異世界に『APEX Legends』のレジェンドたちと共に転生してしまった 作:ユウキ003
レジェンド達と早速旅に出たのも束の間。俺達は道中、大規模な盗賊に襲われていた馬車を見つけ、馬車に乗っていた女の子とそれを護衛していた騎士達を助けた。幸い目的地も同じだった事もあり、俺は彼等と共にカトーラの町を目指すのだった。
馬車と共に歩く事、約1時間。俺達の前方に林が現れた。俺は事前に考えていたプランを伝える。
「クリプトはそのまま全方位の警戒をお願い」
「あぁ。任せろ」
「馬車の前衛として、ジブラルタル、バンガロール、ヒューズ、ヴァルキリー。万が一接敵したら、ジブラルタルとバンガロールの『防衛爆撃』と『ローリングサンダー』で先制攻撃を」
「おうっ!任せろブラザーッ!」
「了解よ」
「おいレイ。俺の『マザーロード』は良いのか?」
「万が一ピンチになったらお願いするけど、あれをここで使うと大火事になりかねないからね。今は保留で。ただその分、ヴァルキリーのミサイルスワームと合わせて、ナックルクラスターやグレネードはじゃんじゃん投げちゃって良いから」
「了解。任せろ」
「こちらもOKだ、レイ」
俺の言葉にヒューズとヴァルキリーが頷く。
「中衛として、馬車の周囲にも人を配置するから。まず右側面にシア、ライフライン、パスファインダー、ホライゾン。左側にはブラッドハウンド、ミラージュ、レイス、ローバ。シアとブラッドハウンドは索敵能力で左右を警戒して」
更に8人を左右に配置する指示を出し、皆もそれに頷く。
「残りのレヴナント、コースティック、ランパート、ワットソン、オクタンは後ろをお願い。後方からの奇襲は無いとは思うけど、念のためにね」
「分かったわ。後ろは任せて」
俺の言葉にワットソンが頷く。
よし。これで準備はOKだ。
「ロバートさん」
「あぁ。それでは、進むぞ」
ロバートさんのかけ声に合わせて、馬車がゆっくりと動き始めた。
静かに林の中へ足を踏み入れる。オクタンの言うとおり、林の中を切り開いて道を創ったためか、林の中自体は荒れ放題でとても馬車が通れる感じでは無い。そして、だからこそ馬車はこの一本道を通るしか無く、左右には隠れるのに適した障害物がたくさんある。
俺はブラッドハウンドたちと同じ左側で警戒をしながら歩みを進める。他の皆も、それぞれ武器、『R-301』や『フラットライン』、『ディボーション』や『スピットファイア』、『L-スター』や『ウィングマン』を手に周囲を警戒している。俺もショットガン、『モザンビーク』を手にしながら進む。
ゲームでは何だかんだ弱いとか言われてたモザンビークだけど、こっちの世界じゃそうでもない。6発という一般的なリボルバーと同等の装弾数。1発で3つのパレットが飛び出し、しかもその1発1発がデカい。そして相手は基本的に進化シールドみたいなアーマーも無い。あっても銃弾の前には紙装甲の金属鎧だ。相手の胴体に3発まとめてぶち当てれば、確実に胴で上下を泣き別れに出来る威力がある。
……決して前世の時、モザンビークで敵をキルするのが大好きだったからじゃないからね?
