斥候じゃない、盗人(シーフ)だ   作:九条何某

2 / 3
後で一部改正します。多分。


1.序曲

ガラガラとけたたましい音を立てながら、馬車に揺られていた。サスペンションなどという便利がない馬車な上に、クッションとなる藁などもないため、乗っていて不快感しかなかった。

だが、俺が持っている金で乗れる馬車はこの程度だったし、何より高いのは実は乗る権限すらない。重力魔法を使った揺れない馬車は、貴族専用なのだ。それをとやかく言うつもりはない。そもそも、そんな高い乗り物、乗れるのは貴族ぐらいしかいないなのだから。

ただ、いい加減、腰が限界だ。横を見れば全員がうんざりとした表情で床を見つめている。中には剛毅なもので、寝ている者もいるのだが、先ほどからウンウンと唸り声をあげているので、恐らくは悪夢を見ているものと思う。この状態では当たり前ではあるが。

 

「まだつかねぇのか……」

 

一人がぼやくように呟いた。全員の心は一致している。早く馬車から開放して欲しい、それだけだ。さすがの俺も、いい加減に弱音を出したくなってきた。

それを飲み込むのに苦労しながら、時を待つ。歩けば良かったという思いと歩けば、身の安全は保障されないリスクがあるぞという理性が先ほどからうるさくせめぎ合っている。どっちにしろ、既に乗っているのにくだらないことだ。過去にしがみつく行為のなんと唾棄すべきことか。そしてわかっていても思ってしまう俺の惰弱さよ。くそが。

 

「あぁ、見えたぞ! アレだ!」

 

一人が待ちかねたかのように叫ぶ。すると、周りもゾロゾロと窓から顔を出して感嘆をあげる。俺も混ざりたいが、既にギュウギュウ詰めのあそこに突っ込む気がしない。

しばらくして、都市の入り口で馬車が停車する。ここからは馬車は管轄外だ。馬車は金を払われたから送っただけであり、中に入れるかどうかは別問題である。

若干柔らかい土の上に飛び降りる。まぶしい光が、目の前を覆った。黄昏時。昼頃に出たから、およそ3時間前後の道程だった。3時間もアレに耐えたのか。人生で無駄な時間ベスト幾つに入るだろうか。きっと上位に違いなかった。

 

「それでは! 都市に入る方は並んでお待ち下さい! 一人一人確認して行きます!」

 

そういうと、都市の衛兵がオーブを取り出す。これが人の犯罪だとかを勝手に調べられる霊験あらたかな宝具である。ちなみに不良神官が適当に力を込めても作れる。光魔法の一種で、よほどの不信仰者以外は余裕で作成が可能だ。

さらに需要は一定ある上に、消耗品なので光魔法の神殿はいつでも金がうなっているともっぱらの噂である。噂だけじゃなくて、本当にそうだが。

 

また、オーブは犯罪をしたか否かを判別出来るが、種類までは無理だ。犯罪はカルマ値という数値で表示され、その数値を考慮に入れて都市入場に関する扱いなどが決定される。

考慮、といったのは単純に貴族とかだとカルマ値がどれだけあっても普通に貴族扱いで入れるからである。権力とは便利なものである、使いすぎれば身の破滅だが。

 

「次、お前だな、とりあえず名前とどこから来たのか、そして目的を教えてくれ。虚偽はオーブが判別するから無意味だ、しないように」

 

大嘘である。そんな機能はない。だが、意外と知らない奴は知らない。

だが、俺の方は嘘をつく気もない。そもそも怪しい上に、完全に犯罪者なのは間違いないのだから、隠さずに申告すべきなのだ。

 

「名前は……ジルとだけ呼ばれていた。出身は南のキンゼー子爵のお膝元、オードラントの貧民窟の出身だ。目的はこの町のダンジョンだ」

「ふむ……なるほどな。お前は犯罪をしたことがあるな?」

「あるよ、貧民窟出身だからな。でないと死んでたんでね……そこは勘弁してくれ」

「お前の様な奴はよく来る。だが、安心しろ。きちんとした手順を踏みさえすれば、お前はすぐに我が都市の在留外国人として取り扱われる。説明がいるか?」

 

