ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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皆さん、お待たせしました(待ってない)。水着回です。


第15話 騒動

§ALO内 シルフ領付近《古森》

 

 

「うーむ、またか」

 腰かけている枝の上でそう呟くと、マエトは大きく伸びをした。ふぃーっ、と息を吐いて、両手に握った双剣を見下ろす。

 右手の白鞘(しろさや)切鬼(せっき)の白銀の刀身も、黒鞘(くろさや)裂鬼(れっき)の黒銀の刀身も、そこかしこが刃こぼれしていた。

 SAOのものもALOのものも共通して、この2振りの鬼神は数ある片手直剣の中でも特に(するど)く、同時に華奢(きゃしゃ)だ。スペック上の耐久度(たいきゅうど)はキリトの愛剣ユナイティウォークスや、ユウキの愛剣マクアフィテルと並ぶほど高いのだが、それらと比べると耐久度の減りがやや早い。

 防具や装甲(そうこう)の上から叩き付けるのではなく、防御の(うす)い部分を狙って切り裂くことに特化しているため、マエトのスタイルとの相性(あいしょう)はいい。

 だが、超高速戦闘を幾度(いくど)も繰り返せば、耐久度はぐんぐん減ってしまう。複数人の重装(じゅうそう)型プレイヤーが相手なら、なおさらである。

(6日くらい前にも行ったけど、またリズさんとこ行かんとなー)

 2振りの得物(えもの)をストレージに放り込み、無造作に枝から飛び立つと、マエトはイグドラル・シティへ向けて(はね)(ふる)わせた。

 少年が飛び立った後に残っていたのは、再びの静寂(せいじゃく)と、5つの赤いリメインライトだけだった。

 

 

「──いないじゃん」

 そうマエトが呟いたとおり、リズベット武具店の入り口には【CLOSED】の(ふだ)がかけられていた。ダメ元で数回ノックしてみるが、やはり待っても何の反応もない。

「わざわざイグシティくんだりまで飛んできたんだがなー」

 と頭をかきながらぼやくマエト。

 そのとき、急に暗闇が訪れた。

 何事かと上を見ると、仮想の太陽の手前に巨大な物体が浮かんでいた。側面がわずかに湾曲(わんきょく)した円錐台形(フラスタム)のそれは、今も移動を続けている。

 新生アインクラッド。

 店にいないのなら、あの鍛冶(かじ)職人(しょくにん)の少女がいるのは22層の森の家か、スキル上げ用の狩り場のどちらかである。

「今日は飛びっぱなしだなー。(はね)残業代(ざんぎょうだい)でも(はら)った方がいいかもなー」

 などとよく(わか)らないことを言うと、今度は森の中にひっそりと建つログハウスを目指して、マエトは半透明翼を広げた。

 

 

