「はぁー……今日は野宿かぁ……」
愚痴を零しながらネプテューヌはテントを組み立てている。
「仕方ねぇだろ。こんな荒廃した場所に宿なんてないからな」
「こんな場所に飛ばさないでよー」
「テキトーに飛ばしたからな。第一、どこでもいいって言ったのはお前だろ?」
「それはそうだけど……。でもまぁ、たまには野宿でもいいか! 今を楽しまなきゃ」
「ポジティブな奴だな……」
ネプテューヌはテントを組み立て終えると、調理セットと食材を取り出した。
「夕飯はカレーで良い?」
「任せる」
「何か入れて欲しい食材とか、辛さのリクエストとか無い?」
「任せる」
「もー、素っ気ないなぁ」
なんて言いつつ、ネプテューヌは調理に取り掛かった。クロワールはなんとなく、空を見上げた。澄んだ空には雲一つなく、満天の星空と綺麗な三日月が浮かんでいた。
(……いつぶりだろうな、こうやって空を見上げたのは)
本の上に横になって空を眺める。見てるだけで心が洗われそうなくらい綺麗な空だ。
(前は……確か……)
『あ、イストワール、ここにいたのね』
『あら……□□さん、何か用ですか?』
『うん、ご飯の時間だから。イストワールは、ここで何をしていたの?』
『空を見ていました。今夜は快晴で、星も月もよく見えるんですよ』
『本当だ……。凄く綺麗ね』
『□□さんも少し見ていきませんか? 女神としての仕事も大事ですが、気分転換も大切です』
『そうね、そうするわ』
『……』
『……』
『ねぇ、イストワール』
『はい』
『私って、料理出来ると思う?』
『唐突ですね。うーん、歴代女神は料理はしてきませんでしたし、正直に言うと……出来ないと思います』
『やっぱり?』
『はい。ですが、なぜ急にそんなことを聞いたのですか?』
『そう答えると思ってね、私料理作ってみたんだ』
『……はい?』
『大丈夫、味は保証するよ。だからイストワールも食べてみて』
『え、えぇ……』
『ほら、行くよ!』
『わ……』
(……変なこと思い出しちまったな。あれはあの後……)
クロワールは小さく溜息をついた後、口を開いた。
「……なあ」
「ん? どうしたの?」
ネプテューヌは野菜を切る手を止めてクロワールの方を見た。
「今どこまで作った?」
「まだお米炊いてるとこだよ。カレーはこれから作る」
「そうか……じゃあさ」
クロワールは起き上がり、ネプテューヌに背を向けて胡座をかいた。
「……甘口で、肉多めのカレーにしてくれ」
「……わかった。クロちゃんって甘口好きなんだね」
「そういう訳じゃねーよ。ただ……」
「ただ?」
「……久しぶりに食いたくなっただけだ」
「……? ……あ! 母の味ってことね」
「ちげーよ! お前にはわかんねーよ!!」
「照れなくたって良いのに〜。いくつになっても母の味って忘れられないものだからね」
「だから違うって!!」
茶化すネプテューヌと、それに反論するクロワール。賑やかで(ネプテューヌにとっては)明るい雰囲気の中、カレーは出来上がった。
「じゃあ、食べようか」
「あぁ」
クロワールはカレーを口に運んだ。ごく普通の甘口のカレーの筈なのに、懐かしさを感じる、そんな味だった。