「頼む」

「まず、カルマ値が高いお前は、監視対象の外国人として扱われる。要注意人物だということだ。この場合、基本的にダンジョンのある中央街と南の区画以外は行けないと思ってくれ。南の区画は宿屋に武器、防具屋など冒険に必要な物はある。それ以外には娼館などはあるが、基本的には娯楽に関する施設はないと思ってくれ。治安悪化対策だ。わかるな? 次に、在留外国人になる条件だが、お前は仕事をしなければいけない。それはダンジョンでもいいし、南区で募集している仕事でもいい。基本的には力仕事の補助が基本だ。そういった仕事を日々続けて、カルマ値を下げて行くんだ。さらに、一定以上の功績だ。これは、小さい功績を積み重ねるだけでいい。そもそも、ダンジョンで取得した物品を売るだけでも功績にはなっている。もしも、手っ取り早く功績が欲しくなったら冒険者ギルドの依頼を受けるといい。ダンジョン以外にも、魔物に困った人間はいる。そういう人を助けるんだ。そうすればダンジョンなんかより、功績は稼げる。一般人に近づきたいなら、依頼を受けるといい。最後に、在留外国人になるには金がいる。これは、要するに担保でもある。問題を起こした時に、この都市がお前のために動くには金がいるのだ。そのために、大金を預かるのだ。実際、街を出る時には返って来る金だ。一度なってしまえば、入るときに同額を預けるだけで在留外国人として扱われるようになる。わかったか?」

「あぁ、随分と丁寧に話してくれてわかりやすかったよ。随分親身になってくれるんだな」

「俺も貧民窟の出だからな」

「なるほどね」

「決して犯罪は犯すな。監視中の外国人の扱いは軽い。何人も見てきた。特にお前の様な子供が処刑されるのは辛いのだ」

 

そういって、認定証を渡してくる。空欄が目立つが、どうやら冒険者ギルドで調査された内容が記入される部分のようだ。

というよりも、恐らくこういった要注意人物などの管理を冒険者ギルドが請け負っているというべきなのだろうか。荒くれ者共を纏める場所でもあるから、ちょうどいいのかもしれない。

 

「……善処するよ」

「今はそれでいい。それでは、まずは冒険者ギルドに案内する。ついて来るといい」

 

先導されて門をくぐる。長い通路を抜けていくうち、喧噪が体を貫いていく。

抜ければ、黄金色に染められた町並みが姿を現わした。はっきりいってうるさい。

 

「随分と騒がしい街だ……」

「時機に慣れるだろう。ここがそうだ」

 

歩いて少し、赤い建造物が見えた。剣と盾を模した屋根看板が、わかりやすい。わかりやすいがダサい。利便性を追求した結果だろうか。

 

「後は、渡した物を見せて説明を聞け。ではな」

 

そういうと、衛兵を立ち去っていく。お節介焼きだった。情に篤いというべきか。

 

ギルドの中に入る。中は、今は閑散としていた。既に仕事を終えたのか、それともちょうど静かな時に入ったのか。

どちらでも同じか。どうせ、やることは変わらない。だったら静かな方がマシといえる。

外の喧噪を、少しでも忘れられるのはありがたい。

 

「……初めて街に来たんだが、ここでいいのか?」

「はい、こちらが受付となっております。衛兵の方に渡された身分証明を頂けますか?」

 

いわれた通りに差し出す。

 

「はい、えーと……お名前がジル様で……カルマ値が、これですね。それでは、少し調べさせて頂きます。まずは、このオーブに手をかざして頂けますか?」

「……またオーブか」

 

ぼやきつつ、手をかざす。何でもかんでも水晶だかガラスだかわからん玉で調べられるのは、気分が良いものではない。

しかし、煩雑な手順を重ねないだけマシではあるのかもしれない。全ての物事を一々口頭で説明するとなると、ゾッとしない。

 

「えー……はい、なるほど。わかりました」

 

そういって受付嬢は何かを書き込んでいく。一体何がわかったのか。

それからしばらくして、ようやく顔を上げた。

 

「それではご説明させていただきます。先ほどオーブですが、精霊による加護があるか否か、適正の高そうな職業、そして魔法の適正などを調べていました。ご希望でしたら、こちらで暫定的な調査書をお渡ししますが、文字は読めますか?」

「少しだけなら読める」

「それでは、説明ではなく調査書をお渡しするだけにしますか? 今日は遅いですし、何より来たばかりですし、早めに休んだ方が良いでしょう?」

「いいのか?」

「はい、問題ありません。そして宿ですが、申し訳ありませんが、こちらが指定した宿に泊まって頂きますね。安全な宿なので安心して下さい。ただ、部屋などは三ヶ月ほど動かせませんし、他の宿屋に行っても断られる物と思って下さい」

「それは監視しやすいようにということか?」

「はい、その通りです。ですが粗略に扱ったりは致しませんので、そこは安心して下さい。ちなみに、宿賃ですが銀貨で90枚となります。三ヶ月後にお返し下さい」

「……わかった」

 

