ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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またしてもバトル回です。お気付きでしょうが、作者はバトルものが好きです。


第13話 エアロファイト

 そして、ログハウスの前庭に引きずり出されたマエトと、引きずり出したユウキとでデュエルをすることになった。と言っても、2人は毎日デュエルを頻繁(ひんぱん)にしているのだが。

「さあ、やるよ、とー君!」

 ふんふんと鼻息(あら)く言うユウキに、マエトはおやつを(あきら)めて「はーい」と返事をした。

「アスナさん、ごめんだけど蘇生(そせい)お願いしていーい?」

(わか)ってるわよ。て言うか、いつもわたしがやってるじゃない」

「確かに」

 マエトは「にしし」と笑うと、ユウキに向けてデュエル申請をすべく、ウィンドウを操作し始めた。目の前に現れた申請窓をユウキが操作し、デュエルが成立する。

 10秒のカウントダウンが始まると同時に、インプの剣士2人が抜剣した。

 マエトの右手に握られた白鞘(しろさや)切鬼(せっき)が青白銀の輝きを、ユウキの右手に握られたマクアフィテルが黒曜石の輝きを放つ。

 相手の左手が(から)なことに気付き、ユウキはムッとした。マエトの背中には一応、黒い(つか)が見える。

(すぐにそんな余裕なくしてやる......!)

 ユウキが改めてそう決意したところで、カウントダウンが終了した。

 全力で地面を蹴って、ユウキは飛び出した。全速のダッシュで肉薄し、全力で剣を打ち込む。だが、

「あの速さの攻撃を、全部(かわ)してる......」

 (かす)れるような声でアスナが呟いた通り、マエトはユウキの猛攻をするりするりと躱していた。両腕は変わらずだらりと下げたまま。

 防御するほどのこともない。

 そう思っているのではと思えるほどに涼しい顔で、マエトはユウキの攻撃を躱し続ける。

「このっ......!!」

 焦ったような声と共に、全力の突きを叩き込むユウキ。それをのけ()るように回避すると、マエトはユウキのハーフアーマーを蹴り上げた。

「うっ......」

 胸が圧迫される感覚に(うめ)きつつ、上空へ弾かれたユウキが、背中に(はね)を広げた。すぐさま急降下すると、その勢いを乗せて上段から斬り降ろす。あまりの剣速に、仮想の空気が(うな)りを上げる。

 それすらも顔色一つ変えずに、マエトは回避した。反撃される前に上昇し、ユウキは再び飛び込んだ。マエトの上空を飛び回り、高速で攻撃を加え続ける。だが、

「なんで......なんでマエトくん、全部避けられるの......?」

 驚きに声を震わせるアスナに、キリトが言った。

「いや......確かにユウキの攻撃はスピードこそすごいけど、いつもより動きに精彩(せいさい)がない。多分、幻影魔法使うとこまで追い込むってことに(とら)われてるんだと思う。どれだけ速くても動きが単純なら、マエトくらい先読みの上手いやつは簡単に軌道を読める」

 そうキリトが言い終えたとき、ユウキが振るった右腕をマエトが(つか)んだ。

 直後、ユウキはその背中を地面に叩きつけられた。力任せに少女剣士を足元にぶん投げると、マエトは首を左右に傾けてコキコキ鳴らした。

「......マエトくんって、本当にユウキのこと好きなのよね......?」

「多分......。あいつ、いざ戦闘ってなると一気に容赦(ようしゃ)なくなるから......」

 だが、そうなってしまうだけの経験をしているのがマエトだった。

 キリトは以前、ユウキとのデュエルを終えたマエトに、『お前、好きな人をよくあそこまでボコボコにできるよな』と言った。すると、それにマエトはしれっと答えた。

『好きだからこそだよ。ユウちゃんはいつだって、何にだって全力だから、おれもそれに応えるには全力じゃないと。ってゆーのが理由の1個目かな』

『1個目? 他にも理由あるのか?』

 ふとそう(たず)ねたキリトは、マエトの返答に思わず寒気を感じた。

『あるもなにも、負けたら死んで、死んだら終わりじゃん。好きな人にひどいことできないーとか、そんな(ぬる)い話が通じんの平和な場所でだけだよ』

 マエトが何気なく言った言葉には、途方もない重さがあった。それはマエトに刻み込まれた、生存の法則そのものだった。

『理想だろーが綺麗事(きれいごと)だろーが、死んだら結局ただのゴミなんだよ』

 マエトのその発言を思い出し、改めて背筋を震わせてから、キリトは「あれ?」と思った。

(じゃあなんで、マエトはユウキに1度も攻撃してないんだ......?)

