斥候じゃない、盗人(シーフ)だ 作:九条何某
ギルド調査書の内容は、大体をいえばその人の適正についての文書のことをいう。
長く活躍すれば、適正ではなく技能として書き換えられ、なおかつ人柄や功績、活動内容や活動場所などの情報が少しずつ蓄積されていく。
そういった物がある理由は、例えばPTメンバーを探す時に役立ったり、冒険者ギルドに依頼する人物への指標として役立つからだ。
特に人柄・功績などは依頼者の側からすれば非常に大事だろう。依頼者からしてみれば、その人物を見極めるための重要な書類の一つだ。
という理由により、俺は現在ギルド調査書を眺めていた。
もちろん、俺の物ではない。他のPTや臨時で動ける冒険者などの調査書を眺めていた。そもそも俺のは、まだ公開にもなっていないだろう。
もし仮に公開されたとしても、内容は当たり障りのない物で、場合によっては元犯罪者という注釈があるかもしれない程度だ。公開されていたとしたら、むしろマイナスしかない。
冒険者ギルドとしては、恐らく公開をお願いされたら場合によっては見せるかもしれないが、恐らく俺が手にしている書類のような形で手に取れるようにはなっていないだろう。
剣術適正がBだとか、魔法がCだとか書かれた後に、ギルド員による解説が書かれている形式ではないはずだ。
そして、俺がギルド調査書を見ている理由も、PTメンバーを探しているとかではない。むしろPTに向かない人材を眺めている。
理由は簡単。俺がそういう人間だからだ。要するに訳ありソロ先輩の技能評価を見て、必要そうな技能を先に知っておこうという話だ。
せっかく先人が苦労して必要な技能を教えてくれるのだ、これほどありがたい話はない。
「……探索技術を持っていないと、やはり深い階層を一人は難しそうだな」
一枚一枚、何となく読み進めていく。非常に適当にお願いしたので、時々ただの使えない冒険者も混じっているが、そこは仕方が無い。
そこまで長い物でもないし、いいだろう。問題があるとすれば、時々難しい記述があるため読むのに時間がかかることだろうか。
既に読み始めて三日ほど立っている。ダンジョンに潜りながらだが、そもそも一時間も潜れないので、時間的にはちょうどいいといえた。
傾向としては、大体5階層前後の冒険者と、10階以降の冒険者の物を見せてもらっている。
目下の目標が前者であり、次の目標が後者だ。最終的には最精鋭の仲間入りを果たしたいとは思っているが、現状ではどう転ぶかわからない。
とにかく、わかる範囲で技能を増やして行くしかない。その中で、俺にとっては、やはり気になる物が一つ。
「……やっぱり、魔法はいるか」
ひたすら眺め続けた結果、5階層はそうでもないが、10付近ともなれば、大体どの冒険者も魔法を覚えていた。特にダンジョンでソロ特化した人材の多くは魔法を覚えている。
もちろん、それだけでは足りないことは読み進めているうちに理解出来た。むしろ、そちらの方が重要でさえあるだろう。
鍵外しや、罠の発見などの基礎的な技術から、中にはマッピングや補給関連など様々だ。ダンジョンはただ戦闘していれば良いというものではない。
戦う力があるに越したことはないが、それが全てという訳ではない。むしろ、一人でいくならば戦闘以外の技能の方が重要になってくる。
なってくるが、現状は5階層に辿り着くことすら出来ていないのだから、目下の目標は戦闘能力の及び継戦能力の向上と多対一対策だろうか。
そして、その全てにおいて、魔法というのは重要になってくる。
特に、盗人という技量を鑑みれば、闇魔法という適正を持つ俺は、間違いなく親和性があるのだから。
方向性は決まった。俺は書類の束を綺麗にたたんで、カウンターへと持って行く。
「返却だ。参考になった、感謝する」
「はい、確かに。また必要になりましたら、おいで下さい」
「そうさせてもらう。所でなんだが、この前もらったギルド調査書に魔法適正があると書かれていたので、気になった。魔法を覚えるにはどうすればいい?」
「魔法を覚える方法ですか? 訓練場の斡旋などもしていますが、お金が必要ですよ?」
「……大体幾らくらいだ?」
「えーと、現状ですと、この都市の金貨で大体10枚前後ですかねー」
予想以上に高い! 思っていた額の何十倍もする。よく考えなくてもお金が足りなかった。以前から思っていたことだが、魔法関係は高すぎる。
「金貨10枚前後……それで魔法を覚えられるなら安いのか?」
「あ、いえ、一回の授業料が金貨10枚前後なんですよ。平均して10回以上は通うでしょうから、最低限100枚は必要ですよ?」
「……金貨100枚」
予想の数百倍も間違いだった。だから魔法は嫌いなんだ。技術職すぎて金が必要になりすぎる。