銀貨90枚……払えない額じゃないな。受付嬢の言うとおり、本当に安全な宿だったら割と良心的な額だ。一応支援の一つってことだろうか。

その代わり、監視しやすくしているということだろう。まぁ、わからんでもないか。

 

「宿の場所ですが、地図を渡しますから自分でお願いします。南区についての地図でもありますので、道に迷った時もお使い下さい」

 

そういうと、安っぽい紙切れ一枚渡される。中には随分と簡素な地図が描かれていた。わからないこともないが、道に迷った時に本当に役に立つか疑問である。

主要な建造物がわかるのは良いが、それ以外は何の役にも立たなそうだ。ありがたくもらっておくが、買い換えられるなら買い換えよう。

 

「それでは、またわからないことがありましたら、お立ち寄り下さい」

「あぁ、それじゃあ」

 

ギルドから出て、大通りを道なりに進むと、宿はすぐに見つかった。

カウンターも、身分証明を見せたらすぐに場所を指定された。三階の狭い個室だ。はっきりいって、寝るくらいしか出来ないだろう。それでも、人心地つけるのはありがたかった。

部屋の鍵をかけてから、ベッドに横たわる。ありがたいことに、シーツはそれなりに清潔だった。飯は別料金らしいが、拠点としては悪くない。

それにしても、来る前に家財道具を全部売り払ったのは、どうやら正解だったようだ。こんな狭い場所では持ち込めない。

まぁ、持ち運ぶためには馬車を貸し切る必要があるため、どのみち辛い。金がないとはいわないが、湯水のように使えるほどではない。

 

「今日からここに住むのか……」

 

思ったほど感慨深くはない。一人で生きていくことに疑問を感じたことがないからだろう。

むしろ養っていたほどだ。方法や手段の倫理性に目を瞑れば、甲斐性があったとさえいえる。

それに、長いこと独り寝だ。親と一緒の寝床で寝た記憶があまりない。赤子の頃はあった気もするが、どうだっただろうか。

もう覚えてない。遠く過去のことだ。そして、過去のことを思うのは無意味だ。

 

ゆっくりと日が沈む。既に夜の帳は降りた。それを眺めながら、俺は瞼を閉じた。

 

■■

 

ダンジョンにおいては、色々な職業がある。正確にいえば役割であり、それをこなしながら人々はダンジョンを進んで行くのである。

その一つに、斥候というものがある。罠を外したり、鍵を外したり、敵を見つけたりする役割だ。時には地図を書き込んだりするのも仕事であるらしい。

彼らの仕事如何によって、PTメンバーの安全度は全く変わって来る。戦うのか、逃げるのか、進むのか、退くのか。重要な問題を一手に担う存在である。

決して花形ではないが、いないと困る存在であることは確かだ。市民権を得ている、といえるだろう。

 

スタイルとしては、似ているのだろう。当然だ。元々俺は、そういう能力が欲しくて盗人の能力が欲しいと願ったのだから。

だが、それはPTメンバーを作りたくて、そうしたのではない。一人でも大丈夫なように、だった。

 

石作りの壁を進む。面白いもので、ダンジョンの中は暖かく、明るい。松明が幾重にも張り巡らされていた。

最初に見たときは酸欠になるのでは? と思わず素になってしまったが、その問題はないらしい。

何故なら、消費しているのは酸素ではなく魔素だからである。別の物質が消費されて、炎が発生している。それで充分なのだ。一々難しく考える必要なんて、ない。

 

明るくて見やすい道を進む。一層目。誰もが来ることが出来て、初心者以外の全てが通り過ぎる道だという。

何故ならば、稼ぎが悪いからだ。逆転劇を狙う男達が、細々稼ぐはずがない。俺も、長居する気がないという意味では同じだった。

 

だが、幾ら稼ぎたいといっても死にたくはない。もしも一層できついなら、俺は稼ぎが悪かろうが、この一層に長居することになるだろう。

持っている装備は鉄のダガー。後は軽装の服くらいだ。鎧は買えなかった。軽くて上手な鎧はオーダーメイドであり、とてもじゃないが手が出ない。

命を守る物だから、安物を買う気はしなかった。最終的に布切れでダンジョンに突貫するという命を粗末に扱う行為をしているのだから救えない。

 

「さっきから遠吠えが……」

 

犬のような声がする。狼かもしれない。何にせよ、一歩一歩、気配を探りながら歩く。出来るだけ音は出さずに。

どんな敵が出てくるかはわからないが、この軽装ではまともに食らえないだろう。

特に、狼が出てくるならばキバが確実にこちらに通る。噛み付かれてはいけない。割とハードな仕事になりそうだ。

 

一際大きな遠吠えが聞こえた。この道をまっすぐだ。間違いない。分かれ道はない。残念ながら、一直線だ。数が出て来たらどうしようか? 素直に逃げて、他の道を探した方が良いだろう。

だが、一対一ならば、一度戦って見るのも良いかもしれない。

 

ダガーを構え直す。左手に鉄の重みを感じながら、目をこらす。何か、来る。飛んでる?

