ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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短編3話目です。日常回はちょっと苦手なので雑ですが、お許しください。
次の話は本気出します。


短編3話 妖精達の休日

  新生アインクラッド第22層の湖畔(こはん)で、のんびりしている3人がいた。

「んんっ、あぁ~......今日もいい気象設定だなぁ......」

 寝転がって大きく伸びをするキリトに、隣に座るアスナはクスリと笑った。

「気象設定が悪くても、キリトくんはお家の揺り椅子でぐっすり寝てるじゃない」

 アスナの肩の上に座るナビゲーション・ピクシーのユイも、同意を示す。

「お家にいるときでも外にいるときでも、パパの行動の選択肢には必ずお昼寝がありますからね」

 恋人と愛娘にそう言われ、

『それを言ったらフルダイブしている間は現実世界の体は寝てるんだから、アスナだって似たようなもんだろ』

 そう言い返そうとしたキリト。だがそれより先に、

「あっ、アスナー! キリトー!」

 自分達を呼ぶ快活な声が、上空から降ってきた。

 キリト達が顔を上げると、闇妖精族(インプ)の少女が長髪とロングスカートをはためかせて降りてくるところだった。

「ユウキさん、こんにちは!」

 ユイが挨拶すると、ストンと着地したユウキも元気に返した。

「うん、こんにちはユイちゃん!」

 そこでアスナは気付いた。ユウキはまだ背中の(はね)を広げたままなのだ。

 何か急ぎの用事でもあるのかな。

 コウモリの翼に似た半透明翼を見ながらそう思ったアスナに、ユウキは言った。

「ねぇアスナ、一緒にとー君()行こうよ! キリトとユイちゃんも!」

「マエトくんの家って、ALOの?」

 突然のお誘いに驚きつつ、そう質問したアスナに、ユウキはニッコリ笑いながら(うなず)いた。

「うん、今ちょうど行くところだったんだ! すっごい居心地良くて、ゆったりできるんだ! (たたみ)の落ち着いた雰囲気と湯呑みとお茶がすごい合ってて......」

 そう熱弁するユウキに、キリトは割り込むように言った。

「ちょ、ちょっと待ってくれユウキ。いま畳って言わなかったか?」

 大きな目をパチパチさせると、ユウキはキリトに頷いた。

「うん。とー君家は、第10層にあるんだ!」

 

 

 数分後、ユウキ達は第10層主街区《千蛇城(せんだじょう)城下町(じょうかまち)》に降り立った。転移門を抜けると、視界に和風の街並みが広がった。

真っ先に転移門から飛び出たユウキは、しばしその光景に見いっていた。

「......ユウキ?」

 アスナの声にハッとして、頭をかきかき言う。

「ごめんね。姉ちゃん達とプレイしてた《アスカ・エンパイア》っていう和風VRMMOと、雰囲気が似ててさ......」

 そう言うと、もう一度ユウキは街に目を向けた。

 時に風に揺れ、時に風に舞う紅葉(もみじ)茜色(あかねいろ)に染まる街並みに、キリト達も目を細めた。

「......さ、とー君家行こ! こっちこっち!」

 ポンと手を叩くと、ユウキはアスナの腕を引っ張って駆け出した。

「わっちょぶなっ!?」

 わあ、ちょっと危ないじゃない的なことを言おうとしたアスナを、キリトとユイも追いかけた。

 ユウキとアスナとキリト、そしていつの間にかSAO時代の白いワンピース姿に戻ったユイがたどり着いたのは、城下町の(すみ)っこに建つ小さな家の前だった。

「俺達のログハウスと、大きさはあんまり変わらないな」

 とコメントするキリトに、

「ですが、このお家の値段はあの森の家よりも高いです。パパとママが2人で貯めた以上の金額を、マエトさんは1人で貯めたようですね」

 とユイが言う。

「普段はちょっとポヤーッとしてるけど、マエトくんって時々すごいわよねー」

 しみじみ言うアスナに同意しつつ、キリトは前に出て玄関のドアをノックした。すぐにその向こうから、「どーぞー」というくぐもった声が返ってきた。

 カチャッと音を立ててドアを開けると、そこはもはやALOの中なのかすら疑いたくなるほどの和室だった。

 床に畳が()かれた部屋の中央には、やや大きめの座卓(ざたく)が置いてあり、その両脇には座椅子が3つずつ並んでいる。入り口は普通のドアだったが、家の中の扉はほぼ全て(ふすま)だった。奥にはススキのような植物が、和風っぽい雰囲気のキャビネットの上には小さなだるまが飾ってあった。

