ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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読んでくれてありがとうございます(前書き何書けばいいか解らないマン)


第9話 特訓

 謎の質問の後の、マエトの突然の一言。

「アスナさん、おれと付き合って」

 そしてキリト、怒りの叫び。

「はああああああああっっっ!!??」

 絶叫したキリトが、マエトとアスナの間に素早く割って入る。アスナに背を向けてマエトを睨み付けると、右手を閃かせ、背中に吊った片手直剣《ユナイティウォークス》の柄を握る。

 更にキリトとアスナの間に、旧SAO時代の少女アバターに戻ったユイが割って入る。アスナに抱きつくと、首を捻ってマエトをジトッと睨み付ける。

「お兄ちゃん、ユイちゃん......」

「敵意()き出しね......」

 リーファとシノンが、「うわぁ」的な表情で呟く。2人の臨戦態勢がガチすぎて、アスナもやや戸惑っている。

「キリトくん、ユイちゃん、とりあえずちょっと落ち着いて......」

「絶対にダメです! ママは私とパパのものです!」

「ユ、ユイちゃん......」

「大丈夫だユイ、アスナは誰にも渡さない!!」

「キリトくんまで......」

 敵意をみなぎらせる親子に睨まれて、

「え、ナニコレ」

 と呟くマエトに、ユウキが言う。

「もー! とー君がヘンなこと言うからだよ! アスナはボクのだからね!!」

「お前もかよ!!」

 リズベットやスリーピング・ナイツの一部が突っ込む。マエトは頭をガリガリ()きながら、

「いやー、言い方まずったなとは自分でも思ったけどさ。こんなよう分からんラブコメみたいな状況になるとは思わなんだ」

 ふぃーっ、とため息を吐くと、マエトは改めてアスナに言った。

「アスナさん、おれに稽古(けいこ)つけて」

「け、稽古?」

 拍子抜けして思わず聞き返すアスナに、マエトが頷く。

「そ、片手剣系の刺突の。より速く、よりスムーズにするために、レクチャーって言うんかね、そーゆーのを」

「そっかぁ、レクチャーかぁ......」

 呟くように繰り返したアスナ。習得条件の厳しさ故に、OSSを編み出したプレイヤーに他のプレイヤーが弟子入りして、剣術流派を生み出したりといったことはあるが、片手剣系の刺突に関して自分が似たようなことをするとは。

 そう思ったアスナは、戦闘中のマエトの動きを思い出してみた。

 確かに動きは速く、技の()えも超一級品だが、斬撃(スラッシュ)攻撃が主体の片手直剣使いだけあって、刺突の動きに荒らさがあることは否定できなかった。マエトの刺突は言ってみれば、キリト以上ユウキ以下アスナ未満といった程度だ。

「うん、解った。わたしに教えられる範囲でだけど」

 アスナがそう答えると、マエトは、

「おー、ありがとうアスナさん。いや、師匠」

 引き受けただけなのにもう師匠呼ばわりはさすがに居心地が悪いので、

「い、今まで通りの呼び方でいいから」

 と言っておく。それに了解したマエトに、リーファが声をかけた。

「ねぇ、ちょっといい?」

 「何?」

 マエトが振り向くと、リーファは質問した。

「さっきマエト君、リズさんのお店で剣を2本装備して試し振りしたよね?」

「? うん、したね」

 それが何か? といった表情で返すマエトに、リーファは続けて聞く。

「その時、右手で剣を逆手に持って、左手で順手に持ってたよね? あれってなんでなの?」

 妹の質問の意図に気付いて、キリトも考え始める。

 短剣や小太刀などは、超接近戦での正式な持ち方として逆手がある。だが、刀身が0.6m以上ある剣を逆手に持つと、逆に自分を斬ってしまうかも知れないリスクがある。切鬼と裂鬼の刃渡りはどちらも0.7m。キリトが使っているような一般的な長剣の刀身0.8mよりは短いが、それでも逆手に持つには長く、メリットは特に思い浮かばない。ならばなぜわざわざ片方の剣を逆手に持つのだろうか。それに対するマエトの答えは、

