異世界に『APEX Legends』のレジェンドたちと共に転生してしまった 作:ユウキ003
テッドの家族と、それを捕えている賊。更に首謀者の配下がいると思わしき建物に、俺はレジェンド達と共に突入した。
『バンッ!』
オクタンがドアを蹴破り、俺達は中へと突入する。
「ッ……っ!?何の音だ……っ!?」
直後、突入した俺達から見て右奥の方から男の声が聞こえる。
「Move!!!」
英語で俺は、いけと指示を出す。皆P2020を構えながら声のした方へ向かう。
そして見えたっ!隙間から微かに明かりが漏れているドアっ!
「オクタンっ!そこだっ!」
「おうよっ!」
『バゴンッ!』
先頭を走っていたオクタンがドアを蹴り開ける。
「FBIだっ!」
(違うけど)叫びながら突入するオクタン。それに続いて俺達も中へと踏み込む。
視界に入ったのは、薄汚い装備の盗賊らしき男達が8人。そしてこの場には不釣り合いな格好の男が1人。合計で9人。
「な、何だテメェ等っ!!」
「動くなっ!貴様ら全員、クイットナー伯爵家当主、リランダ・クイットナー伯爵夫人の暗殺未遂、並びに誘拐・監禁の容疑で逮捕するっ!死にたくなかったら大人しくしろっ!」
怒号を上げる盗賊の声に負けないように、俺は精一杯声を張り上げた。
「ちっ!ガキがふざけやがってぇっ!」
1人が剣を抜き、他の男達も剣やナイフを構え、次の瞬間咆哮を上げながら向かって来た。が……。
『『『『『パパパパンッ!!!』』』』』
響き渡った銃声が盗賊達の咆哮をかき消し、盗賊達は腹や肩、腿などから血を流しながらその場に倒れ伏した。
「な、なっ!?」
その光景に残っていた1人が狼狽した様子で後退る。
「皆はこいつらを捕縛っ!こいつらは生き証人だっ!生きてリランダ様とテッドの所に連れて行くっ!」
「あぁ、逃しゃしないよ」
俺の言葉にヴァルキリーが頷く。さて。
「貴様には聞きたい事が山ほどある。痛い目に遭いたくなかったら、大人しく投降しろっ!」
俺は執事らしき姿の男に銃口を向ける。
「くっ。貴様等はっ、まさかあの老婆の手先か……っ!?」
老婆?リランダ様の事か?まぁ良い。
「仮にそうだとしても、お前に答える義理は俺達には無いし、お前は殺人を計画した犯行グループの一味の可能性が濃厚だ。……そんな貴様に、知る権利があると思うな?」
「…………」
奴は冷や汗を流しながら俺を睨み付けている。
「変な気は起こすな?痛い目に遭いたくは無いだろ?」
そう言って、俺はP2020を構えたまま静かに歩み寄る。
「両手を頭の後ろで組んで、こっちに背を向けろ」
「ふっ、ふふっ」
「ッ、何が可笑しいっ!早くしろっ!」
何故この状況でこいつは笑える?俺は疑問を覚えながらも、すり足で近づいていく。周囲ではヴァルキリー達も狙っている。下手なことは出来ないはず。と、その時。
「使命を果たせなかったのは残念ですが、『あの方』へと瑕疵を繋げる事は出来ませんのでね。……お許し下さい、ご主人様」
何を言っているこいつは?そう思った直後。
『ガリッ!』
奴は思いきり、奥歯を噛みしめたように見えた。そして……。
「うぐっ!?げ、げふぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「なっ!?」
奴は思いきり吐血したっ!?まさか、歯の奥に毒物でも仕込んでたってのかっ!クソッ!折角の証人なのにっ!