 新生アインクラッド第22層。その森の中に(たたず)む小さな家には、いつも多くのプレイヤーが集まる。

 この日も、家主(やぬし)であるキリトとアスナの友人たちが集まって、会話に(はな)を咲かせていた。

 だがその日の話題は、いつもと少し違った。

「マエトだって男の子なんだから、これなら喜んでくれるし、元気だって出るわよ!」

 リズベットの言葉に、うーんと(うな)りつつ、リーファが返した。

「確かに楽しそうだけど......本当にマエト君、水遊びで元気出してくれますかねぇ?」

「確かに、マエトさんって子供っぽいとこもありますけど、どちらかと言えば割とリアリストですし......」

 シルフの少女に、シリカも同意する。

 そう。彼女らはマエトを(さそ)って、22層にいくつかある(みずうみ)で水遊びをするつもりなのだ。

 以前この家で暴走しかけて以来、マエトの表情に、ごくわずかだが影のようなものがあることにユウキが気付いたのがきっかけだった。

 あんな姿を見られて、怖がられたり、気味悪がられたりしたのではと不安なのだろうと、長い間彼と一緒にいたユウキは直感した。

 そこでアスナたちに相談してみたところ、リズベットが水遊びを提案したというわけなのだが──。

 リーファの発言に、発案者はちっちっちっと人差し指を振りながら舌を鳴らした。

(わか)ってないわね、リーファ。水遊びはおまけよ、おまけ。本命はもちろん、あたしたちの水着姿よ!!」

「「え......えええええっ!?」」

 リーファとシリカが驚きの声を上げる前で、なぜか得意げに腕組みをするリズベット。さも当然とでも言わんばかりのドヤ顔の横で、シノンも口を開いた。

「水着ねぇ......まぁ少なくとも、キリトなら大喜びなんじゃない?」

「待ってくれ、なんでそこで俺に矛先(ほこさき)が向くんだ!?」

「だって私たちにとって一番身近な男子ってあんたなんだもん。仕方ないじゃない」

 しれっとそう言うシノンに思わず苦笑するアスナ。するとそのとき、

「ああーっ!!」

 飛び上がるほどに(おどろ)いたアスナたちの視線の先で、ユウキが目を見開いていた。

「ど、どうしたの、ユウキ? 」

 アスナが恐る恐る(たず)ねると、インプの少女は必死な表情でまくし立てた。

「アスナ、ボク水着なんて持ってないよ!! 水着って雑貨屋さんでも売ってるのかな!?」

(((水遊びなのは、決定なんだ......)))

 全員が内心そう突っ込む中、アスナも苦笑しながら言った。

「だ、大丈夫だよ。水着屋さん、ちゃんとやってると思うから......」

「ほんと!? ......あー、でもボク、アスナたちみたいにプロポーション良くないから、恥ずかしいかな......」

 ぱあっと笑顔を輝かせた直後に、一転して自信なさげな表情を浮かべたユウキに、リズベットが隣の友人の背中をバシバシ叩きながら笑う。

「なーに言ってんよ! ここに仲間がいるじゃない!!」

「リィィズゥゥさぁぁん?」

 怒りの声を向けられて謝るリズベットに再び苦笑すると、アスナは言った。

「大丈夫、ユウキなら何着ても似合うよ!!」

 大好きなアスナにそう言われ、うーんと短く(うな)ると、

「......やっぱりちょっと照れるけど、水着買いに行こう!! ボクも水遊びしたいし!」

 そう意を決したように言ったユウキ。するとそのとき、

「おーっす」

 気の抜ける間延びした声にユウキたちが振り向くと、事の張本人であるマエトがいた。

「あ、とー君! ねぇねぇ、とー君は水着持ってる?」

 あまりにも唐突な質問だったが、圧倒的な対応力を(ほこ)るマエトは平然と答えた。

「持ってないけど」

「じゃあ買いに行こう!!」

「いーよ」

 すんなりと話が進み、そのままログハウスを出るインプ2人を、アスナたちは(あわ)てて追いかけるのだった。

「え、ちょ、ちょっと待って2人共!!」

「なんで後から来たあんたの方がスムーズに話に乗ってんのよ!?」

「話の流れとか気にならないのか!?」

 

 