「ザ・和室って感じね......」

 そう呟くアスナ。その横でキリトが、

「あぁ......なんでだるまの腹に『ふんどし』って書いてあるのかは分からないけど」

 とコメントする。そこにユウキが声をかけてきた。

「ねぇねぇ、3人も座りなよ!」

 振り向くと、彼女はちゃっかりと座椅子に座ってくつろいでいた。

「自分の家みたいだな......」

 苦笑しつつ、キリトとアスナはユイを挟むようにして座った。ちょうどその時、

「ユウちゃん来るのは知ってたけど、まさかキリトさんらも来るとは思わなんだよー」

 そう言ってマエトが隣の部屋から戻ってきた。机の上にゴトゴトッと音を立てて新しい湯呑みを4つ置くと、マエトはユウキの隣に座った。

「これ、アスナさん家のマグカップの湯呑み版ねー。タップすると何かしかのお茶が確率で湧くんだけど、どれも現実にある日本茶だから安心していーよ。たまにせんぶり茶出てくるけど」

 そう言ってマエトが自分の湯呑みをタップすると、焦げ茶色の液体が湧き出てきた。同時に香ばしい豆の香りが(ただよ)う。

 続いてユウキが慣れた手つきで湯呑みをタップした。コポコポと湧き出たのは温かい麦茶だった。いつも使ってるカップと同じ感覚で、アスナ達もタップ。アスナの湯呑みにはほうじ茶、ユイの湯呑みにはマエトと同じ黒豆茶、そしてキリトの湯呑みには濃い緑色の抹茶が湧いた。

「おー、キリトさんラッキーだね。抹茶はけっこうレアだよ」

「キリトいいなー。ボクなんて抹茶飲みたくて何回もお茶おかわりしたんだよ」

「そ、そうなのか......? なら、ありがたくいただきます」

 そう言うと、キリトは熱い液体を口に運んだ。すると口いっぱいに上質な抹茶の香りが広がった。キリトが濃厚な甘みと仄かな苦みを楽しむ横で、ユイも黒豆茶の香ばしさに夢中になっていた。アスナとユウキも頬をわずかに染めて「ほぅ」と一息吐く。その時、

「あ、忘れてた」

 不意にそう言って、マエトはストレージから5本の木の棒を取り出した。向きを揃えてぐーで握ると、キリトの前に突き出した。

「ほい、テキトーなの引いてー」

 言われるがままに適当な棒を引き抜く。続いてユイ、ユウキ、アスナが引き抜き、残った1本をマエトが自分で引き抜いた。よく見ると、マエトが握っていたところに何か書いてある。

「『栗羊(くりよう)かん』......?」

 声に出して読むと、ユイ達も続いた。

「私のには『お団子(だんご)』って書いてあります」

「わたしのには『クレープ』って」

「ボクのも『お団子』だ」

「おれは『おはぎ』ねー」

 そこでマエトは再びストレージを開き、今度はそれらのお菓子をオブジェクト化。くじ引きに従って、キリトには大粒の栗がゴロゴロ入った羊かん、ユイとユウキには定番の三色団子、アスナには白玉の入ったお汁粉風味の和風クレープを渡した。