そう思い、俺は咄嗟に手を伸ばしたが……。
「止めておけ」
それを止めたのは、レヴナントだった。
「レヴッ!?なんでっ!?」
「自決用の毒ならば、毒性は相当なはず。……毒の混じった血を浴びて、死にたいのか?」
「ッ」
レヴナントの言葉に俺は今更ながらにブルリと体を震わせた。もし、あの男を抱き留めるなどした時、奴が吹き出した毒の混じった血を一滴でも口に含んでいたらと思うと、背筋が凍える思いだった。
「……ありがとう、レヴナント」
「……ふん」
レヴナントはそう言うと、霊体化して消えていった。ハァ、と俺はため息をついてから一度深呼吸をして気分を切り替える。
「皆は悪いけど、ここでそいつらのふん縛っておいて。貴重な情報源だ。知ってる事は少ないだろうけど、情報を吐かせるために必要だから」
「おうっ、任せときなっ」
そう言ってオクタンはバックパックに入っていたガムテープで盗賊連中をグルグル巻きにしていく。
その時。
「レイ」
もう一方のチームを任せていたクリプトがやってきた。
「クリプト、どうしたの?」
「屋敷の地下の、倉庫らしき所で母子を保護した。パスファインダーとミラージュが話し相手になってるが、状況が良く飲み込めないらしい。状況を伝えてやってくれ」
「分かった。なら、クリプトはブラッドハウンドと一緒に周辺の警戒をお願い。敵の増援が来ないとも限らない。盗賊連中はオクタンやヴァルキリー、シア達に頼んでおくから。俺は親子のところへ行くよ」
「了解した」
この場を彼等に任せ、俺は地下へと向かった。
「レイ、こっちよ」
途中でレイスを見つけ、連れて行ってもらったのは薄暗く、湿った元倉庫らしき場所だった。
そこではミラージュとパスファインダーがライト片手に、戸惑った様子の母子を相手に話をしていたが、親子2人は狼狽しているし、状況が良く分からないようだ。……まぁ、パスに至っては人間じゃないからなぁ。
「2人とも、お疲れ様」
「あっ、レイッ!」
パスが俺に気づいて振り返る。
「救出、ご苦労様。あとは俺とレイスが引き継ぐから、念のため屋敷の中を見て回っておいて。敵の伏兵がいるかも分からないし、或いは他に、お金か何か書類があるかもしれないから」
「お金かぁ。よっしゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「OK!行ってくるよレイ!」
そう言ってミラージュとパスファインダーはこの場を後にする。さて……。
俺は静かに、P2020をホルスターに戻すと怯える2人の前に膝を突いた。
「行商人、テッドの奥様と娘さん、でよろしいですね?」
「そ、そうですが、あなた、は?」
恐る恐ると言った感じの問いかけ。俺は出来るだけ彼女達を安堵させようとゆっくりと話始めた。
「俺の名はレイ。そしてあなた達2人を助けたのは俺の仲間です。どうかご安心してください。我々はあなたの夫、テッドさんよりお二人の救出を依頼されたため、ここに来ました」
「ッ!夫は、テッドは無事なのですかっ!?あの人は、私達のせいで貴族の方の暗殺をする羽目になってっ!」
そう言って奥さんは涙を流す。
「その件もご安心ください。我々の方で暗殺は阻止してあります。目標だったリランダ様も無事ですし、テッドさんが暗殺に加担しなければならない事情も分かっていて、現在安全な場所であるクイットナー伯爵家に身を寄せています」
「ッ、で、では、本当にっ!?」
「はい。……すぐにでも、旦那さんと会えるでしょう。ですからどうか、ご安心ください」
「ッ!あ、ありがとう、ご、ござい、うぅっ!」
彼女はついに泣き出してしまった。まぁ無理も無い。一体どれだけの間、ここに軟禁されていたのか。見たところ、乱暴を受けた形跡や食料を与えられず餓死寸前、と言う様子ではないが、やはり幾分かやつれている。すると……。