 ボロボロになった切鬼と裂鬼を、リズベットが携行(けいこう)タイプの砥石(といし)アイテムで修復してから、一行は水着屋へと向かった。

 キリトたちは前に《深海の略奪者》クエストのときに着てた水着があるため、水着を持っていないユウキとシノンとマエトの水着だけを買うということで話が決まった。

「皆さん見て下さい! 【水着陳列数(ちんれつすう)最大級! 24時間営業の水着屋さん】とのことです!!」

 ユイが発見したその建物には、確かにその通りの(うた)い文句が書かれていた。

「水着屋さんで24時間営業なんてあるんだね。へぇー、すごいねこの店!!」

(ひま)なんかな」

 対称的なリアクションのインプ2人を先頭にして店内に入ると、膨大(ぼうだい)な数の色とりどりの水着が、ユウキたちを出迎えた。

「わあっ、すっごーい!」

 歓声を上げながら駆け出すユウキを見て、マエトが呟く。

「小2でお花見行ったときとリアクション変わってないなー」

 その言葉に、アスナは笑った。

「でも、ユウキがああなるのも解るわ。すごい数の水着だもん」

 そして、8人は店内の水着を物色した。

「シノンさん、これなんてどうですか?」

「黒のビキニかぁ......白の水玉が可愛いわね」

「シノンさん、試着してみたらどうですか?」

 シリカの提案に、シノンは同意を示した。

「そうね。せっかくリーファが選んでくれたんだもの」

 そう言ってシノンがフィッティングルームに入ると、リズベットは何やらニヤニヤしながらどこかへ向かった。

 そこから少し離れたところでは、2人の少年がいた。

「......マエト、なんで女性用の水着を物色してるんだ?」

「ユウちゃんの水着選んでる」

「いや、自分のやつは?」

「その辺のテキトーな海パン引っこ抜いてそれ買った」

「えぇ......それ、大丈夫なのか?」

「普通の無地の青い海パンだったよ」

 そんな会話をしている2人に、リズベットの声が降りかかった──正確にはキリトにか。

「キリトー。あっちでシノンが水着試着してるんだけど、あんたも感想言ったげなよ」

 直後、向こう側からシノンの焦った声が聞こえた。

「ちょっ、リズ!? 何言ってるのよ!!」

「いいじゃない、どうせ水遊びするときにはキリトにも見られるんだから。早いか遅いかだけよ」

「そうだけど......!!」

「ほらキリト、行った行った!」

 そう言ってリズベットは、キリトの背中をグイグイ押す。

「おいリズ、そんな押さなくても歩けるから......!」

 キリトの抗議の声が遠ざかると、マエトは鼻から軽く息を吐いた。

(リズさんは元気だなぁ......)

 などとぼんやり考えながら手早く水着を物色する。そしてほんの十数秒後、

「お」

 と声を漏らしつつ、マエトは1着の水着を引っ張り出した。

 白い無地の、シンプルなワンピース水着だった。手にしたそれをユウキに見せようと、マエトは足を踏み出した。

 だが、そのとき、

「ボク、水着はツーピースに挑戦してみようと思うんだよねー」

 そこで、マエトの動きがピタリと止まった。マエトに気付いたわけではなく、単に一緒に水着を選んでくれているアスナに向けて言っただけだろう。実際アスナが、

「ツーピースかぁー、なら......こういうのは?」

 そう言って、黒地に濃淡(のうたん)様々な紫のラインが入った水着を取り出す。

「わぁー、可愛いね! でもこんなフリフリのスカート、ボクに似合うかなぁ?」

「大丈夫、絶対に似合うよー!」

 そう盛り上がる2人の後ろで、マエトは無言で水着を元の場所に戻した。

 

 

