【完結】殺生丸はメイドラゴンと再会し、現代を行く 作:妖怪もやし
殺生丸は、ファフニールから教わった認識阻害で自分と阿吽の姿を隠し、あちこちを飛んで回っている。
白く長い毛皮を布団と枕にして、山や森や洞窟で眠っているらしい。
「それってホームレスじゃ…」
トールが呆れる。
臭いで秘湯の場所が分かるので、清潔度は保たれているらしい。
邪見の持つ特殊な杖を使えば、温泉もあっさり作れる。
噂の彼が小林さんちにふらりと訪れ、カンナが宿題をしている姿を眺めている。
「書物か。 ずいぶん様変わりしたな」
「うん」
「読んでも良いか?」
「いいよ」
カンナから教科書を受け取る殺生丸。
表情は変わらないが、どこか困惑した空気を察してカンナが尋ねる。
「どうしたの」
「理解できない文字列があってな」
「あー…昔とはかなり言葉が変わったからね…。 色々な外来語もあるし」
納得したように頷く小林。
「でも、ファフニールたちとゲームしてたじゃん。 あの時って、説明書を読んで操作方法を覚えてたんじゃないの?」
「読んではいない。 『ふぁふにーる』達の手の動きを見て、真似したり、変化をつけただけだ」
殺生丸は家を離れ、滝谷家に。
「言葉の習得か。 俺にとっては容易いことだった」
「その方法は」
「お前の国の言語だろう。 …言語が変わった? そうだな、ただ教えてばかりというのも芸がない。 俺の運動に付き合って貰おう」
「良いだろう」
小林さんちで家事をしているトールは、滝谷家から阿吽に乗った殺生丸と、ファフニールが出ていくのを見た。
他の者にはその姿は見えない。
状況を察し、トールはほくそ笑んでいる。
(馬鹿めっ! ファフニールさんは私でも勝てない相手! ボコボコにされて、ドラゴンと犬の違いを思い知って、尻尾を撒いて逃げ帰るがいいですよ!)
家事が片付いた辺りで見にいくと、既に終わったような雰囲気。
満身創痍の殺生丸が…というわけでも無く。
「なんでです!?」
「重傷を負って寝ているうちに、力が増したようだ」
「どこの戦闘民族ですか!」
「俺もイベントでの狩りをしているうちに力が…」
「貴方はもうこれ以上、強くならないでください!」
二人とも、どこまで本気で言っているのやら。
「人ならざる者でありながら、剣を使うか。 面白い」
「これが私の誇りだからな」
「フッ…そうか」
なお、ファフニールから文字の覚え方を習ったものの、殺生丸は諦めたという。
今までの知識や経験とは全く別物の『認識阻害』は覚えられた。
しかし、元から習得していた日本語が変化したものや、外来語は苦手なようだった。
「才川、一年生と二年生の時の教科書ってある?」
「あるわよ!」
「少し貸してもらえる?」
ぎゅっ。
「もちろん良いわよ、カンナさん!」
「才川、よだれ出てる。 でもありがと」
カンナが貸りてきてくれた教科書を熟読する邪見。
「おお! 感謝するぞ、北方の龍!」
「ん、うやまえうやまえ」
「殺生丸様の補佐はこの邪見にお任せを!」
邪見は現代知識を少し習得した。
カンナは才川に教科書を返した。
そんな彼が、何故か同人イベントに興味を抱いた。
「呪いの術を記した書物か」
「ああ。 今度こそ、俺の新作で人間どもから感嘆と賛美の声を出させてやる」
(龍が筆を執り、自らの叡智を記すか…。 本当に時代は変わったようだ)
「私は書物は書いたことが無い。 人間たちが書を記し、誌を読みあっている姿を見たことはあるが」
考え込む殺生丸。
「当てがあるようだな。 何を考えている?」
「その日の楽しみにとっておけ」
同人イベント当日。
殺生丸は嗅覚が秀でている。
戦国の世では、遠く離れた地での出来事も手に取るように分かるほどに。
その際に嗅覚で認識していた、刀々斎の刀造りのやり方を思い出し、その模倣で刀剣を作り出す。
材料は石なので、刀剣と言えるか怪しいが。
神秘的な容姿の殺生丸が、和服を纏い参上する。
男女を問わずに場に居た者の視線が惹きつけられ、彼が懐から取り出した物にも注目が集まる。
いざ販売しようとして、彼は別の場所に連行された。
会場のお姉さんに連れていかれる最中の、金髪の豊満な美女とすれ違う。
露出が多すぎたようだ。
「やぁ殺生丸くん、君もかい?」
「今の世に刃物は好まれないようだな」
「まぁ、時と場所によるんじゃないかな~」
ルコアが緩やかに諭す。
殺生丸は署に連行されそうになったところを、その速さをもって脱出した。
「もう、困った子だなぁ。 小さなイベントで良かったよ」
本来ならば、殺生丸は同人イベント全般に出禁になっていただろう。
ルコアによってそれは救われた。
だが、彼の強烈なまでの存在感と美しさは、ルコアの力を持ってしても消しきれなかった。
「礼を言う」
「警備の人に何かしちゃうかと思ってハラハラしたよ」
「…異界からの来訪者である貴様らが、人間たちの掟を護り、いたずらに命を奪わずに居る。 私がそれをしては滑稽なだけだろう」
「うんうん、素晴らしい!」
ファフニールは今回も新作の在庫の山を抱えて帰宅した。
「何故だ…」
「その道を貫くべきだ、『ふぁふにーる』。 人間どもに貴様の叡智が理解されるには、時間が必要なのだろう」
「そうだな」
「応援しちゃうんだ…」
つづく