「ねぇ。パパに会えるの?」
「えぇそうよっ。この人達が助けてくれたから、もうすぐパパに会えるわよっ」
奥さんは、涙を流しながらも頷き、娘さんを抱きしめた。それを見届けた俺は、『応援を呼んできますので、もう少しだけここで待っていてください』と言って、念のためレイスに二人のことを任せ、一旦その場を離れた。
そして俺は屋敷の玄関近くでジブラルタル達に連絡を取り、状況を説明した。
『そうか。黒幕に繋がりそうなのは自殺した、か』
「うん。悪いんだけど、このことをリランダさま達に伝えて貰って良いかな?それと盗賊や捕らわれていた母子の移送のために馬車を2台ほど迎えに寄越して欲しいって、ロバートさんに伝えて欲しいんだ。場所はさっき伝えた通り、北の屋敷跡だから」
『分かったぜブラザー。必ず伝える』
「うん。お願い」
通信を終えた俺は、それからしばらく屋敷の中をライトとP2020片手に、何か手がかりになりそうな物は無いかと、ミラージュやパスファインダーと探し回った。しかしこれと言って、黒幕を特定出来そうな書類などは発見出来なかった。
『……あの二人が助かって、暗殺を阻止出来ただけマシか』
と、思いながら屋敷の外に出ると……。
「レイ殿~~~!」
向こうから松明の明かりが見えてきた。同時に聞こえるロバートさんの声。やってきたのはロバートさん以下数騎の騎馬と3台の馬車だった。
「ロバートさん。夜中に済みません。迎えを寄越して欲しいなどと」
「何を仰いますかレイ殿。レイ殿は我らが恩人。この程度造作も無き事です。……それで、件の盗賊は?」
「中です。オクタン達が縛り上げて監視しています。……こちらへ」
そう言って俺は盗賊連中のところにロバートさんと騎士数人を案内する。
「すみません。盗賊連中は捕え、母子も救出したのですが、黒幕の手下と思われる男性は服毒自殺しました。仲間に調べて貰った所、奥歯に毒を仕込んでいたようです」
「そうですか。それで、男の遺体は?」
「念のため布に包んで保護してあります。幸い顔が潰れたとかではないので、似顔絵の作成を出来ますし、顔を見れば誰彼の判別が付くのではないかと思いまして」
「分かりました。では、遺体も盗賊も親子もレイ殿も、我々が責任を持って送り届けましょう」
「はい。お願いします」
その後、レジェンド達に遺体と盗賊連中の馬車への積み込みを手伝って貰った後、皆には俺の中に戻って貰った。
そして俺はあの母子と同じ馬車に乗り、領地へと戻っていったんだけど……。
「ふぁ~~~。……眠い」
うぅむ。今更ながらに思うと、今日の1日は濃かったなぁ。
セリーヌ様の襲撃された馬車を助けて、カトーラまで護衛して、たどり着いてリランダ様と出会ったかと思えば、今度は暗殺未遂事件の捜査。夕暮れ頃にテッドを見つけて、夜中には盗賊のアジトを強襲、と。……いや~ホントに濃い1日だったわ。……と言うか。
「空、白んでるなぁ~」
街へ戻る途中で、空が白み始めていた事に気づいた。……徹夜になってしまった。などと思いながら俺はぼんやりとしていたが、すぐに頭をかぶり振った。いかんいかん、まだ眠る訳にはいかないっ。襲撃がもう無い可能性も、0じゃないから。
そう思っては居たんだけど、瞼が次第に重くなってくる。すると……。
「レイ殿。無理をなさらずお眠り下さい。あとは我々が責任を持って、屋敷まで警護しますので」
「分かり、ました。……お願い、します」
意識をギリギリつなぎ止めていたけど、ロバートさんの言葉がトドメとなって、俺はそれから半ば気絶するように意識を手放したのだった。
~~~数時間後~~~
「……イ、レイ……ッ!……起きなさいレイッ!」
う、う~ん。声が、声が聞こえる。これ、ライフラインの声?
