ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア 作:Maeto/マイナス人間
そして、ログハウスの前庭に引きずり出されたマエトと、引きずり出したユウキとでデュエルをすることになった。と言っても、2人は毎日デュエルを
「さあ、やるよ、とー君!」
ふんふんと鼻息
「アスナさん、ごめんだけど
「
「確かに」
マエトは「にしし」と笑うと、ユウキに向けてデュエル申請をすべく、ウィンドウを操作し始めた。目の前に現れた申請窓をユウキが操作し、デュエルが成立する。
10秒のカウントダウンが始まると同時に、インプの剣士2人が抜剣した。
マエトの右手に握られた
相手の左手が
(すぐにそんな余裕なくしてやる......!)
ユウキが改めてそう決意したところで、カウントダウンが終了した。
全力で地面を蹴って、ユウキは飛び出した。全速のダッシュで肉薄し、全力で剣を打ち込む。だが、
「あの速さの攻撃を、全部
防御するほどのこともない。
そう思っているのではと思えるほどに涼しい顔で、マエトはユウキの攻撃を躱し続ける。
「このっ......!!」
焦ったような声と共に、全力の突きを叩き込むユウキ。それをのけ
「うっ......」
胸が圧迫される感覚に
それすらも顔色一つ変えずに、マエトは回避した。反撃される前に上昇し、ユウキは再び飛び込んだ。マエトの上空を飛び回り、高速で攻撃を加え続ける。だが、
「なんで......なんでマエトくん、全部避けられるの......?」
驚きに声を震わせるアスナに、キリトが言った。
「いや......確かにユウキの攻撃はスピードこそすごいけど、いつもより動きに
そうキリトが言い終えたとき、ユウキが振るった右腕をマエトが
直後、ユウキはその背中を地面に叩きつけられた。力任せに少女剣士を足元にぶん投げると、マエトは首を左右に傾けてコキコキ鳴らした。
「......マエトくんって、本当にユウキのこと好きなのよね......?」
「多分......。あいつ、いざ戦闘ってなると一気に
だが、そうなってしまうだけの経験をしているのがマエトだった。
キリトは以前、ユウキとのデュエルを終えたマエトに、『お前、好きな人をよくあそこまでボコボコにできるよな』と言った。すると、それにマエトはしれっと答えた。
『好きだからこそだよ。ユウちゃんはいつだって、何にだって全力だから、おれもそれに応えるには全力じゃないと。ってゆーのが理由の1個目かな』
『1個目? 他にも理由あるのか?』
ふとそう
『あるもなにも、負けたら死んで、死んだら終わりじゃん。好きな人にひどいことできないーとか、そんな
マエトが何気なく言った言葉には、途方もない重さがあった。それはマエトに刻み込まれた、生存の法則そのものだった。
『理想だろーが
マエトのその発言を思い出し、改めて背筋を震わせてから、キリトは「あれ?」と思った。
(じゃあなんで、マエトはユウキに1度も攻撃してないんだ......?)
マエトはユウキの攻撃を躱し、あしらってはいるが、反撃はしていない。右手に切鬼を逆手に握ってはいるが、ただ持っているだけでブロックもパリィもしていない。いつものマエトなら、隙あらばユウキの首を飛ばすなり腹を叩き斬るなりしているはずだが、ユウキのHPはデュエルが始まってから1ドットたりとも減っていない。
首を傾げるキリトの前で、ユウキは悔しさに顔を
「うー、とー君手抜きしてるのに、全然当たらない......」
それを聞いたマエトの顔に珍しく、明らかに
「んー、気付いてほしかったけど、もー言っちゃっていーか。このままだとユウちゃん、5回
諦めたようにふるふると頭を振ると、マエトはユウキに言った。
「まずユウちゃん、勘違いしてるよ。おれ幻影魔法使うよーな状況になったことがないとは言ったけど、使うほどヤバくなったことがないとは言ってないよ」
てゆーか、と前置きして、少年は続けた。
「そもそも、魔法なんてもんがない世界に2年もいたんだから。本当にヤバいときに頼れるのは《こいつら》だけだよ」
《こいつら》のところで、マエトは切鬼で裂鬼の
「ってことは......全部ボクの早とちりだったってことか!!」
「そゆこと。でもって、デュエルは相手を追い込むためのもんじゃないでしょ。ユウちゃんはなんで、いつもおれとデュエルしてんの?」
「とー君と、いっぱい遊びたいから......」
「うん。で、それはおれも一緒なの」
それを聞いて、キリトは納得した。マエトはユウキと遊びたかった。ちゃんとデュエルをしたかった。だから
(マエト、変わろうとしてるんだな。殺し屋としてじゃなく、剣士として剣を振るえるように......)
