心を和ます小道具に珈琲があります。
今回はそんなお話です。
でわ、ごゆっくりお楽しみください。
パンドラズ・アクターは地下3階に作られた宝物庫で
日課のマジックアイテム磨きに精を出していた。
ぴんぽ〜ん♪
「は〜い、どちら様でしょう?」
丁寧にアイテムをテーブルに置き
ヒラリとソファーから立ち上がりドアに近づく。
ドア横のモニターを見ながらインターホンで声を掛ける。
「どちら様です?」
もう一度問うが、返事が無い。
モニターにも人影が無い。
パンドラズ・アクターは自身の警戒レベルを上げた。
「これは警告です。今すぐにここから立ち去るか、さもなくばインターホンに姿を映しなさい。これは脅しではありませんよ?」
「わ、わたし、です。ヴィクティムです。」
外から幼児の様な声がした。
「証拠は?」
「し、証拠!?」
「貴方が本物のヴィクティム殿である証拠です。」
「きみどりあおしろだいだいむらさきちゃ」
ガチャ
ドアが開いてパンドラズ・アクターが顔を出す。
ドアの下の方に派手なピンクの生贄の赤子が居た。
「はいいろうすむらさきふかみどりあか」
「もう分かりましたからエノグ語は結構です。どうぞ、中へ。」
整然と片付けられた部屋を見回しヴィクティムは少し驚いた表情を見せた。
「流石、宝物庫守護者のパンドラズ・アクターさんです。こんなにキチンと整理されているとは。」
「アイテムを愛でよと創造されておりますから。ところで、飲み物は…ミルク…で宜しいですか?」
「珈琲、があれば。ブラックで。」
「え!?」
「え!?」
沈黙が流れる。
「よく間違われるのですよ。わたくしは赤子ではないのです。そんな訳で嗜好品も嗜みます。」
「ほ、ほう。それは存じ上げませんで失礼しました。」
「いえいえ、こちらこそ。お気を遣わせました。滅多に外に出ないので皆さんにもお目に掛かる機会が少ない故、仕方のない事です。」
パンドラズ・アクターはミルで丁寧に豆を引きだす。
「そんな物まで?」
「ハハ、これは食堂の料理長から借りているのです。お客様用に一通りの道具は揃っていますよ。何しろ父上も飲食が出来るお体になられたので、お越しの際はおもてなししなければ、ね。」
「よくお見えになられるのですか?」
「そう…月に一度は必ず。財政面の擦り合わせも兼ねていますから。」
「なるほど…。」
ほどなく香ばしい香りが部屋を満たす。
「ああ、良い香りです。」
ヴィクティムは深く息を吸い込む。
「お好きなので?」
「はい。しかし一人で飲む珈琲は味気なくて…。」
「よく分かります。」
ポタポタと落ちる珈琲を見ながら、2人は至高の御方方の思い出話を楽しむ。
「…実は。」
ヴィクティムが口を開く。
「実はパンドラズ・アクターさんのご意見を伺いたくて。」
パンドラズ・アクターはカップを勧めながら首を少し傾ける。
「私で宜しければ。」
「私は死ぬ為に生まれて来ました。私は階層守護者として御方方を護る最後の砦として、その事を誇りにしています。
しかし、世は平和になり、このナザリックも不落要塞として完成され私の存在意義が無くなってしまったのではないかと思っているのです。これといった特技も無く、お役に立ててない。最近は無力感で夜も眠れません。」
一気に話すとヴィクティムは深い溜息をついた。
(これは重症ですね。)
パンドラズ・アクターは目の前で項垂れる同僚に心を痛めた。
そして意を決して口を開いた。
「発想の転換…は如何です?」
ヴィクティムは驚いてパンドラズ・アクターの顔を見る。
「発想の…転換?」
「左様です。死ねないから役に立てない、ではなく。生きているから役に立つ機会がある。」
「機会…ですか?」
「そうです。何事も一人で背負ってはいけませんよ。父上を、この新生ナザリックを守護するのは守護者全員の使命。そしてヴィクティム殿はその守護者全員が倒れた時の最期の盾であり剣。皆より先に死んでしまってはお役に立てないでしょう?未曾有の危機は何も一度とは限りません。貴方が元気でいる、その事がナザリックの繁栄の証なのだと、私は思いますよ。」
「元気な事が繁栄の証…あかし。」
ヴィクティムは何度もその言葉を繰り返した。
「父上は以前からこう仰っています。その友のために命を捨てる。これより大いなる愛は無い。正に貴方の為の言葉だとは思いませんか?」
ヴィクティムの小さな瞳から滝の如く涙が溢れる。
「良いですか、貴方はそうあれと創造された。けれど長い年月でそれは昇華し、父上の、我が創造主の唯一無比の友となったのです。」
「あ…あぁ…。私は…私は…!何と言う間違いを!そうですよね!死んでお役御免になる事だけを考えていました!そうじゃない…そうじゃないのですね!」
来た時とは別人の様に生き生きとした笑顔のヴィクティムは
何度も何度も大きく頷いた。
「ありがとうございました!パンドラズ・アクターさん!早速、御方にこれからの私の決意をご報告申し上げます!」
そう言うと寸暇を惜しむ様に部屋から出て行った。
パンドラズ・アクターはその後ろ姿を見送ると、顳顬に手をあてた。
「アインズ様。貴方の息子、パンドラズ・アクターですっ!え?余計な事は言わなくてイイ?それより用件を言え?実はですね…」
パンドラズ・アクターは先程の顛末を詳細に告げる。
「はっ!お褒めの言葉、ありがとうございます!このパンドラズ・アクター、そのお言葉で後数百年は生きて行けますです!…え?いい加減そんな大袈裟な台詞は止めろ?またまたぁ…。マジ?それと料理長が秘蔵の珈琲豆が無くなったが知らんかと?さぁ…一向に心当たりは御座いません。…ホントですって!まさか!私をお疑いで!?あ!もしもし?どうも通信状態が良くありません。もしもーし。」
そう言うと一方的にメッセージを切った。
「ふう…危ない所でした。その辺の豆を混ぜて誤魔化したのですが…私もまだまだですね。」
パンドラズ・アクターは新しい豆を用意して自分のカップに注ぐ。
「一仕事終わった後の一杯は堪りませんねぇ。さて、一服してもう一つ棚を片付けますか。」
どうでした?
お楽しみいただけましたか?
じゃあまたお会いしましょう。
ありがとうございました。