「はいどーぞ」

 つぶあんたっぷりの大きなおはぎをあんぐり頬張(ほおば)り、マエトは言った。するとすぐにキリトの横で、

「このお団子、すっごく美味しいです!」

 とユイが顔をキラキラさせた。

「むぐむぐ......はぁ~、この素朴な甘さがお茶によく合って美味しい!」

 ユウキも満面の笑みでほっこりする。その向かいでアスナも、

「このクレープもすごく美味しい! ふわふわの生地と、トロトロのつぶあんと、もっちもちの白玉の食感が癖になる......」

 キリトの知る限り、アスナがこれほどまでに(ゆる)みきった表情を浮かべることは少なくはないが多くもない。和菓子と日本茶の組み合わせはそこまで絶大なのか。

(めちゃくちゃ美味そうだな......俺も呼ばれるか)

 そう思って羊かんを頬張ると、少し堅めの栗と柔らかい羊かんの異なる食感が、口の中で弾けた。湯呑みを手にとって抹茶を一口(すす)ると、自然と頬が緩んでしまった。

「ねぇアスナ! そのクレープ一口ちょうだい!」

 ちゃっかりおねだりするユウキに、アスナは微笑んだ。

「いいよ。はい、あ~ん」

「あ~んっ、もぐもぐ......んん~美味しい!! アスナも、はいっ、お団子あ~ん」

「あ~ん......お団子も美味しいわね~......あ。ユウキ、口元にクリーム着いてるよ。ほら、取ってあげる」

「えへへ、ありがとうアスナ!」

 アスナとユウキのこのやりとりは、どこかお似合いの恋人のように見え、キリトは別の意味でほっこりした。

「パパもお団子どうぞ!」

 そう言って、ユイもキリトに団子をずいっと差し出した。一言お礼を言ってから「あ~ん」と大口を開けて食べる。羊かんとはまた違った食感を楽しんでいると、

「あれ? ボクのお団子なくなってる」

 3本あった団子のうち、1本を自分が、1本をアスナが食べて、あと1本残っているはずの団子が消滅していたことに、ユウキがふと気付いたらしい。そんなユウキに、ユイが言った。

「マエトさんが今、すごく美味しそうに食べているお団子がそうだと思います」

 確かにマエトの右手には、お(はし)ではなく竹串が握られている。ハムスターのように頬を(ふく)らませている少年の前には、まだおはぎが1つ残っている。

「あー! とー君、ボクのお団子返してー!!」

 叫ぶとユウキはマエトに──ちゃんとマエトが団子を飲み込み、串を皿の上に置いてから──えいやとタックルした。座椅子ごと重なるように倒れると、ユウキはその体勢のまま抗議した。