 水着を買い終えた一行は、22層の中でもひときわ大きな湖に来ていた。

「よーっし! それじゃ、みんな水着に着替えるわよー!!」

 リズベットの号令に、全員が「はーい」と応じる。しゅわんっ、というサウンドが何重にも重なって響き、妖精たちが水着に換装する。

 シノンの水着は、リーファが選んだビキニ。ユウキの水着は、アスナが選んだツーピース水着。そしてマエトの水着は、青い無地の味気ない海パン──の、はずが。

「なぁマエト。それ(・・)なんだ?」

 キリトがそう言いつつ指差したのは、マエトのお尻だった。

 青いパンツのお尻の部分には、いつの間にか緑色のカエルの顔があった。わずかにも気にした様子もなくマエトが答える。

「あー、これ? なんかさっきアスナさんが貸してって言ってきて、貸したらこーなった」

「あぁ、裁縫(さいほう)スキルでプリントしたのか......」

 お尻に動物プリントの光景に既視感を覚えるキリトに、赤で縁取りされた白いビキニのウンディーネが「ふふっ」と笑いながら声をかけた。

「懐かしいでしょー? キリトくんの水着にも、また着けてあげようか? オレンジ色の熊ワッペン」

「え、遠慮しときます......」

 アスナのいたずら心を刺激しないよう、キリトはやんわりと断った。

「ほらー! 何してんよ、あんたたちも早く来なさーい!!」

 リズベットが大声で3人を呼ぶ。キリトたち以外はもう湖に入っていた。

「ほら、行こう?」

 そう言って、アスナは2人を(うなが)した。だが、

「いや、俺はみんなが遊んでるのを眺めてるよ」

 キリトは湖の(ふち)に腰かけた。マエトもその隣で、

「うん、行ってらっしゃい」

 と言って、ストレージから取り出したジョッキを傾けている。水着に着替えた意味がまるでない。

「えー、とー君も泳ごうよー」

 口を尖らせて言うユウキに、マエトは腕組みをして返した。

「ユウちゃん、何か大事なことをお忘れではないか?」

「大事なこと?」

 ユウキが首を傾げる。

「なんでしょうか......?」

 シリカが一緒になって考える。彼女の頭上でピナも「きゅるぅ?」と首を傾げる。

 そのとき、不意にユウキが「あっ」と声を上げた。

「そうだ、とー君泳げないんだった」

「ご名答」

 偉そうに答えるマエトに、リーファが声を漏らす。

「泳げないことって、あぁも堂々と言えることでしたっけ......?」

「恥ずかしがるほどのことでもないと思うけど、あれはちょっと感覚ズレてるわ」

 呆れたように返すシノンに、リズベットとシリカが(うなず)く。

 その前でユウキが(なつ)かしそうに目を細めた。

「そう言えばとー君、プールの授業で1人だけビート板使ってたっけ。面倒臭そうな顔でバタ足してさ」

「そうそう、ビート板......あ」

 腕組みをしてうんうんと頷いていたマエトが、不意に何かを思い出したような顔をした。

「どうしたの?」とユウキ。

 左手を振ってウィンドウを開きアイテム欄(ストレージ)を操作しつつ、

「ビート板の代わりに使えそうなものが」

 と言うマエト。

 彼が「あった」という声と共にオブジェクト化したのは、何の変哲もないカイトシールドだった。

「それどうしたの? 買ったの?」

 キリト以上の頻度(ひんど)で二刀流を使うスピード型アタッカーであるマエトが、なぜ盾を持っているのか(いぶか)しむユウキに、マエトは説明した。

「古森でサラマンダーのPK集団に襲われてさ、そのうちの1人がドロップした。多分まだ筋力パラメータがちょっと足りなかったんだろーね、1人だけ装備のグレードが低いのがいた」

 そう言いつつ湖に入ると、マエトは両手で持ったカイトシールドを水面につけ──途端、盾はその重さで沈み、それに引っ張られるようにして小柄な少年が水中に消えた。

「あーもう、やっぱり!」

 そう言うや、アスナは水に(もぐ)った。水中活動に(ひい)でたウンディーネの少女は、なんの抵抗もせずにぶくぶくと沈み行くマエトにすぐ追い付くと、彼の腕を引いて水面に顔を出した。

「もー、大丈夫?」

 呆れ半分、心配半分と言った様子で訊ねるアスナにしがみついたまま、マエトは「だいじょぶだいじょぶ」と答えた。

 だが、その(ゆる)んだ顔が引き締められた。

「いや、大丈夫じゃないかも知れん」

 いきなりそう言うマエトに、全員が脳内に疑問符を浮かべた。

 直後、湖の水が波打った。

「ちょ、何っ!?」

「じ、地震!?」

 声を上げるリーファとシノン。それに、マエトとユイがほぼ同時に答えた。

「下だ」

「下から何か来ます! 皆さん、陸に上がって下さい!」

 急いで湖から出るキリトたち。だが、一番後ろにいたユウキが、ギリギリ間に合わなかった。

「わあっ!?」

 ユウキの背後で湖水が丸く盛り上がり、巨大な陰が飛び出した。大量の水しぶきと盛大な水音を()き散らして現れたのは──

「「──《ヌシ》!!」」

 キリトとアスナが異口同音にその名を叫ぶと同時に、巨大魚が奇妙な雄叫びを上げた。




次回 隠し事
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