ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア 作:Maeto/マイナス人間
§東京都新宿区 新国立競技場
「へぇ~、ユナの人気すごいわね......」
ライブ会場に集まった大勢の人を見て、
課外授業として無料招待された帰還者学校の生徒はもちろん、チケットを入手した一般のファンもひしめいている。大半の観客は私服だが、YUNAのシルエットがプリントされたTシャツを着ている者も少なくない。両手に持ったペンライトを振って、ライブの予行練習している者もちらほらいる。
そんな中、普通に私服で来た
「うぅ......歌いすぎて
昨晩のライブ予習カラオケが響いている
「あんたハッスルしすぎよ......」
「アハハ、昨日すごかったもんねー、シリカ」
苦笑気味にそう言った
「シリカちゃん、昨日はありがとう」
「いっ、いえ!」
「しっかし、残念だったなぁ、あいつら」
彼の言うあいつらとは、ライブに参加できない
だが彼と彼のギルド《
そのとき、ふと周囲を見回して、明日奈が首を
「あれ? キリトくんは?」
「ちょっとトイレに寄ってくるって言ってましたよ」
そう答えた珪子だが、
オーグマーが智也の視界に表示する仮想デスクトップには、1通のメッセージが表示されていた。
『エイジと会ってくる。会場で何かあったら頼む キリト』
ほんの少し前に
何か起こるとしたら、恐らくライブ開始後だ。それでも一応周囲に視線を走らせつつ、智也は心の中で語りかけた。
(勝ってこいよ、キリトさん......)
そのとき、会場の照明が消えた。イントロが流れると同時に、ステージ中央で爆発演出。広がった白煙を突き破って、YUNAが現れた。無数の歓声が会場を満たし、いくつものスポットライトがステージを照らす。ライブが始まった。
アップテンポなメロディーと歌姫の美声が響く。暗闇の中、パープルピンクのペンライトが無秩序に動き、ライブを盛り上げる。
そんな中でも絶えず
数分後、曲が終了した。歌は止んだが、歓声のボリュームはさらに上がった。すぐ近くでも「ユナー!!」という珪子の声が聞こえる。
だが、YUNAはステージ中央で立ち止まっていた。胸に手を当てて動かないアイドルに、観客は不思議がってざわついた。
そんな観客の気持ちもよそに、YUNAは満ち足りた笑顔でこう言った。
「はぁ~、楽しかった」
直後、バツン! と音がして、スポットライトが消えた。会場内の全ての照明設備が止まったのだ。
そのとき、観客の体が次々と青白い光に包まれた。光が消えると、観客の服装は
観客、いやプレイヤーたちがどよめく中、壁面に設置された大型スクリーンに何かが表示された。
巨大な
プレイヤー全員がそれに見覚えがあった。オーディナル・スケールをプレイ中、視界の下の方に同じものが表示されているのだ。覚醒状態のユーザーの大脳とリアルタイムでリンクしているオーグマーが読み取った、感情の揺らぎ。
壁面のスクリーン左上に表示された文字列は、【EMOTIVE COUNTER】。感情計数器──。
プレイヤー全員の視界中央に【FINAL EVENT】と表示された。
直後、会場の各所で赤いライトエフェクトが
その瞬間、マエトは敵の狙いを理解した。
この会場に集まった観客の多くは帰還者学校の生徒、すなわちSAO
「なんだこりゃ......!」
「どうなってるの......!?」
突如出現したボスモンスター群がプレイヤーたちに襲い掛かる様子を見下ろし、エギルとリズベットが驚きの声を上げた。
それを聞いて、マエトは思考を一旦止めた。これの首謀者にどんなメリットがあるのかまでは解らないが、そんなことはこの際どうでもいい。
今は最低でも、自分と仲間がボスに殺されないことが最優先だ。
「とりあえず脱出を......」
そう言おうとしたマエトだが、出入口の方から金属のドアを叩く音と叫び声が聞こえてきた。
「出せよ!」「どうなってんだ!」
どうやら出入口はシステム的にロックされているらしい。外に逃げることは不可能だ。
(ならオーグマー外すか......いや、このメンツのことだ。事情が解れば、他のプレイヤー助けるためにボスと戦うに決まってる)
優しい仲間たちだからこそ、彼らが《少なくとも自分たちだけは確実に助かる道》は選ばないという確証があった。となればもう、あとは戦って生き残るしかない。
空中を高速飛行する巨大カマキリ《ゾデーラ・ザ・マーシレス・レイザー》を、シノンが狙撃で
そう思った矢先、アスナとシリカ、ユウキのすぐ横にボスが
素早く剣を構えるシリカだとユウキだが、その後ろで、アスナはレイピアを握れずにいた。
「アスナ!」
リズベットが叫び、エギルとシノンも
悪魔がおもむろに右手を振り上げた。握られた巨大な
だが、それが振り下ろされるより早く、マエトがボスの前に
直後、上から飛び込んできた人影が、ボスの首元を
「アスナ! 遅くなった!」
すぐさま起き上がって言った人影──キリトに、マエトが親指を立てた。
「キリトさん、ナイス」
「お前がナイスにしたんだろうが」
キリトがそう言った通り、マエトはキリトがこちらに来ようとしているのに気付くや飛び出し、彼の剣が通るであろう場所にボスの急所を置いたのだ。
だが、まだ急所に一撃がクリティカルで入っただけだ。倒せたわけではない。
「昨日と同じだ。サポート頼む!」
「了解!」
短くやり取りすると、キリトとマエトは飛び出した。
数分後、キリトたちの猛攻を受けたザ・グリームアイズが爆散した。首筋を切り裂いてトドメを刺したキリトにより多くポイントが入り、彼のランキングナンバーが2へと上昇する。
だがその直後、ステージ上でまたしてもボスが出現した。赤い光を裂いて現れたのは、巨大な鎌を持った
その
(間に合わない......!)
