秘密結社ズーラーノーン
それは盟主とその高弟、そして更にその弟子から成るアンデッドを扱う魔法詠唱者の結社であり、かつて都市を一つ落としたこともあるという。その思想や行動の過激さから周辺諸国から敵対視されているテロリスト集団でもある。
エ・ランテルの集合墓地、その地下深くに拠点を構えるはその幹部たる高弟がひとりカジットである。
禿げ上がった頭に痩せこけた頬、目の下のクマがあまりに不健康そうである。
「まったくクレマンティーヌめ、厄介事を引き込みおって。」
先日この拠点に突如としてやって来た、同じ組織の幹部である女について語るその口調はあまりに忌々しげである。
カジットはクレマンティーヌに対して、剣の腕前以外は信用していない。
というのも彼女は自他共に認める人格破綻者であるからだ。
己も狂人であることは自覚しているが、彼女に比べればまだマシに思えるくらいである。
ただ、スレイン法国漆黒聖典第九席次、その看板に偽り無しと分かっているからこそ招いた覚えも無い客から話を聞き、そして協力する旨を伝えた。
叡者の額冠、法国の至宝にして装着したものを高位魔法を吐き出す道具と化す非人道的装置。
無理に外せば精神に異常をきたして発狂は免れない。
明らかな犠牲を強いておきながら人類救済などと片腹痛い。
しかもその適合者は極めて稀でそのままでは何の役にも立たないガラクタに過ぎない。
それだけならまだしも、そのガラクタが原因で万一にもクレマンティーヌの追手がここらをうろつくことにでもなれば、せっかく五年もかけて練りに練った計画を更に先延ばしにするか、最悪凍結させねばならなくなる。カジットにはそれが我慢ならない。
彼女の話を聞くに、どんなマジックアイテムも扱えるタレント持ちを利用しようと言うことらしいが、普通に考えて、それだけの才覚を有しているなら都市での影響力とて少なくない。
しかもその祖母はこの街で知らぬ者のいない程の名声を有する識者。手を出す方がイカれている。
口車に乗ってやったフリはするが、彼は警戒を怠るほど馬鹿でも呑気でも無いつもりだ。
尤も、本当に連れて来たならば多少は見直すだろうが。
そもそも彼はクレマンティーヌの加入自体反対だったのだ。
目立つ行動をし過ぎるし、逃げ切る自信があるのか分からないが現場隠蔽も最低限度、というか雑なのだ。実際彼女の気まぐれで殺された者は決して少なくは無く、その度にヒヤヒヤさせられる。
ハァッとひと息着いて、カジットは赤黒いローブの懐からゴソゴソとあるものを取り出す。
死の宝珠、つるりとしていそうな名とは裏腹にゴツゴツとした原石のように見えるが、実際は人間の負の感情を吸い蓄えることが出来るインテリジェンスアイテム。
通常であるならば自我を奪われ、宝珠の傀儡となるだろうがカジットにそのような様子は無い。それは曲がりなりにも彼が実力者であることの確かな証左だろう。
これによってカジットは死の螺旋の儀式を行うのが目的。
エ・ランテルを死者の街にすることで、得られる負のエネルギーは計り知れない。
悲願成就を思い、カジットはニヤリと笑う。
闇が、迫っていた。
べっ、別にコイツらのこと忘れてたわけじゃ無いんだからねっ!(聞かれてない)