斥候じゃない、盗人(シーフ)だ 作:九条何某
「才能は盗賊で」
「おk」
大体上記のようなことがあったのだ。
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面倒くさい話をしようと思う。一々語るのも面倒だが、時折思い返して後悔ということを、しておきたいのだ。
結論をいうと、俺は転生者だ。まぁ、それはいいんだ。記憶があるのも、転生側の都合だったりそういうのがあるんだ。
一々、そんなことを語った所で俺の過去の命が戻るわけでもないし、パソコンの中身が消えるわけでもない。
俺のエロ画像フォルダが、形見分けで何処へ流されたのかを確認する術などないのだ。だから、過去のことはいいのだ。
俺が願ったチートが問題なのだ。こうしてボヤッと川を眺めていると、いつも思う。何で魔法の才能にしなかったのかと。
大体の転生オリ主様は魔法の才能豊富で、剣技に優れる秀才というか、騎士というか、そんなのが多いと思う。
もちろん筋肉至上主義の世界で魔法が使えてもどうかと思うし、逆に魔法最強の世界で剣が使えるから何なの? ということもある。
つまりは、世界によって持っている物は変化するということがいいたいわけで。
「こんな汚れた能力が欲しかったわけじゃねぇんだけどな」
自分の手を見る。手には、大量の金貨があった。先ほどスッて来たものだ。
そう、俺の才能は盗賊で、特技は盗みだった。
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しかし、間違えないで欲しいのは別に後悔しているとか、そういうことではないのだ。
例えば俺は今、肉の串焼きを口に頬張りながら、街を適当に散策しているのだが、この肉を買う金は盗みで得たということだ。
腹が満たされれば、何でもいいんじゃないの? という心が芽生えてくる。実際、最近はそんな感じだ。生産活動とか行っていない。
これが魔法ならば引く手数多の就職先があるのだが、残念ながら才能が盗賊だと、ちょっとどうしようもないのである。
既に犯罪を管理する系のアレには引っかかるし、やっちまったもんはしょうがないのだ。
何度もいうが、過去のことはいいのだ。返らないものを一々考えるのは面倒なことだ。
今、俺が頬張る肉が美味ければ、それで問題はない。ないのだが……。
問題は、その意識だと思う。盗みに対する罪の意識が希薄なのはマズいと思うんだ。
もちろん職業盗賊なので盗むのが仕方ないのだ。手先が器用なんだから別のことしろとかいう声もあるが、それは流したい。どうせ長続きする気しないし。
とにかく罪の意識の無さは、マズイことなんではないだろうか。その辺、どう思う?
「なぁ、俺盗人じゃん、ババア」
「そうだね」
「罪の意識ないんだけどマズくね?」
「大丈夫だろ」
「そう? じゃあ大丈夫か」
解決した。俺は自宅で雑事に追われるババアに罪の意識ないけど大丈夫か聞いたが、大丈夫らしい。
郷には入れば郷に従えというし、罪の意識なく盗人しよう。そうしよう。
もぐもぐとリンゴを頬張りながら、ボヘッと宙を眺めた。汚い我が屋である。ウルトラ貧民層臭がして、俺はこの家が好きではない。まぁ、まんま貧民なんだが。
貴族とかに産まれたら生産方向にシフトしたんだろうか? いや、しないか。根がぐうたらだしな。
「それよりアンタ、今日の稼ぎ幾つだよ」
「パンピーからスると後味悪いから貴族にしたんだよ、金貨いっぱいだった。皆に配ったから残ってるのは銀貨5枚と金貨1枚だな」
「冬支度いけそうだね」
「いけるんじゃねーの? 知らんけど、毛布とかしっかりしたの買ってよ、去年俺マジで風邪引きまくりだったんだけど」
「バカをお言い、薪が先だよ、アレがないと始まらないんだ」
「薪くらい拾ってくればいいだろうがよー」
「森に入る税金どうすんだい」
「んなもんバレないように夜行って夜帰って来るわ、その分で毛布買えやババア」
「……やれるのかい?」
「2,3度ならバレる気しねーよ、一応野営したっていいぜ? 直接出入りすっとうるせーから門使わなきゃいいんだろ? 石壁だから昇ろうと思えばいけるぜ」
「あんたは本当に……」
「何、その顔」
呆れたと言わんばかりの顔である。失礼なババアだ。
