居候の朝はとても早い。家族の分の朝食を作ったあとは洗濯物を干す。洗濯物と言っても、親父さんのだけで奈々華さんと千紗の分は奈々華さん担当だ。
ついでだから俺がしてもいいのだが、千紗から「その怪しい手の動きとダラシない顔つきで言われなかったらお願いしたかもね。」と言われてしまうのだ。
「別に変なことなんてしねーよ!ちょっとだけ、スンスンさせてもらうだけでじゅうぶ…おおっと、クズを見る目ですね。ごめんなさい。」
思えば、あの発言から少しだけ千紗の俺に対する態度が同じ人類に対するようなものとは思えない。
「おはようカズマくん。今日も朝食の準備ありがとうね。」
テーブルに朝食を並べ終えると、朝の身支度を終わらせた奈々華さんが姿を現す。
「奈々華さん、おはようございます。まぁ、居候なんでこんくらいはしますよ。・・・ただでさえ、あの穀潰しは何の役に立ってないんですから。このままじゃ、流石の俺も肩の身が狭くなりますし。」
「もう、そんなこと気にしなくてもいいのに!アクアさんは居てくれるだけでも救われるもの。」
「・・・・。」
恐らく、今も部屋でヘソ出してグータラ寝てるであろう駄目人間を思い出し俺は頭が痛くなってきた。あの女は本当に居候するだけしといて、家事の一切をしないどころか働きもしない。完全なる穀潰しと化している。
しかし、奈々華さんも千紗もアイツのことを甘やかし続ける。こんな不公平があって良いのだろうか!?駄目だろ!!
「いいや、アイツもそろそろ働き出して少しはこの家に生活費を入れるなりなんなりするべきですよ。」
「まぁ、まぁカズマくん落ち着いて、落ち着いて。」
「あ、親父さん。おはようございます。て、親父さんまでアクアの肩を持つんですか!?」
「おはよう。いや、それはちょっと違うけど・・・」
親父さんは奈々華さんに聞こえない距離まで近付いて俺に「アクアちゃんはね、頑張れば頑張るほど空回りしちゃうだよ。今はカズマくんがいてくれてるし、正直アクアちゃんには何もしないでいてくれた方がオジさん的にも助かるんだよね。」と呟く。
・・・アクアのやつ、俺がここに来るまでに本当に何をやらかしたらここまで言われるんだよ。結局、俺がアイツの分まで頑張るしかねぇのか…。
「まぁ、それに今日からもう1人ウチに居候が増えるからね。
その子はカズマくん達と違って、空いてる部屋に入ってもらう予定だけど色々とよくしてあげてよ。彼も千紗やカズマくんと同じ学科に入るから良い友達になれると思うよ?」
あぁ、そういや前にもそんなこと言ってたけど、今日から来るのか。
・・・あれ?これってもしかして
「ふっふっふ、神は俺を見捨ててなかったか。生贄さえいれば俺のキャンパスライフはまだ修正可能なはずだ!」
素晴らしい名案が浮かんだ俺は感情を抑えることが出来ず、つい笑みを浮かべてしまうのを堪えきれない。
「おはよー。・・・カズマ、アンタ流石にその格好でその顔つきは通報されても文句言えないからね。」
起きてきた千紗に開口一番良く分からないことを言ってきた。格好?いつも通りエプロンを着てるだけで特に問題はなさそうだが…?
「エプロンを着てるだけ…ってより、エプロンだけを着てる…って言っても手遅れか。はぁ・・・伊織はこんなんじゃなきゃいいけど。」
千紗はそう言うと、席に座って朝食を食べ始める。
一体、何かおかしなことがあるだろうか?よく分からんが取り敢えず俺も飯を食って、新しい居候を迎えいれるべく準備を始めるのであった。
「駄目だコイツら・・・早くなんとかしないと…。」
俺は居候が来るに当たって、一番警戒しなければならないPaBの対応に尽力した。こいつらは1人現れると次第に数を増やしていき、気付いた頃には酒が始まり手遅れになる。そう、知っていたからこそ俺はやれるだけのことをした。
まず、建物内から酒を全て俺の部屋へと一時的に撤去した。そして、PaBのグループライムに今日のミーティング予定時刻を遅らせる旨の通知をして、こいつらが集まる前に新しい居候…伊織というらしい、と合流できるように手配した。
何もかも、完璧なはずだった。・・・はずだったのだ。
「おはようございます!今日からお世話になります!北原伊織です!