「返してー!! ボクのお団子ー!!」

「もー食べちゃったから無理ー」

「ひどいよー!!」

「おじさん代わりにおはぎあげるから」

「ほんと!? なら許す!!」

 かなりあっさりと許すと、ユウキはよいしょと体を起こした。続いて体を起こすと、マエトは箸でおはぎを半分に切り、そして。

「ほいっ、あ~ん」

「あ~ん」

 どちらも恥ずかしがる素振りなど一切見せず、まるで両想いのカップルのようにしていた。だが、

「......なんか、恋人って感じがあんまりしないな......」

「うん......すごい仲良しな友達って雰囲気に留まってる......」

「ユウキさんとマエトさんは、恋人になってもいいと思うのですが......」

「まぁ、友達にしてはけっこうなスキンシップしてる時あるしね......」

「『友達以上、恋人未満』って奴なんだと思うぞ......多分」

 そんなふうに言っているキリト達の前で、インプの少女は同種族の少年に聞いた。

「あ、ねぇとー君。お風呂沸いてる?」

「ばっちり」

「じゃあ一緒に入ろうよ! アスナ達も一緒にさ!」

「ちょっと待って!!」

 思わず全力で割り込んだアスナの声にびっくりする4人。目をぱちぱちさせるインプ2人に、アスナは深呼吸1つしてから尋ねた。

「一緒に入るって、お風呂にユウキとマエトくんで?」

「あとアスナとキリトとユイちゃんもだよ。とー君家のお風呂すごいんだよ! 床とか壁とか浴槽(よくそう)(ひのき)みたいな感じで、温泉みたいなんだよ!」

「へぇーっ! すごいわね、楽しみ! ......じゃなくて!!」

 思わずお風呂好きのリアクションをしてしまったアスナは、もう一度ユウキとマエトに詰め寄った。

「一緒にお風呂入るの!? 混浴ってこと!?」

 詰め寄るアスナに、しかしユウキ達はさらりと答えた。

「うん、そうだよ」

「大丈夫だよ、いつも通りちゃんとバスタオル巻くから」

「「いつも通り!?」」

 これにはキリトも一緒になって驚いた。

「いつも通りってそれ、ユウキとマエトが一緒に風呂に入ってるってことか?」

 恐る恐る尋ねたキリトに、ユウキとマエトはシンクロした声と動きで、

「「うん」」

 と答えた。当たり前のことのような顔をしている2人だが、どちらも年齢的にはしっかりと思春期である。

「な、なんでそんなことを......まさか、マエトくん......」

 そう言ってコワイ顔をするウンディーネに、あっけらかんと答えたのはユウキだった。

「違うよ、一緒にお風呂入るの言い出したのはボクだよ」

「なっ......」

 固まるアスナに、ユウキはニコニコ笑いながら説明した。

「初めてボクがここに来たときに、とー君がお風呂入るか聞いてきたから、一緒に入ろうよって誘ったの」

「仲良しさんですね、パパとママみたいです」

 そう言うユイに、ユウキはえへへと笑った。だがアスナやキリトとしてはそんなコメントをするよりも、

(大丈夫なのか? なんかこう、倫理観的なアレで......)

 そう思わずにはいられなかった。

「アスナさん、ちょっとユウちゃんのこと舐めてたでしょ?」

 そう言いつつマエトはユウキの左手を掴んで、彼女の手でウィンドウを開いた。そのまま器用にメニューを操作し、

「ちょっとユウちゃんごめんねー」

と言うと、ユウキの左手でボタンをプッシュ。直後、ユウキの胸からハーフアーマーが消滅した。ユウキの装備を一部だけストレージにしまうと、マエトはアスナに、

「ユウちゃんって実はこんなだからね?」

 言うや否や、持ち上げた右手でユウキの胸に躊躇(ちゅうちょ)なく触れた。

「「なっ......!?」」

 驚きで固まるキリトとアスナ。だが、当のユウキは、

「もー、ボクのはあんまりおっきくないから、触ってても楽しくないって言ったじゃん。これもう3回目だよ?」

「さんっ......!?」

 ユイの目を(ふさ)ぎつつ、アスナはこの日何度目かも分からない驚きに声を洩らした。そんなアスナを尻目に、マエトはユウキの胸を撫でながらしれっと言った。

「大きさとか楽しさとかじゃないの。全ての人間は例外なく一次的欲求ってゆーのをもってるの」

「もー、えっちだなぁー」

「でも言うておれ性欲とか全然でしょ。今まで触ったのだって、(わき)くすぐって遊んでてユウちゃんが暴れたからだし」

「とー君みたいなのを、色気より食い気って言うんだっけ?」

「多分ねー」

 そんなやり取りをしつつマエトはホームストレージから、白いバスタオルを人数分取り出した。手早く配布すると、2人のインプは立ち上がった。(そろ)って奥の引き戸に近付くと、ガラガラと戸を開ける。

