転生したらまさかの馬!? 作:白雪(pixivでもやってる)
※筆者の計算違いと諸々の勘違いにより、テイエムゴールドのG1レース勝利記録に高松宮記念が追加されました。
謹厳実直、質実剛健。
目の前のレースや物事に全力で挑み、圧倒的な勝利をしても驕ることはなく反省をして次に進む。
テイエムゴールドは、超がつくほどの真面目で堅物だった………。
「おはようございます、ジェンティルさん。」
「おはよう、テムゴ。」
テイエムゴールドは仲のいい友人たちからはテムゴと呼ばれている。それは、トレセン学園にはテイエムの名を冠するウマ娘が他におり、ゴールドはテムゴを悩ます某芦毛のハジケリストの名前だからだ。
同室のトリプルティアラウマ娘、ジェンティルドンナは鏡の前で身だしなみを整えている。
貴婦人と呼ばれているだけあって、身のこなし一つ一つが洗練されていて優雅だ。
けれど、テムゴはこの友人が存外泥臭く、優雅という言葉にふさわしくないほどの武闘派であることを知っている。それに脳筋。
「さあ、一緒に登校しましょう?…………って、アナタもう準備できてるじゃない!?」
ドヤ顔のまま振り向いたジェンティルドンナはもう登校の準備がとっくの前にできていたテムゴに気づく。
テムゴは早起きで身だしなみも最低限相手を不快にさせないぐらいである。
トリプルティアラウマ娘としての矜持と誇りを持ち、常に身だしなみに気を使っているジェンティルドンナと違って行動の一つ一つが速いのだ。
「早く行きましょう…………早くいかないとまたあのウマの餌食になります。」
「ああ…………。」
死んだ目をしたテムゴに同情するジェンティルドンナ。
二人は寮を出ていつもより早めに門を通った。
「さあ………出てきなさいッ!私は準備出来てますよ!」
「ホントにあいつ来るの…………?」
あのウマが私に悪戯する準備をしているときに登校して迎え撃ちます、と周囲を警戒しているテムゴ。
ジェンティルドンナは周囲を見回した。
その瞬間、木の上からウマ娘二人が飛び降りてきた。
「ゴフッ!」
「うわ〜!」
「ウソ!?」
「痛!」
まず芦毛のウマ娘がテムゴの背中にダイブ、ジェンティルドンナが驚いたのもつかの間、さらに鹿毛のウマ娘が上から時間差で降ってくる。
「う゛」
「わわ!ジェンティル、ごめーん!」
でも流石武闘派()。ギリギリ鹿毛のウマ娘をキャッチした。
貴婦人とは何だったのか…………。
「重いです!いったい貴女は今回何をしようとしたんですか?!」
「お、テムゴじゃねーか、絶景絶景。」
「ふざけないで下さい!」
ゴールドシップ!!!
テムゴの大声が学園中に響いた。
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ゴールドシップとテイエムゴールドの出会いは中庭だった。
テムゴは中庭でお昼ご飯を食べていた。手づくりのお弁当でなかなかの自信作だった。
蓋を開けて、見事な出来栄えに自画自賛しながら箸を持って卵焼きを挟むと…………
「うわあー!」
「え、ええー!?」
空からウマ娘が降ってきた。
否、正確には大きな木から落下してきた。
突然のことに反応できなく、固まっていたテムゴ。悲しいかな、ゴルシは背中からテムゴに突っ込んで倒れた。もちろんテムゴも。
テムゴは中庭に無残にも落ちてしまった弁当のおかずたちを見て絶望した。
せっかく、作ったのに…………!
「ちょっと貴女!急に何するんですか!?」
「ん?誰だオマエ。どした?」
いってえなあ…………と背中を擦るゴルシはキョトンとした顔をする。
「どうしたもこうもありません!私のお弁当をこんな無残に…………!」
「ああゴメンゴメン。代わりにコレやるわ!」
茶色の紙袋をテムゴに押し付けて走り去るゴルシ。
呆気にとられてテムゴは見ていた。
ハッと我に返って紙袋を開けると、パンが入っていた。
ただのパンではない。ハバネロ特倍入りの辛すぎパンである。
「…………。」
テムゴは思わず黙った。
次の邂逅は皐月賞。
テムゴは絶好調だった。所属しているチームカペラの仲間たちもテムゴが勝つと思っていた。トレーナーからも喝をもらい、まさに風はテムゴに吹いていた。
それに憧れの先輩、テイエムジゼルが来ていた。
いつも通り、冷静にレースを分析し持ち前の真面目さで本気で走っていた。手抜かりなどあるはずがない。
そう、まさか雨のあとの馬場を内側から走るなんてバカはいないと思っていたのだ。
「うおおお!」
「え?」
内側から驚異の追い込みで皐月賞ウマ娘になったゴールドシップを見て「こんなふざけたウマに負けるなんて…………」と思っていた。
検索アプリやクラスメイトから話を聞いてもてんで彼女のことが理解できない。
ダービーでリベンジすることを誓ったテムゴはゴールドシップ対策に動いていた。
ダービーではテムゴが勝った。ゴルシは六着。
周りは皆テムゴを褒めるが、本人はなんとも煮えきらなかった。
なにせ完全な本気を出してない。いや、気分が乗らなかった。
悔しくて悔しくて…………菊花賞で負けたときも、阪神大賞典でチームメイトが脚を怪我してもひたすらにゴールドシップの研究を続けた。
そして、なんやかんや自分は彼女に気に入られてた。
いつの間にかジャスタウェイやジェンティルドンナも加わり、不本意ながらヨンコイチみたいな感じになった。
不本意だが!
「ゴルシーウェイを見てたらいつの間にか朝になってたんだよ。」
「ミルキーウェイの兄弟かな?」
「ミルキーウェイは天の川ですよジャスタウェイ。」
「ああ、でもアレ、なんか星空っぽくなかったけど…………」
「「何それ怖い」」