ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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書いてて思った。この感じだと、多分オーディナル・スケール編けっこう短めで終わる。


第7話 戦う理由

 ガギィンッ!! とけたたましい金属音が響き、オレンジ色の火花が飛び散る。白銀の刀身に弾かれた前足を(たた)み、毒々しい緑色の巨大なトカゲ型ロボット──のようなモンスターが、金属質の咆哮(ほうこう)を発した。トカゲロボが小さく頭を下げたのを見て、マエトは斜め後ろで剣を構えるユウキに言った。

尻尾(しっぽ)来るぞ」

 戦闘モードに入っているときしか出ない、どこか冷酷さすら感じさせる静かな声で言った少年に、ユウキは「うん!」と答え油断なくボスの動きを見た。

 他の大勢のプレイヤーが見つめる前で、モンスターはその場で小さくジャンプ。滞空中で前方にクルリと一回転すると、プレイヤーたちが立っている場所に硬質の尾を振り下ろした。

 プレイヤーたちが左右に散り散りになって逃げる中、マエトはあえて前に出た。振り始めでまだ威力の乗っていない尻尾に向かって跳躍し、勢いそのままに長剣を強振した。さすがにノックバックとまでは行かなかったが、大技の出を(つぶ)されたトカゲロボはその巨体を転倒させた。

「おっりゃあああ────ッ!!」

 その(すき)を逃さずユウキが突進。脳裏(のうり)に単発重攻撃技《ヴォーパル・ストライク》を思い描き、全力で突き技を放つ。

 ロボットめいてはいるがそこだけは生物らしく柔らかそうな腹部に、漆黒(しっこく)の片手剣が根元まで埋まる。直後、モンスターの体が白く光り、カラフルなパーティクルをまき散らして爆散した。

 そのサウンドエフェクトを上回るほどの歓声が、プレイヤーとギャラリーの両方から上がった。モンスターの討伐を受け、参加プレイヤーに貢献度に応じてポイントが与えられる。そのリザルト画面を見ることもせず、ユウキはマエトの元へと走った。

「やったー! ラストアタック()ったよー!!」

 満面の笑みを浮かべながら駆け寄るユウキに、マエトは「おめでとー」と言おうとするが、それより先に言うべきことがあるのに気付いた。

「ブレード()き出し、ダメ絶対」

 (みょう)にリズミカルなフレーズを口にしつつ、マエトは右手の剣を消した。長剣の(さや)が腰に()ってあるのが邪魔だったため、数日前に『剣が手元に直接ジェネレートし、また手元から消滅する』という設定に切り替えたのだ。「あっ」と小さく声を()らすと、ユウキはすぐに剣を鞘に落とし込んだ。頭をかく少女に歩み寄ると、マエトは彼女の頭にぽんと右手を乗せた。

「たいへんよくできました」

 そう言って頭を()でると、ユウキはわずかに(ほほ)を染めて照れたように笑った。

 2人がオーディナル・スケールをプレイし始めてから、1週間が経過した。AR戦闘に慣れてから参加してアスナをびっくりさせたいという木綿季(ゆうき)の希望により、桐ヶ谷和人(キリト)結城明日奈(アスナ)たちには、まだOS参加は伝えていない。

(まぁもううっすらバレてるだろーけど)

 そう思いつつ、マエトはユウキの頭上に表示された4780の数字を見上げた。

 木綿季は基本的に、智也(ともや)が一緒にいる時しかオーディナル・スケールをプレイしない。彼女曰く、1人でやってもつまんないとのことで、そのためPvPやモンスター戦、アイテム拾いを1週間でやれるだけやった割には、ランキングナンバーは4000位台と微妙に低い。

「とー君もランキング上がったね」

 ユウキにそう言われたマエトは、先ほど確認した自分のランキングナンバーを思い出し、ふぃーと息を吐いた。

「まぁユウのランクよりはだいぶ低いけどね。5172位」

 マエトのランキングナンバーはユウキのそれと比べて低いが、それはユウキのサポート主体で立ち回っているからだ。ユウキの与ダメージが大きくなるようモンスターの動きを誘導したり、攻撃を弾いて隙をつくったりしている。ゆえにマエトの(かせ)いだポイントの大半は、PvPとアイテム拾いで得たものだ。

