ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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最終話の後も続きます(?)
以降もよろしくお願いします。


Extra Edition ソードダンス(前編)

§新生アインクラッド第22層 森の家

 

「はぁー、疲れたー」

 ALOにログインするや、ストンとユウキの隣に腰を降ろしながら、アスナはぼやいた。

「お疲れ、アスナ!」

 ユウキのニコニコ笑顔で癒されつつ、ふかふかのソファーに身を(ゆだ)ねていると、はす向かいの席から、

「お疲れさん、ほいっ」

 と言って、マエトが小ぶりのジョッキを差し出してきた。素直に受け取ると、アスナはそれに満たされたエールを半分ほど一息に飲んだ。

 口いっぱいに広がる仮想の林檎(りんご)の風味を楽しんでから、インプの少年にお礼を言う。

「ありがとう、マエトくん」

「いえいえ。その代わり京料理できたらおれにもちょっと食わしてねー」

 ちゃっかりおねだりするマエトの言う通り、アスナはつい先ほどまでVRクッキングプログラムを使って京料理の味を再現していた。明日奈(あすな)は先日直葉(すぐは)達と共に京都旅行に行き、プローブを使ってユウキやシウネー達とも観光を楽しんだ。

 だが、見目麗しい京料理の味はプローブでは伝えられず、舌鼓(したつづみ)を打つ間ずっとユウキ達にズルいズルいと言われ、VR世界でその味を再現することに──。

 というのが始まりだった。

 もちろん頑張ってはいるし、あと少しのところまで来てはいるのだが、さすがに疲れたためALOで一休みという訳だ。

「俺も楽しみにしてるよ、アスナの京料理」

 マエトの隣で笑うキリトにも頷き、アスナが再度ジョッキを傾けた時、ふと思いついたようにユウキが言った。

「そうだ! ボク、これからとー君とデュエルするんだ! それ見て休憩しなよ!」

「デュエルはサーカスでもヒーローショーでもありゃーせん」

 即座にマエトが言うが、ユウキはお構い無しだった。

「今回は二刀流でやってってお願いしたんだ。だからいつものと違うと思うよ!」

 顔をキラキラさせて言うユウキに、アスナはやや苦笑しつつ言った。

「そうね、2人の戦いを見て、のんびりしよっかな。でも二刀流のマエトくんって多分すっごい強いわよ?」

 アスナの言葉に、キリトが同意した。

「あぁ。二刀流の時のマエトは、攻撃に機動に崩しに......あらゆる動きの幅が格段に広がるんだ。瞬間的な反応でしか対応できないけど、それでも対応しきれるかどうか......」

 そう言うキリトと心配そうなアスナに向けて、

「そう来なくっちゃ! もっと楽しみになっちゃったよ!!」

 自信たっぷりに言うと、ユウキは右腕を曲げ、左手で力こぶをポンと叩いた。

 

 

 十数分後、森の家の前には人が集まっていた。キリトとアスナ、ユイ、リーファ、シノン、彼らの《SAO生還者(サバイバー)》の友人達だ。

 彼らが見守る中、デュエル申請と受諾を終えた2人のインプが、(さや)から剣を引き抜いた。

 ユウキは長剣マクアフィテルを中段に構え、自然体の半身の姿勢をとった。対してマエトは、戦闘開始時に決まった構えをとらない。鬼を握った両腕をダラリと下げ、しかしその切っ先はわずかにも揺れていない。

 カウントダウンが終わり、システムがデュエル開始を告げる。ユウキが飛び出したのは、それと同時だった。

 雷光の如く駆けると、腕が煙るほどの速度で剣を振るう。切っ先から火花を走らせ、マクアフィテルが地面スレスレから跳ね上がる。

 その直前、マエトが動いた。わずか3回のステップで加速し、ユウキの右腕と体の間に足を差し込んだ。そのままスライディングの要領で滑りつつ、逆手に握った切鬼でユウキの心臓を斬ろうとする。白銀のエッジがハーフアーマーと衝突し、オレンジの火花が散る。このままではアバターの心臓部を斬られて負けてしまうが、タイミング的に、回避する余裕はさしものユウキにもない。もっとも、

 地上戦に限っては(・・・・・・・・)、だが。

「......っ!!」

 咄嗟(とっさ)肩甲骨(けんこうこつ)を開くと、ユウキは展開したばかりの(はね)を全力で振るわせた。アーマーと切鬼が離れた瞬間、地面を思い切り蹴ってそのまま10メートルほど飛び上がる。普通のジャンプでは届かない高さ。翅を使えば容易く届くが、マエトは飛行自体は普通にできるが、空中戦闘(エアレイド)は苦手なのだ。地上戦でこそキリトやユウキとも渡り合うマエトだが、空中戦ではリーファにあと1歩及ばないでいる。

(このまま上空(うえ)から攻撃すれば......!)

