「えぇっと……。」
「………。」
らいかんとアインズの二人は言葉を失っていた。
ふさふさとしたグレーの毛皮、クリッとした小さな目、齧歯類特有の前歯。しかし一般的なネズミとは明らかに一線を画する愛らしさ。
荒れ果てた世界での心のオアシス、ペットとして人気のあった小動物、ハムスターの姿。しかし今目の前にいるそれは少なくとも熊くらいは大きい。
「なぁ、一つ聞きたいんだが。」
「なんでござる?」
質問はいいのか。と思ったが指摘してやっぱり無しにされると面倒なのでそのままアインズは問う。
「お前の種族名は、ジャンガリアンハムスターと言うのではないか?」
「ほう、そなた達人間はそれがしの種族をそう呼ぶでござるか。」
声色に若干の喜色が混じる。それはなぜかと思った矢先
「であれば、同族を知らぬでござるか?生物として子孫は残さねばならぬでござる故に。」
なるほど、仲間が欲しかったらしい。
「いや、残念ながらそれは無理だな主にサイズ的に…。」
それを聞き、森の賢王はガックリしているが、しかし話が通じそうなら都合がいい。
今度はらいかんが質問を投げかける。
「お前さんはいつ頃からここにいる?」
「さあ、何せもう長い時を生きたでござるからなぁ、それにそれがしは人間のようにいちいち日にちを数えたりしないでござるよ。」
「じゃあ、言語を話せるのはなぜだ?」
通常、ハムスターというのは言語を話さない、しかしカルネ村の呼び出されたゴブリン達が普通に話せているのを見るとこの世界のモンスターが人語を話せるというのは案外珍しい話でもないのかもしれないが。
「う〜ん、それもいつの間にかでござるなあ。要領を得なくて申し訳ないでござるが…。」
どうやら曖昧な返ししか出来ないことに更にシュンとしているようだ。
「そうか。すまなかったな。」
「構わないでござるよ。」
意外にも穏やかな声でそういうと、森の賢王は再び身構え
「ではお喋りもここまでにして、殺し合いの続きと行くでござる!」
と言い、アインズに向かって駆け出す。
アインズはそれをかわし、グレートソードで斬りつけるが、異常な硬度を誇る毛皮には傷すら付かない。
「これでお互い一撃ずつでござるな。しかし嬉しいでござるよ、そなたさぞや名のある武人なのでござろうな。」
「……戦士にしか見えないのか?」
「?何か変なことを言ったでござるか?少なくともそれがしにはそなたは戦士にしか見えんでござるが。」
(ロウさん……。)
(お、どしたい。)
(これは、ハズレですね。)
(お、おう…。)
(鵺じゃなかっただけならまだしも、オレの本職が戦士では無い事すら気づけないとは。百歩譲って違和感とか感じてくれたりすればなあ。)
期待したのにとメッセージでぶつくさ言ったと思ったら、アインズは不貞腐れたようにやる気を失ってしまった。
「何をしているでござる?よもや、ことここに来て決着も付かぬうちに敵前逃亡でも図る気でござるか?それとも降伏の算段でもつける気でござるか。」
えらく的外れであるが、声色から憤っているのは分かる。
(打ち合わせじゃあ、確実にモモさんの手柄とする為に手出しは無用ってことだが……。)
らいかんは一応、アーティファクトの起動準備だけでもしておこうと行動するが
「もうやめだ下らん。」
無感情に発せられるその言葉と共にアインズは手にしたグレーソードを森の賢王に向ける。
森の賢王はやっとやる気を出したかと少し身構えたが、それを無視してアインズはスキルを発動する。
「絶望のオーラ、レベル1。」
瞬間、森の賢王の全身を寒気が走り、仰向けにひっくり返る。
「降参でござるぅ。それがしの負けにござるよ〜。」
「さて、どうしたものか。」
「どうするん?命だけでも助けるかい?」
「そうですねえ、ンフィーレア少年達の様子を見るに森の賢王を直接見たことがある訳ではなさそうですし。」
「まぁ、態々強力なモンスターと対面しようと言う奇特さは彼らには無いだろうがねぇ。それってほぼ自殺だし。」
ならば、ペットや実験台として連れ帰り、代わりに適当なモンスターをその座に置いていくのも手か、などとアインズが考えていると
「殺すんでしたら毛皮を頂けませんか?結構良さそうなので。」
といつの間にかやって来ていたアウラが明るく声をかけてくる。
「そんなぁ…。」
と森の賢王は涙目になっているが
「おーうアウラ、さっきぶり。」
「はい!さっきぶりですらいかん様!」
「またお互いひと段落したらまた第六階層で世話んなるなぁ。」
「お待ちしてますね!」
元気だなぁ、とらいかんが思っていると
アインズはその会話に毒気を抜かれたのかため息をひとつつくと
「そう怯えるな、私に仕えると言うのならその者をわざわざ殺したりはせん。」
その言葉を聞くと同時にパァッと表情が明るくなる森の賢王。
「あ、ありがとうでござる。この御恩は我が忠義にてお返しするでござるよ!」
「そうか。では私の真の名はアインズ・ウール・ゴウン。そして彼が我が友であり私と同等の強さを持つ者。」
「いやぁ、モモさんと同等なんて言われると気恥ずかしいけども、名はらいかん・す・ろうぷ、仲良くして欲しいやね。」
こうしてナザリックに一匹の魔物が加わったのだった。