「で、どーする? まだ時間あるし、もう少し遊んでく?」

 マエトにそう言われ、ユウキは視界上部中央に表示されているデジタル時計に視線を向けた。午後4時24分。今いるのは家からそこそこ離れている場所なため、早めに帰ってもいいが、

「もう少しだけ遊びたい、かな」

 そう答えたユウキに、マエトは「了解」と言った。

 すると、先ほどのモンスター戦に参加していたプレイヤーのうち数人が声をかけてきた。どうやら会話が聞こえていたらしい。

「じゃあさ、PvPしようぜ!」

「さっきはナイスファイト! もういっちょ見せてくれよ!」

 そう言ってくるプレイヤーたちに向き直ると、ユウキは腰の鞘から再び剣を抜いた。

「よぉーし、それじゃあ勝負だよ!!」

 凛とした声を上げ、少女剣士は果敢(かかん)に駆け出した。

 

 

 翌日、学校を出た智也は、ちょうど校門を出ようとしている4人組を見かけた。桐ヶ谷和人と結城明日奈、篠崎里香(リズベット)綾野珪子(シリカ)の4人だった。はっきりとは聞き取れなかったが、ファミレス行こう的な会話が聞こえた。

 ふと思い立ち、学生カバンから黒いオーグマーを取り出す。左耳にひっかけるようにして装着すると、周囲の人間の頭上に数字が表示された。今ではもうすっかりお馴染みとなった、オーディナル・スケールのランキングナンバーだ。

 少し早足で移動して明日奈たちを視界に入れ、4人のランキングナンバーをこっそり確認する。

(リズさんが2679位、シリカちゃんが2354位......アスナさん1452位、すごいな)

 思わず目をパチパチさせてから、智也はその隣を歩く黒髪の男子の頭上に視線を移した。

 帰宅した智也から4人のランキングナンバーを聞いて、木綿季は目を丸くした。ただし、特に驚いたのは明日奈のランクについてではなく、和人のランクについてだった。

「えぇ~~っ!? キリト104137位!? ほとんど何もしてないじゃん!」

「ほとんどってか本当に何もしてないんだと思うよー」

 キリトさんらしいよねーと笑い、智也は制服から私服へと着替えた。今日は早めに夕食をとって、オーディナル・スケールでなくALOをプレイする予定だ。毎日ALOにログインはしているが、オーディナル・スケールを始めて以降、スキル上げが(おろそ)かになっているというのはやはり(いな)めない。

 冷蔵庫の中を物色しながら、智也は木綿季に向かって言った。

「ユウ、一緒に晩メシ作ろ。手伝って」

「うん!」

 

 

 夕飯も食べ、数時間に渡る全力の定点狩りでスキル上げの遅れもいくらか取り戻したところで、ユウキとマエトは新生アインクラッド第22層にあるキリトとアスナのプレイヤーホームに向かった。森の奥にひっそりと建つログハウスのドアを開けると、中にはキリトとアスナだけでなく、リーファやシノンたち女性陣とクライン、エギルの男性陣もいた。