 その向こうには、先ほどまでひたすら驚愕に見舞われていたアスナ達が嘆息するほどの、見事な浴室があった。

「本当に(ひのき)みたい......」

「俺達のログハウスより高いのも、この風呂なら納得だな......」

「すごいです! ママ、パパ、私このお風呂に入りたいです!!」

 目をきらきらと輝かせる愛娘、そして目の前の温泉風お風呂に、キリトとアスナの心が揺らぐ。その隣で、

「じゃあお先にーっ!」

 いつの間にか裸体にバスタオルを巻いていたユウキが駆け出した。ペタペタと木の床を駆け抜け、

「とりゃあ!」

 両足ジャンプで浴槽にダイブ。ざばーんとお湯の中に飛び込むユウキを見て、

「元気だなー、若いってすごい」

 と言うマエト。もう突っ込む気力も失せたキリト達に、

「アスナ達もおいでよー!」

 そう呼び掛けるユウキを、家主はニコニコ顔で指差し言った。

「ほらー、ユウちゃんもあー言ってるし」

「はい! お言葉に甘えさせていただきます!」

 可愛らしい声が元気良く応えると、いつの間にか白ワンピースから白バスタオルに着替えたユイが浴室にトコトコ入っていった。

「ユイちゃん、待って待って!」

 そう言って手早くバスタオル姿になると、アスナも浴室に入場した。

「キリトさんは行かんの?」

「い、いやぁ、入りたいのは山々なんだが、混浴ってのがちょっと......」

 そんな会話をする少年達の前で、

 ざばぁー。

 はふぅー......。

 そんな音が響いた。音源はこの5人の中で一番のお風呂好きなアスナである。和菓子とお茶を味わった時以上にうっとりした表情で、長い長い息を吐く。

「はぁ~、気持ちいい......」

 そう呟いて肩にお湯をかけるアスナの横で、ユイがキリトに呼び掛けた。

「パパ! 早く来て下さい!! マエトさんの家のお風呂、すっごく気持ちいいです!!」

「あ、あぁ......」

 なおも煮え切らない様子のキリトの左手を、マエトはガシッと掴んだ。馬鹿みたいに鍛えられたSTRで反抗される前に、脇腹をピスピスと連続してつつく。

「わっ、なっ、ちょっ、やめっ......」

 奇妙な声を出すキリトの装備フィギュアを勝手にいじり、装備をロングコートからバスタオルに変更。

「ほらほら呼ばれてるよー。あんまグタグダ言わなーい」

「いやでも倫理的に考えてこれは......」

「目には目を。歯には歯を。裸バスタオルには裸バスタオルでオープンに行こー」

 適当な調子でよく解らないことを言うと、マエトはキリトの背中をげしっと蹴った。時に格闘を織り混ぜて戦う少年の前蹴りは、しっかりとキリトの体の軸を(とら)え、浴室に蹴り飛ばされたスプリガンは濡れた床に着地。直後ツルリと足を滑らせ、

「おあああああああっ!?」

 どばっしゃあああん!

 盛大な悲鳴と盛大な水飛沫(しぶき)を上げ、大きな浴槽に不時着した。

「きゃあっ!」

「うひゃあっ!」

「はわわーっ!」

 アスナ、ユウキ、ユイが驚きの声を上げる。その中心に顔を出したキリトは、仮想の空気を求めて激しく喘いだ。

「ぶはっ......ゲホッゲホッ!! 何するんだよマエト......ん? なんだこれ?」

 自分の背中を蹴った少年に文句を言おうとしたキリトは、自分の右手が持つ白い布に疑問を抱いた。その時、

「あー、キリトさんやっちゃったねー」

 という声と共に、マエトが浴槽にパシャパシャ入ってきた。

「ほいアスナさん、新しいタオル」

「へ?」

 マエトの言葉に顔を上げると、キリトの視界には、マエトが取り出した新しいタオルに身を包んだアスナがいた。

「キ~リ~ト~く~ん......?」

「あっ......ま、待ってくれアスナ!! 事故だよ事故! マエトが俺を蹴り飛ばしたの、アスナも見ただろ!?」

「なるほど? 悪いのは全てマエトくんで、君は被害者だから、自分に非は一切ないと。そういうことね?」

「待ってくれ、その言い方だとそれはそれでなんか色々と誤解を招きそう......」

「パパ、他人のタオルを剥ぎ取ったらダメです」

「ユイ、その言い方はしないでくれ!」

 必死に弁明するキリト。その後ろでインプ2人は、

「ふむふむ、確かに大きくはないけど、かと言って小さくもない。これがあれか、俗に言う『びーかっぷ』ってやつか」

「もー、とー君もキリトもえっちだなー」

 そんなのんびりした会話をしていた。

必死に弁解するキリトの声は、マエトの家の周囲にいたプレイヤーの耳に少しだけ届いた──らしい。

「り、理不尽だー!!」




(終わり)

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