ラスボス?いいえクソ雑魚幼女です~元社畜の異世界幼女生活~ 作:二本目海老天マン
◆ムティーニ村へと続く街道 ~とある騎士隊長の回想~
街道での
「止まれ!何者だっ!」
「た、助けてくれ……っ!こ、殺されるっ!」
こちらに駆け寄ってきた不審な男を尋問すると、どうも男はこの近辺で活動していた野盗の集団のメンバーらしい。そんな人間が何故、
「……ジャガーノートを操る少女?」
男は錯乱しているのか、怪しげな薬でも服用しているのか。男とその仲間達は自らが襲撃した村で、"深き森の守護獣"とも呼ばれるジャガーノートに騎乗した少女に襲われ壊滅したとの事らしい。
ここ数年、国内で目撃情報すら無かったジャガーノート……ましてや、それを操る少女の存在など到底信じられる話では無かったが、罠にせよ何にせよ、この先の村で何かが起こっているのは間違いないだろう。騎士隊長はそう判断を下すと、野盗達が返り討ちに遭ったというムティーニ村へと馬を走らせるのだった。
◆ムティーニ村にて
「なっ……ジャ、ジャガーノート!?まさか本当に人里まで下りてきているとは……!」
村の入口から見えた光景に、部隊に緊張が走る。広場で呻き声を上げながら転がっている無数の野盗達。その中心に"それ"は悠然と立っていた。
光すら飲み込むような漆黒の毛皮に包まれた強靭な肉体。
眼差しに射抜かれただけで身が竦みそうな異形の六つ眼。
威厳すら感じさせる強烈な存在感に騎士達の何人かが手を震わせるのも無理はないだろう。
「……ぴぃ?」
しかし、騎士隊長はジャガーノートの存在よりも、その隣に立っている銀髪の少女に意識を奪われていた。
「グルルルル……」
「ぴぃっ」
「ヴォフ」
こちらに飛びかかろうと身体をたわめていたジャガーノートが、少女の声に反応するように殺気を僅かに緩めたのを感じる。
……あの子供が、野盗の言っていたジャガーノートを従えるという少女か。
銀髪の少女を護るように、二頭のグレイウルフが彼女の周囲を固めたのを見て騎士隊長は確信する。
―――あの娘は普通の子供ではない。
「……隊長、どうしますか?」
「俺が指示するまで攻撃はするな。下手に刺激して暴れられたら周囲の村人にも被害が及ぶし、あの娘が敵対的な存在かどうかも分からん」
騎士隊長は剣を鞘に納めると、銀髪の少女に向かって叫ぶように問いかけた。
「私は王国騎士団所属の騎士隊長モーブ!ジャガーノートを従える少女よ、君は一体何者か教えてはくれないだろうか!」
「……ぴぃ?」
騎士隊長の問い掛けに、銀髪の少女は小鳥の囀りのような声を発して首を傾げていた。
「……隊長、多分言葉通じてないですよ。アレ」
「……ウチの隊に異国語に詳しい奴は居たか?」
「いやあ、多分人の言葉は駄目なんじゃないですかねぇ」
部下の言葉に、
「……分かっている。あの娘の口の動きと声はどう見ても連動していない。人間の発声法ではない」
「精霊種って奴ですかねえ。人の姿をしていることもあるんでしょう?」
「あそこまでハッキリ人間と同じ形をしている精霊か……名の有る主か何かか?」
こちらが武器を向けているにも関わらず、ジャガーノートやグレイウルフはともかくとして、銀髪の少女からはこちらに対する敵意は感じられない。警戒を完全に解く訳にはいかないが、何とか穏便に対話をしたい所なのだが……
「き、騎士様!お待ちください!」
一人の村人が騎士達の下へ駆け寄る。突然動いた村人に対して、銀髪の少女は特に動きを見せなかった。やはり人間に対して害意があるようには見えない。
「騎士様、どうか武器をお収めください。あの方は野盗に襲われた我らの村を救ってくださった森神様なのです!」
「森神……?それは、この村の信仰対象か何か……」
「ぴぃ」
いつの間にか村人と騎士達の傍にまで銀髪の少女が歩み寄っていた。矢を向けようとする部下達を騎士隊長は片手を上げて制すると、視線の高さを少女と合わせるように片膝を突いた。
「ぴぃっ、ぴぃ」
「……森神よ。まずは我ら騎士団に代わって、この村の民を守ってくれた事に感謝をさせていただく。……しかし、私の言葉は貴方に通じてはいないのだろうか?」
「ぴぃ」
銀髪の少女……森神が騎士隊長に何やら片手を差し出した。
「ぴぃ」
「……すまん、森神は一体何をしているんだ?」
「も、申し訳ありません。私達にも彼女が何を求めているのかサッパリでして……」
騎士隊長は村人に森神の意図を尋ねてみたが、彼らにも彼女の行動の真意は分からないらしい。
