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カジットのいるズーラーノーンの拠点に再びやってきたクレマンティーヌは、目に見えて不機嫌であった。
どうやら標的であるンフィーレアが店になかなか帰ってこないらしい。
「せっかく面白いことになりそうなのに…。」と言う声色は分かりやすく恨めしそうである。
それというのも、どうやらクレマンティーヌが彼を拐うと決めたちょうどその日に、冒険者を護衛につけてどこかに行ったらしい。
いくらエ・ランテルでの情報収集は欠かしていないズーラーノーンとは言え、各国に指名手配されていては流石に大っぴらに動けないのと、おまけに冒険者組合の信用の面でどこに行ったのかまでは分からないときた。
実際、彼女が利用した情報屋もその旨は分かっていなかったようだ。
辛うじて手に入った情報というのも、どうやら突発的に新顔の冒険者に依頼を出した。と言う眉唾な話が出てくるくらいがせいぜいだ。
その情報の真贋はともかく、かなりの噂になっていたくらいだから調べればすぐに来る。
カジットが直接対応しなければ、恐らく彼の弟子の何人かはこの虫の居所の悪い獣に殺されていただろうことは想像に難くはない。
現にその情報屋はこうして死体になっている。
「クリエイト・アンデッド。」
カジットが呪文を唱えると、死体が動き動き出し彼の軍勢に加わった。
ゾンビの保管場所に行くよう指示を出すと、ノロノロとその方向に向かって歩いて行く。
「相変わらず死の宝珠の力はすごいねー。」
おどけたような、あるいはこちらを小馬鹿にしたような軽い物言い、カジットはやはり彼女を好きにはなれない。
「おぬしが遊んだせいだろうが。」
カジットは舌打ち混じりにそう言う。
そして予想通りごめーんと口先だけの詫びの言葉が飛んでくる。
「いい加減、一般人で憂さ晴らしをするのはやめよ。おぬしのせいでここまで足がついたらどう責任を取るつもりだ。」
「わーかった、わかった。わかりましたー。もうしないから勘弁してー。」
ここまで誠意の無い謝罪ができるのはむしろ才能か?などと考えるカジットである。
無論、戦闘において相手を自分のペースに巻き込むのは有効だが、目の前の女は明らかにそれ以外の理由から挑発的な行動を繰り返している。
「クレマンティーヌ、ワシが数年がかりでこの街を死者の街とする計画を練っていることは以前話したな。ワシはそれを邪魔されるのは我慢ならん。」
重々しくそう言うカジットの目はギラリと光り、殺気が込められている。
「これを聞いてなお、徒に騒ぎを起こすなら本気で殺すぞ。」
その言葉を聞いてクレマンティーヌは、んー。と考えるような素振りを見せ
「死の螺旋だったっけ?」
と問う。
「そうだ。失敗は出来ん。分かったらこの街で人を攫うのはやめよ。」
瞬間、クレマンティーヌの纏う雰囲気が変わったのをカジットは肌で感じ取った。
鋭い殺気と共に動き出す暴力の風と化したクレマンティーヌをカジットは巨大なアンデッドの手で防ぐ。
「へぇー、流石カジッちゃん。よく防いだねえ。」
「阿呆が、つまらん事をしおって。お陰でこやつ以外のアンデッドの支配が緩んだではないか。」
カジットは忌々しそうに吐き捨てる。
「まぁそう怒んないでよー。ただのかわいい悪戯でしょー。ちゃんとギリギリで止めるつもりだったってー。」
「ふん、白々しい。おぬしはそんな人間ではなかろう。」
殺しを愛しているとまで言い切る破綻者が、そんな半端な真似をするとも思えない。
現状、一応は仲間内だが、こいつにだけは心を開くべきで無いとカジットの生存本能が警報を鳴らす程度には目の前の女は危険だ。
「なーんでわかっちゃうかなー。まぁ殺す気がなかったのはホントだってー。せいぜい肩を貫くくらいかなー。」
それもどこまでが本音やら。
興が削がれたのか、あるいは気が済んだのか、クレマンティーヌは手にした得物を納めると、クルリとカジットに背を向ける。
「んじゃあ、この街でもう人は攫いません。これでいい?」
「ふん。」
カジットがそう返すと、クレマンティーヌは拠点から再び姿を消したのだった。