まぁともかく。今は襲撃を警戒しないと。俺はモザンビークのグリップを握り直しながら進む。そして今のモザンビークには特殊なスコープ、『1倍デジタルスレット』が付いている。こいつは自分達にとっての危険な存在である罠や敵を赤く強調表示するシステムがある。索敵にはもってこいのスコープだ。
とにかく、それで索敵をしながら歩いていると……。
≪皆聞け、前方の林に人影を発見した≫
助手席に座るクリプトから念話、テレパシーのようなものが届いた。
これは、俺とレジェンド達を繋ぐ通信機のようなものだ。特定の2人でも出来るし、こうして全員に同時にメッセージを届けられる。すると同時に先頭のジブラルタルが足を止め、振り返って馬車を止めさせる。
≪連中までの距離は?≫
≪およそ170メートル。こっちには気づいた様子は無い≫
バンガロールの念話にクリプトが答える。
≪クリプト、連中の現在地は分かる?それと、武装してるかどうかも≫
≪はっきりと武器が確認出来る訳じゃないが、何人か腰の剣を備えているように見える。矢筒らしきものを背負ってる奴もいるな。現在地は、全員道の両脇、林の草むらの影に隠れている≫
俺の言葉に応えるクリプト。
皆殺しにして暗殺者じゃありませんでした、ってのは洒落にならないけど、林の草むらに潜んで居るって言うんだから、少なくとも悪意の無い民間人って可能性は無いだろう。
≪数は分かる?≫
≪大凡確認出来るだけで50人。後続や予備兵力らしき奴らの姿は見えない≫
≪分かった≫
俺はクリプトの言葉に頷き、ロバートさんの方に振り返る。
「ロバートさん。敵です。前方約170メートル先、道の両側に伏兵らしき人影をクリプトが発見しました。未確定ですが、武器らしきものも持っていると。数は約50人」
「そうか。それで、どうする?」
「こちらから先制攻撃を仕掛けて、一気に殲滅します。ジブラルタル、バンガロール。手筈通りに」
「OKブラザー」
「任せなさい」
俺の指示を受けて2人が静かに進んでいく。
「レイス。念のために2人に同行して。いざとなったら、ポータルで下がってきて」
「分かったわ」
そう言ってレイスも同行して貰う。レイスのアルティメット、『ディメンションリフト』は離れた2点間を瞬時に移動するポータルを設置出来る。いざとなればこれで即座にここまで戻ってこられる。
とは言え、残った俺達も襲撃に備える。相手が前方の奴らだけとは限らないからな。と、周囲を警戒していた数秒後の事だった。
『『『『ドドドドドドドドッ!!!!』』』』
ジブの防衛爆撃とバンガのローリングサンダーが炸裂。爆撃が林を吹き飛ばし、ローリングサンダーで飛来し地面に突き刺さったミサイルが間を置いて起爆する。面制圧能力を持つ二人のアルティメットだ。そうそう生き延びた奴が居るとは思えないが……。
俺は爆音に耳を塞ぎながらも呆然としているロバートさんの方へ歩みを進める。
「ロバートさん。ロバートさんっ!」
「はっ!?な、何かな!?レイ殿!」
「さっきのはジブラルタルとバンガロール、俺の仲間の必殺技ですから安心して下さい。それより前に進みましょう。ここに留まっても無意味ですし」
「あ、あぁ」
ちなみに、馬車の馬が爆音で驚いていたので落ち着けるのに数分掛かった。その間に戻ってきたジブラルタル達3人と合流し、俺達は再び足を進めた。
途中、爆撃地点となった場所を通り過ぎるとき、燃えて炭化した木々や砲撃でえぐれたクレーターを見ながら騎士の人達が息を呑んでいた。しかしレジェンド達にはそれに目もくれず歩みを進める。……ちなみに、視界の端々には炭化した敵兵の骸があり、騎士の一人が口元に手を当ててたが、俺は『気持ち悪っ』と思う程度だった。やっぱり着々と異常者になってきてるなぁ、俺。
なんて変な事を考えつつも、奇襲がもう無い保障は無い。俺は気分を切り替えながら歩みを進めた。
しかし1時間後。第3の奇襲も無く、俺達と馬車は無事にカトーラの町までたどり着いた。最初は、色々衣装の統一感が無いレジェンド達に番兵の人達は戸惑い、パスとレヴを見て愕然としていたが、ここの領主の血縁であるセリーヌお嬢様の事を確認するとすぐに通してくれた。