「みんな、こんばんはー!」

「おー、なんか勢ぞろいだ」

 そう言って中に入ったインプ2人を、9人と1匹が迎え入れる。アスナが追加で出した椅子に座り、ユウキが訊ねた。

「なんの話してたの?」

 自分を見上げてくるインプの少女に、アスナは「話してたっていうか、これから話すところなんだけど」と前置きすると、続きはキリトが引き継いだ。

「今日のオーディナル・スケールのボスバトルイベントで、アインクラッド第10層ボスモンスター《カガチ・ザ・サムライロード》が出現したんだ」

 数秒の沈黙の後、シノン、エギル、ユウキが声を上げて驚いた。マエトも小さな声で「へぇ......?」と呟き、興味を示した。

 そのとき、クラインが大きく伸びをした。グルグルを腕を回しながら、カタナ使いがくたびれた声で言う。

「いやぁ~、ARで戦うフロアボスも本家同様の攻撃パターンとは言え、生身で動きまくったから体バッキバキだぜ」

「よくそんな人数で倒せたな」

 腕組みして感心したように言うエギルに、キリトが応じる。

「俺とアスナは1回戦ってるから......。周りは集団戦未経験者が多かったみたいで、大苦戦だったんだけど」

 と言ったキリトの隣に立つアスナが、珍しく少しからかうように言った。

「キリトくんもバテバテだったからね~」

「......AR戦闘に慣れてないだけだよ......」

 そう言い訳し、微笑むアスナにじとっとした目を向ける。そこであることをふと思い出し、スプリガンは再度口を開いた。

「あぁ。でも、あのYUNA(ユナ)って子が応援に来てくれててさ、最後はご褒美(ほうび)で......」

「「えぇ~~~っ!?」」

 キリトの言葉を(さえぎ)るように、2つの声が響いた。声の主にしてYUNAの大ファンであるリーファとシリカが立ち上がった。

「お兄ちゃん、ユナとボス戦やったの!?」

「本当ですか!?」

 (うらや)ましいと言わんばかりに詰め寄る2人にキリトが冷や汗をかく中、同じくYUNAの大ファンであるクラインがご機嫌(きげん)な様子で腕組みした。

「ライブ観られて満足だったぜ......オレ、ユナちゃんのライブチケット応募(おうぼ)しそびれちまってよぉ......」

 後半は残念そうな声......というか本気で残念なのだろう。バンダナ男がため息混じりに肩を落とした。

 それを聞いて、ティーカップを傾けていたエギルが、ふと思い出したように言った。

「あぁ。そう言やオーディナル・スケールの登録キャンペーンで、ペアチケット当たったぞ、オレ」

「私も当たった」

 彼の前に座るシノンも、しれっと同意した。直後、

「「えぇ~~~!? いいなぁ~~~!!」」

リーファとクライン──ライブ行けない勢な2人が絶叫した。子供のようにあうあう言ってすがりつくクラインに、

「あー、解ったよ! 1枚はお前にやるよ!」

 エギルが鬱陶(うっとう)しそうに言った。同様にシノンも、全力で視線を照射するシルフに、

「私もリーファにあげるね」

 と微笑んだ。

「「やったー!!」」

 歓声を上げてぞれぞれチケットの持ち主に抱き着く2人。だが、

「あ......でもあたし来週、剣道部の合宿があるんだった......」

 一転してガクンと項垂(うなだ)れるリーファの姿に、キリトたちは思わず笑った。

 そのとき、バッと手を上げてユウキが言った。

「はいはーい! じゃあリーファの代わりにボクが行っていい?」

「ん。いいわよ、ユウキにあげる」

 シノンも(こころよ)承諾(しょうだく)すると、リーファはユウキに言った。

「あたしの分も楽しんできてね......」

「任して!」

 一方、このメンツの中でYUNAにもライブにも圧倒的に興味のないマエトは、アスナが取り分けてくれたブルーベリータルトをもぐもぐしながら首を(かし)げた。

「ふむ? みんなそんなにライブ行きたいのか.....?」

 YUNAの曲は聴いているし別に嫌いではないのだが、特に入れ込んでいるわけではない。そんなマエトに、ユウキは苦笑した。

「興味ないからライブの間寝るとか言ってたもんね、とー君......」

 途端(とたん)、YUNAのファンたちが抗議の声を上げた。

「そんなぁ! マエト君、もったいないよ!!」

「ユナの曲を生で聴けるんですよ!?」

「個人的にはイヤホンで聴くのでじゅーぶんだし」

 (ほほ)をハムスターのように(ふく)らませ、こもった声でさらりと流すマエトに、2人に続いてクラインが言った。

「いやいや、あんな可愛い子が目の前で歌ってくれるんだぞ!? イヤホン越しじゃ味わえねェ、ライブならではの特典だぞ!?」

 するとマエトは、ブルーベリータルトを飲み下してこう言った。

「おれにとって可愛いのはユウだけなんで」

 何の恥ずかしげもなくそう言って平然とお茶を飲むマエトに、その場の全員が思わず圧倒された。ケーキに手を伸ばしていたリズベットは、

「砂糖吐きそう......」

 と呟き、皿とフォークをテーブルに戻した。当のユウキはというと、湯気が出るほど顔を真っ赤にして(うつむ)いていた。だが、その頬が幸せそうに(ゆる)みきっているのを、アスナやシノンは見逃さなかった。