覚えるのにも時間がかかれば、習うのにも金がかかりすぎだ。都市によって値段が違うかと思って聞いて見れば、この様だ。
まぁ、オードラントに比べればマシな部類なんだろうが。
「とてもじゃないが手が出ないことがわかった。礼を言う」
「いえ、駆け出しの方が一度は通る道ですから」
「そうだろうな……」
最終的には、やはりダンジョンで戦い、実力を上げるしかないのだろう。
魔法だとか技能だとかは、もっと深い階層に行ってからだな。
逆に、短期的に実力を上げる方法というのはないものだろうか……。
「一つ尋ねるんだが、初心者が実力をつけるのでポピュラーな方法というのは何があるんだ?」
「ダンジョンに潜り続ければ大抵の方は、実力は付きますからねぇ……本当に初心者の方はこちらで訓練所を設けてはいますが、ジルさんはフライウルフに苦戦しない程度にはお強いですから、意味ないと思いますよ?」
「なるほど、訓練所の基準はフライウルフか」
「えぇ、そうですね。コボルトは数は多いですが、動きは鈍いですからね。逆にフライウルフは本当に初心者の人が出会うと一瞬で喉元に噛み付かれて死にますから、基準はあちらです」
「言われてみれば、まぁ、そうだろうな……」
しかし、となるとギルド側が求める最低限の実力はあるということなんだろう。問題は本当に最低限しかないことなんだが。
「色々と教えてくれてありがとう。少し行き詰まっているが、試行錯誤して何とかしてみる」
「はい、応援していますよ」
「あぁ、それじゃあ」
ギルドから出る。外は未だに明るい。太陽も、まだ赤みを帯びてはいない時間帯だ。つまりはお昼過ぎだ。
お昼過ぎで、本来ならば街の中は賑わっているはずなのだが、この街は閑散としている。まだ多くのPTがダンジョン内部に篭もっているのと、この区画は娯楽施設がないので人通りが出来ないからだ。
食事も管理用宿屋で日替わりメニュー一択しかない。それ以外は不要といわんばかりに、ドカ盛りされた食事を、三食出されるだけだ。
ちなみに内容は固いパンと豆スープとかだ。家畜か何かと勘違いしてんじゃないだろうか。
「……出来るなら早く脱出しなくては」
人通りが少なく、虚ろな目をしている人々を眺めつつ決心する。さすがは管理用の区画だ。こうしてハングリー精神を養わせているのだろう。もしくは単純に手抜きか。恐らくは後者優先の両方だろう。
こうした徹底的な管理をしているからか、この町では貧民窟というのはないようだ。貧民だったら冒険者ギルドに預けて、ダンジョンに潜らせたり街の雑務に従事させているのだろう。
半ば強制ではあるだろうが、一発逆転があるだけマシだ。実際、ダンジョン内に潜ってフライウルフの毛皮を加工してもらえば、暖は取れる。この地方は寒いが、ほぼ無限に毛皮は取れるのだ。
オードラントの様に門から出るのとか、区画から移動するとか、森に入るので一々税金を取られたりはしないということだ。それだけで、もう良心的だろう。
だからといって現状に甘んじようとは決しては思いはしないが。
とにかく、対策である。魔法で何とかするという現実見えてなかった策が否定されたことで、概ね方針は決定している。
体力の強化、これ一択だ。長時間戦闘を続けられる体力の確保が急務となった。現状は一層だけだが、そもそも一層を抜けるだけで力の半分を使いそうになっている時点でマズいのだ。
兎にも角にも動き続けること、これをなせるようにならなければいけない。
もう一つの課題は、コボルトを安定して倒せるようになることだ。
棍棒を持っただけの二足歩行小型犬ごときに手こずっていてはダメだ。とにかく、どうにかして数をこなせるようにならなければならない。
しかし、どうにも毎日ダンジョンに潜って敵と戦っているのにもかかわらず、持久力が伸びない。戦闘後はヘロヘロで訓練どころの話ではないし、そもそも訓練をしている暇があるならば稼ぐべきだ。
結局は、ダンジョンに潜ってスキルや能力を地道に上げていくしかない。何をどう考えても、結果は同じ。魔法でも盗賊でも、どちらでも同じなんだろう。
「世知辛いねぇ、どうにも」
空が青い。
■■
コボルトの群体は、最低でも5体は固まって動いている。法則性に興味はない。問題は固まっているという現実だけだ。5体を一気に相手取れるほど、俺の装備は強靱じゃない。そして、俺の能力は5体を相手取れるほど卓越していない。
どうしても勝ちたいならば、何でもいいから対策が必要だ。しかし、対策などと口でいっても、すぐに思い浮かぶ訳でもない。
だから今日もフライウルフを狩っている。素早さに慣れはしたが、それでも周囲の気配を探り続けなければならないから、割りに合わないことは確かだ。
常に疲労を押しつけられる感覚が嫌になる。