俺としては馬車を町中まで送り届けたんだし任務は完了、って思ってたんだけど……。
「レイ様」
馬車から降りてきたセリーヌお嬢様が降りてきて俺に声を掛けた。
「このたびは私たちを救っていただいた事、誠に感謝しております」
「い、いえ。こちらこそ。お助け出来て何よりでした」
正直、前世で彼女なんていなかったモブ男の俺にとって貴族の女子と会話なんて緊張以外の何者でもない。
「つきましては、正式にお礼をしたいのでお祖母様のお屋敷までおいで下さい。折角ですからレイ様の事をお祖母様にもご紹介したいですし」
そう言って手を合わせながら笑みを浮かべるセリーヌお嬢様。
「えっ!?し、しかし俺は平民ですし、それがおいそれと貴族のお屋敷になんて……」
「そのような事を心配する必要はありません。レイさんは命の恩人。恩義に報いるのもまた人として当たり前の事。ですからお気になさらず」
『そ、そういうもんなのかなぁ』
と俺が考えていると……。
『マスター、あまり断り続けるのはこちらのレディに失礼ですよ』
脳内に響くシアの声。ちなみにシアは何故か俺の事をマスターと呼ぶが、今は良い。
『そうよレイ。あまりレディのお願いを無碍にするようだと、女に嫌われるわよ?』
更に聞こえるローバの声。
『そうだぜブラザー。それに、お前が彼女の恩人なのは事実だ。だから堂々としてりゃ良いのさ』
ジブラルタルの言葉も聞こえるし、良いのかなぁ。……まぁしょうが無い。確かに断り続けるのも失礼か。
「わ、分かりました。ではその、お招きに預かります」
そうして俺はクイットナー伯爵家にお呼ばれすることになった。俺は皆と共に馬車の傍を歩いて行く。町中なのに皆を展開しているのは、バンガロールの提案で『もう暗殺者がいないとは限らない』って言われたから。確かに彼女の言うとおり、もう暗殺者がいないって考えるのはこっちの希望的観測でしかない。だから皆もそのままだ。
やがて歩く事20分ほど。俺達の前に現れたのは……。
「でかっ!?」
平民育ちの俺が声に出して驚いてしまうほど大きな屋敷だった。前世でも一般的な一軒家暮らしの俺には想像も出来ないような豪邸がそこにあった。もう東京の迎賓館クラスである。庭の手入れだけでどれだけの人が必要になるのか。
「驚くのも無理はない」
と、驚く俺にロバートさんが声を掛けてくれた。
「元々クイットナー伯爵家は何代にも続いてこの地を治めてきた貴族だ。民に寄り添う治政を長年続けている事から、民衆からの信頼も厚い。今の当主はリランダ様で、あのお方も民から高い支持を集めている。年々クイットナー伯爵家の領地に流入する人も増えている」
「そうなんですか。……でも、そう言う人達ってどこから?」
「基本的には他の貴族の領地からだな。希に安住の地を求めて諸外国から難民が流れてくる事もある」
「へ~。……って、大丈夫なんですか?他の貴族の領地から流れてくるって。下手したら……」
「あぁ。実際、流れて来た民の土地を収める貴族から抗議が何度も来た。ただ、その度にリランダ様などは『民があなたの土地から逃げ出すと言う事は、あなたのやり方に問題があるのではないか?』と言って追い返しているのだ。実際、流れてきた民がいた土地の領主は黒い噂が絶えない領主だったりするからな」
「……民からは慕われているけど同じ貴族の間では敵が多い、って事ですか?」
「あぁ」
と、ロバートさんが頷く。すると……。
「レイ様。さぁこちらへ」
「あ、は、はいっ」
俺の傍にやってきたセリーヌお嬢様に促され、俺は屋敷の中へと足を踏み入れた。ちなみに皆は、数が多いと目立つし、色々騒がしいので一度俺の中に戻って貰った。
その後俺が案内されたのは豪華な応接室らしき部屋だった。
「今、お祖母様たちと話をしてきますのでこちらで少々お待ち下さい。給仕の者にお茶を持ってこさせますので」
「あ、はいっ」
俺はお嬢様に返事をしながら、彼女が退室するのを見送る。
