彼を可愛いと思うとき   作:延長戦

9 / 14
8:空気読んでよ!

そうして、喪失感に苛まれる私は彼と一時間以上話すことによって漸く眠気を感じることができた。勿論いつもの焼酎を飲みながらの為、後半何を話したかなんてうっすらとしか覚えてはいない。確か、ドライブに誘ってきた時の話をしたように思う。そしてその時の事実を告げたような気がする。私って、ろくな大人じゃないな。彼にとっては思い出の一戦だったろうに。ま、結果デートにこぎ着けているのだから結果オーライの筈だ。

こうして私は緩やかに現状を受け入れつつ、目標に向けて気持ちを切り替えていった。

 

そしてデート当日。

 

昼御飯を手早く済ませて、私は会社への返却物を手に家を出た。今日は16時くらいに会社付近まで迎えに来てくれる予定だけど、一体どんなプランを用意してくれるんだろう。時間を聞かれたから、16時以降なら合わせると言えば16時になったけれども、よくよく考えれば18時くらいにしてご飯食べて送ってもらえば良かったな。酔っ払った私にはそこまで頭が回らなかったから仕方ないけれど。微妙な時間だなあ。

私は心持ちげんなりしながら会社へ行き、予定事項を終わらせ退社しようと出口へ向かうと、タイミングよく敬愛すべくかつての上司と偶然再会した。新入社員の頃からお世話になった方で、この会社で最も尊敬する方だ。私は急激な血圧上昇と堪えきれないハイテンションをオプションに挨拶をしに行く。お尻のポケットでスマホが震えるがなんのその。どうせ到着のお知らせだろ。こっちのが大事に決まってんだろ。心行くまでこの時間を堪能し、ようやく退社してスマホを確認してから私は彼と合流した。

あらかじめ聞いていた車種と、場所とですんなりと居場所はわかり、助手席側から窓ガラスをノックした。座席を倒してスマホを眺めていた彼は驚いて身をお越して私を見た。会社の近くだから姿を隠そうとしていたのかなと、少しからかってやりたい気分になったが黙って後部座席を指さしてドアを開けた。

 

「待たせてごめんね。荷物置かせてもらうね」

 

ひたすら重くて仕方なった紙袋2つをやっと手放し、私は助手席に乗り込んだ。

 

「お邪魔するね。今日はありがとう」

「いえ」

 

なんだこの空気。こいつ緊張してんのか。

車は発進し、目的地がどこなのかわからないまま進んでいく。私はどうすることも出来ず世間話を繰り出す。先程の会社での出来事や、車で通る際に見える景色のこと。会話の成立は問題ないが、こいつは一体、私をどうする気だ。

 

「ちょこっと、僕の家に寄りませんか?」

 

何?お家デートか。面白くないな。それとも何か。あわよくばそのまま食べる気か。それはそれでがっかりだな。だがこのコロナの世の中、他に出掛けようと提案できるところもない。

 

「いいけど…。一人暮らし始めたから誰か呼びたいの?」

「…まあ。じゃあ行きますね」

 

まあ、ってなんだ。ろくに喋らないくせに臍曲げようってのか?このやろっ!こっちは重いもの持ちたくないから下手に出てやってるのに!まあいいさ。今日1日楽しんでやるさ。

彼が最近一人暮らしを始めたその場所はわたしがかつて暮らしていた所から一駅で、着くなり懐かしい気持ちになった。当時付き合っていたろくでもない彼氏とよく通ったレンタルビデオ店や、ラーメン屋さんを眺めてみれば少しテンションがあがった。

 

「最近、新しくケーキ屋さんが出来たの知ってます?」

「え、そうなの!?私がいた頃はなかったよ!」

「食べます?」

 

え、なんだこの展開。餌付け作戦?

 

「え、食べたい」

 

彼は満面の笑みで私を案内する。私もケーキには心を踊らせる。ケーキと飲み物とつまみを調達し、彼のマンションへと向かう。

なんだかんだ、やっぱりのこのこ一人暮らしの男の家に来てしまったな。わたしの理性はきっと母のお腹の中に置いてきてしまったんだろう。

部屋に入ると、男性の一人暮らしにしてはすっきり片付いた部屋で、居心地は悪くない。

 

「綺麗にしてるでしょ?」

「うん。想像通りかな。そもそも潔癖入ってるでしょ?」

「まあ…。でもそんな大したレベルじゃ…」

「モンスターにストローさして飲んでるのに?」

「いや…、缶はなんか、誰が触ったかわからないから口をつけるのが嫌なんです」

「それ、バーベキューとかしてても?」

「いや、流石にそれは空気読みますよ!」

 

彼の必死の弁明を聞くうちに、私は声をあげて笑いだしてしまった。あまりにも必死で言い訳がましくて、何を隠したいのやら。そうこうしてると、彼は拗ねたように私のことを睨んでくる。

 

「馬鹿にしてるでしょ」

「してないよ!可愛いなって思っただけ」

 

彼は可愛いってどうことか聞いてきたが、私はそのままの意味だと答えた。だって、そういう目でしか見れないんだもの。

すると、彼は盛大に溜め息を吐いた。

 

「せっかく二人っきりで部屋にいるのに…」

 

そう言うと同時に私を抱き締めてきた。

そしてその台詞の続きは、私に対しての非難だろう。

 




主任はどうやったら彼に興味を抱くんでしょうね。
後輩くんはもう少し頑張らないとですね。

後輩くんサイドは閑話休題で少しずつ書いて行こうと思います。
明日また更新します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。