俺は聞こえる声に答えるように、目を開けたのだが……。
「知らない、天井?」
そこにあったのは見覚えの無い天井だった。まだ寝起きで思考が纏まらない中、周囲を見回す。部屋は大きく、調度品も豪華な物ばかりだった。……マジでどこ?ここ。
次第に意識が覚醒する中で、俺は体を起こす。
「全くっ。やっと起きたわね寝ぼすけさん」
声が聞こえた方に振り返る。そこにいたのはライフラインとヒューズだった。
「そう言ってやるな。こいつは昨日今日で大勢の人間を救ったんだぜ?ちょっとくらい寝坊したって、罰は当らねぇさ」
そう言うと、ヒューズはベッドに腰掛ける。
「気分はどうだ兄弟。ぐっすり眠れたか?」
「うんまぁね。……って、ここはどこ?」
「あの貴族婆さんの屋敷さ。お前等を迎えに行った騎士連中が戻ってきたは良いんだが、お前がぐっすり寝てたんでな。彼奴らと俺等でここに運び込んだんだよ」
「そうだったんだ。ありがとうヒューズ」
「ははっ、礼には及ばねぇさ。……っと、一応報告しておくが、昨日の夜は怪しい連中は見かけて無いぜ。今は俺達に変わって騎士連中が交代で見張りをしてるようだぜ」
「分かった。……って、今何時くらい?」
「何時って、もう昼過ぎよ」
「えっ!?」
あきれ顔のライフラインに俺は驚いて声を上げてしまった。
「俺そんなに寝てたのっ!?」
「あぁ。かれこれ10時間くらいは寝てたか?」
「うわ~マジか~~」
ヒューズの言葉に俺は少しばかり驚いた。……そんなに疲れてたのか俺。何か色々ありすぎて、疲れたって思っても居なかったんだけど。俺もしかしていろいろ合ってハイになってたのか?まぁいいや。
「とりあえず、二人ともありがと。……ってそうだ。リランダ様たちから何か伝言とか無い?」
「え?あぁそう言えば。一言有ったわね。目を覚ましたら自分達の所に顔を出して欲しいってさ」
「分かった。じゃあ二人ももう休んで良いから。何かあったらまた呼ぶから」
「えぇ」
「そんじゃ、俺達も戻らせて貰うぜ」
そう言って二人は俺の中に戻っていった。その後俺は、起きて鞄の中から取りだした服に着替えると部屋を出た。
途中で遭遇したメイドさんに案内され、俺がやってきたのは大きな部屋だった。そこではセリーヌ様とリランダ様が食後のお茶だろうか?優雅にお茶を飲んでいた。
「リランダ様、レイ様をお連れいたしました」
「ありがとう、下がって良いわ」
「かしこまりました」
そう言って下がるメイドさん。するとリランダ様は席を立ち、俺の方へと歩み寄ってくる。
「あ、え、えと、おはようございます、リランダ様」
「えぇ。おはようございます、レイさん。その様子だと、ぐっすり眠れたようね?」
「はい。おかげさまで」
いやじゃなくてっ!何か結果的に部屋借りたみたいな形になっちゃったけど、良かったのかっ!?
「って、すみませんっ!何か部屋を一つ無断で借りる形になってしまってっ!」
「あらあら。良いのですよ。気にしないで。何と言ってもあなたは私や孫娘の恩人ですもの。これくらいは当然ですから」
「は、はぁ。ありがとう、ございます」
う~ん。俺としては貴族の屋敷に泊めて貰えて良かった、と喜ぶべきなのだろうが。……如何せん部屋が豪華過ぎて。……転生してからこっち、前世よりも格段に低下した生活の質の悪さに馴れていたもんだから、いきなり豪勢な部屋に戸惑ってしまった。しかし昨日の夜は色々あったな~。……ってそうだっ!