 そう思った矢先、ユウキの視界で何かが光った。回転しながら急上昇してくるのは、マエトが切鬼で叩き、打ち上げた裂鬼。水平に倒したマクアフィテルに左手を添え、2H(ツーハンド)ブロックの構えをとるが、意外なまでに勢いが強く、ユウキの腕は上に弾かれた。それとほぼ同時に、マエトがユウキよりわずかばかり高く跳んだ。空中でキャッチした裂鬼を両手で握ると、マエトはマクアフィテルに上段斬りを叩き込む。一直線に落下したユウキが、背中を地面に激しく打ち付けた。

 

 

「りゅ、龍槌閃(りゅうついせん)だとぉぉっ!?」

 大声で(わめ)くクラインに、

「何となくやっただけじゃねぇのか?」

 エギルが横から冷静に言う。思わず苦笑いしたキリトは視線を正面に戻すと、ちょうどマエトが着地したところだった。

 インプの少年のすぐ隣には、切鬼が突き立てられている。突き立てた切鬼の(つか)を足場にして、キックの一瞬に翅でジャンプ力をブーストすることで、空中戦が苦手なマエトは飛行ではなく跳躍でユウキを飛び越したのだ。

「強引に地上戦に戻したな......」

 キリトの呟く前では、立ち上がったユウキがマエトと再び向き合っている。マエトは切鬼を回収し、再び二刀を装備している。ユウキもマクアフィテルを中段に構えているが、今度は待ち(・・)の構えだ。

(おれから来いってか、ほいよ)

 内心で呟くと、マエトは全身から力を抜いた。ブーツの(かかと)が地面から離れ、体がふらりと前方に倒れる。

 とんっ、と拍子抜けするような音。それに反して、マエトのダッシュは恐ろしく速かった。あっという間に白銀と黒銀の刃が近付いて来る。

(右か......左か......!)

 意識を2本の剣に集中させ、ユウキはマエトの動きを見た。右の切鬼か、左の裂鬼か──。

 ユウキの視界の中で、マエトの右手がごくわずかにずつ動き出した。

(こっち......!)

 切鬼に目を向けつつ、意識は念のため裂鬼にも向け、迎撃すべく動く──しかし。

 ユウキの額に鈍痛が走った。頭だけでなく、全体が揺れる。マエトの攻撃は右でも左でもなく、頭突き(まんなか)だった。

「あうっ......」

 予想だにしなかった衝撃に顔を歪めるユウキの視界の端で、マエトの左手が動いた。反射的に右腕の長剣を持ち上げると、黒曜石の輝きをもつ刀身は黒光りする鬼牙を受け止めた。

 直後、マエトの背中から何かが上空に飛び出した。いや、マエトが背中の後ろで上に何かを投げたのだ。思わず目線で追ったユウキ。上空では薄青く光る白銀の剣があった。

 突如(とつじょ)、ユウキの体がガクンと揺れた。マエトが(から)になった右手で、ユウキのハーフアーマーの縁を掴み、引っ張ったのだ。ユウキの体が前に傾き、同時に裂鬼が振るわれる。黒銀の刃が向かう先には、ユウキの首がある。

だが、ユウキは動かなかった。

 いや、動けなかった。いま彼女の目には、マエトの動きはスローに感じられた。だがユウキの意識は、マエトの目に向いていた。

(とー君の目、いつもと違う......暗くて、冷たくて、怖くて......でもそれよりも......)

 彼女が見ていたのは、その奥だった。

(すごく、悲しそうで、寂しそう......)

