とある科学の亜空切断 作:ガギャギャァッ!!!
「あぁーっ!まあッたく終わる気配がありませんのッ!」
「白井さん、ちょっと休憩しましょうよぉ!ほら、何か食べます?クッキーとかありますけど…」
「それはいただきますの」
こうなったのもすべて、あの連続発火強盗事件と、そしてーーあの真珠空白とかいう男のせいだ。と、風紀委員の少女、白井黒子は内心で悲痛な声を漏らす。
始末書やら資料の整理やらと、これまでもきちんとこなしてきたものではあるがそれはそれ。その量が多かったりーーー少しでも気にかかる点があれば、愚痴の一つや二つ言いたくなるものである。同僚の初春飾利はその脅威的なまでの情報処理能力で仕事を次々と終わらせているが、自分には彼女のような速度での処理は難しい。少し羨ましく思うものの、休憩を取るのには賛成なので、飾利の提案にありがたく乗っかる事にした。
「むぐむぐーーそうですわね、もっしゃもっしゃ…一度休憩を取りましょうか……よし。初春、連続発火強盗事件で佐天さん救出に一役買ったあの殿方。真珠空白の事について、少し聞いてもらっても?」
「えっ、真珠さんがどうかしたんですか?……佐天さんを助けてくれて、ほんとによかったですよね。そのおかげで佐天さん、真珠さんが帰ろうとしたら着いて行こうとしちゃって。結局、気がついたら真珠さん、帰っちゃってましたね。真珠さん、御坂さんや佐天さんの質問攻めにあってすごくやつれた様子でしたけど…」
「わたくしも感謝はしております。ですが、少し気になる事がありまして」
そう言って黒子はある資料を手に取り、飾利にそれを手渡した。そこには件の男、真珠空白についての大まかなデータが纏められていた。一見すると、データには何ら不可解な点は見当たらないと思うのだが。
「これがどうかしたんですか?特に気にかかる部分は見当たりませんよ?」
「よく見てみなさいな。具体的には彼が在籍している大学ーーー●●学院についての欄を」
「●●学院ですか!?そんな名門に…って、えぇっと、あっ、これですね!真珠さん、大学に殆ど出席していない……って、なぜでしょう?」
「それですの!わたくしも学校に行かない理由はわかりませんが、けれど不思議に思いませんこと?データでは休学となってはいます。その理由についてあの殿方に尋ねてみれば、『君らに話す義理はない』の一点張り。ーーかなり怪しいですわ」
「言われてみれば……!でも、そうなると真珠さんの事情ってどんなものなんでしょうか?もしかして、人には言えないなにかがあったりして……」
「まぁ、その可能性もありますわね。わざわざ問い詰めるような真似はしませんが」
それに、と付け加えて、
「あの殿方。わたくしと同系統の
「へぇ〜、やっぱり自分と同じ能力だからわかるんですか?なんというか、今の白井さん、能力のプロフェッショナルって感じですごいです!」
「”今の”は余計ですの、初春」
「ーーーま、まあとにかく!今日は色々な事があって疲れちゃいましたよね、白井さんも今日の作業はここで終わりにした方がいいんじゃないですか?」
そう言われて、顎に手を当てて考える。
「話題を逸らすのがわざとらし過ぎてバレバレですが、それはいいとしてーーそうさせてもらいますわ。確かに根を詰め過ぎるのもいけませんし、正直言って、わたくしとっても眠いんですの。…そ・れ・で・はぁ〜。早く帰ってお姉様にやさしぃ〜く慰めてもらうことにしますのォ!」
「あ、あっはは〜…それじゃあ、お疲れ様でした!今日はきちんと身体を休めてくださいね?」
こうして。とある少女達の
▼▽▼
時は進み、真珠空白はまたもや災難に見舞われていた。
風紀委員支部での取り調べから解放されたあと、そそくさと退散した彼だが、迂闊に目立ってしまった代償であろうか。
世間で言うところの休日である今日。気がつくと、なぜかやたらと張り切っている赤い髪をした女子高生に連れられて、なぜか彼女に冷たいアイスクリームを奢ることになっていた。
「ーーーで?君、どのアイスが食べたいんだ。バニラか?チョコレートか?ミントか?それとも全部か?なんでも買ってやるから食べたら早く帰ってくれたまえ。早く決めないと私は帰る」
「あっ、ちょっと待ってよ!じ、じゃあ、このストロベリーアイスでお願いします」