「あっ。そう言えば、保護した母子はっ!?」
「それでしたら大丈夫。屋敷の別室で3人とも保護しています。暗殺に関わっていたため、今も少し事情の聞き取りを行っていますが、安全とそれなりのもてなしはさせています」
「よ、良かった~~~」
あの二人が無事、テッドと再会出来たのはありがたい。……黒幕の逮捕までは至らなかったが、それでもあの二人が無事に彼と再会出来たのは嬉しい限りだ。
と、安堵したのも束の間。
『グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!』
俺の腹が盛大に主張しているっ!……やべ、そう言えば昨日の夜から何も食ってないような。……ってっ!?それよりも目の前のリランダ様が目をパチクリさせてるしっ!あぁ恥ずかしいっ!
「あらあら。では、すぐに食事をご用意させましょう」
「う、うぅ。申し訳、ありません」
俺は顔を真っ赤にしながら頭を垂れることしか出来なかった。
その後、俺は食事を用意して貰った。最初はテーブルマナーとか、もう全然思い出せなくて戸惑ったが、その辺りを考慮して食事の用意をしてくれたみたいで、ありがたかった反面、元社会人でそう言ったマナーを覚えて居たのに、すっかり忘れた自分が恥ずかしくて仕方が無かった。
その後、腹を満たし食後のお茶を飲んでいた時だった。
「失礼しますっ、騎士ロバート、入りますっ!」
そう言って入ってきたのは軍の礼服みたいな格好をしたロバートさんだった。……この世界の騎士の制服なのだろうか?
「おや、レイ殿。お目覚めでしたか」
「は、はい。何とか」
ロバートさんは俺に会釈をするとリランダ様の側へ行き、何かを耳打ちした。距離があるのもそうだけど、小声のせいかなんて言ってるのか全然聞こえないな。
「……分かりました」
少し難しい表情で頷くリランダ様。しかしふと、俺の視線が彼女と交差する。
「そうだわ。折角今回の立役者であるレイさんもいる事ですし。ロバート、彼にも報告を」
「はっ、分かりましたっ」
「え?報告って?」
訳が分からず首をかしげる俺。
「レイ殿。まずは今回、リランダ様をお守り頂いた事に感謝の意を表明させて下さい。改めて、ありがとうございました」
そう言って俺に礼をするロバートさん。すると周囲に控えていた執事やメイドさん達まで俺に向かって頭を下げる始末っ!?
「うぇっ!?そ、そんな頭を上げて下さいっ!皆さんもっ!」
いきなりの事で俺は狼狽してしまう。すると、皆頭を上げてくれる。
「そうか。……では、改めて件の盗賊達について話をさせて貰う」
「ッ、はい」
ロバートさんの真剣な表情に俺も息を呑みつつ、表情を引き締める。
「まず、連中について尋問を行ったが、全員あの執事と思われる若い男性としか接点が無かったようだ。黒幕については名前どころか、性別や年齢すら分からないと言っている。連中の言葉通りならば、あの執事はずっと、主の事を『ご主人様』や『あのお方』とだけ言っていたそうだ」
「黒幕の情報を漏らさないために、徹底的な情報統制を行っていたんですね」
「あぁ。そもそも盗賊に接近してきたのもあの執事だそうだ。奴が盗賊と黒幕の仲介役だったようだな。あの廃墟の周囲も、今朝部下を送って調べさせた。屋敷の裏手に、何かを燃やしたような痕跡があった。そこから手紙の切れ端のような物を回収したが、大部分が燃え尽きてしまっている上に燃やす前にバラバラに引き裂いたのだろう。残念ながら、『手紙のやり取りがあった』という以外の、目新しい情報は皆無だ」
「そうですか。……あの廃墟に捕らわれていた二人はどうです?」
「同じだ。あの執事の事は、捕えられた時に姿を見かけたくらいで、それ以上は見ていないと。……それに声の聞こえにくい地下に閉じ込められていたため、外の話し声は全く聞こえてこなかったそうだ」
「……となると、黒幕への手がかりは今の所、あの執事の身元ですか。……あの男について何か分かりました?」
