彼を可愛いと思うとき   作:延長戦

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1:別れ際

今日1日、本当に楽しかった。

 

その充足感を胸に、重い瞼を懸命に持ち上げて友人を見送り、私は彼が差し出してきた手を握り返した。

車内はもう2人だけで、彼はカーナビで新しい目的地を検索しだす。

 

「あ、もしかしてこのへん○○駅が近くない?」

 

と言いきった時には既に目的地が設定されてしまい、私の言い分は行き場を失ってしまった。

 

「あぁ、じゃあこのままでお願いします」

 

私がそう言うと、彼はアクセルを踏みハンドルをきった。

 

「さっき、地名とか見てると駅に近いのかと思って、下ろしてもらおうかと考えたんだけど、このへんには全然詳しくないから言わなかったの」

 

特に相づちもなく、少し居心地が悪い。すると、目の前の赤信号で停車してから、彼は今日1日ドライバーとして往復6時間の道程を運転したことを褒めて欲しいようで、甘えた口ぶりで

 

「くっついてきて」

 

と言ってきた。多少のご褒美も必要かと思うが、この狭い車内で、かつ赤信号とはいえ運転中で、どうすればいいのだろう。抱きつけばいのか。私は仕方なく彼の腕を引き寄せて肩にこめかみを預けた。正直、齢30にしてこんなこっぱずかしいことをさせられていることに戸惑った。そして信号機は青へと変わり、私はすぐさま体を起こして

 

「ほら」

 

と彼の肩を叩いて前を促した。すると彼は拗ねたように

 

「冷たくされた」

 

と言って視線を前方へ移した。私は

 

「冷たくしたわけじゃないよ」

 

と返したが、それから信号が赤でも彼は此方を見ない。外へ目を向け、前を見るが、左手は私と繋がっている。

 

「テントとか、このまま実家に返しに行くんでしょ?ご家族に宜しく伝えてね」

「わかりました」

 

困ったことに、彼はへそを曲げてしまったまま。どうすればよかったのかな。キスでもしてあげればよかったのかな。いやそもそも付き合ってないしな。まあ、そんなこと気にしても仕方がない。目的地を目前に私は開き直った。

 

「あーあ。もうバイバイだね」

 

彼は無言のまま車を左へ寄せて停車した。私は此方を見ない彼を横から覗き込んだ。

 

「ありがとう」

 

それだけを伝えて、助手席に持ち込んだ荷物を集めると、彼がぼそぼそと何か言ってきた。

 

「え?なんて?」

 

私はちらっと彼を見てからまた荷物に向き直る。

 

「最初から、こっちのほうが近いってわかってました」「え?」

 

私は思わず固まった。

 

「わかってて、最後に送ることにしたんです。」

 

一瞬で頭が真っ白になり、本気で驚いた顔のまま何も考えずに言った。

 

「最後にそんな可愛いこと言う!」

「でも最後に冷たくされた」

 

彼はまたしてもそ窓の外を見てしまった。私はまた横から彼の顔を覗き込んだ。

 

「冷たくしたわけじゃないよ」

 

やっと彼と目が合うと、お互い頬が緩んでいた。

 

「ありがとう。気をつけて帰ってね」

「わかりました」

 

ようやく二人で荷物をまとめて車を降りると、彼は先に出てトランクを開けてくれた。さっき友人を見送った時は車から出もしなかったのに。そんなことを頭の隅で考えながら、私は彼に手を振った。

マスクの中は少しにやついていて、胸がどきどきしていた。

 

 

年下、しかも前職場の後輩。ありなんだろうか。

 

 

 




こんな二人、どうでしょう?
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