「なんだババア、言いたいことあんならはっきりいえや」
「何でもないよ、親孝行もん」
盗みで親孝行しても喜び母親がいるらしい。
異世界とはそういうものらしい。昔じゃ考えられなかったが、実際、それで生計立ててるんだから仕方が無い。
父親がいない上に、まともに学がない女の扱いなんて良くないのは当然だ。それが中世レベルで貧民なら、尚更のことだ。
つうか父親誰なんだろうな。俺特別だから処女懐胎でもしたんだろうか。
「…………」
「…………」
静かだ。とても。会話は、続かない。共通の話題がないからだ。
針を服に通しながら、ひたすら沈黙が続く。針を通すのに、音があればいいのに。
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家族間で気まずいというのは、家庭環境として大変よろしくないと思う。しかし、母親がいつも感極まって無口になるのを、茶化し続けられるほど俺は明るい性格ではない。
これが魔法とかなら、もしかしたら母親の病気を治して幸せ家族計画とかいう展開はあるんだろうか。まぁ、魔法だって、そう簡単なものじゃない。
学ぶのに金がいるのだ。だから、治す前に母親が先にくたばるだろう。盗賊でも、魔法使いでも一緒だ。
「あぁ、世知辛い」
面倒くさい。俺は面倒が嫌いだ。やっててモヤモヤするからだ。自由に、縛られずに生きたいのだ。それは自身の制約だって含まれる。
自分で決めたことを、自分で守ることは面倒だ。他人ならば尚更である。なぜもっと気楽に生きられる社会じゃないのだろうか。
ぶらぶらと街中を歩きながら、時折隙だらけのバカから財布をかすめ取る。音も、動作もほとんどない。自然と手元にあり、懐にしまうだけ。
「……世知辛い」
才能。卓越しすぎてるのだ。恐らく世界で誰よりも盗むの上手なんじゃないだろうか。
そう、才能を見極める眼を持つ人間がいても気付かれないほどに上手なのかもしれない。そう思う時がある。
既に七年ほど、小遣い稼ぎで盗みを働いているのだが。未だに誰にも気付かれない。
露天から抜いても、バレなかった。お目こぼしされてるのかと疑うこともあるが、他人にそんなことする必要はないはずだろう。しかも盗人である。
リンゴをもぐもぐ食べる。美味しいと思う。甘酸っぱくて。味がないクソリンゴとは訳が違うと思う。
はっきりいうが、俺は働いたことがある。それで買ってリンゴを食ったことがある。味は変わらないよ。働こうが、働くまいが。どっちでも同じだ。
「どっちでも同じだ」
同じなんだよ。
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ダラダラしていたらババアは死んだ。毎日、ボケッと生きているからだ。気付けば人は死ぬもんだ。
歳月が流れるとは、そういうものだ。売春で病気になって体を病んだだけだ。よくある話だ。
去年、それで死んだ人間を知っている。その子供は、どうなっただろうか。
どうもない。のたれ死んだだけだ。生きられなかっただけだ。俺より年下で、俺より能力のないガキだった。実は仲が良かったのだ。
一ヶ月間、会わないで違和感を抱く程度には。
「おい」
「んだよ、おっさん……」
死体を貧民街の頭に引き取ってもらう。金は払った。これで墓地には入るだろう。汚い金で墓に入って、あの人は幸せなんだろうか。
いつも泣きそうな顔ばかりだ。痛かったのか、苦しかったのか、知らない。嬉しくはなかっただろうと思う。そうでありたい。
その程度の良識を、親に期待するのは間違いなんだろうか。
「誰がおっさんだ、これからはお前の面倒は俺が見る」
「嫌だよ、知らないおっさんの世話になんかなるの」
「んだと? 生意気なガキだな! 殴られたいのか!」
「やってみろ」
言うが早いか、拳が飛んでくる。片手でひねって地面にキスさせてやった。
「ゴッ……」
「あのよぉ、てめぇ誰に口聞いてるんだ、あ? 誰に口を聞いてるんだ?」
そのまま頭を踏みつぶす。そもそも誰なんだよ、これ。勝手に人の人生決めやがって、何様のつもりなんだ。
俺は今―――。
感情が言葉にならない。何を思っているんだろうか。
貧民街に産まれて、スリで生きてきて、生かしてきた親が死んで、俺は何を思えばいい?