改めて周囲を見回すが、豪華だよなぁ。応接室ったって豪華過ぎる。俺の前世の部屋がいったいいくつ入るんだってくらい広いし。
『は~~。すごいねぇ。これが貴族の屋敷かぁ』
脳内に響くミラージュの声。
『なぁなぁレイ。お前、もしかしてあのお嬢様に気に入られたんじゃ無いか?』
『え?俺が?』
唐突に聞こえたオクタンの声に答える。
『それはあるかもね。だって、いくら命の恩人とは言え、すぐにこうやって家に招くかしら?』
更に響くローバの声。
『これはあれか?レイが貴族と結婚ってのもありえんのかっ!?』
『茶化さないでよオクタン。大体、あのお嬢様には王族との結婚話が持ち上がってるんでしょ?それが破談にでもならない限り、絶対にありえないって』
と、俺はそうオクタンに答える。……それに前世で女性経験もまともに無かった俺が、そんな凄い立場の女性に告られても戸惑うだけだっつ~の。
『どうせお礼を言われるだけだって』
と、俺が皆と話していると……。
『……どうやら来たようだな』
ポツリと呟くレヴナント。確かに、僅かに足音が聞こえる。
そして、ガチャリと音がして5人の人が入ってきた。1人はセリーヌお嬢様、1人はロバートさん。執事だろうが、燕尾服姿の初老の男性。それと給仕のメイドさん。そしてもう1人は、白髪の長い髪にゆったりとした服を着た、妙齢の女性だった。見た目的には50代中頃って感じだけど……。
「はじめまして。あなたがレイ君、ですね?」
落ち着いた雰囲気の声色。年上の余裕というか、雰囲気というか。なんて言うか大らかなイメージの女性だった。
「孫娘のセリーヌから話は聞いています」
と、そこまで言われて呆けていた俺は理解した。この人はセリーヌ様の祖母、つまりクイットナー伯爵家のリランダ様って事だ。俺は慌ててソファから立ち上がった。
「は、はいっ!自分はレイと申しますっ!お初にお目に掛かりますっ!」
ビシッと背筋を整えて気をつけ、の姿勢のままガチガチに緊張しながらも何とか挨拶をする。
「そうかしこまらないで。さぁ、どうぞ」
「し、失礼します」
緊張しつつもリランダ伯爵夫人に促されるまま、俺はもう一度ソファに腰を下ろした。リランダ様とセリーヌ様が俺の対面にあるソファに腰を下ろし、ロバートさんはそのソファに後ろに待機し、執事さんとメイドさんは少し離れた所で待機している。
「改めて、孫娘を守っていただいた事、深くお礼申し上げます」
「いえ。こちらこそ、セリーヌ様をお守りできて、何よりでした。運が良かったとしか」
「そう。……あぁ、そう言えば、聞いた所によるとあなたは多くの仲間をお持ちだとか?孫娘の話では、貴方を含めた19人に助けられたと。良ければ貴方の仲間の方も紹介してくださる?」
「は、はい。分かりました」
正直、皆を呼ぶのは色々不味そうだったけど、言われては仕方無い。俺は皆に声を掛けて出てきて貰った。
「彼等が俺の仲間です。皆、頼りになる者たちです」
「そう。彼等が。紹介、していただけますか?」
「はい」
俺は夫人にそれぞれの事を紹介した。パスファインダーがいきなりハイタッチしようとした時は、流石に止めに入ったけど、まぁそれ以外は問題も無く。そして皆の紹介が終わって、皆が戻ろうとした時だった。
「リランダ様。そろそろ」
「え?あぁ、そうね。お水とあれを」
『あれ?』
執事の人が声を掛けると、リランダ様の所に水の入ったグラスと小さな、錠剤のようなものを乗せた小皿が運ばれてきた。
「リランダ様、それは?」
「え?あぁ。これは、私の屋敷で仕事をしている医師から処方されている薬なの。私ももう歳だから、こう言ったものを使わないと力が出ない時があるの」
そう言って、リランダ様は薬を数粒手に取って口に含もうとした。と、その時。
≪あの薬を飲ませてはダメっ!≫
俺の脳裏に響いた声。それは、俺とレイスだけが聞こえる。本来ならばレイスだけが聞こえる『虚空からの声』。ゲームではレイスに危険を伝えるパッシブスキルだけど、この世界では何故か俺にも声が聞こえるんだ。そして……。
