの女”という奴だけにしておいてほしいものだ、と思った。
「お前ら、下手な真似したらどうなるかわかってるよな?」
そう言って強盗は拳銃をチラつかせてきた。おそらく、その下手な真似とやらをすれば撃たれるのだろう。隣の女は震えている。この状況で怯えた様子を見せるのは、感覚が極めて普通であることの証である。
男の場合はこの状況に辟易しているが、それは男が銀行強盗とやらよりも悪質な事柄に数え切れないほど遭遇してきたからである。面倒極まりない状況ではあるが、そんなものにはもう、とっくに慣れてしまっていた。
しかしそれは男だけらしく、他の店員や利用者は皆一切動こうとしない。音を出せば殺されると思っているのだろう。
だがしかし、この犯罪者達にそう簡単に人を殺せる程の度胸は無いと言い切れる。そもそも銀行強盗とは金を手に入れる事を目的にしているのであって、人を殺そうと考えて犯罪を犯す訳ではないのである。
それなら、通り魔やら連続殺人鬼にでもなっているはずだろう。わさわざ人を殺して、万が一のときに余罪を増やすことは、彼らの望むところではない。まぁ、とことんまで追い詰めればその限りではないが。
などと考えている間に。そんな案外臆病な犯罪者達は、やたらと大きな鞄やスーツケースに金を詰め込み終えたようだ。これで彼らの目的は達成されたので、すぐにここから逃亡するのだろう。
ただし、ここからの逃亡は出来たとしても、
「よし、ヅラかるぞてめぇら。忘れ物は無ぇな?」
「金を忘れる強盗が居るかよ!」
やはりすぐに逃亡するつもりらしい。ーーーまぁ、これで終わりだ、とは微塵も思っていないが。
「おっと、お前らの仕事はまだ残ってんだよ。勿論手伝ってくれるよな?」
ほれ、やはり思った通りである。このまま出て行くにはあのシャッターが邪魔になる。それを破壊するために必要なものが、シャッターの側に置かれているあの鞄の中身だというわけだ。ここまで来れば、その中身は大方予想出来る。
「お前ら、あの鞄が見えるな?アレの中身はーーー爆弾なんだよ」
そう強盗が言った途端に、全員が動揺し始めた。少し嗚咽を漏らしている者もいるが、これまでそんなものとは無縁の毎日を送って来たのだから無理もないことだ。もしかしたら自分に被害が及んでしまうのでは、と考えるのが普通である。男の能力ならば強盗を制圧するのは容易いが、わざわざそんな事をしなくとも、おとなしく待っていれば助けは来るのだから、それも必要ない。よって彼らには、そのまま引き続き怯えていてもらうことにした。そうすれば、強盗達の気分を損ねる事もないはずなので、互いにウィンウィンというやつである。
「爆弾でシャッターを派手に吹っ飛ばした後、俺以外の三人は車を取りに行く。その間に通報だとか、大声で助けを呼ぶ。なんて事すりゃあ、わかるな?」
そう言って、強盗は客や店員に銃口を向けてきた。もちろん、真珠にもだ。おそらくこれが本当に最後の脅しだろうから、とにかく早く出て行ってくれ。真珠がそう考えていると、遂に強盗達は爆弾を起爆した。耳をつんざく轟音。この音量ならば、すぐに
そして。
「ーーー
ーーー狙い通り。男は、またもや顔を綻ばせた。
▼▽▼
街に轟音が響く少し前の事、とある数人の少女達が談笑していた。少女達の名は
そして、
飾利と涙子は同じ柵川中学校に通うクラスメイトであり、唯一無二の親友同士。飾利と黒子の二人は
さて、今日彼女達がこうしているのには理由がある。きっかけは飾利が御坂美琴に憧れている事だった。それを知って、黒子は自分が実の姉のように慕っているーーーもっとも黒子は性的な意味で美琴を狙っているのだがーーー美琴を飾利に紹介する事になり、それを聞いて飛びついたのが飾利の親友たる涙子。そんなこんなでこの状況に至る、と言う訳である。
最初は、涙子は美琴が
「ていうか白井さん、なんですかそのクレープ。生クリームに納豆とかこの暑さでおかしくなっちゃったんですか?」
「ず、随分辛辣だなぁ初春……同じ事思ったけど」
「?何がおかしいんですの?」
「……黒子、病院行こうか」
そんな他愛もない会話を続けている中。飾利があるものを発見した。
「なんであの銀行は、昼間からシャッターを閉じているんでしょうか?」
「えっ?本当だ、何かあったのかな?」
「点検でもしているんじゃありませんの?少し不自然ではありますが」
そう言ったものの、黒子はそんな異様な状態にある銀行を注視している。これまでそんなものは見た事が無い。それに加えて、己の相棒にして友人である飾利がこうして言っているのだから注意しておくに越した事はないだろう。
ーーーそう考えた次の瞬間。銀行のシャッターが爆発し、辺りに轟音が響いた。