答えは、いい、教えなくて。いずれ忘れるだろう。何より、どれだって同じなんだ。
「大体てめぇにつこうが、何だろうが俺の生活は変わらないんだよ、どっちでも同じだろう。だったら偉そうにすんじゃねーよ」
「てめぇ、ガ」
「口の聞き方がなってねぇんだよ、腕取られてんだぜ、てめぇ、折って欲しいのか? だったらいえよ、サービスしてやるぜ」
「ま、待ってくれ! わかった! 俺が悪かった!」
最初からそういえば良かったのだ。誰も彼も気に入らない。思い通りになるならないはどうでもいい。
静かに生きたいわけでもない、だが英雄になどなる気はない。何になりたいかなど、決めたことはない。
だが、他人が俺を決めることは許せない。狭量で、余裕がないガキの考え方だ。だが、どうでもいいのだ。
どれだって同じだ。同じだが、選ぶなら俺が選ぶのだから。お前らでは決してない。
「すんげぇガキだな、おーいてぇ」
「で、面倒見てくれるんだってな、去年死んだ奴みたいに死体を野ざらしにしないサービスでも始めたのかよ」
「あ、あぁ? 去年……あぁ、あのガキか、何だよ、だから刺々しかったのか? お前とあいつは違ぇよ」
「一緒だよ、売春で病気煩った母親が死んで、訳わからん世界で使い潰されるんだろう。鉄砲玉にでもすんのか」
「いや、そういうわけじゃねぇけどよ……」
「煙突ふきの仕事は肺を患いやすいそうだなぁ、おい、で、一番頑張ってお仕事してんのは誰だよ」
「あー……」
「臭い臭いもん運ぶのは魔法使いの仕事だが、金がないところは誰がやるんだろうな? もしくは官吏と結託して一部委託されたらどうするんだろうな?」
「…………」
「密売の時の売人は若い方がいいもんな、若いってのは資源だよ、それだけで疑わないでやってくれるからな。捕まった時に知らなかったと叫びながら死ぬガキはうるさい、そう思わないか?」
「あ、あぁ、そうだな」
「俺もそんな声は聞きたくない。自分のなら尚更だ。お前らが何をさせたいかは知らないが、俺は俺のやりたいようにしかやらねぇぞ、そこは勘違いすんな」
面倒は嫌いだ。それが訳のわからん仕事なら、尚更だ。
飯は美味くならないがマズくはなる。どっちでも同じじゃないことは、ある。
……街を出ようか。
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ダンジョンという物を知っているだろうか。
ファンタジーで良くある物だ。ダンジョン都市とか、運営されたりする奴だ。この世界にもある。
一発当てたい奴が行く場所だ。逆転劇には二種類ある。
ダンジョンで当てるか、冒険者で当てるかだ。身分などどちらも保証されてない物がなるもんで、一発飛ぶ率が高い。落ちる率もだ。
街を顧みる。もう一度帰って来ることは、あるんだろうか。ないかもしれない。どうでもいいか。
どちらでも、きっと同じだ。誰も俺を覚えてはいないだろう。
ステータス
主人公
筋力3(12) 体力3(11) 耐久2(92) 生命2(65)
器用12(56) 敏捷8(65) 反射14(55) 誘導8(11)
※一般人は3~5前後
続き未定