「待ってっ!その薬を飲むのは危険よっ!」
「え?」
突然のレイスの言葉にリランダ様は驚いて首をかしげている。
「あら?どうして?」
「すみませんリランダ様。俺の仲間が失礼を。……しかし、聞いて下さい。俺の仲間であるレイスには、危機を予感する第六感と言うか、啓示のようなものを声として聞く力があります。そして、その声は俺にも聞こえるのですが、その声はその薬を飲ませてはいけない、と」
「な、何を仰る!」
すると俺の言葉に、初老の執事さんが反論する。
「奥様はもう数ヶ月、その薬を常用されておりますっ!しかし奥様にこれと言った問題などは無く、ましてや毒などっ!それであれば既に奥様にも問題が出ているはずっ!」
……確かに、執事さんの言うとおりだ。あの薬が毒で、もう何ヶ月も服用しているのなら、何か問題があるはず。しかしリランダ様本人にその様子はない。
ここは……。
「リランダ様、失礼を承知で申し上げます。その薬を、俺の仲間に調べさせては貰えませんか?」
「え?これを、ですか?」
「はい」
「ッ、如何に客人と言えど、無礼にも程があるっ!我が屋敷に努める医師を侮辱する行為に他なりませんよっ!」
「それを承知でお願いしています」
怒り心頭、と言う様子の執事さんだが、俺は冷静に努める。
「もし、薬を調べて毒物などが検出出来なければ、俺を好きにしていただいて結構です。煮るなり焼くなり、殺すなり、奴隷のように働かせるなり」
「おいレイ。そいつは……」
と、ミラージュが声を上げるが、俺は手を上げてそれを制する。
「失礼を承知で申し上げてるんだ。それくらいの誠意は必要だ」
「……本当に、よろしいのですね?」
リランダ様が真っ直ぐ俺を見つめている。
「はい」
「……自らの選択を後悔するかもしれませんよ?」
「それでも、俺は仲間を信じていますから」
その言葉に、後ろに居た皆が少し息を呑むのが聞こえた。
「分かりました。好きなだけ、お調べ下さい」
そう言って錠剤が乗った小皿を俺の方へ差し出すリランダ様。良し。
「コースティック、ライフライン、それとブラッドハウンド。あとホライゾン、ワットソンも。2人は専門外かもしれないけど、何でも良いから情報が欲しい。3人を手伝ってあげて」
「分かったわ」
「やれるだけの事はやってみよう」
「分かったよレイ。あたし等も全力を尽くすさね」
「えぇ。私もできる限りのことは手伝うわ」
俺は4人の言葉に頷き、小皿を持ち上げ、コースティックに差し出す。
「全力を尽くそう」
そう言って小皿を受け取るコースティック。そうして、5人は部屋の片隅にあったテーブルの上で検査を始めた。専門的な機械などはないけど、こっちに転生してから、コースティックは村の鍛冶師やランパートに協力して貰いながら実験器具を可能な限り揃えていた。
そのおかげか、約20分後。
「結果が出たぞ」
そう言って俺達の方へ戻って来る5人。これで俺の今後が決まるが……。
「どう、だった?」
俺が静かにコースティックに問いかける。
「結論から言うと、確かに薬の中に毒物が含まれていた。ただし、その量はごく微量で、即効性のものではない。こほっ、数粒を飲んだ程度で死に至る物では、ない」
「そう。……毒の効果とかは?神経毒とか、麻痺毒とか」
「細かい結果は、分からない。ただ、分かっているのは毒性の弱い麻痺毒、と言う事だけだ。人体の、解毒機能などであれば解毒すること自体は、難しくない。こほっ。……しかし……」
そう言ってコースティックはリランダ夫人へと目を向けた。
「ご婦人。失礼を承知で聞きたいのだが、この薬を、毎日飲んでいたのか?」
「えぇ。医師から、活力が出る薬だから、と言われて。ほぼ毎日。朝起きて朝食の後に」
「薬を飲み始めてからしばらくして、手足のしびれを感じた事はあるか?」
「……あぁ。そう言えば。薬を飲み始めてから1ヶ月くらいして、ちょっと体が痺れる感覚があったような……」
「その後も、薬は飲まれましたか?」
「いいえ。それから少しして、階段で転んで足の骨を折ってしまって。治療を優先したいからと、その薬はしばらく飲みませんでした」
