ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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よろしくお願いします。
あんまり面白くないなーと思っても、もう少し読んでください。5.5話からがこの作品の本番です。


第1部 ー絶望の旅路ー
第1話 変なプレイヤー


 フルダイブ型仮想現実ゲーム機《ナーヴギア》専用ソフト《ソードアート・オンライン》。通称(つうしょう)《SAO》。

 開発者茅場(かやば)晶彦(あきひこ)の手によって、ログアウト不能、《敗北(ゲームオーバー)》イコール《現実の死》という過酷(かこく)なるデスゲームが始まってから1年半が過ぎたある日、プレイヤーたちの間で、とある(うわさ)が流れた。

 

「情報屋が出してる新聞読んだか? 犯罪者(オレンジ)カーソルのプレイヤーの犯罪件数が減ってってるんだと。特に殺人が」

「あ、オレも読んだよ、それ」

「へー、いいことじゃん。でもなんで急に?」

「それがさ、『1人のグリーンカーソルのプレイヤーが、オレンジカーソルのプレイヤーをキルしているという噂がある』って書いてあるんだよ」

「はぁ? 流石に嘘だろーよ」

「だよなぁー。でももし本当だったら、そいつすげぇよな」

「1人でこんだけ犯罪減るくらいまで殺してんだもんな」

「オレンジの連中からしたら、そいつもう《悪魔》だな」

 

 わずか数日で消え、誰の記憶にも残らなかったが、その噂は確かに存在した。

 一般プレイヤーと同じグリーンカーソルでありながら、殺人(レッド)プレイヤー以上に殺人を重ねた、暗闇の住人がいると──。

 

 

§ALO内 央都アルンの酒場

 

 飛行型VRMMO《アルヴヘイム・オンライン(A L O)》のとある酒場で、ため息を吐く1人の女性プレイヤーがいた。水色のショートヘアに同色の猫耳。猫妖精族(ケットシー)の少女シノンだ。

「はぁ......まさかキリト以外に、あんなプレイヤーがいるなんて......」

 誰に言うともなく愚痴(ぐち)るシノン。そこに、

「よう、シノン」

「やっほー、しののん。どうしたの? 元気ないよ?」

 影妖精族(スプリガン)の剣士キリトと、水妖精族(ウンディーネ)の細剣使いアスナだ。

「あぁ、キリト、アスナ、こんにちは。元気はあるわよ。ただ昨日、《GGO》で変なプレイヤーと会ってね」

 彼女のホームである銃撃戦VRMMO《ガンゲイル・オンライン(G G O)》は、先日のアップデートで新エリアが実装されたらしい。

 シノンがALOからGGOにコンバートし直して、新エリアの探索をすると言っていたことを思い出したキリト達。

「へ、変なって、まさかナンパ!?」

「最悪ストーカーって可能性も......」

 食いかかるように反応するアスナと、その横で物騒なことを言い出すキリトに、シノンは違うわよと苦笑した。

「そういう方向じゃないわよ。仮にそうだったら迷わず眉間ブチ抜いてやってるわ」

 キリトよりも更に物騒なことをさらりと言ったが、シノンならさもありなんである。

「まぁ、ゆっくり説明するわ」

 そしてシノンは、昨日の記憶を辿(たど)っていった。

 

 

 GGOの新エリアを進むシノンは、周囲を警戒していた。ALO以上にPvPが推奨されているGGOでは、いつどこで襲われるか(わか)らない。耳を澄ませ、視線を周囲に素早く走らせる。

 そして、彼女は見つけた。

 砂の上にぺちゃっと倒れている、小柄な少年プレイヤーを。

 最低限のプロテクターのみを着けた、黒い防弾ジャケットを着た少年だった。中学3年生くらいだろうか。近寄ってみると、長めの黒髪の下から2つの赤い瞳がシノンを見つめてきた。その眼からは一切の敵意を感じられず、むしろあるのはただの間抜け面だった。