 マエトはユウキの攻撃を躱し、あしらってはいるが、反撃はしていない。右手に切鬼を逆手に握ってはいるが、ただ持っているだけでブロックもパリィもしていない。いつものマエトなら、隙あらばユウキの首を飛ばすなり腹を叩き斬るなりしているはずだが、ユウキのHPはデュエルが始まってから1ドットたりとも減っていない。

 首を傾げるキリトの前で、ユウキは悔しさに顔を(ゆが)めながら言った。

「うー、とー君手抜きしてるのに、全然当たらない......」

 それを聞いたマエトの顔に珍しく、明らかに落胆(らくたん)の色が浮かんだ。

「んー、気付いてほしかったけど、もー言っちゃっていーか。このままだとユウちゃん、5回()られても気付きそーにないし」

 諦めたようにふるふると頭を振ると、マエトはユウキに言った。

「まずユウちゃん、勘違いしてるよ。おれ幻影魔法使うよーな状況になったことがないとは言ったけど、使うほどヤバくなったことがないとは言ってないよ」

 てゆーか、と前置きして、少年は続けた。

「そもそも、魔法なんてもんがない世界に2年もいたんだから。本当にヤバいときに頼れるのは《こいつら》だけだよ」

《こいつら》のところで、マエトは切鬼で裂鬼の(つか)を軽く叩いた。

「ってことは......全部ボクの早とちりだったってことか!!」

「そゆこと。でもって、デュエルは相手を追い込むためのもんじゃないでしょ。ユウちゃんはなんで、いつもおれとデュエルしてんの?」

 (さと)すように訊ねたマエトに、ユウキは答えた。

「とー君と、いっぱい遊びたいから......」

「うん。で、それはおれも一緒なの」

 それを聞いて、キリトは納得した。マエトはユウキと遊びたかった。ちゃんとデュエルをしたかった。だからわざと(・・・)攻撃をしなかったのだ。

(マエト、変わろうとしてるんだな。殺し屋としてじゃなく、剣士として剣を振るえるように......)

 そう思い、しかしキリトはすぐにそれを否定した。

(いや、前から変わろうとしてたんだろうな)

 15連撃OSS《リベリオン・バーク》。

 なぜ、隠密(おんみつ)や機動力による攪乱(かくらん)からの一撃必殺の奇襲、すなわち暗殺を得意とするマエトが、正面からの力押し技を編み出したのか、キリトはずっと疑問だった。

 あの技は、今までの自分のスタイルとは真逆の技を編み出すことで、今とは違う自分に──正面からぶつかって勝つ、そんなユウキのような剣士になろうという、マエトなりの叛逆(はんぎゃく)の証だったのだ。

 思わずフッと口を(ゆる)めるキリトの前で、マエトはユウキにのんびりと言った。

「ほんっと、ユウちゃんは短気だねー」

「ごめんってば! その代わり、ここからはもう簡単にはやられないよ!!」

 宣言しながら剣を構えるユウキ。その(ひとみ)に宿った、(するど)く力強い闘志(とうし)を見て、マエトは呟いた。

「さーて、こっからが()()(どころ)だな」

 数秒後、2人のインプが同時に動き出し、剣をぶつけ合った。高速でぶつかり合う刃が、オレンジの火花と金属音を()()らす。ユウキの動きにも柔軟さが戻り、マエトのHPが徐々に削れていく。

(あはは。ボク、本当に視野が(せま)くなってたんだなぁ......。こんなに動けるし、とー君の動きもよく見える......すっごく楽しい!!)

「おりゃあああっ!!」

 勇ましい雄叫(おたけ)びと共に、全力の上段斬りを叩き込む。それをブロックしつつ、その衝撃と勢いを使って、マエトはバックジャンプ。一度距離を取ると、ふぅと息を吐いた。

(やっぱユウちゃん相手に後手に回るとキツいな......調子に乗られても困るし、一気に攻めるか)

 思考と同時にマエトの左手が閃き、背中の黒い柄を握る。

「っ!」

 鋭く息を飲むと、ユウキは剣を構え直した。わずかな沈黙をマエトが抜刀音で破り──それを合図に、2人が飛び出した。

「やっほー!」

 そんな元気な声がしたのは、それと同時だった。思わずズルッとずっこけたユウキとマエト、そしてキリトとアスナが振り向くと、ログハウスのドアを開けた姿勢のまま、シルフの魔法剣士が固まっていた。