「実は、今日私がこちらへ来たのもお祖母様の怪我が治ったのでお見舞いに」
リランダ様の言葉に付け加えるセリーヌ様。
「そう、か。……薬の常用を一時的にでも、こほっ。止めたのは正解だ」
「どういうこと?コースティック」
「あの薬は、一つ一つの毒性は弱い。だが、だからといって飲み続けていれば、いずれ毒によって四肢が痺れて動かなくなる可能性も。最悪の場合、心停止も考えられた」
「心停止って、つまり心臓麻痺っ!?」
「あぁ」
俺の言葉にコースティックが頷くと、リランダ様やセリーヌ様、ロバートさんや執事さん達が皆顔を青くした。
まぁ、それも当然だ。とにかく俺は……。
「リランダ様、お聞きの通りです。残念ですが、今後のためにこの薬の常用はお止め下さい」
「え、えぇ。分かりました」
「お祖母様」
顔色が悪いリランダ様をセリーヌ様が心配そうにしている。
「しかし、一体誰だ毒などっ!?まさか、それを渡したと言う医師がっ!?」
「いえ。そう断定するのは早計です」
声を荒らげるロバートさんを俺が宥める。
「あの。執事さんとメイドさんに聞きたいのですが、その医師の人は、主であるリランダ様に怒りや憎しみを抱いている可能性はありますか?」
「と、とんでもないっ!彼は孤児院の出身で、貧しいところをリランダ様に拾われ、勉学のために支援を受けながら医師になったのですっ!ここで仕事をしている理由も、リランダ様へ恩義を返すためとっ!」
「……となると、その医師の人も欺されている可能性がありますね」
「え?」
俺の言葉にセリーヌ様が疑問符を浮かべる。
「医師の人本人に、リランダ様への殺意がない、薄いとするとその人がリランダ様に毒を盛った可能性は皆無です。……無論、俺たちがその人の心の奥にある感情を理解しているわけではないので、殺意がないと一概に否定する事は出来ませんが、話を聞く限りその線は薄いかと。となると、考えられるのは、誰かがその医師の人に、『元気が出る薬』と称して毒物を渡していた可能性があります。その医師の人はどこに?」
「や、屋敷の中にいるはずですっ!」
「でしたら、その人から事情を聞いていただけませんか?」
「では私がっ!」
そう言って執事さんが行こうとする。ここは念のため。
「レイス、ライフライン。あと念のためオクタンも。執事さんに同行して医師の人から事情を聞いて。もし万が一暴れたら、拘束。逃げようとしてもね」
「了解よ」
「OK」
「おうっ、行ってくるぜ」
執事さんに続いて3人が出て行く。
数分後。執事さんとレイスだけが戻ってきた。
「どうだった?」
「彼の話だと、街の酒場で知り合った商人の男から薬を仕入れていたそうよ。レイの読み通り、活力が出る異国の薬、と言う事でね。……本人曰く、あれが毒物だとは知らなかったと。主に知らずに毒を盛っていたと知って、かなり落ち込んでいたわ。正直、今にも責任を感じて首をつりそうな雰囲気だったらライフラインとオクタンを置いてきて見張らせているわ」
「そう。……ありがとうレイス」
彼女から報告を聞くと、状況は何となく分かってきた。
「なぜ商人がお祖母様を?」
と、首をかしげているセリーヌ様。
「いえ。俺の予想通りなら、そいつは商人じゃないかもしれません」
「え?」
「あくまでも俺一個人の推察ですが、その商人を語った男、仮にXとしますが。Xは恐らく何者かの指示を受けてやってきた暗殺者かと思われます」
「あ、暗殺者だとっ!?だが、ならば何故このような回りくどい方法でっ!?」
「恐らく実力行使をすると、雇い主が怪しまれるから、かもしれませんね」
ロバートさんが声を荒らげ、それに俺が答える。
「雇い主、ですか?」
「えぇ。……実は先ほど、ロバートさんからこのクイットナー伯爵家の領地について話を聞きました。他の貴族の領地からも民が流れて来ているとか」
「え、えぇ。確かに、私の領地にはよく、他の領地から民が流れてくる事があります。貴族の中には、民に重税を課す者も少なくはありません。ですから、より良い暮らしを求めて我が領地へとやってくる民は後を絶ちません」