そう言って、ストロベリーアイスを注文した少女の名は
「それで、真珠はどうするの?決まってないならこの【学園都市限定!メガ盛りレベル5アイスクリーム・発進!】ってやつはどう?あんた、ちょうどレベル5だし、なんか面白そうじゃない」
「年上の人間を呼び捨てにするんじゃない、俺は大学生だぞ。それに君、私の胃袋をブラックホールかなにかだと勘違いしてやいないか?というかむしろ君がそれにしたまえ、アイス出陣だったかな。なに、どれだけ高価だろうと遠慮はいらないから早く、ほら早く。……すいません、このーー」
「私はいらないわよ!?…って、ほんとに注文しちゃったじゃないの。どうするつもりなのよ、これ」
君に嫌がらせをするために決まっているだろう。…という言葉が、思わず口から出てきてしまう寸前で危うく飲み込んで、実に筋の通った解答をレベル5の頭脳を以ってして導き出した男は、目の前の女子高生が投げかけてきた素朴な疑問に、きちんと答えてやることにした。
「もちろん、アイス行進だったかな?それを食べるためだよ。…君が、ね」
「聞こえてるわよ。それに、そんな量のアイスなんて食べたら、アレがああなっちゃうでしょ…その、ねぇ?」
「ふむ。身体の肉や脂肪が厚くなる、と」
「はっきり言うのやめてくれない?」
そうは言われても、デリカシーという概念が存在しない男にとっては土台無理な話である。そもそも、【太る】と言う単語を遠回しに口に出しただけで怒られるのはいかがなものか。かなりの健康志向である君が太るわけはないのだが、それでも太りたくないのなら運動をしろ、運動を。…というチクチク言葉を、レベル5随一の善人を自負する男はまたもや寸前で飲み込んで。
「これは失礼」
大人しく謝罪しておくことにした。
「わかればいいのよ、わかれば。…それで。真珠あんた、なんかいつもより顔色が悪く見えるんだけど。いつもより余計に不気味だわ」
「君も大概だな…まあいい。それについては君に話す理由もないね、さっさとアイスを食べて帰りたまえよ。ほら、アイス進撃だかなんだかは君にやるから。ーーーそれと」
「それと、何よ?」
男は口を止めて、唐突に財布の中から10枚ほどの紙幣を取り出して、テーブルの上に置いた。
「十万やる」
「…えっ?」
「これで遊ぶなり、どこかで買い物するなり好きにしてくれ。
もちろんアイスの料金もそれを使って支払うんだ、わかるな?その代わりと言ってはなんだが、とにかく早く帰らせてくださいお願いします。
ーーそれでは。次に会うときは、君の性的嗜好が矯正されていることを祈っておくよ。君のソレは、未来ある純朴な少年達に悪影響を及ぼしかねん」
「なっ、誰がショタコンよ!それに、急にこんなの渡されても…」
「誰も、そうだとは言っていないんだがね。それと、遠慮はいらない。返されても困る」
そう言って、男は席を立ち、付近のショッピングモールへと歩を進める。己にかけられた謂れのない罵倒に反論してやろうと、淡希自身も男のあとを追いかけるが、当然のことながら既に男の姿はなかった。
「アイツ、しょうもないことで能力使っちゃって。…そんなに面倒くさいのかな、誰かと一緒にいるの」
(取り敢えず、次会ったらひとこと言ってやろう。もしくは殴ろう)
少しだけ悲しげな顔を覗かせた少女はすぐさま表情を切り替えて、なにやら物騒なことを考えるのだった。
「お待たせしました〜!こちらストロベリーアイスと、【学園都市限定!メガ盛りレベル5アイスクリーム・発進!】になっておりまーす!…あれ?もう一人、男性の方がいらっしゃいませんでしたっけ?」
と、ここで注文していたアイスが来たらしい。すべてアイツの奢りなので、今回ばかりは一切遠慮はいらない。食べたいだけ食べられるのだ。…太らない程度に、だが。
「…ああ、彼、ちょっと用事があるみたいで。お金だけ置いて帰っちゃいました」
「あ、そうなんですね。…メガ盛りアイス、一人で食べ切れた人はこれまでに一人もいないんですけど、大丈夫ですか?」
「…えっ」
「まぁ、その、頑張ってくださいね?」
ーーーやっぱり、次に会ったら助走をつけてぶん殴ることにしよう。
▼▽▼