「ーーーわたくしが対応しますので、お姉様は何もしないでくださいまし!」
そう冷静に言って、パニックに陥っている友人二人を落ち着かせた黒子。美琴は少し不満そうに見えるが関係ない。
銀行に向かっている途中に不審な男達数人が出て来るところが見えたため、その男達が銀行強盗であると判断し、全速力で走る。そして男達がこちらを認識した後に、いつもの言い慣れたあの言葉を、放つ。
「
そう言った瞬間に黒子は男達との戦闘を開始しようとするが、強盗達はそれを見て笑った。黒子の小柄な身体を見て、こんなのが
「そういう三下の台詞は……死亡フラグってやつですわよ」
そんな事を言い放ったかと思えば、一度戦闘を開始すると、その身体に似合わない洗練された動きで次々と男達を撃破していった。途中に
これで大方片付けたか。そう思って、黒子はふと辺りを見回すが。
その時彼女は、一人で強盗に立ち向かって行く涙子を見つけた。
「なっ……!?」
近くに逃げ遅れたのであろう子供達が居た事から、涙子は恐らく彼らを守るために立ち向かったのだろう。だが、その勇気を以てしても大柄の強盗には敵わずに殴り返されてしまった。その光景に黒子は途轍も無い怒りを覚え、能力でその地点へと移動する。
「…黒子。こっからは個人的な喧嘩だから、悪いけど手出させてもらうわよ」
「あー…」
移動するなり美琴にそう言われる黒子。生憎と、こうなった『お姉様』を止める術を黒子は知らない。同意はせずとも諦めた憐れな黒子。始末書、頑張ろう。
黒子がそんな地獄の未来とのランデブーに想いを馳せる中、そのブチ切れた美琴を見た強盗は、何かを思い出したかのように大声を上げた。
「思い出した!風紀委員には捕まったが最後。
身も心も踏み躙って再起不能にする、最悪のテレポーターがいて…」
「誰の事ですのそれ」
そんな身に覚えのない事を言われて困惑する黒子だが、実際に学園都市ではそんな噂が流れているので嘘ではない。黒子は、それが誰かは知らない。絶対に。
「さらにはそのテレポーターを、身も心も虜にする最強の
ーーその言葉を聞き逃さなかった黒子は、まるで自分の事でも褒められたかのように笑う。そして、彼女渾身の決め台詞を言い放つ。
「…そう。あの方こそが、学園都市230万人の頂点。八人の
奇しくもその台詞が黒子の口から放たれたと同時に、美琴から彼女の代名詞たる
が。
「ーーー随分と。諦めの悪い事だな」
美琴の背後からそんな言葉が聞こえたかと思えば、強盗の残党達が、人質を取るために今にも人々に襲い掛からんとして隠し持つ拳銃やナイフ、残りの逃走用車両すべてが、跡形も残さずに
「全く、
「……アンタ、何者?」
そんな、至極当然の美琴の質問には答えることはなく。男の言葉を聞いて自棄になった強盗が男に殴りかかっていくが、男はまったく気にも留めずに歩みを進める。
「クソッ!お前らが居なきゃ、こんなことにゃならなかったはずなのに………!」
「恨むのなら、俺ではなくそこの
男は半ば力任せとなっている攻撃を回避し、強盗の顎に向けて拳を打ち込んだ。この程度ならば、徒手空拳での対処は容易であると考えての行動だ。脳を揺らされた強盗は気絶し、人質も彼らの拘束から解放された。これにて事態は収束したのである。
さて、後は任せて帰ろう。そう考えた男は、目立たずにこの場からそそくさと立ち去ろうとするが。
「お待ちくださいまし、そこの殿方。ーーーちょっと、お話を伺っても?」
ーーーなんということだ。神は死んだ。
□□□
ーーーと、いう事があって今に至る。今では下手に助けなければよかったと後悔している。そもそも自分が動かずともどうにかなるに決まっていた。何故ならあの場には、己よりも序列が上の
早く帰りたいがばかりに苛立ってしまい、あんな事をしでかしてしまった。あの時の自分はどうかしていたのだろう。むかっ腹が立って恥ずかしい事をした。あの時余計なことをしなければ、きっと今頃自宅でダラダラと過ごすことができたはずである。
それに、逃げては面倒な事になるだけだと思って風紀委員に素直に従ったはいいが、その後が問題だ。事情聴取が長過ぎる。当時の状況、それに加えて個人情報まで散々聞かれたお陰で自分が
結果的に助けた事になったあの佐天涙子とかいう中学生や、その友人らしい初春飾利に白井黒子、そして御坂美琴に礼を言われたのはいい。礼を言われて悪い気はしない。しかし、そもそもあの複数人に見られている状況は好ましくない。これで少なくとも、あの場にいた他人の数人には関心を向けられてしまった。本当に不味い、一体どうしたものだろう。
ーーーと、とてつもなくしょうもないことに
この日、自分自身の物語が始まりを告げたのだということを、真珠空白はまだ知らない。