宜しくお願いします!!」
朝、伊織は笑顔でGrand Blueの扉を開けた。未来に希望を抱いた、まるでこれからの学園生活に、出会いに、期待に満ち溢れた表情で現れた。
そう・・・自分が足を踏み入れたのが地獄の一丁目だとも知らずに・・・。
「あぁ、おはよう!俺はここでお世話になってる佐藤カズマだ。宜しくな!」
俺は努めて爽やかに笑顔でそう返した。自分で言うのもなんだが完璧な営業スマイルだった。この場には酒はなく、
「・・・・。」バタンっ
だが、何故か無常にも扉は閉ざされてしまった。
4月、伊豆
10年ぶりに会った叔父さんは優しくて、俺は緊張もほどけていた。ふと、海の方に目をやると、見覚えのある女性が俺に微笑みかけてくれた気がした。綺麗な人だったなぁ…。そんなことを考えていると、叔父さんから先に中に入ってるぞ!っと、声をかけられた。
ダイビングショップGrand Blue・・・前もって聞いてた話だと、2人の従姉妹の他にも2人の居候がいるらしい。今までとは違う環境で、俺はどんな出会いをするのだろう・・・。
俺がこれからの新生活にワクワクして、扉を開け挨拶をすると・・・
「あぁ、おはよう!俺はここでお世話になってる佐藤カズマだ。宜しくな!」
そこには一人の
無言でドアを閉めた俺は間違っていないだろう。
ふーっ、落ち着け、北原伊織!これには何か事情があるはずだ。
!そっか、ここはダイビングショップ!もしかしたら、今からダイビングするために水着に着替えてる途中だったのかもしれない。そりゃ、そうだ!いくら室内って言っても全裸で堂々と椅子に座ってるわけねーよ!
きっと、そうだ!
ガチャ「すみません、着替えてるさいちゅ・・・」
俺は少しだけドアを開けて謝りながら室内に入り直そうとしたが
「どうした?人見知りか?これから一緒に住むんだし、そんなに遠慮しなくていいんだぜ!」バタンっ
扉を閉めると俺は一目散に逃亡した。いや、おかしい。いくら室内って言っても、男子更衣室とかでなく、普通に店内で全裸だった時点でそもそもがおかしい!全裸で仁王立ちして、サムズアップして話しかけてくるのは尚のことおかしい!!
こう言う時はどうすればいい?そっか、まずは通報だ。変質者がいたと通知しなければ!
俺は走りながら、ポケットから携帯を取り出す。そして、110とかけようとしたその時に大きなナニかにぶつかった。
「あ、すみません。ちょっと、慌ててて、前を見てませんで・・・し、た。」
「おお、気にするな!気を付けて歩くんだぞ!」「おーい、酒は無事か?結構勢い強かっただろ?」「なーに、酒は身を張ってでも庇ってみせるさ!」
ぶつかった相手に謝ろうとしたら、そこには全裸の筋肉質の集団がいた。
いや、ここ公道だよな!?百歩譲って、さっきは店内で室内だったから良かったとしても!ここはアウト!!
・・・て、もしかしてさっきぶつかった妙に生暖かったのって
「わりー!わりー!俺のご立派様が当たっちまったな!まぁ、ある意味ツイテルってことで!」
オレのゴリッパサマ???
目の前の金髪の男の声を聞いた俺は、俺の顔に当たったであろうナニを見てしまい、気付けば目の前が真っ暗になってしまった。