予備校まで35キロ、往復すると70キロ。それを六回ほど繰り返すと辿り着けるような距離。普通に考えて一日に六回も往復で電車なんか乗るはずないんだけどね。でも、それをしないと会えない距離に居るんだ、あいつは。
(なんでまた山形なんか行っちゃったんだか。まぁ……半分あたしのせいでもあるんだろうけどさぁ)
高三の時、すれ違ってしまったあの時間。あれと比べたら長距離バスで片道7〜8時間なんて全然いいんだけど、人っていう生き物はなんでかな、欲張りだ。好きな人の側に早く行きたい。そんな乙女と共にあたしはバスの座席で揺られていた。
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今日は遠く離れた故郷から、想い人が訪ねてくる。いつもは夜行バスで来るんだけど、バイトの都合で時刻が合わないという事で昼行便で来るそうだ。昼行便だと仙台からは電車か。とても嬉しい反面、心がソワソワしていた。
数日前、バスが事故で横転したというニュースをウェブサイトで見た。今までは他人事のように見ていたものでも、自分の大切な人の事になると途端に心配になる。そんな事を言ったら、電車でも車でも乗れなくなるんだろうけど……。
(部屋の片付けでもするか)
普段から多少の整理整頓はしてるつもりだけど、何かやっていないと落ち着かない。浴室にハイターを撒いて、トイレ掃除をする。やっぱり共有する所は綺麗にしておかないと。部屋の掃除機かけとカーペットのコロコロを済ませ一息つく。
時計に目をやるとお昼を回っていた。
(腹減ったな、何か食べるか)
冷蔵庫の中身を物色するも、ものの見事に何もない。がらんどうだ。いつもここに来る前に買い物してきてくれるけど、長旅に買い物までして貰うのは流石にな、という事で時間潰しも兼ねて買い物に行くことにした。
いつもなら自転車で行くけど、今回は歩いて行こう。たまには歩いて、ゆっくり景色を見ながら行くのもいいし、何より彼女からの連絡を取りやすい。自転車じゃ両手が塞がっているから、その都度、立ち止まらなければならない。
「♪♪♪」
スマホの通知音が鳴る。
「いま上河内SA」
上河内って言うと、栃木か。あと半分くらい。「これから買い出し」と返信すると、目的地に向け再び歩き出す。
普段は慌ただしく学生生活を送っている事もあってか、ゆっくり街並みを見ながら歩くのは、ねーちゃんと下見に来たとき以来か。
再びスマホの通知音が鳴る。
「買い出し行くなら駅に迎えに来て一緒に行ってもよかったのに」
うん、まぁ確かに北岡の言う事も一理あったんだけど、今回はごめん。
家でじっとして居られないなんて言ったら、理由を聞かれそうだし、何より恥ずかしい。
「ゴメンね」と描かれたスタンプで返信し、視線を戻すと目的地のほぼ目の前まで来ていた。
とりあえず籠を手に取り、腹ごしらえの為の昼飯を選定する。
普段からしっかり朝昼晩と食べる方ではないけど、今日は食べておかないと馬力が出ない。焼肉弁当、ステーキ重、うーん……とりあえず肉系でも食っておくか。
夕飯は……そうだ!また寄せ鍋にしよう。長旅で疲れているとはいえ、いつも料理は二人でするし、「休んでなよ」って言っても「いいよ、あたしもやる」って返してくるのがお決まりだ。
鍋なら具材を切って入れるだけだし、そんなに時間もかからないで済む。
何より、あの日に食べた寄せ鍋がとても美味しかった。
えーっと、具材は確かつくね用に鶏ひき肉と、白菜、春菊、えのき……あ!あとにんじんだ。あのきんぴら美味かったからまた作ってもらおう。そんなこんなで彼女との思い出を考えながらの買い物はいつも以上に楽しく感じた。
帰りがけに、ふと思い出した事があったのでドラックストアに立ち寄り、用を済ませると帰路に着いた。アパートまで七、八分ほどの距離しかないから、何か考えながらだとすぐ着く。
さてと、買った物を冷蔵庫へしまい終えると遅くなった昼飯を済ませる。そうだ、と思い出しスマホの画面を開いてみたが、彼女からの通知は届いていない。時間的にも乗り換えかな。スマホやケータイの類を持ったのも割と最近だったので、気持ちを文字に表すのも難しい。長々つらつら書くものなのか、それとも"今"に習って短文なのか。
パソコンのメールはそこそこ使っていたけど、様式が違って見えてやり辛い。そんな事を理由に、彼女への気持ちを上手く伝えれていない自分を誤魔化す。ただ一言、「心配だ」って言えれば違うのかもしれないけど……。
スマホをいじりながら横になっていると、いつの間にか寝てしまっていた。
時刻は午後五時を回っていた。
「ピンポーン♪」
突然チャイムが鳴り、飛び起きると玄関の方へ足速に向かう。
開錠し、扉を開けた先には待ち焦がれた想い人の姿があった。
彼女が目に入った瞬間、無意識に抱きしめていた。
「!!……どうしたの?急に」
「いや、北岡が無事に来てくれた事が嬉しくて」
「ちょっ……あんた熱でもあんの?」
男にだって、寂しさはあるんだ。
大好きな人に、会いたい、会いたかったって。
「でも……心配してくれて、ありがと」
***
「それはそうと、寝てた?LINE送ってもぜーんぜん既読つかないしさぁ」
「え……あぁ、ごめん」
二人仲良く作った"寄せ鍋"はやはり美味かった。ついでに、きんぴらもお願いしておいた。
「まったくしょうがないなぁ」と言いながらも彼女の顔は微笑んでいた。
その顔を見て思う。
君に恋をするなんて、ありえないはずだったのに。今はそんな彼女がとても愛おしく大切な存在になっていると。
二次創作が読んでみたい!という一言から書いてみたショートストーリーです。
本当は恵麻側の視点を多めに書くつもりでしたが(女性側の方が書きやすい為)気付いたら靖貴メインになっていましたね。
個人的に男性の心理描写は苦手だったので、良い勉強になりました。
タイトルはそこそこ悩みましたが、あるアーティストのアルバム曲を文字って取りました。
分かる方はおそらくファンの方ですね(笑)
次回作も書けたらいいなと思います。