文字が読めない。
それは通常、真っ先に気づくべきことではあったが、しかしアインズはどこか楽観視していた所もあった。
昨日の冒険者登録の際は口頭で十分であったし、言葉が通じるのだから文字ももしかすれば読めるかもと少なからず期待していた部分もあった。
しかしその淡い期待は脆くも崩れ去ってしまったわけだが。
カルネ村の村長に聞くにしても、山奥に住んでいた魔法詠唱者が、基礎とも言える教養を受けていないとなると不自然に過ぎるため聞けず、かと言ってどんな文字も読めるモノクルは、現在別件で任務を与えているセバスに預けてあるため手元には無い。
(ロウさんならどうするんだろうな。)
邪魔にならないよう、依頼の貼り出されている掲示板から少し遠目の椅子で腕組みをしながら考える。
掲示板の前には既にお目当ての依頼を見つけたのだろう先輩冒険者が群がっている。
隣にいるナーベラルは、己の指示を待っているようだ。
引きこもりを自称しているが、ヘンなところで思い切りがいい友人のことだ。
こういう状況も割とすんなり解決しそうではある。
しかしまあ、何とかするしか無い。
そうでなくとも、流石に二日連続でロウさんに相談するのもどうかというのもあった。
思案に暮れてどれほど経ったか、既に掲示板の前から人の群れはほぼいなくなり、パーティ毎に集まって武具の確認や消耗品の整理を行なっているようだ。
適当な依頼は最早取り尽くされたと見えたが、それはそれで却って都合がいい。
おそらく残った依頼は難易度がこの世界基準で、それなり以上に高いか、あるいは報酬があまり美味しくない初心者向けのものかどちらかだろう。
アインズはその中から目に付いた紙を取り、受付に持って行く。
「この依頼を受けたい。」
とアインズが告げると、受付嬢は困惑した様子で
「申し訳ありません。こちらはミスリル以上の冒険者の方しか受けられない依頼なのですが…。」
と言うが。
「知っている。だから持ってきた。」
と自信家のように振る舞う。
受付嬢は困り顔になるが
「我々は我々に相応しい仕事を斡旋してもらいたいだけだ。実際、私の連れは第三位階魔法の使い手で、私もそれ相応の使い手と自負している。」
と続けて告げる。
場がざわつくがアインズは特に気にしない。
「申し訳ありませんが、規則ですので…。」
本当に申し訳なさそうに受付嬢が言う。
「そうか、わがままを言ってすまなかった。では、銅のプレートで一番難易度の高い依頼を見繕って欲しい。」
そう言うと、受付嬢はやっと安心したように、その注文を聞き入れ、依頼を探し始める。
アインズはこの時、心の中でよしっとガッツポーズをしていた。
その時
「でしたら、私達の仕事を一緒にしませんか?」
と、後ろから声をかけられた。
振り向けば声の主と、その近くに三人の冒険者がいる。
恐らくパーティなのだろう。
我ながらやっと上手くやれたと思った矢先だったので、少し不機嫌になりかけたアインズであったが、話だけでも聞いてみようとその四人組と同じテーブル席に腰掛ける。
どうやら彼らは漆黒の剣という冒険者パーティでプレートは銀だという。
メンバーはリーダーのペテル、野伏のルクルット、森祭司のダイン、魔法詠唱者のニニャの四名。
なお、ニニャはタレント持ちだという。
タレントというのはユグドラシルには無かったもので、その名の通り生まれ持っての才能らしい。
だが、それでも玉石混交らしく、また肝心のタレントと当人の気質や性格が合わないことも珍しくはないという。
それ故に、自身にピッタリと合ったタレントを保持することは本当に運がいいことらしい。
有名どころで言えば、ンフィーレア・バレアレという人物がそれに当たるらしい。
なんでも、名の知れた薬師の孫だとかで、マジックアイテムを何でも使えるという破格のタレントを持っているらしい。
これは流石にこの世界に疎いアインズでもすごく、また危険なタレントであると分かる。
些かの注意と警戒が必要と感じたアインズだが、話はそのまま続ける。
最後に軽い自己紹介を終え、依頼の話に入る。
しかし厳密には誰かからの依頼ということではなく、エ・ランテル周辺のモンスターを討伐して、街から出るその報奨金を貰おうということのようだ。
なお、目的地は南の森。
以上を踏まえて協力してもらえるか、と問われアインズは了承したのだった。
なお、水晶梟はステルス性能を活かして、モモンさんの近くに待機してます。