そう思い、しかしキリトはすぐにそれを否定した。
(いや、前から変わろうとしてたんだろうな)
15連撃OSS《リベリオン・バーク》。
なぜ、
あの技は、今までの自分のスタイルとは真逆の技を編み出すことで、今とは違う自分に──正面からぶつかって勝つ、そんなユウキのような剣士になろうという、マエトなりの
思わずフッと口を
「ほんっと、ユウちゃんは短気だねー」
「ごめんってば! その代わり、ここからはもう簡単にはやられないよ!!」
宣言しながら剣を構えるユウキ。その
「さーて、こっからが
数秒後、2人のインプが同時に動き出し、剣をぶつけ合った。高速でぶつかり合う刃が、オレンジの火花と金属音を
(あはは。ボク、本当に視野が
「おりゃあああっ!!」
勇ましい
(やっぱユウちゃん相手に後手に回るとキツいな......調子に乗られても困るし、一気に攻めるか)
思考と同時にマエトの左手が閃き、背中の黒い柄を握る。
「っ!」
鋭く息を飲むと、ユウキは剣を構え直した。わずかな沈黙をマエトが抜刀音で破り──それを合図に、2人が飛び出した。
「やっほー!」
そんな元気な声がしたのは、それと同時だった。思わずズルッとずっこけたユウキとマエト、そしてキリトとアスナが振り向くと、ログハウスのドアを開けた姿勢のまま、シルフの魔法剣士が固まっていた。
「あ......ごめん、邪魔しちゃった......」
謝るリーファに、ユウキは、
「う、ううん。気にしないで......」
と言いつつ立ち上がった。マエトもよいしょと立ち上がりつつ、リーファに言う。
「ずいぶん絶妙なタイミングだったね。師匠、もしかして出待ちしてた?」
「そんなわけないでしょ!」
そのやりとりを聞いて、キリトは首を傾げた。
「師匠? 師匠って、リーファのことか?」
「うん。ちょっと前から、あたしマエト君の師匠なんだー」
えっへんと胸を張るリーファ。そのとき、ふとマエトが思い付いたように言った。
「あ、せっかくだし今やるか」
それだけでリーファには伝わったらしく、
「お、もう実戦投入できそうなの?」
「二刀ではまだ当てにくいけど、片手剣でならまぁまぁ行けると思うよ」
「ほほう、楽しみだねぇ。厳しく判定してあげなくっちゃ」
師弟2人だけで盛り上がっているが、キリトたち3人には何のことだか解らない。
「待て待て。2人だけで話されても解らないだろ。スグはマエトに何を教えてるんだ?」
キリトが訊ねるが、2代目師匠はニヤニヤしたまま、
「見てれば解るよ」
としか答えなかった。
その前では、マエトが抜いたばかりの
だが、その目の鋭さは消えていない。むしろ、先ほど以上に集中しているように、ユウキは感じた。ユウキが気を引き締め直したとき、マエトが飛び出した。一瞬で距離を詰めて斬りかかってくる。
そう予想したユウキやキリト、アスナだが、マエトとリーファは違った。
ユウキとの距離が残り2メートルほどになったとき、突如マエトの背中に半透明翼が展開した。
(空中戦が苦手なとー君が、
そんな驚きが反射的に
その隙に、マエトは背後にいた。
「──ッ!?」
大急ぎで振るったマクアフィテルが、首筋にわずかに食い込んだ切鬼を押し返した。マクアフィテルを横一文字に振り抜く。だがそれに合わせて後ろに下がると、マエトは上空へ逃げる。
「あっ、待て!」
背中に翅を広げ、ユウキも空へと舞い上がる。急上昇の勢いを乗せて斬り上げる。それを避けるとマエトは距離を取り、突進した。ユウキもそれに応じて翅を全力で震わせる。双方の距離が一気に縮まり、ゼロになった。瞬間、ズバン! という音が虚空を揺らした。交錯の一瞬、その攻撃の余波が地上にも届き、キリトたちのアバターを叩いた。反射的に腕で顔を