「あ......ごめん、邪魔しちゃった......」

 謝るリーファに、ユウキは、

「う、ううん。気にしないで......」

 と言いつつ立ち上がった。マエトもよいしょと立ち上がりつつ、リーファに言う。

「ずいぶん絶妙なタイミングだったね。師匠、もしかして出待ちしてた?」

「そんなわけないでしょ!」

 そのやりとりを聞いて、キリトは首を傾げた。

「師匠? 師匠って、リーファのことか?」

「うん。ちょっと前から、あたしマエト君の師匠なんだー」

 えっへんと胸を張るリーファ。そのとき、ふとマエトが思い付いたように言った。

「あ、せっかくだし今やるか」

 それだけでリーファには伝わったらしく、

「お、もう実戦投入できそうなの?」

「二刀ではまだ当てにくいけど、片手剣でならまぁまぁ行けると思うよ」

「ほほう、楽しみだねぇ。厳しく判定してあげなくっちゃ」

 師弟2人だけで盛り上がっているが、キリトたち3人には何のことだか解らない。

「待て待て。2人だけで話されても解らないだろ。スグはマエトに何を教えてるんだ?」

 キリトが訊ねるが、2代目師匠はニヤニヤしたまま、

「見てれば解るよ」

 としか答えなかった。

 その前では、マエトが抜いたばかりの裂鬼(れっき)を鞘に戻していた。

 だが、その目の鋭さは消えていない。むしろ、先ほど以上に集中しているように、ユウキは感じた。ユウキが気を引き締め直したとき、マエトが飛び出した。一瞬で距離を詰めて斬りかかってくる。

 そう予想したユウキやキリト、アスナだが、マエトとリーファは違った。

 ユウキとの距離が残り2メートルほどになったとき、突如マエトの背中に半透明翼が展開した。

(空中戦が苦手なとー君が、(はね)を......!?)

 そんな驚きが反射的に(しょう)じたことで、思考に空白が生まれた。それによってユウキの動きが一瞬だけ硬直し──

 その隙に、マエトは背後にいた。

「──ッ!?」

 大急ぎで振るったマクアフィテルが、首筋にわずかに食い込んだ切鬼を押し返した。マクアフィテルを横一文字に振り抜く。だがそれに合わせて後ろに下がると、マエトは上空へ逃げる。

「あっ、待て!」

 背中に翅を広げ、ユウキも空へと舞い上がる。急上昇の勢いを乗せて斬り上げる。それを避けるとマエトは距離を取り、突進した。ユウキもそれに応じて翅を全力で震わせる。双方の距離が一気に縮まり、ゼロになった。瞬間、ズバン! という音が虚空を揺らした。交錯の一瞬、その攻撃の余波が地上にも届き、キリトたちのアバターを叩いた。反射的に腕で顔を(かば)ったキリトたちが顔を上げると、2人のインプが飛び回って剣戟(けんげき)を繰り広げていた。

「リーファがマエトに教えていたのは、空中戦だったのか......」

「うん、すごい熱心に練習してたよ。何度かレコンに横槍(よこやり)入れられたこともあったけど、練習ついでにさっくり撃退してたし」

 どこか誇らしげに言うリーファに、アスナも頷いた。

「ほんとすごいわね。空中でもユウキと互角だなんて」

「確かにすごいけど、でも納得できる結果だよ」

 そう言ってキリトは、マエトの動きを目で追った。

 マエトは旧アインクラッド時代から、森の中での高速立体機動を用いて戦っていた。本格的な空中戦をALOから始めたキリトやアスナ、ユウキよりも、立体的な空間の把握能力に関しては一日の長がある。(はね)の動かし方さえ覚えてしまえば、空中戦には一気に順応できる。

 キリトの説明に納得しつつ、それでもアスナはマエトの戦いぶりを賞賛した。

「だとしても、あの飛びっぷりはすごいわよ。なんで前まで苦手だったか解らないくらいだよ」

 それについてもキリトが説明した。

「苦手だったのは確かだろうけど、正確にはあいつのスタイルと空中戦......もっと言えば、ALOの飛行システムの相性が悪かったんだよ」

 マエトはいつも、急所を正確に狙って攻撃する。高い機動力を活かして動き回り、敵の攻撃をかわしつつ防御の隙を突くには、《武器(アーム)破壊(ブラスト)》や《魔法(スペル)破壊(ブラスト)》を得意技とするキリトすら上回るほどの精密な照準力と高い技術を要するほど、シビアなタイミングを要求される。