 

「ワオォォォォォォォォォンー!」

「飛んでる!?」

 

そう勘違いするほどの滞空時間。咄嗟に身を躱した。そこを弾丸のようなナニカが通り過ぎる。目が追いつかなかった。

振り向いて、瞬間。見えた、羽が生えている。犬に羽が生えている。動かさずに、滑空しているようだ。

床に着地、すぐさま反転して飛びかかってくる。大きな跳躍。落ちない、やはり飛んでいる。

 

下をくぐり抜け様に、腹をダガーでえぐる。鮮血は出なかった。魔石で創られた生物だからだ。

だが、えぐられればバランスが崩れる。着地に失敗し、地面に激突。そのまま煙のように消えた。

 

「……弱いとは言えないな」

 

当たったら、まず間違いなく大怪我するだろう。避けたから無傷なだけだ。さらに、問題もある。

たったこれだけのことで、既に息が上がっているということだ。緊張感と素早い判断を要求されるせいか、疲れるのが早い。

体力がないのだ。明確な弱点だった。連戦など、出来ないだろう。いや、やろうと思えば出来るが、避け続けるなど出来ない。いずれ当たる。そうすれば死ぬ。

 

「ふぅ、ふぅ……とにかく、拾うか」

 

飛ぶ狼の辺りを探る。魔石と、毛皮が落ちていた。ドロップ品のようだ。俺は魔石と毛皮をポーチに突っ込んだ。

このポーチはいわゆる亜空間に繋がってる系のポーチで、小さいながら色々入る。ただし取り出す時は全部出てくるという欠点もあるが、素材の売買などには重宝する、らしい。

冒険者ギルドでかり出された品なので、詳しくは知らなかった。だが入るならありがたく使わせて頂く。無理矢理入れて、実際入った。何も問題ないようだ。

 

「このまま、行くか」

 

日常的な行動をしたからだろうか。少し息が戻って来た。また、感覚も研ぎ澄まされて来る。

油断せずに、ダンジョンを散策した。

 

■■

 

どうやら一層は飛ぶ狼とコボルトしかいないらしい。犬系で統一されているようだ。

飛ぶ狼は一匹だから問題ないのだが、コボルトは群れる。粗雑な布切れと棍棒しか持たないが、数が多く対処しづらい。特にダガーと回避型の俺にとっては天敵だった。

逆に驚かされた飛ぶ狼は、鴨だとわかった。避け様に切りつければ良いのだ。

 

コボルトを避けてウルフを狩り続けた結果、既に魔石が10、毛皮が6個手に入っている。

慣れてくれば、まっすぐにしか飛ばないただの犬だ。もちろん食らえば危ないが、食らわなければ良い。

ただし、それも疲れていないから言えるセリフだ。疲労してくれば、脅威となる。ダンジョンに入ってどれくらいたったか、いい加減体力の限界だった。

 

一層から外に出る。朝に入ったのだが、まだ朝といって差し支えない時間だった。ぶっちゃけ1時間半程度しかいなかったようだ。

それでも体力的に辛い。精神的にもきつい。慣れる日など、来るのだろうか。

 

俺は疲れた体を無理に動かしながら、販売所へと行った。

 

「換金をお願いします」

「はい、かしこまりました。えー、小魔石が10個、フライウルフの毛皮が6個ですね」

 

あの狼、フライウルフというらしい。まんまなネーミングである。

 

「小魔石が一つで銅貨3枚、フライウルフの毛皮が一つで銅貨5枚、合計銅貨60枚です。どうぞ」

「……ありがとうございます」

 

はっきり言おう。安い。あの苦労で銅貨60枚である。割りに合わないという意見もわかる。

三時間で倍だとしても銅貨120枚。銀貨一枚にも満たない。素通りされるわけだった。

しかし、俺の実力では一層のコボルトすらきつい。下の階層で、やっていけるのだろうか?

途方に暮れながら、宿へと帰るのだった。




主人公
筋力3(20)↑8up
体力3(19)↑8up
耐久2(92)→
生命2(65)→
器用12(56)→
敏捷8(65)→
反射14(75)↑20up
誘導8(11)→

※一般人は3~5前後

スキル
【盗む<40★>】【回避<31>】【気配察知<17>】↑1up【短剣<3>】↑1up【格闘<8>】

※40がMAX
※一人前と言われるのは25↑
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。