俺の言葉にリランダ様は頷く。
「つまり、民が元いた領地の貴族からすれば、リランダ様は自分達の収入源である人々を奪った張本人、として恨まれている可能性はあります」
「ッ!そんなバカなっ!貴族は、まして領主は治める土地に暮す人々を守る義務があるっ!まして我が国は民の領地替えを何ら規制しては居ないっ!であれば、人々が離れるのは領主の責任ではっ!」
そう言ってロバートさんは声を荒らげる。
「確かに、模範的な貴族ならばそれを理解しているでしょう。ですが、後ろ暗い話の絶えない、金と地位と権力ばかり求める連中が、果たしてその道理を理解しているのでしょうか?」
「ッ」
セリーヌ様が俺の言葉に息を呑む。……まぁ、薄汚い大人の話だ。子供に聞かせる話じゃないが、ここに居る以上は聞いて貰わないと。……え?16の俺もまだ子供だろうって?俺は前世含めていい歳だから良いんだよ。
「早い話が、そう言う連中の逆恨みの可能性もあると言う事です。人の上に立つ存在として模範的であればあるほど、後ろ暗い連中にとっては邪魔な存在。だから狙われた可能性はあります」
と、俺は俺の推理を述べる。何だかんだで前世では刑事ドラマとか好きだったし。これくらいなら少し考えれば分かる事だ。
「それに、リランダ様は芯の強いお方だとお見受けします。例えばの話、会食の席で他の貴族を糾弾した事などはありませんか?」
「……あります」
俺の言葉にリランダ様は重々しく頷いた。
「パーティーの際、男爵家のご令嬢に、自分は伯爵家の人間だと言って狼藉を働こうとしていた男性を窘めた事があります」
「成程。となると、そう言った公衆の面前で恥を掻かされたと感じた連中の逆恨み、と言うのも考えられます」
「付け加えるのなら……」
と、俺の言葉の後に続くコースティック。
「この毒薬は素人が作れる類いではない。十中八九、毒への造詣が深い者を雇って作らせたと見るべきだろう」
「分かった。ありがとうコースティック」
「……礼には及ばない。私は私の仕事をしただけだ」
そう言って下がるコースティック。
さて、これで改めて問題は無くなったけど……。リランダ様は酷く疲れてるみたいだ。
「あの。部外者の俺が言うのもあれですが、リランダ様は休まれた方が良いかと」
「そう、ですな。リランダ様。ここはレイ様のご厚意に甘えても良いかと」
「えぇ。そうですね。申し訳ありませんレイさん。私、少し横になってきます」
そう言ってリランダ様は執事さんと共に退室していった。まぁ、自分が誰かに恨まれ、剰え殺され掛けたんだ。心労はかなりのものだろう。
そしてふと、視線をやれば、セリーヌ様が今にも泣き出しそうだった。そりゃ祖母を殺され掛けたんだ。こっちもこっちでダメージはでかいだろう。
なんて考えていると……。
『どうするんだいブラザー?ここで引き下がるようなお前じゃないだろ?』
聞こえるジブラルタルの声。ふと振り返れば、何やらやる気のレジェンド達。
まぁ、俺にとっても『乗りかかった船』だ。
「あの、ロバートさん」
「ッ、何か?」
「良ければ俺に、医師の人と話をさせてくれませんか?」
「えっ?!それはまさか、レイ殿っ!?」
「……仮にも毒物を発見したのは俺ですし、これも立派な殺人未遂の事件です」
そう言って俺はソファから立ち上がり、笑みを浮かべながら答える。
「毒を食らわば皿まで、と言いますが。俺も事件に関わった人間です。俺に出来る事を、仲間たちとやってみます」
「レイ様」
その時、涙目のセリーヌ様が俺を見上げる。
「安心してください。俺達で、あなたのお祖母様を殺そうとした不届き者を、ぶちのめしてやりますよ」
こうして俺は、また新たな問題に首を突っ込む事になった。
けどこの時の俺はまだ知らなかった。それが、国政に関わる事件だったと言う事を。
今は、まだ。
第2話 END
主人公は、ラノベでありがちな、トラブルが向こうからやってくるタイプです。大体のラノベの主人公ってそんな感じですし。