「昔は複数人を1人で相手するのが普通だったからねー。片方逆手、片方順手に持ってると、囲まれた時に全方向に対応しやすいんだよ。刺突と受けは逆手の方がやりやすいし」

 マエトの言葉に納得したような表情になるリーファ。だがすぐに、

「あ、じゃあ1対1の時は? 後ろに回られた時の対応は速くなるかもだけど、1対1で後ろ取られることなんてそんなにないよね?」

 キリト達は意表を()かれたような顔をした。1対1の戦いで後ろを取られることは、余程の実力差がないと普通は起こらない。マエトが相手の後ろを取ることはあるだろうが、その逆は考えにくい。

 マエトは少し考えるように、

「うーん......」

 と(うな)っている。しかしそれは、その状況でのメリットが何かを考えている訳ではなかったらしく、

「ちょっとまだ自信ないけど、やってみた方が早いかな」

 そう呟くと、マエトは装備メニューを操作した。腰に白い鞘が移動し、小さな背中に黒い鞘が吊られる。右手で切鬼を、左手で裂鬼を引き抜きながら、マエトはリーファに言った。

「リーファさん、ちょっと防御してもらっていい? デュエルしてるような感じで」

「う、うん。解った」

 やや戸惑いつつも、リーファは左腰に右手を伸ばし、長刀スウィープセイバーを引き抜くと、両手で構えた。

「まずは両方順手ね」

 そう言うとマエトは、左右の剣でリーファに攻撃を仕掛けた。超高速で襲い来る連撃を、リーファは何とか全て受けきった。

「おー、全部防いだ」

 感心したように言うマエトに、

「二刀流を使う人が身近にいるからね」

 と答えたリーファ。納得したように頷くと、マエトは右手の中で切鬼をくるりと回した。

「んじゃ、今度は片方逆手ね」

 先程と同様に、リーファに次々と連撃を叩き込むマエト。すると攻撃を3回ほど受けたところでリーファが、

「え、ちょっ、何!?」

 と戸惑った声を上げた。その後も数秒間マエトの攻撃を防いでいたが、今度は防ぎきれずに何発か喰らっていた。

「どうしたの? リーファちゃん」

 アスナがポーションを差し出しながら訊ねると、シルフの剣士は言った。

「逆手に持ってる方の剣、リーチが見えにくいんですよ。だから攻撃の間合いと出所が読みにくくて」

「しかもそれが片方だけだから、余計に間合いぐちゃぐちゃになるでしょ。あと、逆手の方が首狙いやすいんだよ」

 マエトの補足を聞いて、リーファやキリト達はようやく納得した。

「とー君すっごいなぁー! ボクも逆手持ちの練習しようかな」

 と言い出すユウキ。だが、

「ユウちゃんのスタイルだと、逆手はあんまり生きないと思うよ」

「へっ、そうなの?」

 さくっと返した幼馴染みに聞き返す。

「多分だけど、ユウちゃんって正面から斬り合う系の人でしょ。そーゆースタイルだと逆手持ちのメリットはあんまり発揮されないよ。奇襲とかカウンターをメインにするなら別だけど」

 マエトの言葉に、スリーピング・ナイツのメンバーが、

「「「うんうん」」」

 と頷く。アスナも、ユウキと同じ『正面から斬り合う系の人』なスプリガンを見ながら、

「確かに、キリトくんが逆手持ちしてるところってあまり見たことないかも」

 と言う。

「逆手に持つと力が入りにくくなるんだよなぁ。ボスの重攻撃の軌道をずらす時になら何回かやったことはあるけど、攻撃ではやったことないな」

 キリトもユウキも、基本的な戦闘スタイルは真正面からの近接戦闘。集団や巨大ボスを相手にする場合はヒットアンドアウェイを主体としているが、それでも性格的に正面から相手と斬り結ぶ戦いを好んでいる。

 だが、ユウキを除くスリーピング・ナイツの5人と戦った時のマエトのスタイルは、正面戦闘ともヒットアンドアウェイとも違った。正面から戦ってはいるのだが、常に相手の裏をかき続けて奇襲を仕掛けているような、そんな奇妙な印象だった。