 しかし、ALOでの随意(ずいい)飛行での加減速における肩甲骨(けんこうこつ)の開閉運動は、攻撃動作とリンクしてしまう。加速の際は肩甲骨を閉じて、減速の際は開く。

 つまり、攻撃のモーションはそのまま減速のモーションになってしまい、どうしても飛行の勢いが弱まって動きにブレが生じる。精密さとスピードの両立が命のマエトの戦闘スタイルは、ALOの随意飛行システムとは水と油のようなものだったのだ。

「あたしが教えた翅の動かし方をマスターして、及第点(きゅうだいてん)には届いたって言ってたよ。二刀流ではやっぱりまだ当てにくいから、もっと練習しないとって、不満そうではあったけど」

 苦笑しながら言うと、リーファは上空の空中戦(エアレイド)を見上げた。ちょうど、ユウキの上段斬りをマエトが受け止めて、(つば)()り合いに入ったところだった。逆手に握られた切鬼に、ユウキが長剣を両手で握り、より圧力をかける。

 その直後、マエトが背中の翅を(たた)んで消した。翅が消えたことでマエトの体は落下し、かけていた圧力を受け止めるものがなくなったユウキは前のめりに体勢を崩した。慌てて姿勢を戻そうとするユウキ。その下で、マエトは畳んだばかりの翅を開き、仮想の空気を叩いた。頭を下にして急上昇すると、マエトはユウキの腹に蹴りを叩き込んだ。

「かはっ......!」

 息を詰まらせるユウキに、マエトは切鬼を振るった。タイミング的にユウキに避ける余裕はなく、彼女の首に吸い込まれるように、青白銀の刃が走った。

 だが、切鬼はユウキの首には(かす)りすらしなかった。ユウキのアバターが急に落下したからだ。

「あ、さっそくパクられた」

 マエトが呟いた通り、彼の真似をして翅を消すことで、ユウキはギリギリのところで離脱に成功した。

 アスナたちの前に着地すると、ユウキは長く息を吐いた。攻撃自体は(しの)ぎきったが、精神的にはかなり削られてしまった。

(何してくるか解らないのは、空中でも同じか。それなら、慣れてる地上戦の方がやりやすいかな。それに......)

 そう考えたユウキの前に降り立ったマエトは、ユウキの心を読んだかのように背中の半透明翼を消した。そして背中に左手を回すと、もう1本の愛剣《黒鞘(くろさや)裂鬼(れっき)》を引き抜いた。それを見て、ユウキは(うれ)しそうに笑みを浮かべた。

(それに地上戦でなら、とー君の二刀流が見れるしね)

 何となく恥ずかしいのでアスナにしか言っていないが、ユウキはマエトの二刀流が好きだった。速く鋭く、そして静かだが時に大胆なマエトの技は、戦っていても見ていても飽きない。そもそも戦う度に攻撃や崩しのパターンが変わるのだから、好奇心旺盛(おうせい)なユウキにとっては飽きるはずもないのだが。

 短く息を吐き出してユウキが顔を上げると、それと同時にマエトが飛び出した。鋭く間合いに踏み込むと、マエトは左右の剣で連撃を仕掛けた。持ち前の超反応で全てブロックすると、すかさず反撃を差し込もうとするユウキ。しかしそれより早く、マエトは小さくバックジャンプ。同時に背中の(さや)に、裂鬼を納めた。ユウキは、二刀流から片手剣に移行したマエトの背に、キラキラと輝く半透明翼が開くのを見た。ユウキとしても空中戦は望むところだが、あえてマエトの足の動きを見て──

(──ここだっ!)

 ユウキは素早く右手の長剣を、背中に(かつ)ぐように構えた。マクアフィテルが黒曜石からライトグリーンへと輝きを変え、ユウキの体は見えざる手に叩かれたように加速した。

 片手剣上段突進技《ソニック・リープ》。

 タイミングは完璧(かんぺき)。上昇直前の、まだスピードが乗っていないところを狙って、ソードスキルを叩き込む。

 そう考えていたユウキの前で、マエトが地面を蹴って飛び出した。

 ただし、上ではなく前に。

「ッ!?」

 驚愕(きょうがく)に目を見開くユウキに向けて、マエトは切鬼を一閃。上昇していればマエトがいたであろう場所に向かって高速で突進するユウキのアバターが、上下に分断された。

(フェイントのためだけに(はね)を広げた......。二刀流じゃまだ、空中戦はやりづらいっていうのも(わな)に使って......)

 驚きに満ちていた顔に、ユウキはフッと笑みを浮かべた。

(ほんと、戦略と先読みじゃ、とー君には(かな)わないなぁ......)

 そう思うと同時に、彼女のアバターは紫色の光を吹き上げて四散した。




次回 危惧
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