「ユウキ!!」

 アスナの叫び声で、ユウキは我に帰った。右手のマクアフィテルを背中にかつぐように構える。きぃぃぃんと剣が(うな)り、刀身がライトグリーンに輝く。片手直剣ソードスキル《ソニックリープ》。同じ基本突進技の《レイジスパイク》より射程は短いが、軌道を上に向けられる。システムアシストの訪れと同時に、ユウキは地面を蹴った。2人のインプが弾かれたように跳んだ。

「ちっ......」

 小さく舌打ちすると、マエトはユウキのハーフアーマーから手を離した。

()って」

 尻もちを突きぼやくマエト。その上空で、きゃりぃぃん! と金属音が鳴った。素早く見上げると、緑色に輝く長剣が切鬼を叩き飛ばしたところだった。飛んでいった切鬼は、マエトから離れた地面に突き刺さった。回収しに走り出すが、マエトと切鬼の間にユウキが降り立った。

(行かせない......!!)

 そう気迫を込めて、ユウキは駆け出した。マエトのペースではなく、自分のペースで戦闘を進める。

 すなわち、全力でぶつかる。

 ここからは片手剣同士の対決。手数に大きな差は出ないし、マエトも左右の剣を使った巧みな崩しはもう使えない。しかし、ユウキの猛攻を(さば)きつつ、マエトは思った。

(ん、イイ感じだな)

 

 

 マエトの思惑に、いち早く気付いたのはキリトだった。

「そうか、あいつ......!」

「どうしたの?」

 問いかけてきたアスナに、キリトは答えた。

「このまま行くと、ユウキは負けるぞ」

「な、何言ってるのよキリトくん。マエトくんはさっきまでとは違って二刀流じゃないから、もう複雑な崩しはできないし、手数だって同程度じゃない。いつものデュエルと同じ条件なら、ユウキの方が勝率高いし......」

「同じ条件じゃない」

 アスナの言葉を半ば(さえぎ)って、キリトは(まく)し立てるように言った。

「ユウキはマエトに切鬼を回収させないように立ち回ってる。切鬼とマエトの位置を気にしながら戦ってる。そのせいで、マエトの動きだけに集中できてない」

 それを聞いて、アスナは弾かれたようにユウキへ視線を向けた。キリトすら上回る超絶反応速度を誇るユウキだが、確かにどこか後手に回っているような印象がある。無秩序な斬り合いになってから、双方のHPの減りは激しくなったが、どちらかと言えばマエトの方が残りHP量が多い。

「マエトが切鬼を上に投げたのは、ユウキの視線を誘導する目的プラス、この形を作り出すためだったんだ」

 ここまでの全部が、マエトの(てのひら)の上。

 そんなこと信じられない。偶然じゃないのか。

 そう思ったアスナの耳に、甲高い不快な音が飛び込んできた。

 視線を戻すと、ユウキがバックステップで距離をとるところだった。音源は、マエトの右手に握られた裂鬼。

 黒い刀身の尖端(せんたん)が、地面をえぐり、火花を散らしていた。剣を引きずった後に残った土を、ブーツに包まれたマエトの右足が蹴り上げる。

 土と共に舞い上がった石を2つキャッチし、わずかにタイミングをずらして投げる。

 だが、そんなものがユウキに当たるはずもなく、2つ共軽やかに避けたユウキは反撃を試みた。

 そんな彼女の背中に、鈍い衝撃が走った。驚愕(きょうがく)にユウキの体が強張(こわば)る。その一瞬に、マエトが猛然と駆ける。

「くっ......!」

 カウンターの一撃を合わせようと剣を振るうユウキ。左から右へと水平に振るわれるマクアフィテル。

 それをマエトは、受けるでもなく弾くでもなく、(くぐ)った。前方上空に軽く裂鬼を投げると、マエトはユウキの横をスライディングで通り抜けた。

 ユウキとすれ違うとすぐに、マエトは地面を蹴った。小さく跳ぶと、落ちてきていた裂鬼をキャッチし、突き立っている切鬼の柄を蹴って鋭角ターン。振り向くユウキ目掛けて裂鬼を振るう。

 瞬間、マエトの視界を黒い輝きが横切った。わずかに遅れて澄みきった金属音が響く。ユウキが最速かつ全力でパリィしたことで、マエトの手から裂鬼が吹き飛んだ。あまりの速さに、絶対的な対応力を誇るマエトすら驚き、動きが一瞬止まった。その一瞬にユウキはマエトの懐に飛び込み──。