すれ違い様にナイフを突き立て、切り裂く。それだけの動作をするのだって、きちんと相手を捕えられていない場合は困難だ。所々にある燭台は、ダンジョンの全てを写してはくれない。暗闇に溶け込む敵を視るというのは、技術が必要だ。
これが月明かりの下とかならば、まだ慣れてはいるが、どうにも勝手が違う。
「ふぅ……慣れないな」
向いているいないは考えないが、効率は良くない。フライウルフが飛んでくるまで待つという、受けの構えなのが原因だろう。出会うまでは、ひたすら接敵しないようにダンジョンをぐるぐる回っているんだから。
やはり、コボルトを試すべきなんだろうか。しかし、試すにしても5体より上の群体ばかりに出会う。多いと15体くらいいるのだから、始末に負えない。だが、現状に甘んじるのは、好きじゃないな。
手に持った短剣を構え直す。耳をすませば、確かにコボルトの活動音がする。フライウルフと違い、うならずに甲高い声でお互いを確認しあう声だ。探そうと思えば、すぐに探せる。避けようと思えば、すぐに避けられた。
今回はゆっくりと近づいていく。物陰に隠れながら、足音を殺しながら、ゆっくりと近づいた。
姿勢を低く、暗闇を凝視する。遠目に数はわからない。声では数まではわからない。大凡は当てにしない。確かな数を、見た。
8体。多くはないが少なくはない。今までの俺ならば、すぐに避けた相手だ。逃げ出すのは簡単だ。所詮は二足歩行の犬なのだ。足はそこまで速くない。囲まれたら問題だが、危ないなと思ったら逃げ出してしまえばいい。
「弱ければありがたいがな」
駆け出す。思いの外、走ることで大きな音が出るものだ。特にダンジョンのように狭く細い場所は音が反響しやすい。当然、コボルトに気付かれる。一斉に襲いかかって来る。フライウルフのように早くない。一撃で死ぬような感じもしない。だが、棍棒で殴られれば悪ければ骨折してしまう。そうなった時点で死ぬだろう。
その小さな体の何処にそんな力があるのか。外した棍棒が床を叩くと、鈍い音と共に罅が走る。それをひたすらドカドカと叩きつけながら、容赦なく襲いかかり、休みということがない。
攻撃する隙がない。数の暴力だ。受けるということが出来ないため、先ほどから左右に激しく動いて目標を散らすので精一杯だ。
「やっぱり埒が明かないか!」
動き続けることで、少しずつ息が切れてくる。短剣の短さが仇になっている。棍棒よりも短いせいで、遠くから攻撃するということが出来ない。これは弓が必要か? しかし、弓を引けるほどの筋力はない。
ガクッと足が崩れた。動きすぎたせいだろうか。足下を見れば、ひび割れた床が足を捕えていた。
「ぐっ……!」
体勢を直そうと踏みとどまる。そのせいで、動きが鈍る。コボルトの一体が突出して棍棒を打ち下ろそうとしている。膝が折れている今の状態では、避けきれる気がしない!
ほぼ無意識の行動だったように思う。危険な時はいつもそうしていたからだろうか。腕が伸びた。強い握力で握られている棍棒。ふと、緩んだ瞬間。脱力して、筋力を入れ直す時の動作。それが、鍛え上げられた反射神経が捕えた。
【盗む】
気付けば腕に棍棒があった。それでコボルトを殴る。鈍い衝撃と共に、コボルトの牙がドロップしていた。仲間を殺されたためか、いきり立ってコボルトが大挙する。先ほどと違い、まるでスローモーションかのように時が過ぎる。
【盗む】
攻撃する瞬間の無防備を、再び捕えて棍棒を盗み出す。さらに、盗んだ瞬間、棍棒を遠くへと放り出す。すれ違い様に、両手で二度行う。一瞬にして4体のコボルトが武器を失った。さらに面白いことに、武器を失った瞬間、統率を失い逃げ惑う。
まるで武器を持っていないことが理解出来ないとでもいうようだ。投げ捨てた武器を拾いに行くわけでもない。ただ純粋に驚き逃げ惑っている。
脅威ではないならば、追う必要はない。俺はそのまま、武器を持っている残り3体全ての武器を奪い取った。
「……盗んだ方が戦いやすいとか、思いつきもしなかった」
逃げたコボルトも合わせて、8体を処理した。感想としては、武器を盗んでしまえば、それまでだということだ。コボルトは武器を奪えば無力化出来る。その発想はなかった。いや、普通に考えればそうなんだが、戦闘中に盗もうという考えが頭になかったのだ。
その日、俺はコボルトを何十体も狩った。
主人公
筋力3(26)↑6up
体力3(29)↑10up
耐久2(92)→
生命2(65)→
器用12(61)↑5up
敏捷8(70)↑5up
反射14(90)↑15up
※反射:反射神経、動体視力、反応時間に関するパラメーター
高ければ高いほど、素早い敵の動きに対応出来ると共に、攻撃の初速が早くなる。
誘導8(11)→
※一般人は3~5前後
スキル
【盗む<40★>】【回避<31>】【気配察知<17>】【短剣<3>】【格闘<8>】
※40がMAX
※一人前と言われるのは25↑