【完結】殺生丸はメイドラゴンと再会し、現代を行く 作:妖怪もやし
殺生丸が眠りから目覚め、ドラゴン達と出会ってから数十日。
今日も彼は日本全国津々浦々を巡り、景観の変化を見渡す日々を送っていた。
「関東と呼ばれるこの地も、私が知る頃はこうでは無かったのだがな」
「そうなの?」
ふと立ち寄った小林さんちにて、日本地図を手に語る殺生丸。
お相手はカンナ。
「池と沼と山と大地が広がっていた。 不安定だが、少し落ち着く地形だったな」
「この辺も都会っぽいですけど、ちょっといけば山とかは残ってるよね」
「そうだな。 私はああいった場所の方が好みだ」
小林にそう返して。
同席していたエルマの甘味を口に運ぼうとする殺生丸。
俊敏な動きでそれを阻止するエルマ。
「って、何フツーに取ろうとしてる!」
「私の分は無いのか」
「無いです! というか誰ですか貴方!」
「私の名は殺生丸。 妖怪だ」
「妖怪か…。 調和勢として、その存在を容認して良いのか…? あっ!」
「うまうま」
「あああ~っ! 私のワッフルが!」
考え込んでるうちに、エルマの甘味はイルルに食べられていた。
そんなある日のこと。
「へー。 この辺の神社って、そんなイベントがあったんだ」
「ああ。 でも、神主さんが腰をやっちゃってねぇ。 代役が欲しいんだってさ」
「…じゃあ、あの人ならどうかな? トール?」
「えぇ~…」
商店街で買い物をしていた小林とトールは、ご近所の神社の事情を聴く。
小林の提案しようとした事を察し、トールは難色を示す。
「だいたい、あの人って普段は日本中をウロウロしてて、思い出したようにウチに来て何か食べて帰ってますしね。 連絡が付かないんですよ…」
「俺が呼べば来る」
「ファフニールさん!」
珍しく外に出ていたファフニールが話を聞きつけた。
「そんな方法があったんですか?」
「あの人ってスマホとか持ってないよね?」
「ああ。 だが呪いの龍と呼ばれた俺に不可能はない」
「それ、呪い関係あるんですか…?」
トールの些細な疑問を華麗にスルーし、去っていくファフニール。
そして、神社における行事の日がやってきた。
この神社では、毎年ある時期になると、地域の学校などで作られた模型が用意される。
かつて日本に存在し、猛威を奮った龍を模したもので、それを斬ることで災いを断ち、一年の幸せを願う神事が行われている。
「どっかで聞いたようなイベントだね~」
「私達ドラゴンとしては、ちょっとイヤなイベントですね…。 これだから人間は!」
ルコアとトールの感想はさておき、行事は粛々と進んでいく。
時間になり、その男が現れた。
この世のものとは思えぬような白銀の貴公子の出現に、誰もが圧倒される。
感嘆、尊敬、畏怖、恍惚、恋慕。
あらゆる感情を浴びながらも表情を一切変えず、鞘に手をおく。
もちろん、爆砕牙では無い。
神社側が用意した模造刀を、静かに抜いた。
その男の動きは、一つ一つが神秘めいた美しさを秘めていた。
無自覚に魅了を振りまく彼が動く姿は、人間の目では捕らえられなかった。
次の瞬間。
誰かが、風が吹いたと感じた時。
彼は定められた位置に佇み、刀を鞘に納めていた。
音を置き去りにしたような動きに、観衆は動揺の声ひとつ出すこともできない。
龍を模した造形が切断されて地に落ちて暫くして、ようやく彼らの意識は戻った。
膨大な拍手と歓声を浴びながら、殺生丸は静かに退場した。
神社側は驚いている。
本来ならば、彼らが用意した模造刀では何も斬れぬ筈であった。
刀の動きに合わせ、予め用意されていた細工が発動し、斬り落とされたように見せる筈だったのだ。
殺生丸の美しさに魅入られた関係者が、細工を発動させることができなかったこと。
模造刀を本物の日本刀のように扱い、容易く対象物を切断できる殺生丸の技量。
両方が組み合わさったからこその現象である。