 剣を投げ捨てると、マエトを抱き締めた。

 キリト達ギャラリーももちろんだが、一番戸惑ったのはマエトである。

「......ユウ、ちゃん?」

「ごめんね、デュエル中にこんなことして」

 でも、と句切ると、ユウキは言った。

「戦ってる時のとー君の目が、すごく悲しそうで、寂しそうだったからさ」

「っ!」

 マエトの体がビクリと震えた。

「ベル君はもういないし、ボクはベル君にも、ベル君の代わりにもなれないけど......」

 《絶剣(ぜっけん)》ユウキは、少年に優しく(ささや)くように言った。

「それでも、ベル君がいなくなっちゃって()いたとー君の心の穴を、ボクがちょっとでも埋められたらって。SAOでベル君が(あった)めてた分も、ボクがとー君の心を温められたらって、そう思ったんだ」

 ユウキは腕に込める力を、少しだけ強めた。2人の体が、更に密着する。

「最初は剣でぶつかって伝えようと思ってたんだけど、こうした方がいいかなって。だってとー君、本当は甘えたさんだもんね!」

 そう言いつつ顔を上げると、ユウキはにっこり笑った。マエトの左腕がピクリと動く。ユウキの装備の袖口を握ろうと、左腕が持ち上がり、しかしすぐに降ろされた。

 自分には、そんな資格もないと言うように。

「......ユウちゃんは優しいねー。おれみたいな人殺しにまでこんなことするとか」

 自虐(じぎゃく)的に笑いながら呟くマエト。しかしユウキはすぐに返した。

「確かにとー君は、SAOで沢山の人を殺しちゃったんだろうけど......でもそれってさ、そうしてなかったらその先の未来で襲われてたかも知れない人達が、とー君のお陰で何人も助かったってことだよね?」

「......、」

 無言のままでいるマエトの後頭部を、ユウキは優しく撫でながら言った。

「とー君は自分を人殺しだとか悪く言うけどさ、ボクはむしろヒーローだと思うよ」

 次の瞬間、アサシンコートに包まれた両腕が、ユウキの華奢(きゃしゃ)な体に回された。甘えるように、すがり付くように、ユウキの右肩に顔を(うず)めて、マエトは言った。

「......ユウちゃん、いつも甘えんぼのクセにお姉さんぶって」

「うん、お姉さんっぽくなってみた」

 2人の会話は聞こえているらしく、キリト達は何も言わずに見守っている。リズベットやクラインも、下世話な笑みではなく穏やかな微笑みを浮かべている。

「ボクがお姉さんっぽいの、嫌?」

「嫌じゃないけど、なんかちょっと(しゃく)

「そっか」

「......けど......だけ......」

「ん?」

 ユウキが聞き返すと、マエトはより深くユウキの肩に顔を埋めながら言った。

「癪だけど......もうちょっとだけ、こーしてて......」

「......うん」

 頷くと、ユウキはマエトの背中を優しくさすった。数秒後、マエトが呟くようにユウキを呼んだ。

「ユウちゃん」

「なーにー?」

 子供をあやすように言うユウキに、マエトは彼女にしか聞こえない小さな声で言った。

「............好き」

「......うん、知ってるよ」

 短く答え、ユウキはまた背中をさすった。

 背中をさする手と、触れあう体から伝わる温もりに、マエトはしばし身を委ね、そして呟いた。

「......降参(リザイン)

 

 

「なんで降参したんだ?」

 デュエル後、ユウキがアスナ達女性陣と話している時に、マエトはキリトに尋ねられた。

「残りHPはユウキよりもお前の方が多かったぞ。あのまま行けば勝てたんじゃないか?」

と言うキリトに、マエトは適当な調子で答えた。

「あんなん負けだよ、負ーけー」

「なんで?」

「確かに与ダメではおれが勝ってたかもだけど、あんだけ崩し何回も仕掛けて、それでも殺しきれなかった。それどころか反撃喰らったり得物(えもの)ぶっ飛ばされたりしたんだから、あれで勝てたなんて言えないね」

(それに......)

 内心で呟くと、マエトはちらりと後ろを見た。視線の先では、ユウキがアスナ達と談笑している。

 人であることを切り捨て、強さと冷酷さに手を伸ばし、絶望を武器に、人殺しとして生きてきた。

 他人の死に際の涙を見ても何も感じず、極寒エリアの吹雪すらどこか温かく感じるほどに、心は冷たくなった。

 感情を、自分自身を殺して生きてきた。なのにユウキには、その更に奥を見抜かれ、温められた。

 マエトは、黒いレザーシャツの胸をギュッと握り締めた。

(......まだ、(あった)かい......)