やたらと蒸し暑いお昼の時間はとうに過ぎ去り、既に真っ黒に染まった空に、日中と比べると少しだけ涼しくなったような気もする夜の時間。健全な人間ならば、健やかな眠りについているはずの時間。午後の危機を乗り越えた真珠空白は、なぜかそんな時間にあてもなく街を歩き回っていた。
ーーー眠れない。いつにも増して眠れない。己が元々寝つきが良い方ではないことは自覚しているが、今夜は特に、目を瞑っても一向に眠りに落ちる気配がなかった。
これではしょうがないから、取り敢えず気分転換にでも出かけてみるとするか。なんなら、【いちごおでん】やらのようなゲテモノでも飲みながら、一夜を明かしてみるのも案外悪くないかもしれないな。
そんな、かなりぶっ飛んだことを考えるくらいにはテンションがおかしくなっていた真珠。世間の人々はこの深夜特有の現象に、【深夜テンション】という名前をつけているらしい。
つまり、ここまでの話を通して彼が言いたいことは、『眠れないからといって、深夜に出歩くのは危険なのでやめようね』…ということである。
そんな、あまりにもくだらないことを考えている彼の眼前には。
白髪の青年と、全身血塗れで地面にうずくまって震えながらも、なんとか手に持つ火器を白い青年に向ける少女がいるという、悲惨な光景が広がっていた。ーーふむ、成程。これが噂の、
「これは、また」
「あン?…なンだ、オマエ」
横から聞こえてきた見知らぬ声に、不機嫌そうな声音と共に声がした方向へとその華奢な身体を向ける白い青年。しかし、すぐに興味を失ったのか、また向き直って少女を足蹴にし始める。
そんな中で、現在進行形で痛めつけられている少女は、一つの疑問を口にした。
「あ、なたは…一体何者なのでしょうか…くっ…と、ミサカは、たった今現れた、一人の男性に…あがっ!…問いかけます」
少女が話していようと、お構いなしに己の力を振るう少年。そんな、かなりの惨たらしさを孕んだ情景ーーたとえ、その少女が先日遭遇した
「……い、いや、ぼくはたまたまここに来ちゃっただけで、何も関係はありませんから…誰にも言わないので、お願いですから帰らせてください…!」
ーーーいやはや、我ながら名演技である。見事にビビりな小心者っぷりを表現できた演技ではなかろうか。そうして、レベル5随一の演技派を自負する真珠がひとり悦に浸っていると。
何やら見覚えのある少年がふるふると震え出し、最終的に堪え切れなくなったのか、盛大に嗤い始めた。
「ははははは…あは、ギャハハハハハハハ!……オイオイオイオイ、そンなクソガキのお遊戯会みてェな演技で、この俺を騙せるとでもとでも思ってンのか?ーーー学園都市・第8位さンよ。第一オマエが本当に一般人なら、こンなモン見ちまった時点で、気絶なりオモラシなりしちまってるハズだろォが」
ふむ。ーーーそれは盲点だった。やはり慣れないことをするものではないな、と思った真珠だが、バレてしまったからにはしょうがない。その上で帰宅を目指すのみである。
「…それがわかっていて、どうしてそのまま帰してくれないんだ。そもそも、君と俺はただの顔見知り程度の関係だったはずなんだが、そんな君がなぜ未だに俺の顔などを覚えていて、さらにこうして出会ってしまったのか。実に面倒極まりない。ーーただいま俺は現在進行形でそんなことを考えているんだが。君もそうは思わないかね?学園都市・第1位サマ」
「相変わらず話が長ェンだよな、オマエ。長すぎてまったく聞く気が起きねェよ。…それにしても、まさかこンなトコでオマエと会えるとは思ってなかったぜェ。まさしくこれがウンメーテキな出会いっつゥやつだよな。…オマエもそう思うだろ?学園都市・第8位さンよ」
「…まあ、とにかく俺は帰らせて貰おうか。どうせ、俺にはまったくもって無関係な事案だ。そこのクローンも好きにするがいいさ。では、せいぜいその倒錯した自慰行為にでも励みたまえよ、第1位」
取り敢えず、この話は穏便に終わりそうで何よりである。例の少女ーーー第3位のクローンだろうーーーには気の毒だが、アレを助けようとは思わない。能力で連れ去ってしまえば助けられることには助けられるが、今は『人助けをしよう!』といったような気分ではない。なぜなら眠いからだ。……それに、日常的に人間が死ぬことこそが学園都市の現実、闇なのだ。それらのことにいちいち手を出していれば、いつか必ず痛い目を見る。そう考えて、心置きなくこの場から立ち去ろうとした真珠だったのだが。
