厚切りシャトル
「ハウディ、皆さん!タイキシャトルデース!」
そう自己紹介しながら舞台に上がって来たのは、少々くすんだ色合いの金髪――尾花栗毛、身長172cmと大柄且つグラビアアイドル顔負けのグラマラスな体躯のウマ娘、タイキシャトルだ。
「アメリカから日本に、レースがしたくて来マシタ。日本語はまだ勉強中、日本語難しいデース!」
彼女が今言った通りタイキシャトルはアメリカ出身、此処日本にはレースの為にトレセン学園へと留学して来ているのだ。
此処でアメリカもレースが盛んなのだからアメリカのトレセンに行けば良いじゃないかとツッコミを受けそうだが、アメリカではダートレースがメジャーで芝レースはマイナー、日本等とは扱いが真逆で、それを踏まえるとダートも走れるとは言えどちらかと言えば芝が得意なタイキシャトルには日本の環境の方が合っていたのである。
「でも、分かる日本語もありマース!例えば、SMILE。これは、ウマ娘のレースにおける距離別に分けたカテゴリーの事デース」
そんな彼女がまず紹介したSMILE区分、日本では其処まで馴染みのない区分だが、世界的にはレースの統括機関が用いる等、世界標準と言って良い区分だ。
「まずはS、Sprint。日本語に直すと、短距離」
日本のレース界においては高松宮記念とスプリンターズステークス、カテゴライズされているG1レースが2つしかない状況、中長距離偏重と言われた以前と比べればまだマシとはいえまだまだ人気の面で及ばないカテゴリである。
その距離は1000m~1300mが国際基準なのだが、1599m迄が短距離の区分と定めている国もある。
「次にI、Intermediate。日本語に直すと、中距離」
1900m~2100mのレースが区分されているこのカテゴリ、日本のレース界においては皐月賞や秋の天皇賞、嘗て八大競争と呼ばれたレースのうちの2つや、秋華賞や大阪杯、新人ウマ娘の登竜門であるホープフルステークス等の人気G1レースがカテゴライズされている。
「続いてL、Long。日本語に直すと、中長距離」
2101m~2700mのレースが区分されているこのカテゴリ、日本のレース界においては日本ダービーやオークス、有マ記念と嘗て八大競争と呼ばれたレースのうちの3つや、宝塚記念やジャパンカップ、エリザベス女王杯といったG1レースでも特に人気と言えるレースが多くカテゴライズされている。
更に言えば、フランスのロンシャンレース場で開催される凱旋門賞、UAEのメイダンレース場で開催されるドバイシーマクラシック、アメリカで開催されるブリーダーズカップ・ターフといった世界トップクラスのウマ娘が出走するレースが軒並みこのカテゴリに区分されている、正に花形のカテゴリだ。
だがゲーム中においては中長距離という区分は存在せず、2400m以下の日本ダービーやオークス、宝塚記念やジャパンカップといったレースが中距離なのに対して何故か有マ記念が2500mという事で長距離に区分けされている等、最もカテゴライズ的に不遇なカテゴリでもあったりする。
「そしてE、Extended。日本語に直すと、長距離」
2701m以上走るレースが区分されているこのカテゴリ、日本のレース界においては菊花賞や春の天皇賞、嘗て八大競争と呼ばれたレースのうちの2つがカテゴライズされてはいるが、G1レースで区分されているのは実を言うとこの2レースだけ、嘗ては秋の天皇賞もこのカテゴリに入る距離設定だったのだが現在は短縮されてしまっており、現在ではややマイナーなカテゴリになってしまっている。
「アーハー!パターン!パターンデース!短い距離は短距離、長い距離は長距離、中ほどの距離は中距離、その間に位置するカテゴリには2つの漢字を掛け合わせてマース!そのままで分かりやすいデース!これなら、日本語いけるかもデース!」
確かに読んで字の如くな区分表記である、因みにこれは嘗ての日本での設定基準が、1200m~1600mの短距離、1601m~2200mの中距離、2201m以上の長距離としていた事の名残だからとかそうじゃないとか。
「と、思わせておいてM、Mile。日本語に直すと、マイル…」
と、ついさっきまでご機嫌だったタイキシャトルだったが、急に平静になり最後のカテゴリを紹介する。
日本のレース界においては八大競争と呼ばれたレースの1つである桜花賞、新人ウマ娘の登竜門である阪神ジュブナイルフィリーズと朝日杯フューチャリティステークス、クラシック級のマイル王者を決めるNHKマイルカップ、そしてヴィクトリアマイルや安田記念、マイルチャンピオンシップと、数多くのG1レースがカテゴライズされており、タイキシャトルが得意とするカテゴリでもある。
因みに国際基準は1301m~1899mで区分されている一方、1600mからのレースを区分している国も。
が、タイキシャトルの琴線に触れたのはそこでは無かった。
「Why Japanese People!?何で此処だけ英語のままデース!?今までの流れから言えば中短距離で良い筈デース!然も何で此処だけ漢字じゃ無くてカタカナ使っているんデース!?日本語難しいデース!Next!」
そう、何故かこのカテゴリだけ日本語の表記が英語の読みそのまま、然もカタカナ表記なのである。
因みにマイルの漢字表記は実を言うと存在しており『哩』と書く。
「次に、脚質。これは、ウマ娘達のレースにおいて得意な走りのスタイル、戦略の事デース」
そんな釈然としない所を残しつつ話を続けるタイキシャトル、次に紹介したのは、今言った様にウマ娘達の得意なレースでの戦略、レーススタイルを表す脚質だ。
因みにタイキシャトルと同じチームリギルに所属するテイエムオペラオーの様に、この戦略の得意不得意が存在しなかったり、得意な戦略の幅が広かったりして状況に応じてレーススタイルを変えられるウマ娘も存在するが、そんなウマ娘達は『自在』と呼ばれる脚質に分類される。
「まずは、スズカやマルゼンさんが得意とする、逃げ」
逃げは文字通り、スタートから先頭に立って後続のウマ娘達から逃げる様にレースを展開していく脚質である。
「次に、グラスやブライアンが得意とする、差し」
差しは、レース中盤まではウマ娘達の一団の中程や後ろの方で待機、最終コーナー付近からスパートを掛けて一団の間隙に己の身を差し込む様に進出する脚質である。
「続いて、ヒシアマさんが得意とする、追い込み」
追い込みは、レース終盤まで後方に控え、最終直線に入った所、正に最後の最後まで追い込まれたタイミングで爆発的なラストスパートを仕掛けて先を進むウマ娘達をごぼう抜きする脚質である。
「そして、エルや私が得意とする、先行…」
そして先行は、序盤から一団の前方でレースを展開していく脚質で、最も不利を受けにくく実力を発揮しやすい、正にセオリーと言って良い脚質でもある、現実の日本において、作者の好きな白毛のあの子もこの脚質だ。
が、何か琴線に触れたのか、何かを手に持ってそれを所々に配置するジェスチャーをするタイキシャトル、そして、
「Why Japanese People!?先、行っていないデース!どう見てもスズカ達逃げウマ娘の方が先行ってマース!こんなの詐欺デース!実況の人も好位追走って言っているんだから『好位』で良い筈デース!」
爆発した。
そう、先行とは言っているが逃げウマ娘が先頭に立った際はその後ろを追走する事になる、つまり『先』を『行』かないのだ。
尤も逃げウマ娘が出走しなかったり出遅れたりすると前へ押し出された結果『先』を『行』く事になるので間違っているとも言い切れないのだが…
「こんな状態だからこれ以上日本語を頭に詰め込むのは、諦めます!以上!」