 

 

 チチッという音が聞こえ、木綿季は目を開いた。体を起こしてアミュスフィアを頭から取り外すと、不意に(のど)(かわ)きを覚えた。ベッドから降りて自室を出ると、キッチンでは既に智也が水を飲んでいた。木綿季が来ると予想してたのか、水が入った木綿季のマグカップを差し出す。「ありがとう」と言ってカップを受け取ると、木綿季はその中身を一気に飲み干した。よく冷えた水が喉を通り過ぎるのを感じ、ふぅと息を吐くと、木綿季は先ほどのALO内での会話を思い出して言った。

「旧SAOのボスモンスターか......とー君は戦ったことある?」

 マエトの発言により発生した甘ったるい空気がいくらか緩和(かんわ)した後、話題は「オーディナル・スケールのボス戦に旧SAOのボスモンスターが出現するとはどういうことか」というものに移った。結局進展は1つもなかったのだが、どうしても「何かあるのではないか」と勘繰(かんぐ)ってしまう。

 木綿季の問いに、智也はマグカップを洗いながらかぶりを振った。

「ぜーんぜん。レベルは足りてたかもだけど、おれもベルも大規模な集団戦とか未経験で、上手く立ち回れる自信なくてさー」

「あー、ずっとコンビでやってたんだもんね」

「うん。2人でなら善戦できても、それで他のメンツの邪魔になったら意味ないしねー」

 欠伸(あくび)を1つして、智也はジャージのポケットから携帯端末を取り出した。画面に表示されたデジタル時計は、午後11時を示していた。今日はもうすることもないので、あとは寝るだけだ。

 オーディナル・スケールをプレイし始めてから、智也も木綿季も寝る時間が早くなった。現実の肉体を酷使(こくし)するAR戦闘の疲労を考えれば当然である。

「じゃーユウ、そろそろ......」

 そこで智也の言葉は途切れた。言い終わらないうちに、木綿季がキスしてきたからだ。

 (くちびる)を離すと、木綿季は頬をほんのりと朱色に染めつつ、いたずらっぽく笑った。

「みんなの前で恥ずかしいこと言ったお返し! じゃあおやすみっ!!」

 それだけ言うと、木綿季は逃げるように自室に引っ込んだ。

 呆気(あっけ)にとられ、しばらく目をぱちぱちさせていた智也だが、やれやれといった様子で苦笑すると、自身も寝室へと戻った。

 そうして、また1日が過ぎて行った。リアル、VR、 ARを問わず、楽しい日常が続くと思っていた。

 キリトが仲間たちに、

「OSで旧アインクラッドのボスにやられて、アスナのSAOでの記憶が消えた。もうボスとは戦うな」

 そう言ったのは、4日後の昼のことだった。

 

 

 午後9時前。東京ドームの前に集まった大勢のOSプレイヤーに向けて、桐ヶ谷和人は視線を走らせていた。これまでのボス戦で見かけた、エイジというランク2位のプレイヤーを探しているのだ。

 昨晩、渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスで行われたオーディナル・スケールのボスバトルに、またしても旧アインクラッドのフロアボスが出現した。第10層、第11層のボスに続いて現れたのは、第12層フロアボス《ザ・ストリクトハーミット》。超硬質の(から)とハサミをもつ、巨大なヤドカリ型モンスター。

 しかし、それだけではなかった。突如(とつじょ)として姿を現した第91層ボスモンスター《ドルゼル・ザ・カオスドレイク》。巨大なドラゴンの前に突き飛ばされたシリカを(かば)って攻撃を受け、アスナはHPを全損。アインクラッドでの記憶を失った。