「リーファがマエトに教えていたのは、空中戦だったのか......」
「うん、すごい熱心に練習してたよ。何度かレコンに
どこか誇らしげに言うリーファに、アスナも頷いた。
「ほんとすごいわね。空中でもユウキと互角だなんて」
「確かにすごいけど、でも納得できる結果だよ」
そう言ってキリトは、マエトの動きを目で追った。
マエトは旧アインクラッド時代から、森の中での高速立体機動を用いて戦っていた。本格的な空中戦をALOから始めたキリトやアスナ、ユウキよりも、立体的な空間の把握能力に関しては一日の長がある。
キリトの説明に納得しつつ、それでもアスナはマエトの戦いぶりを賞賛した。
「だとしても、あの飛びっぷりはすごいわよ。なんで前まで苦手だったか解らないくらいだよ」
それについてもキリトが説明した。
「苦手だったのは確かだろうけど、正確にはあいつのスタイルと空中戦......もっと言えば、ALOの飛行システムの相性が悪かったんだよ」
マエトはいつも、急所を正確に狙って攻撃する。高い機動力を活かして動き回り、敵の攻撃をかわしつつ防御の隙を突くには、《
しかし、ALOでの
つまり、攻撃のモーションはそのまま減速のモーションになってしまい、どうしても飛行の勢いが弱まって動きにブレが生じる。精密さとスピードの両立が命のマエトの戦闘スタイルは、ALOの随意飛行システムとは水と油のようなものだったのだ。
「あたしが教えた翅の動かし方をマスターして、
苦笑しながら言うと、リーファは上空の
その直後、マエトが背中の翅を
「かはっ......!」
息を詰まらせるユウキに、マエトは切鬼を振るった。タイミング的にユウキに避ける余裕はなく、彼女の首に吸い込まれるように、青白銀の刃が走った。
だが、切鬼はユウキの首には
「あ、さっそくパクられた」
マエトが呟いた通り、彼の真似をして翅を消すことで、ユウキはギリギリのところで離脱に成功した。
アスナたちの前に着地すると、ユウキは長く息を吐いた。攻撃自体は
(何してくるか解らないのは、空中でも同じか。それなら、慣れてる地上戦の方がやりやすいかな。それに......)
そう考えたユウキの前に降り立ったマエトは、ユウキの心を読んだかのように背中の半透明翼を消した。そして背中に左手を回すと、もう1本の愛剣《
(それに地上戦でなら、とー君の二刀流が見れるしね)
何となく恥ずかしいのでアスナにしか言っていないが、ユウキはマエトの二刀流が好きだった。速く鋭く、そして静かだが時に大胆なマエトの技は、戦っていても見ていても飽きない。そもそも戦う度に攻撃や崩しのパターンが変わるのだから、好奇心
短く息を吐き出してユウキが顔を上げると、それと同時にマエトが飛び出した。鋭く間合いに踏み込むと、マエトは左右の剣で連撃を仕掛けた。持ち前の超反応で全てブロックすると、すかさず反撃を差し込もうとするユウキ。しかしそれより早く、マエトは小さくバックジャンプ。同時に背中の
(──ここだっ!)
ユウキは素早く右手の長剣を、背中に
片手剣上段突進技《ソニック・リープ》。
タイミングは
そう考えていたユウキの前で、マエトが地面を蹴って飛び出した。
ただし、上ではなく前に。
「ッ!?」
(フェイントのためだけに
驚きに満ちていた顔に、ユウキはフッと笑みを浮かべた。
(ほんと、戦略と先読みじゃ、とー君には
そう思うと同時に、彼女のアバターは紫色の光を吹き上げて四散した。
次回 危惧