「いや。リランダ様や人脈のある者を可能な限り呼んで確認して貰っては居るが、今の所、誰彼の使用人であると言う確証は得られていない。……服毒自殺までしたとなると、主を相当慕っていたと思われるが……」
確かに。服毒自殺までしたんだ。黒幕があくまでも雇い主ってだけなら、自殺までするか?……まぁ、そうなるように洗脳や暗示をされていたって話も捨てきれないけど。
……ともあれ、今の所黒幕に繋がる情報は無し、か。うぅむ、そう思うと、やりきれない。
「すみません」
「ん?何故急にレイ殿が謝る?貴殿が謝る事など何も無いのではないか?」
「いえ。そう言って貰えるとありがたいんですが……。やっぱり黒幕までたどり着けなかったのは痛いなぁと思いまして。……下手をすると黒幕が別の手でリランダ様を再び狙ってくる可能性も、0では無いと思ってしまって。それに一度失敗したのなら、二度目はもっと綿密な計画を練ってくるかもしれません。……そう思うと、やりきれなくて」
あの執事らしき男を捕えて黒幕の事を聞き出せれば良かったんだろうけど。そう思うと、詰めが甘かったのは俺自身だ。さっさと捕まえて、自決させないように猿轡とか縄でも噛ませておけば良かったと今更ながらに思ってしまう。
「確かに、その可能性は0ではないのかもしれません」
するとリランダ様が声を上げた。
「けれどレイさん。あなたがそこまで気に病む必要はありません。今回の事で私が狙われている事がはっきりしました。それに貴方がここを訪れ、警告をして貰わなければ、今も私はあの薬を飲み続け、命を落としていたかもしれません。あなたの功績は称賛こそされ、責められるような物では決してありません。……その事を、お忘れ無きように」
「あ、ありがとうございます」
貴族の人に褒められるのなんて、馴れて無くて。俺は顔を少し赤くしながら静かに頭を下げた。
その後。ロバートさんから聞いた話だけど、今後リランダ様は外出を控えるそうだ。もう高齢であるし、狙われていると分かっては外を出歩くだけでも危険だ。護衛として常に、最低でも騎士2人を同伴させるらしい。屋敷の警備態勢も増強する、とか言ってたな。
それから俺はお茶を飲みながら、今後の事について話していた。
「それでは、今日からもう冒険者に?」
「はい。まぁまずはギルドへ行って、冒険者として登録するつもりです。仕事をするのは、明日からになるでしょうが」
「そうですか。あぁ、そう言えば、宿はどうされるおつもりで?」
「どこか安い宿でも見つけるつもりです。生憎、手持ちは少ないので」
俺は苦笑気味に呟く。
「でしたらっ!」
すると、これまで話を聞いているだけだったセリーヌ様が声を上げた。
「我が屋敷に泊るのは如何でしょうか?」
「えっ!?」
「結果的に私を助けて頂いた恩返しも出来ていませんし、如何でしょうか?お祖母様?」
「確かに、客間もいくつか空きがあるし、私も構わないわセリーヌ。……と言う事で、どうかしらレイさん?」
「い、いえっ!?正直それは恐れ多いと言うか、何と言いますかっ!」
泊るってこの家にかっ!?前世だって一般的な家で育ったんだっ!こんな凄い屋敷なんて馴れるモンじゃないよっ!
「そうですか。……残念です」
「そうねぇ。レイさんは心強いし、お礼にもなればと思ったんだけど」
セリーヌ様もリランダ様も、本当に残念そうなのが罪悪感を煽ってくるっ!うぅ、でもこんな凄い家はやっぱり気後れして、体が休まる気がしないんだよなぁ~。
「で、ではお礼は別の何かと言うことでっ。あ、あぁもちろん無くても文句は言いませんからっ」
「そういうわけには行かないわ。あなたのおかげで私も孫娘も、そしてテッド夫妻とその子供が助かったのも事実。我が領地で起った拉致監禁、暗殺未遂。これらの功績は称えられて良い物です。恩義に報いるのは人として当然のこと」
そう言うと、リランダ様はパンパンと手を鳴らした。
「あの二つをレイさんへ」
「かしこまりました」
控えていた執事さんが部屋を出てどこかへ。そして数分後には豪華なトレーを手に戻ってきた。トレーの上に乗っているのは大きな袋と、指輪のケースみたいな物が?一体なんだ?