 スリーピング・ナイツの6人が病院の検査のためにログアウトするのを見送った後、アスナはマエトに声をかけた。

「それじゃあ、さっそく特訓しようか?」

「うん、よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げるマエト。

「良かったら、俺もちょっと見てっても......」

 そう口を(はさ)んだキリトに、ユイが忘れ物を叩きつけた。

「でもパパ、明後日が提出期限の課題がいくつかあったと記憶していますが......」

「............あ」

 ピタリと固まったキリトだが、その体はアスナが一言放つとすぐに再起動した。

「キリトくぅ~ん?」

「あっ、お、俺、家に戻って課題やるから! アスナ、マエト、修行頑張れよ!」

 新生アインクラッドを指差して早口にまくし立てると、キリトはクリアグレーの(はね)を広げて飛び立った。

「しょーがないわね、あたし達も手伝ってやりますか」

「ですね」

 そう言ってリズベットとシリカはキリトを追いかけていった。

「私も、キリトがちゃんと課題やるかしっかり見張らないとね」

 肩をすくめて言うと、シノンもリズベット達に続いた。

「オレもそろそろ戻らねぇと。嫁さんに店任せっぱなしにしてるからな」

 と言ってログアウトするエギル。リーファとクラインはどうしようか少し悩んだ後、

「キリの字の冷やかしにでも行くかな」

「お兄ちゃんの手伝いと応援でもしようかな」

 と言って、結局22層の家へと向かった。

 マエトと共に残されたアスナは、弟子に向き直って口を開こうとした。その時、

「特訓の前に、なんで刺突を上手くなりたいか説明さしてもらっていい?」

 と言うマエト。

「いいよ、聞かせて。明確な目標があるなら、わたしも教えやすいし」

 そう答えたアスナに、マエトは自分の目標、というよりイメージを語った。

「えっとね──............」

 

 

「なるほどねー。確かにそれを実現するなら、マエトくんの今の突きの完成度じゃ厳しいかもね」

 マエトの言葉を全て聞き終えて納得すると同時に、自分の見解を遠慮なく言うアスナ。ストレートに放たれた言葉に、しかしマエトは気にしたふうもなく笑うと、

「だからこそのアスナさんとの特訓だよ。よろしくお願いします、師匠」

 ペコリと頭を下げる弟子に頷くと、かつて攻略の鬼と呼ばれた水妖精族の少女は言い放つ。

「よーし! やるからには厳しく行くからね! 途中で泣き言言ったらダメだよ?」

「にしし、上等!」

 目標期限は10日後の統一デュエルトーナメント。それまでに仕上げるべく、ハードな特訓が始まった。

「遅い! それだと威力はあっても速度と精度が落ちるわ! 力の加減にもっと気を遣って!」

「引きが遅い! 突きだけが速くてもダメ! 連続して突くなら引きも意識する!」

「ダメ!」

「ダメ!!」

「ダメ!!!!!!」

 

 

