彼を可愛いと思うとき   作:延長戦

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10:四半世紀以上生きていたら

邪なことを考えていると時間が経つのは早く、彼が運転する車は快調に高速を走る。

ちなみに私は出稼ぎ労働者の為、会社から1時間以内の他府県に居を構えている。5年前に会社近くの家から引越を決め、中古マンションを購入しリノベーションの上住んでいる。家族は愛犬一匹だけだ。そう、三十路の家持ちペット持ちだ。今日も愛犬が私の帰りを待ちわびている。

私達の他愛のない話もだんだんと尽きて来た頃、彼は左手を差し出してきた。

 

「何かとって欲しいものでも?」

「違います」

「お手?」

 

私は冗談混じりにおかわりもしようか?と付け加えた。

 

「…まあ、そうです」

 

そうだったのか…。からかってすまん。

私は素直に手を握った。

 

「これでいい?」

 

彼は満足そうに少し笑って私の手を握り返してくる。そんな彼の可愛さに満腹になった頃、車は高速を降りて走り、私の家も近くなった。私は家から一番近いパーキングを案内する。私達の手は離れ、車は停まった。

さて、ここからどうしようか。そして彼はどうするのかな。

彼は私の重たい紙袋を2つ担いで家へ向かう。

 

「あの、家の中まで入っていいんですか?」

「勿論どうぞ。運んでもらったんだし、お茶くらいはだすよ」

 

その重たい紙袋は是非とも中まで運んで頂きたい。

 

「犬、いてますよね。会ってもいいんですか?」

「むしろ会ってあげて」

 

これはなんの確認なんだ。わたしは内心首を傾げながらどうぞと玄関の戸を開けた。彼はもごもごお邪魔しますと呟いて靴を揃えて中に入っていく。

 

「いいお家ですね」

「ありがとう。そしてこちらが私のパートナーよ」

 

私はゲージを開けて彼に愛犬を紹介する。

 

「思ってたより大きいですね」

「まあね。でも大きいのは体だけでびびりなのよね。お茶にする?お酒にする?」

「お酒はちょっと…」

「別に寝て帰ってもいいよ?場所はあるし」

 

私のなんてことない物言いに、彼はしばし考えるように黙りこんだ。ポーカーフェイスを気取ることは出来るようで、内心を読むことは出来そうにない。

もうこんなお年頃ですもの。1つ屋根の下にダージリンがいようがなんてことないのは事実。勿論、かわす術ぐらい持ち合わせている。

 

「…いえ、お茶でお願いします」

「残念。晩酌には付き合ってくれないのね」

 

私は彼の前にお茶を置いて自分はいつもの焼酎を煽る。

これから当分無職だし、お酒も控えなきゃな。

私がお酒を置いて彼の隣に座ろうとしたとき、彼は腕を掴んで引き寄せてきた。私は踏ん張ることも出来ずそのまま彼の膝の上に座ることとなる。

 

「すいません。まさか泊まっていいとまで言われるとは思ってなかったんです。次来るときはそのつもりで来ます」

 

何言ってんだ。自分の家に呼んでる時点でそのつもりだろうに。今時の子はわからないなあ。でも可愛いなあ。よく見たら肌も綺麗だし、体つきは…。

私は然り気無く手を肩に置いてから少し滑らせる。

ちょっと鍛えてほしいかなあ。ちょっと胸板を厚く硬くして頂きたいわ。

 

「じゃあ楽しみにしてる」

 

あーあ。今晩はお預けくらっちゃった。結構その気だったのに。自分から誘って断られることなんてなかったのに。もう年かなあ。

 

「なるべく早く来ますね」

「ん、待ってるね」

 

主任、まさかの敗戦。

 

 

 




四半世紀生きてりゃいろんなことありますよね。
価値観も人それぞれ。

後輩くんって、本当に主任のこと好きなのかな。
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