 警戒を解いたシノンは、シンプルな問いを投げかけた。

「何してんの、あんた?」

「逃げるのに飽きてどーしよーか考えてるとこ」

 ほっ、と軽い調子で起き上がりつつ答えた少年に、シノンは別の質問をする。

「逃げるって何から? 新エリアのモンスターが強かったの?」

「んにゃ、POP独占してる連中に追い返されて、ムカついたから1人殺ったら逆ギレされて追い回された」

 シノンは心の底から呆れた。POP独占なんてノーマナー行為をして、挙げ句逆ギレとは。

「私も着いてくわ。そういう連中嫌いなのよ、説教してやるわ」

「おー、いーね」

 にししと笑うと、少年は思い出したように言った。

「自己紹介まだだったね。おれはマエト、よろしく」

 そう言ってネームカードを飛ばす相手に、シノンも同様に名乗った。

「シノンよ、こちらこそよろしく」

 するとマエトは、シノンのネームカードを見ていた目を軽く見開いて、

「ふむ? てことは、あんたが第3回BoBの優勝者の片方? ほほう、これが俗に言う《ベテランのふーかく》というやつですか」

 のんびりと言うマエトの装備を改めて一瞥(いちべつ)して、シノンは固まった。

「......あんた、まさか武器がその腰に下がった2本の光剣(こうけん)だけなんて言わないわよね?」

 そう言いつつ相手の腰に下がる2本の白い筒を指差すシノンの言葉に、マエトはしれっとこう答えた。

「これあるよ」

 そう言ってマエトが取り出したのは、小さなナイフだった。

「銃は!?」

 まさかの近接武器の登場に思わず突っ込んだシノンに、しかしマエトは「失礼な」と反論した。

「これちゃんと銃だよ。ほら、ここよく見て」

 少年が指差した箇所(かしょ)──ナイフの(つば)を見ると、短い刀身の根本に添うように、小さな穴が(たて)に3つ並んで空いていた。よくよく見ると、グリップ部分に銀色の小さな突起(とっき)がある。どうやらそれが引き金で、鍔の穴が銃口らしい。

「中国製の82式2型ナイフピストル。安い上に近接も射撃もできて便利だよ」

「どう考えても最後の悪あがき用じゃない!! 普通のハンドガンとかはないの!?」

「ないよ」

 直後、シノンは割と真剣に頭を抱え、そして頭に浮かんだ一言を全力で世界に出力した。すなわち、

「......バカなの!?」

「しゃーないじゃん、飛び道具苦手なんだもん」

「じゃあALOでもやればいいでしょ、なんでGGOなのよ?」

 先程よりも本気で呆れながら尋ねたシノン。その前にいる少年は、一言(ひとこと)言った。

「このゲームが今んとこ一番殺し合いに特化してるから」

 凄まじい悪寒が走った。

 スナイパーとして、どんな状況でも狙撃を成功させるためにメンタルを鍛えているシノンですら気圧(けお)されるほどの、異様な圧力。

 より明確に言えば、《殺気》。

(何......? う、動......けない......)

 動いたら殺される。そう錯覚するほどの気配に呑まれていたシノンの意識は、

「いたぞ!!」「ぶっ殺す!!」「やってくれたな!!」「死ねやぁ!!」

 等々のバイオレンスな叫び声によって引き戻された。

「さっきの連中まだ追っかけて来てたんか、暇なんかなー」

 のんびりとぼやいたマエトの両手が閃く。左右の光剣を握り、スイッチを入れる。ブン、という音と共に、青白い光が伸びる。

「──しょーがない、()るか」

 砂煙をあげて駆け出したマエトを、銃弾の嵐が襲う。

 直後、少年の両手が素早く振るわれ、ライトブルーの軌跡が銃弾を防ぐ。

 弾道予測線を利用してフォトンソードで銃弾を斬る、キリトの防御テクニック。

(キリト以外にも、こんな芸当ができるバカがいたなんて......)

 だが、驚いていた相手もBoBの中継を観ていたのだろう。すぐに対策をしてきた。サブマシンガンやアサルトライフルの弾幕を密集させたのだ。だが直後、

「ぐわあああっ!!」

 一番前にいた男がポリゴン片となって散った。一瞬で距離を詰めたマエトの光剣に、その心臓を貫かれて。

「あーあ、弾集めたら避けやすくなるに決まってんのに。わざわざ殺りやすくしてくれるとか親切だな」

 嫌みを言うや否や、再び地面を蹴るマエト。だが、今まではスピードを抑えていたのか、先ほどよりも更に速い。

 1人が首を跳ねられたかと思った時には、もう1人の心臓が貫かれていて、それを認識した時には最後の1人が上下に真っ二つにされていた。

 瞬く間に4人ものプレイヤーを1人で、しかも光剣で片付けたマエト。

(あの子の剣......キリトのと、どこか違うような......)

 そう思ったシノンは、目の前でのんびりと光剣をしまう少年の、異質な戦闘力と殺気に戦慄(せんりつ)していた。




次回 光剣の乱舞

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