戸惑う俺の前にトレーを置く執事さん。
「まず、その左の袋は孫娘のセリーヌを守ってくれた事に対する道中での護衛の報酬と、私の暗殺を阻止した事に対する報酬です。合計で金貨が200枚ほど入っています」
「にひゃっ!?えっ!?」
予想外の金額に俺は驚いたっ!?だって、この世界の金額を俺の前世で換算すると、金貨1枚はおよそ1万円の価値があるっ。銀貨1枚で千円。銅貨1枚で100円。そんな中で金貨が200枚っ!?それはつまり、200万円相当って事になるっ!!
「い、いくらなんでもこんな大金っ!受け取るのが恐れ多いと言うかっ!」
「良いのですよ。これからレイさんは冒険者として仕事をするのでしょう?でも、冒険者という職は危険が付きまといますし、何かあった時のための貯金と考えればどうでしょう?」
うっ、そ、それを言われると『確かに』と頷く以外他無い。冒険者は危険の付きまとう仕事だ。如何に俺がレジェンド達と旅をしているからと言っても、危険は必ず存在する。それを考えればこのお金は未来への貯金。……う、う~ん。受け取った方が良いよなぁ、これは。
と考えていたのだが、ふと金貨が入った袋の隣にある小さな箱が気になった。
「あ、あの~。それでこっちの箱の中身は一体?」
「そちらの中身は『オーダーリング』と呼ばれる指輪です」
「オーダー、リング?」
「そうです。それは一言で言えば、あなたの支援者を意味する指輪となります。本来、オーダーリングの使い方は2種類あります。一つは貴族が自分に使える者へ与える事。もう一つが親しい人間に友好の証として与える事です」
「は、はぁ」
「使用人や騎士といった配下に与える場合、リングの意味は『主の代理人』という事になります。一方、親しい人間に与えた場合、それは『彼は我々の大切な友人』という意味を周囲へ知らしめる結果となります」
「それってつまり、言わばリランダ様が、もっと言えばクイットナー伯爵家が俺の後ろ盾になるって、そう言う事ですよね?」
「えぇ。そのようにとって貰って構いません」
マジかよ。……しかし。
「よろしいのですか?こんな大事な指輪を、俺なんかに」
「それはもう。……私と孫娘の恩人です。これくらいは当然です」
そう言ってリランダ様は笑みを浮かべた。
俺は戸惑いながらも、視線を箱に移し、手に取って開いた。中に入っていた指輪は、本来なら宝石がある場所に家紋が彫られたメダルが嵌め込まれていた。……もうここまで来たのなら……。
「分かりました。ありがたく、頂戴いたします」
俺はオーダーリングを受け取る事にした。
そしてその後、お茶を終えた俺は屋敷を出る事にした。見送りに来るリランダ様やセリーヌ様にロバートさん達。
「そうそう。レイさんはこれからしばらく冒険者をするそうだけど、この町にはどれくらい滞在するつもりなのです?」
「その辺りは、今の所未定ですね。まずは冒険者として経験を積みながらお金を稼がないとですから。……大層な量の金貨を貰いましたが、これは将来への貯金にしようと決めたので」
「そうですか。……ではレイさん。何かありましたら、いつでもいらして下さいね?最大限のもてなしをさせて貰います」
「はい。分かりました」
「あの、レイ様」
「ッ、セリーヌ様」
「……また、お会いできますか?」
「俺はしばらく町に居ますから。きっと会えますよ」
少し不安そうな彼女を安心させようと、俺は笑みを浮かべながら頷いた。
「それじゃあ、お世話になりました」
そう言って俺は、伯爵家の屋敷を出た。
そうして、初日から色々ぶっ飛んでいた俺の旅の始まりの2日目。俺は冒険者になるためギルドを目指した。
第5話 END
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