「…オマエ、昔から変わンねェよなァ」
「…なんだ、急に。気味が悪い」
冗談抜きで、本当に気味が悪い。ありきたりな表現ではあるが、明日は槍でも降るのだろうか。
「相変わらずスカしたヤツだ、オマエは」
「要領を得ないな、君は何が言いたいんだ」
「…よォし。イイぜ」
そう言って、少年は第3位のクローンが苦悶の声を上げることもまったく気に留めず、ソレを壁際に蹴り飛ばした。…何やら、嫌な予感がする。
「ーーーオキャクサマの熱い要望に応えてたった今から急造で、愉快で素敵な
ふと、瞬きをした直後。
学園都市が有する
「ーーーッッッ!」
すぐさま思考を切り替え演算を開始し、能力を発動・後方へ転移する。…間一髪だった。あとコンマ0.001秒でも演算が遅れていれば、今頃出来立てホヤホヤの愉快な
なぜなら第1位の能力の性質上、とにかく身体に触れられた時点でゲームセットだからだ。血液の逆流、生体電気の制御、エトセトラエトセトラ。…流石にインチキだろう、これは。
「随分と物騒なことだ。ここは一旦冷静になろう、話し合いでもして穏便に解決しようじゃあないか。…ほら、ステイステイ」
「……やっぱオマエを愉快な
その直後、一方通行が地面を思い切り踏みつける。すると、真珠の足下が隆起し、コンクリートの槍が炸裂する。回避のために、転移をしようとするが…できない。どうやら、この
「……ごほッ」
「なンだよ、そォやって逃げてるだけか?そンじゃつまンねェからテレポートは禁止させてもらうぜェ。てなわけで、必死こいて走り回ってくれよッ、てなァ!」
「ぐ……言ってくれるな、第1位」
その後、能力の使用が不可能となった真珠は必死に走り回るだけで、回避することに専念していた。彼がまったく一方通行に反撃しないことにも理由があるのだが、とにかく今のところ、彼に反撃の術はない。
その後、一方通行の意識に出来た隙を突き、真珠は比較的背の低い建物の屋根に飛び乗る。そして、その固く結ばれていた口を開いた。
「……あまり君の前で使いたくはなかったんだが、こうなってしまっては仕方がない。ーーーではこれから、精一杯の抵抗とやらを始めるとしようか」
「ア?ただのテレポーターのオマエが、この俺をブッ潰せるとでも思い上がっちまったか?だとすりゃァかなりステキな脳味噌してンだな、オマエ」
そう言い放つ一方通行だが、それも当然のことだ。なぜなら学園都市の能力者に自身の能力を真っ向から打ち破ることができるほどの強者は存在しないし、さらに言えば真珠のテレポートはすでに封じているからである。ーーー厳密に言えば、一人だけそんな馬鹿げたことを可能にする男が学園都市に存在しているのだが、それはそれとして。
「ああ、もちろん抵抗するさ。このままでは俺は、今日という日をとてもイライラしたまま終えることになるだろう。それでは俺に利益がない上に、俺の精神衛生上非常によろしくない。……だから」
そう言って、ポケットに突っ込んでいた両腕をゆっくりと出した真珠は。
「一度、この実験を邪魔してみることにするよ」
壁際に転がっている御坂美琴のクローンを、己の手元に転移させた。
「……は?」
空いた口が塞がらない、といった様子の一方通行。コイツの能力はたしかに封じたはず。しかしコイツはたった今、明らかに能力を使用した。それはつまり、目の前の男は何らかの方法を用いて己の演算を突破したということにほかならない。
「……なっ、なぜ…ぐっ、私を転移させたのですか、と、ミサカは再度疑問を口にします」
「言ったろう?この実験の邪魔をしてみる、と。そもそもなぜ、わざわざこの俺と君が戦わなくちゃならないんだ。どちらにとっても不利益しか生まれない。ーーならばいっそのこと、目の前のクソガキに嫌がらせでもしてみようと思ったまでのことさ」
直後、真珠空白と、御坂美琴のクローンの姿がその場から搔き消えた。
そして、残された一方通行は。
「………面白ェことしてくれンじゃねェか、8位ごときがよ。ーーーよォし、決めた。次だ。次は絶対ブッ殺してやっから首長くして待ってろ、クソ野郎がァァァァァ!」
ーーー盛大に、ブチギレていた。