無論、それを知る由もない観客は大盛り上がりである。
神社側としては、元より催しが終われば廃棄する予定の模型を斬られたので損は無い。
その残骸を欲しがる者も出る始末だった。
「…なんだか、凄かったね」
「キレーだった…」
「ふ、ふんっ! あんなのパフォーマンスですよ! 格好つけです!」
「トールもファフニールも、奴と戦ったのか? 私も戦いたい!」
小林、カンナ、トール、イルルがそれぞれの反応を示す。
そんな中、滝谷とファフニールの傍に居た小柄な人影が、歓声を上げていた。
子供用の服を着こみ、帽子で顔を深く隠した邪見である。
捨てられていた服の中で、比較的清潔でサイズがあるものを入手していたようだ。
「よしっ! これで『あっぷろーど』成功じゃ! 滝谷! 褒めてつかわすぞ!」
「いやー、お安い御用だよ」
「おい、何をした」
「詳しい話はあちらで…ぎゃああああ! ここに居るだけで浄化されそうだ。 ギリギリの位置を選んだのに!」
「俺は何とも無い。 これだから小妖怪は困る」
一先ず、移動する一行。
「殺生丸って、あの殺生丸…!?」と動揺しまくっている翔太くんは、ルコアが連れて帰った。
「あー、やっと落ち着いた」
「続きを言え」
「殺生丸様の美しき姿を、この街だけで完結してしまうのでは勿体ないので! この不肖、邪見めが、広告収入の為…あ、いや、忠義の心にて世に広く拡散したものであります!」
ファフニールには敬語の邪見。
カンナから小学一年生や二年生の教科書を借りていたレベルだった筈だが、現代機器を使いこなしている。
「いつの間に現代に順応したの?」
「この邪見、かつては妖怪達の頭目をしていたコトもあってな」
「お前、弱そうなのにか?」
「弱そうとはなんだ、イルルとやら……! い、いや何でもないです。 ハイ」
一呼吸おく邪見。
「…で、今を生きている小妖怪から話を聞いたり、落ちている雑誌を拾うことで研究を積み重ねたのだ!」
「うわ、本当にアップロードされてるよ」
「複垢だね」
滝谷はいったい幾つのアカウントを持っているのだろう。
その動画は世界を駆け巡った。
眉目秀麗の白髪の青年が刀を抜き、龍を模した造形を切断するという構図は、国外を中心に話題となり。
邪見は広告収入でウハウハとなり、滝谷に礼の代金を支払うと殺生丸の元に戻っていった。
「…うわ、再生回数がとんでもないことになってる」
「この邪見に抜かりはないわい! タイトルも説明文も英語にしておいたからのう」
「いつの間に英語を…?」
「覚えてはおらんぞ。 『クークル翻訳』とやらを使っただけだ」
「今更ですけど、妖怪なのに神社とかフツーに入れるものなんですね」
「殺生丸様ほどの方になれば、神社への出入りも容易いわい! …まぁ、場所にもよるがな」
白霊山や、桔梗の妹の楓ばあちゃんが居た村を思い出す邪見。
ああいった霊力の高い場所には、流石の殺生丸も足を運ぼうとはしなかった。
今はどうなのかは誰にも分からないが。
「邪見はそんなに強い妖怪でも無いっぽいけど」
「ああ…危うく死にかけるとこじゃったわい。 って、強くないとは何だ! 人妖杖を振りかざし、敵を薙ぎ払うこの邪見の姿を見れば、貴様もそのような口を叩けんようになるわい!」
「でも、危なかったんでしょ」
「ぐ…」
「あー、だから早く神社から離れようとしたんだね」
「ふん、焼き焦げちゃえば良かったんですよ」
「っていうか、妖怪が神社で神事をやっちゃうって、色々アレな気がするね…」
小林さんちにて、そんな会話を交わす彼らであった。
「おい、エルマとやら」
「何だ?」
「以前、お前がイルルに食べられてしまった甘味だ」
邪見が買っておいたようだ。
殺生丸はいつぞやの事を覚えており、子供に扮した邪見に買わせておいたものをエルルに渡した。
「~~! ありがとう! あなたは良い妖怪だ!」
途端に掌を返すエルマを見て、げんなりするトールなのであった。