 アミュスフィアから出力されたデータなどではない。幼い頃、隣にあって、そして常に求めていた、紺野(こんの)木綿季(ゆうき)の温かさを、マエトは確かに感じた。

 マエトが顔を上げると、今更のように下世話な笑みを浮かべたクラインが近付いてきた。

「おーおー、若者が非常にお熱いことでっ!?」

 クラインの語尾が裏返ったのは、超速で抜刀したマエトが、二刀でクラインの首をハサミのように挟んだためである。見えもしないほどの抜刀速度に戦慄(せんりつ)するキリト達の前で、インプの少年はにっこり笑って言った。

「ロブスターさん」

「は、はは......ちょきんちょきん......」

 震えながら両手でチョキチョキするクラインの横で、キリトが聞く。

「か、カニさんじゃダメだったのか?」

「じゃあ間とって伊勢エビさん」

「ロブスターとカニの間って伊勢エビなのか......?」

「知らね」

 エギルの冷静な突っ込みに雑な返事をしたマエトに、

「ねぇ、とー君。とー君が石投げた後、ボクの背中に何か当たったような感じがしたんだけどさ、あれってとー君が何かしたの?」

 と、ユウキが話しかけた。

「うん。1つ目の石はテキトーに投げたけど、2つ目の石は切鬼の(つか)に当てたの。跳ね返ってユウちゃんの背中に当たるように」

「はえー!! すっごぉ......」

 心からと言ったふうに賞賛するユウキに、逆にマエトは尋ねた。

「ユウちゃんこそ、おれがアーマー掴んだ時によくソードスキル使えたね」

 すると、ユウキは得意そうに笑いながら、

「とー君ならこうするかなって思って」

 と言った。

「......そっか」

 どこか嬉しそうに言ったマエトは、次の瞬間こう言った。

「おし、じゃー次はユウちゃんとキリトさん以外の7人と()ろーか」

「......は?」

 全員の心の声を代弁したのはシノンである。

「それってつまり、私とアスナとリーファとシリカとリズとエギルとクラインを、あんた1人で相手するってこと?」

 冗談でしょと言外に言うシノンに、マエトはさらりと、

「うん、やってみたかったんだよね」

 と答えた。

「あと、おれとユウちゃんが戦ってる時、アスナさんがちょっとムズムズしてたから」

「う......」

 マエトにズバリと言われ、アスナはギクリとした。確かに2人が戦っているのを見て、SAO時代からの細剣使い(フェンサー)の血が大いに騒いでしまったのは否定できない。

「え、えっと......」

 軽く冷や汗をかくアスナに、マエトはとどめの一言を放った。

「アスナさん、料理頑張って疲れたんでしょ? そこで溜まったイライラ発散したらいーんじゃね?」

 それを聞いて、アスナの肩がピクリと動いたのを、キリト達は見逃さなかった。

「さ、やるわよアスナ!」

 リズベットが親友の背中をバシン! と叩く。その隣でシリカも、

「このメンツなら、マエトさんだって怖くありませんよ!」

 と同意する。

「おぅし! オレ達でいっちょ軽く揉んでやろうぜ!!」

「だな。子供に負けっぱなしじゃ、オレ達大人の格好がつかねぇからな」

 クラインとエギルが威勢良くいい、

「バックアップは任せて」

「やりましょう、アスナさん!!」

 シノンとリーファが背中を押した。アスナがキリトの方を向くと、黒衣のスプリガンは微笑んでいた。

「俺も応援してるよ。楽しんできなよ、アスナ」

「......うん」

 そう頷くと、最後にアスナはユウキの顔を見た。目が合うと、ユウキはアスナに言った。

「とー君は強いよ、頑張ってアスナ!!」

「......うん!」

 一際強く頷き、アスナは腰の鞘からレイピアを音高く引き抜いた。他の6人も、各々の得物を手に構える。

 ALO最強の剣士と、SAO最強の剣士が見守る中、6人の猛者を前にしたSAO最強の殺し屋は、2振りの鬼を従えて言った。

「にしし、さーて。楽しい楽しい乱闘(おまつり)の始まりだー」




(つづく)

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