「ぴぃっ!ぴぃっ!」
「参ったな……すまない、森神よ。我々には貴方が何を欲しているのか分からないのだ」
「ぴぃ~~………ぴぃっ!」
騎士隊長が困り果てていると、森神は騎士隊長の手を取って自らの小さな手に握らせた。
「ぴぃっ♪」
そして、繋いだままの騎士隊長の手と自分の手を何やら上下させると、銀髪の少女は花が咲いたような可憐な笑顔で満足そうに頷いた。
「……森神よ、一体何を……?」
「ぴぃっ」
ひとしきりお互いの手を上下させると、少女は満足したのか騎士隊長の無骨な手を解放する。
「ぴゅいっ」
「ヴォヴッ」
少女は腰まで届く銀髪を靡かせながら、トコトコと背後に控えていたジャガーノートの傍まで戻ると、母猫に甘える子猫の様にその背によじ登った。
「ぴぃっ!」
「あっ!待っ……っ」
ジャガーノートに跨った少女が騎士隊長と村人達に向かって小さな手をブンブンと振ると、ジャガーノートとグレイウルフ達が稲妻のように森の奥へと駆け出した。騎士達が止める間もなく、少女達は瞬く間に森の奥へと姿を消してしまった。
「ああ、行ってしまわれた……」
「ぬう……一体何だったのだ……?」
少女達が消えていった方角を見つめながら村人と騎士隊長が呟く。人に害をなす存在には見えなかったが……
「いやあ、この一件は報告書作るの大変そうですねぇ。隊長」
「……全くだ。そのまま報告すれば、上の連中に頭がおかしくなったのかと暇を出されそうだよ」
騎士隊長は頭痛に耐えるように指先で眉間を押さえると、部下達に広場で呻き声を上げている野盗達の拘束を命じるのだった。
◆深い森の中 キノコベッドにて
「はぁ~~~、今日はよく働いたよ。お疲れ様だね僕」
ジャガーノートさんに運んでもらったキノコベッドの上で、僕はぐにゃりと猫のように脱力して寝転がった。
予想はしていたが、やはり村にも僕の言葉が通じる人は居なかった。何やら騎士っぽい人達に武器を向けられた時はどうなることかと思ったが、最終的には良い感じに友好的な雰囲気を出せたと思う。攻撃とかされなかったし。邪神の手先とかそんな感じにはなってないよね?この世界に邪神とか魔王とかそういうのが居るのかは知らないけど。
「また明日にでも村に顔を出してみようかなあ。こういうのは数を重ねるのが大事っていうしね」
僕はそんなことを考えながらキノコベッドの上で丸くなって眠りに就くのだった。スヤァ………
◆とある火山の火口にて
「―――くぁ……んん~~~、よく寝た」
あらゆる生命の存在を許さない灼熱の中で、真紅の長髪を靡かせた一糸纏わぬ青年が立ち上がる。
「数百年……いや、数千年は寝ていたか?……まあ、星が滅びる前に目覚めたのだから、多少の寝坊は許してもらおうか」
超級の戦士を思わせる芸術品めいた肉体を大気に晒しながら、溶岩の中から歩み出た美丈夫を数頭のドラゴンが頭を垂れて出迎える
「お目覚めですか。偉大なる王よ」
「我ら霊なるもの達の頂点」
「四人の王の一人」
「
一般的に全ての生命体の頂点と呼ばれるドラゴン達に
「出迎えごくろーさん。
「"星"の王、"獣"の王の御二方は未だお眠りになっておられます」
「ああ、あの二人は前に人族相手に遊び過ぎて、手酷くやられたからな。―――ということは"闇"の姫君が一番乗りか」
「はい。"闇"の王は我らが君よりもひと月ほど早くお目覚めになられました」
ドラゴンの言葉に真紅の男は顔を
「おいおい、あいつよりも一ヶ月も長く寝ちまってたのかよ。もう地上に俺の分の人間は残ってないんじゃないのか?あの姫君の人族嫌いは病的だからな」
「……いえ、それが―――」
ドラゴンが"闇"の王の動向を話すと、真紅の男は訳が分からないと言わんばかりに困惑を表情に表す。
「深き森で何もせずに食っちゃ寝してるだと?それどころか、人族の集落で人間と交流をしているって?」
「はい。深き森の上空を縄張りとしている翼竜からの報告です。間違いは無いかと」
「ふむ―――まあ、いい。あの姫君が何を考えているのか、俺が直接問いただすとしよう」
真紅の男が腕を一振りすると、その肉体美が漆黒のタキシードに包まれた。
「―――それに、前回の求婚の返事をまだ聞けていないからな」
そう呟くと、獰猛な笑みを浮かべた真紅の男の姿が虚空に消えた。
―――この日を境に、元社畜の異世界幼女生活は、様々な人間の思惑に振り回されることになるのだが、それはまた別の話である。
めっちゃぶった切りですが、ここで終わりです。お盆だし供養だから仕方ないよね?グッドお盆。