彼を可愛いと思うとき   作:延長戦

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閑話休題:ある日の朝一番

 

昨日、美容室に行ってきた。久しぶりにパーマをかけることにした。多分大学生ぶり。

でも朝のセットが決まらない。いつも通りの扱いでは髪が言うことを聞いてくれない。もう時間ないのに!

 

俺は仕方なくそのまま家を出た。なんだか今日は気分が乗らない。

会社の最寄り駅改札から地上に出ると、新しくきた主任を見つけた。もう異動してきてから二つ目の季節で、思った通り悪い人ではなかった。

俺は追い付けるかと思ったけど主任の歩みは意外と早く、いつものせっかちに動き回る姿を想像した。

 

「おはようございます」

「ああ、おはようー…」

 

ロッカーで顔を合わせると、最近では既にお馴染みの眠たそうなテンションの低い表情で挨拶を返された。

どうやら朝に弱いらしい。

主任が荷物を置いて事務所に向かってうのを見送り、俺はモンスターをいつも通りストローで飲んでから後を追った。

しばらくすると後輩がやってきて、挨拶するなり俺の髪に釘付けになった。俺は居心地悪く感じたが、素知らぬ顔で書類に目を通す。

 

「チーフ、髪型変えられたんですね!」

「ああ、まあ。久しぶりにパーマかけてみた」

「へえ…。…お似合いですね!」

「何、その間。」

「いや、ほんとに!」

 

明らかに、これは馬鹿にした態度だ。これはゆゆしき事態だ。俺という先輩にこの態度!

俺が反撃しようとしたとき、急に横槍が入った。

 

「もう!そんな中途半端な言い方じゃ駄目だよ!はっきり言ってあげなきゃ!」

 

俺は驚いて主任を見た。

 

「前髪がへんだよって!」

 

突然、後輩がにやけだした。声に出して笑わなかったことが奇跡のような笑顔で。これは負けていられない。

 

「どの辺がですか?教えてください!」

「分け目が少し中途半端で…、そう、このへん!」

 

俺は主任の誘導で鏡を見ながら髪型を整えていく。

 

「このウェーブがこの位置にあると小顔に見えるしスタイリッシュなんだけど…。」

 

主任が俺の髪を癖付けようと指で前髪を摘まんで撫で付ける。所々後輩に意見も聞きながら、主任は俺のセットした髪を良いようにいじっていく。

朝頑張ったのに。

 

「…今日の寝癖だかスタイリングだかでは無理だね。諦めよう。いい?前髪この高さでこの角度から流すと決まる筈だから!」

 

寝癖じゃない!スタイリング!

俺のことそこまで馬鹿にしなくてもいいはずなのに。絶対、後輩と面白がってるな。

 

「わかりました!」

「あと、こっちの揉み上げは耳にかけてみて」

 

オレが素直に従うと、主任の表情が急に歪んだ。必死に笑うことを堪えているような感じだ。俺はこれまでの経緯が、最早どうでもよくなった。なんだか、朝のあの不機嫌そうな表情が、こんな気の抜けた表情に代わるのを見ると、今日の俺の髪型なんてどうでもよくなってしまった。

 

「…耳にかけるのは好き嫌いがあるかも」

「わかりました!ありがとうございます!」

 

それにしても朝からなんのレクチャーなんだ。主任はともかく、後輩は始終にやにやしながら一緒になって横から口を出してくるし、係長は横目で様子を窺ってくるし、朝から公開処刑かよ!絶対後でネタにされるやつだ!

何よりも、俺より後輩のほうが主任と早く仲良くなってるのが、ゆゆしき事態だ。

 

 

 

「主任、私、チーフへの愛情を感じました」

「愛情?言ってあげなきゃ可哀想かと思ったんだけど?朝一発目から突っ込み所満載で、一人では太刀打ち出来なかったのよね」

「やっぱり気になりますよね!朝から笑わせてもらいましたわ~!」

「いや、笑わせようとしてるわけではないけど、彼のパーマが似合わなすぎてネタになってるだけよね!丸顔で童顔でおでこが広いのに、前髪オールバックでパーマは巨顔以外表現のしようがない。可愛い顔してるのに勿体ないわ」

「いや、それでもちゃんと髪を直してあげるとか、見ててドキドキしました!」

「今時の若者のポイントがわからないわ」

 

 

 

 




女の子同士のほうが打ち解けやすいですよね。
誰かをネタにして。
勿論、彼がネタですけどね。
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