 そして、シリカをドラゴンの前に突き飛ばした、つまりアスナが記憶を失うきっかけとなった張本人こそエイジだった。

 ユイにも手伝ってもらって、ボス戦開始ギリギリまで探してみるも、エイジは見つからなかった。

 歯噛(はが)みするキリトをユイが激励(げきれい)していた、そのとき。

「ずいぶんな気合いの入れようね」

 そう言って、朝田詩乃(シノン)がやってきた。

「みんなには危ないから戦うなって言っといて、自分は例外なのね」

 キリトらしいと思い苦笑する詩乃に、和人は言った。

「でも、本当に危険なんだ。ボスに殺されたら、アスナのときみたいに......」

 そう心配する和人に、詩乃は笑った。

「大丈夫。私はSAO生還者(サバイバー)じゃないもの。スキャンされる記憶がなければ何もおきないはずよ。でしょ、ユイちゃん?」

「はい、そのように推測されます」

 ユイが詩乃に同意するが、和人はまだ食い下がろうとした。

 だが、それより先に新たな声が飛んできた。

「そーそー! だからボクが戦っても問題なし!」

 3人が声のした方を見ると、木綿季が歩み寄ってきていた。隣には智也もいる。

 2人の左耳にはオーグマーが装着されている。そして、木綿季の服装はパーカーにレギンス付きのショートパンツ。智也もパーカーにイージーパンツと、2人共動きやすさ重視の服装だ。

「まさか、お前らも戦うのか!?」

 そう訊ねる和人に、木綿季は当然と言わんばかりに胸を張った。

「当たり前でしょ! アスナが......大事な親友が傷つけられたんだ。(だま)って見てるなんてできないよ!」

 木綿季の横で、智也ものんびりと言った。

「まぁ、こっちにもこっちの事情があってね。おれらも参加させてもらいま──」

「ダメだ!!」

 突然の叫び声に、周囲の他プレイヤーたちがざわつく。だがそれには目もくれず、和人は智也に詰め寄った。

「100歩(ゆず)ってシノンとユウキはいいとしても、お前はダメだ! お前はSAO生還者だろ、もしボスに殺されたら......!」

 しかし、智也は即座に切り返してきた。

「へー。じゃあその場合は、キリトさんも家に帰るんだよね? だってSAO生還者なんだから」

 思わず言葉に詰まる和人に、智也はにししと笑った。

「だいじょぶだいじょぶ。殺されないことに関しては自信があるので」

 のん気に笑う智也の両肩を、和人は思い切り(つか)んで再び叫んだ。

「ふざけるな! 俺は本気で言ってるんだ! お前にとってSAOの記憶は......相棒との想い出は、そんな簡単に失っていいものじゃないはずだろ!!」

「だからだよ」

 そう即答され、和人は驚いた。肩を掴む手から力が抜けるのを感じ、智也はふぅと息を吐いた。

「ユウには前話したけど......おれとベルはSAOの中で、アスナさんと会ってる。色々あって名乗れなかったから忘れてるだろーけど、多分アスナさんなら話せば思い出す」

 それを聞いて、和人と詩乃は驚きで目を丸くした。そして同時に、智也がここに来た理由を(さと)った。

「アスナさんのSAOでの記憶の中には、ベルとの想い出も確かに存在する。それをどっかの誰かが消した。おれにはそれが我慢(がまん)ならん」

 自分を見つめ返す(ひとみ)の奥で、静かに怒りが燃えているのに和人は気付いた。

 思わず息を呑む和人に、智也は笑って適当な調子で言った。

「まぁそーゆーわけで。もしこれ以上『お前は帰れ。でも俺は戦う』的なこと言ったら、足へし折ってでも帰らすよー」

 口調は軽かったが、こいつならやりかねないという予感に襲われ、和人は後ずさった。

 そうしている間に、周囲で他のプレイヤーたちが換装(かんそう)し始めた。そろそろ時間だ。覚悟(かくご)を決めて、和人は3人に向かって(うなず)いた。

 同じ方向を向く4人が並び立ち、声が重なる。

「「オーディナル・スケール起動!!」」

 コマンド発声。直後、4人も戦闘用装備に換装した。キリトとユウキが(さや)から剣を抜き、シノンも大きなスナイパーライフルを抱えた。マエトが右手を広げると、メイン武装である長剣が展開された。

 黒い柄を握り、マエトは静かに言う。

「さて、()るか」

 夜闇の中、透明感のある白銀の刀身が、呼応するように(するど)(かがや)いた。




次回 逆襲

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