トレセン学園保健室の記録   作:占地

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今回は少し書き方を変えました。
あと、題名も少し変更しました。


第四話 トレセン学園保健室の記録

 『人は他者の気持ちを完璧に理解することはできない。だから、お前に俺の気持ちはわからない』

 

 高校時代に自殺した親友に、僕はそんなふうに言われた。

 僕は彼のことを親友だと思っていたので、彼からの明確な拒絶に少なからず寂しさを感じた事は否めない。

 

 そんな僕が、現在では他者の気持ちを理解しなければならない職業に就いている。

 運命とは奇妙なものだと、つくづくそのように感じる。

 

 特に、彼の死に少なからず影響を与えたウマ娘達の世話をするのだ。僕としては、あまり気持ちの良いものではなかった。

 

 *

 

 保健室に備え付けられたテレビを僕は見つめている。

 テレビにはレースの様子が映し出されている。

 

 それは、サイレンススズカが出場するレースだ。先日のカウンセリングを経て、初のレースだ。

 僕はそれを、レポートの誤字脱字を確認する時のような気持ちで見つめていた。

 

 結果は、彼女の一着に終わった。見事な、彼女らしい走りでの一着だった。

 実況の声が耳に入る。

 

 『サイレンススズカ、他のウマ娘を寄せ付けない見事な大逃げでした!』

 『心なしか、前回のレースよりも生き生きとしていましたね。これからが期待できそうです』

 

 僕は、テレビの電源を切った。

 一仕事やりきったという安堵感が、訪れた。

 

 あとは、もう僕の出る幕はない。チームの移籍云々の話があったが、僕が気にすることではない。ハナさんと沖野が決めることだ。

 

 *

 

 学園内のウマ娘達はもうおらず、窓からは淡い暗闇が顔を覗かせる。

 僕はそろそろ帰ろうと支度をしていると、ドアの方から聴き慣れた声が聞こえてきた。

 

 「失礼します、清水さんはいらっしゃいますか?」

 「たづなさん、どうも」

 「ふふふ、こんばんわ。清水くん」

 

 その相手は、トレセン学園の秘書であり、僕の親戚である駿川たづなだった。

 余談だが、彼女が僕に『トレセン学園で養護教諭をしないか』と持ちかけてきた。彼女は、僕がウマ娘に対して苦手意識を持っていることを知っていたはずなのに、敢えて勧めてきた。

 

 それは、僕の家の経済事情を考えてのことだったのかもしれない。最近になってそう考えるようになった。

 この仕事は、俗っぽい話だが金払いはいい。少々ブラックであるという事実に目を瞑れば、ホワイトだ。

 

 「スズカさんの話は聞いたわよ、ハナさんから」

 「そうですか、どうやら彼女も吹っ切れたようですから何よりです」

 「あっ、そういえばレースは見た?彼女の大逃げにはとっても興奮したの」

 

 そう言って彼女は、そのレースについて語り始めた。彼女のウマ娘に対する愛は人並み以上だ。こうなってしまうと、手のつけようがない。僕はそれっぽく相槌を打つ。

 

 幸い今日は短く済んだ。僕はほっと胸を撫で下ろす。

 

 「彼女、お礼が言いたいんですって」

 「そうですか」

 「どう、うれしい?」

 「まあ、仕事ですし」

 

 そう言う僕に、やれやれと言ったふうに首を振るたづなさん。

 感謝は素直に受け取るべきなのだろうし、感謝されることは嬉しく思う。それでも、なんとも釈然としない気分になって、つっけんどんな態度をとりたくなってしまう。

 

 「なかなか、壁は壊せないわねえ」

 「余計なお世話です」

 「…まあ仕方ないわね、こればかりは時間をかけていくしかないか」

 

 彼女は僕をどうしたいのだろうか。僕にはよくわからないが、今のところわかる必要はないと感じる。

 

 「でも清水くん、結構評判いいわよ。生徒達からの」

 「ああ、そうですか。好かれているならいいです」

 「ルックスも悪くないし、親身に寄り添ってくれるからですって」

 「…どっから仕入れてるんですか、そんな情報」

 僕は彼女の情報網に若干呆れる。

 彼女は意味ありげに微笑み、口の前に人差し指指を当てた。

 

 「足の様子を確かめるときに、跪いてくれるのが王子様みたいだって」

 「…もういいです」

 

 少し楽しそうに話す彼女を僕は遮る。彼女は僕を揶揄うことに、楽しさを覚えている。

 思えば、学生時代からずっとだ。特に女性関係についての弄りは、群を抜いて多かった。

 

 くすくすと笑う彼女に、せめてもの抵抗として呆れ顔をお見舞いする。しかし多分、カスリもしていないだろう。彼女には頭が上がらない。色々な意味で。

 

 すると一転して、戯けた雰囲気が消え、落ち着いた笑みを浮かべつつ僕に尋ねた。

 

 「どう、学園は楽しい?」

 そんなふうに聞いてきた。

 

 「…正直にいうと、普通です。楽しくもないし、辛いわけでもないです」

 「そう、最初はあんなに嫌そうだったのにね」僕は少し口をつぐむ。

 「人間にもいい奴と悪い奴がいます。悪い人間しか見なければ、人が嫌いになります。それでも、一人でもいい奴がいれば認識は変わります。本当に少しですが」

 「ウマ娘もそういうもの?」

 「そういうものです」

 「ふうん、そっか」

 

 僕は彼女の問いに、曖昧な答えを返す。そんな僕に対して、彼女も曖昧に返事をする。

 この学園に来てから、少なくとも一個人と種族は分けて考えることができるようになった気がする。

 

 少しづつ、僕は変わっている。

 たづなさんにも、感謝しなければならないのだろう。

 そして、この学園のウマ娘達にも。

 

 僕は、それを楽しみたい。

 僕自身の変化を。

 見ていて欲しい。死んだ友人に、変わっていく自分を。

 君の生きた軌跡を忘れることはないと。

 

 「たづなさん」

 「何?」

 

 「人は変われるでしょうか」

 「ん、そうねえ。その人次第じゃないかしら。いつまで経っても変われない人もいるでしょう。清水くんは、多分そうではないと思うけれど」

 「…ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これでプロローグ的なものは終わりです。
あとはもう、『このウマ娘の話を書きてえ〜』て思ったら書きます。

一人称の方が書きやすかったので次からそうしようと思います。
もし、三人称の方がいいと思う方がいらしたら教えてください。

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