デビュー戦当日。私はいつもより早く目が覚めていた
「まだ5時か……」
フィエールちゃんは昨日読んでいた雑誌をアイマスクにして寝ていた。多分、寝落ちしたんだろう
普段なら二度寝する所なんだけど、今日はあまり眠たくならない。それどころか目がバッチリ覚めている
「まだ、レースまで時間あるから走るか」
私は今日レースで履く靴の感触を確かめるついでに朝走る事にした
「朝から走るって気持ちいいんだね」
トレセンから数メートル離れた河川敷、川の流れが聞こえるくらい静かで、なんか心地良い
あまり朝早く起きないから新鮮に感じる。まあ、二度寝がほとんどの原因なんだけど……
「……蹄鉄も今のところ問題はなさそう。よ~し、もうひと走りして、寮に戻ろ!」
私は走るスピードを少し上げて寮に戻るのだった
東京から数時間間かかりデビュー戦の舞台である新潟の会場に到着した
私は車の窓から新潟の会場を見つめる。車の中に居るのにもの凄い熱気が伝わってきた
「着いたぞ!」
トレーナーの声に寝ていたスペ先輩達は目を覚まし目を擦る。てか、みんな寝てたんだ……
私は車から降りると大きく深呼吸をする
観客のざわめき、観客の熱気、そしてこれから走るウマ娘の絶対に勝つという意志が伝わってきて押しつぶされそうになる
てか、こんなに押しつぶされそうになったのは初めてかも……
これが昨日のトレーナーが言っていた“本当”のレース……
「どうだ会場は?」
「なんか押しつぶされそうです……」
「そうか……お前は自分の走りをすればいい!このプレッシャーに勝てばお前はもっと強くなる」
トレーナーの言葉に私は頷く
「よーし!スペ達はアイを全力で応援だ!」
「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」ですわ!」
みんなの声に私の不安が少し取れたような気がした
「それでは呼ばれるまで待っていてください!」
体操服に着替えた私に20代くらい女性なが現れ何も知らない私をステージ裏に案内した
微かに漏れるステージの光だけがステージ裏を照らす。ステージ裏は特に物は無く、さっきの女の人どころかウマ娘や人の気配すら感じられない、本当に何も無い空間にぽつんと置かれた感じだ
「え、何?」
戸惑う私に前に垂れ下がる赤いカーテンが開く
「続いて6枠、12番、アーモンドアイ!」
カーテンが開く観客の目が私に一斉に向いた。私の背筋に一気に緊張が走った
これに関しては何となくトレーナーに聞いていたけど、実際どうすればいいかわからない
私はゆっくりステージを足を進める。ゆっくり進む私の足が震えているのが感じる。そんな状態でふと目線を上に向けた。目線の先にはスピカのみんなが私に向けて手を振っていた
……なんかみんなを見たら緊張が解けるなー
手を振るみんなに振り返した。すると沈黙していた観客が息を吹き返すように盛り上がった
「あれ……なんか急に盛り上がったんだけど……」
もしかしたらみんなのおかげなんかな?でも、おかげ変な力は抜けたかも
私はそのままカーテンの方へと戻った
一通りウマ娘の紹介が終わると今回出場するウマ娘がゲート前に集合する。みんな、深呼吸をしたり、軽く腕を動かしたりとレースに向けて気持ちを落ち着かせていた
そういう私も深呼吸をして気持ちを落ち着かせる
そしてウマ娘達は順番にゲートに入る。私は6枠12番なので、5人入った所で次に私が入った
全てのウマ娘がゲートに入り準備が完了
リギルの試験の時とはまた違うゲートの景色。初めてのレースに緊張する反面、私は楽しんでいた。ホントに“アタシ”の悪い癖だな……
俺はスペ達と共に静かにアイのデビュー戦を見守る。正直不安だ。練習不足と言われれば練習不足だし、もう少し早く練習をさせとけばよかったなと思う
しかし、俺の目に入るアイは全くオーラが違う。新潟に来た時は頼り下なさげだったけど、今のアイツは長い鹿毛が逆立ち、真っ直ぐ何かを狩るように睨みつけ、口元は笑みを浮かべていた。まるで別のウマ娘のように
リギルの試験の時は気づかなかった……
「おい、なんかアイツ雰囲気違い過ぎないか?」
「そうですか?」
「ええ、ゴールドシップの言うとおりですわ。まるで別のウマ娘……」
どうやら気づいている奴もいるようだ。まあ、マックイーンの言うとおりだな……もしかしたら、二面性を持っているかもな
おっと、そろそろ始まるようだ
アタシは低い体勢になり走る体勢になる
そして、スターターピストルの音と共にゲートが開いた。今回は出遅れずにスタートがきれた。スタート練習をしたおかげだ。あまり音には慣れないけど……
アタシは順調に前へと進んでいく。とは言っても、後ろの方で他のウマ娘の様子を見るんだけど
まあ、あまり様子見しすぎるとあっという間に終わるから次のコーナーで一気に詰める
コーナーに差し掛かった所で、私は加速する
……目の前のウマ娘が邪魔で走りづらい……
アタシはそう思いつつ直線へと差し掛かる。差し掛かったと同時に外側に思わずヨレてしまったけど、前に進むウマ娘をジグザグに避ける
よし、あと一人!先頭に走るウマ娘を抜かせばゴールも寸前1位は確定する
アタシの足はどんどんと加速して、先頭のウマ娘に近づいていく
「あと少し……」
あと少しで手が届きそうな所で先頭のウマ娘はゴールに入り逃げ切れられた
アタシも2着でゴールに入ったものの、その場で地面に手をついた
込み上げてきた思いが涙となり、ぼとぼとと新潟の芝に落ちる
手で拭いても拭いても出てくる涙と今まで感じた事の無いほどの悔しさが溢れ出る
これが“本当”のレース
「うわぁああああ!!!」
会場に響く私の声は観客の熱気に負けないくらい大きな声が出た
コースを離れとぼとぼと帰っているとスピカのメンバーがみんな揃って私を出迎えてくれた
みんなの表情は嬉しいそうに笑っていたけど、どこか腑に落ちない感じがした
「どうだレースは?」
「悔しかったです……次は勝ちます!」
頬につたう涙を拭い私は楽屋へと早歩きで戻った
泣きじゃくる顔を正直、誰も見せたくなかった
私は楽屋に戻ると鏡に向けて数10分間泣き続けるのだった
マジでレースシーンだけです
今回は一人称視点ですが、レースの書き方はころころ変わると思います
こんな感じですが、読んでくれると幸いです