 そして、特訓開始から2時間強が経過した17:00頃。

「お邪魔しまーす!」

 元気よくログハウスの扉を開けるユウキを、アスナとユイが出迎える。

「ユウキさん、こんばんは!」

「思ったより遅かったね。検査長引いたの?」

「ううん、今日のボス戦のことを先生に話してたんだ。思い出すだけでもすっごくドキドキワクワクしちゃってさ!」

 楽しそうに話すユウキと、微笑みながらそれを聞く倉橋医師の姿を想像して、くすりと笑ったアスナに、今度はユウキが訊ねる。

「逆にアスナは、なんでユイちゃんに肩揉みしてもらってるの?」

 ユウキの言った通り、アスナは少女姿に戻ったユイに肩を揉んでもらっていた。小さな手が肩をグニグニ揉む度に、アスナの顔が幸せそうに(ゆる)む。

「マエトくんと突きの特訓してたら疲れちゃってねー。VRでのマッサージに効果があるかは分からないけど、現実ではユイちゃんに肩揉みしてもらうなんてできないから」

「私が提案したら、ママは二つ返事でお願いしてくれたんです!」

 楽しそうに肩を揉むユイと、気持ち良さそうにふにゃふにゃするアスナ。幸せな光景に微笑みを浮かべるとユウキは、

「あ、そういえばそのとー君は?」

 と聞いた。

 アスナはユイにお礼を言って立ち上がると、奥の寝室へとユウキを手招きした。

 アスナが静かにドアを開け、ユウキがひょこっと覗き込むと、

「あ」

 ベッドの上でうつ伏せになって寝ている、小柄なインプの少年を発見した。

「すぅ......すぅ......」

 規則正しい寝息を立てるマエトを見て、ユウキが微笑む。

「とー君も特訓疲れたんだね」

「初回からけっこう厳しくやったからね。教える側のわたしでこれだけ疲れたんだから、マエトくんは相当だと思うよ」

 しかしアスナは、でも、と前置きして続けた。

ALO(こっち)であんまり寝すぎると、向こうで寝れなくなっちゃうから、そろそろ起こしてあげて」

「うん! 任して!」

 自信満々の笑顔で頷くと、ユウキは半開きだった扉を全開にした。そろりと後ろに下がると息を吸って──。

「とー君、起きろーっ!!」

 助走をつけ、叫びながらベッドに横たわるマエト目掛けてダイブした。ユウキが着弾して、マエトが痛そうに目を覚ます姿を、アスナは予想した。

 だが、

「ほっ」

 いつから起きていたのか、マエトが素早く寝返りを打って回避。ユウキがベッドにボスッと落ちると同時に馬乗りになり、両手首を手で、両足を足で押さえつけた。

「捕まえた」

「えっ!? とー君起きてたの!?」

「ほんちょっと前からね」

「うー、離せー!」

「ふははー、逃げれるものなら逃げてみるがいいー」

 話している内容自体は無邪気で子供っぽいし、実際2人もただ楽しく遊んでるだけなのだろう。

 だが、マエトはコートを装備したままなので、そのやや長めな(すそ)でマエトがユウキの腰の辺りに乗っているのかお尻の辺りに乗っているのかが見えず、更にユウキが逃れようと動くのに合わせて、マエトが体の位置をずらして器用に押さえ込んでいるため、端から見るとなんと言うか、ちょっと如何(いかが)わしい。

「ママ。ユウキさんとマエトさんは、何をしているですか?」

 寝室を覗き込んだユイに微笑みながら、

「ユイちゃんは見ちゃダメよー、キリトくんの課題がどのくらい進んだか見てきてあげてー」

 と言って、愛娘を遠ざける。解りました! とユイが隣の部屋に入って行くのを見届けると、

「はいはい、そこまで。マエトくん、ユウキを離してあげて」

 アスナはぽんぽんと手を叩きながら言った。

「はーい」

 マエトは思ったよりもすんなりと拘束を解いた。

 だが今度は、手足が自由になったユウキがマエトに飛びかかる。

「とりゃっ!!」

「あてっ」

 マエトをユウキが仰向けに押し倒し、上から髪の毛を両手でかき混ぜる。

「わしゃわしゃわしゃわしゃーっ!!」

「ちょ、ユウちゃん痛い! ハゲるー!」

 喚きつつも、お返しとばかりにマエトがユウキの(わき)に手を差し込み、指先を動かす。途端、形勢はあっさり逆転した。

「あっ、あははっ! とー君、それ、それダメっ......あはははははっ!」

「ユウちゃん、腋弱かったもんねー」

 マエトのコートと違い、ユウキの装備は肩と腋が剥き出しになっている。そのためマエトの指先は、ユウキの脇をダイレクトに刺激した。

「あはははっ! ひぃー、ひぃー、苦しいーっ! やめてぇー! はははははっ!」

「どーだ、参ったかねユウちゃんよ」

「参った、降参! だから、だからやめてぇー! あははははははっ!」

「よし、勝った」

 くたぁ......とベッドに突っ伏して荒く息をするユウキと、その横でキラーンとガッツポーズを決めるマエト。その間に、何やら小さな窓が出現していることに、ユウキが気付いた。

「何これ、《ハラスメント警告》......?」

「さっきのハラスメント行為なの?」

「遊んでただけだけどね......」

「どうなんだろね......」

 2人のインプがベッドの上できょとんとした顔で座り込んでいる。それを見て、呆れたように溜め息を吐くと、アスナは言った。

「はいはい、ユウキは『No』を選んでその窓消して。マエトくん、さっきの普通にセクハラだからね」

「「はーい」」

 そんなこんなで、また1日が終わる。翌日も、アスナとマエトのハードな特訓は続く。

 そして、10日後。




次回 デュエルトーナメント

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