しかし、凶刃がキリトを襲う寸前、何者かが巨大な盾で鎌を受け止めた。
白いフードを被った、YUNAと瓜二つな白髪の少女を見て、キリトが「ユナ!?」と叫んだ。
彼女は
オーグマーの開発責任者にして悠那の父親、そしてこの事件の犯人である重村
ARアイドルYUNAは、ライブ会場にSAO生還者を集めるために、歌が好きだった悠那をベースに作られた
死神の攻撃を防ぎながら、悠那が叫んだ。
「キリト助けて! このままじゃ、ここに来てくれた皆が危ない!」
続けて彼女が言った言葉に、キリトたちは息を呑んだ。
「全員のエモーティブ・カウンターの平均値が1万を超えたら、高出力のスキャンが行われて、脳にダメージが......!」
それを聞いて、マエトはスクリーンを見上げた。【EMOTIVE COUNTER AVERAGE】の文字列の下に表示されている数字は8506──いや、かなりのペースで上昇している。一度
悠那の言葉を受け、キリトはあらん限りの声で叫んだ。
「みんな、今すぐオーグマーを外すんだ! 外さないと危険なんだ!!」
キリトの声が響くが、戦闘をやめる者は1人としていない。
「無駄よ。今までイベントでボスモンスターを出現させていたのは、ここでみんなに戦わせるためだもの」
「だろーな。そもそもSAOボスは、これまで高効率のポイント源として話題だったんだ。あのでかいのが、ただのポイントにしか見えていないやつだっているだろ」
そう同意したマエトの言葉が、キリトの焦りを加速させた。
オーグマーを外さなければ命の危険がある。だが、本当にこれをイベントと
「ならどうすれば......!」
「旧アインクラッド100層でボスモンスターを倒して、《黒の剣士》!!」
そう即答され驚くキリトに、悠那はこう続けた。
「いまオーグマーのフルダイブ機能をアンロックするから、
「オーグマーにフルダイブ機能が!?」
思わず訊き返したキリトに、悠那が早口に答える。
「オーグマーは、ナーブギアの機能限定版でしかないもの。さぁ、早く!」
言うや否や、悠那は両手でシールドを力いっぱい押した。金属音と火花をまき散らし、死神が弾き飛ばされる。
なぜ旧アインクラッドで100層ボスを倒したら解決するのか、キリトには理解できなかった。何かしらの関係があるのか、くらいのことしか想像できない。
だが、いまはそんなことを考えている場合ではない。迷っている余裕もない。
「解った!!」
意を決して
振り向くと、エギルたちがこちらを見ていた。
『自分たちも戦う』
力強い
振り向いた悠那が手をかざすと、黄色い球光が広がった。
「やるわよ」
「はい!」
気合いを入れるリズベットとシリカの隣で、ユウキは大きく深呼吸した。
VRでの戦闘は彼女としても望むところだ。だが、これから行くのはかの呪われたタイトル《ソードアート・オンライン》。そのラスボスとの戦闘に、ユウキは緊張していた。
そんな彼女の頭を、誰かがポンと小さく叩いた。マエトだった。
少年は何も言わなかったが、そののんびりした
(そうだ......とー君がそばにいてくれる。キリトやリズたちだっている。SAOのラスボスがどれだけ強くても、みんなとなら戦える!)
そんな思いを胸に、ユウキは目を閉じた。
全員が仲間たちの闘志を互いに感じ合い、同時に息を吸った。
「「リンク・スタート!!」」
一斉に唱和した呪文が、7人を戦場へと
キリトたちが目を開けると、空を落下──いや降下していた。混じり気のない赤に染まる宮殿が目の前に迫った。不意に
「ここが、アインクラッド第100層《
リズベットの
「まさか2年も経って、ここを見ることになるとはな......」
そうして降下する彼らの目が、ボスの姿を
巨大──なんてものではない。これまで相対してきたボスモンスターとは、比較にならないほどの巨体だ。右手に両刃直剣、左手に
深紅と黒のドレスに包まれた真っ白な体はどこか女神のようでもあるが、身に
不意に、ボスの
「エギル!!」
思わず叫んだキリトの前で、ボスの顔の横に多段HPゲージが表示された。その数10本。
同時に、ボスの頭上に固有名が表示された。《An Incarnation of the Radius》──具現化する世界。浮遊城《
土煙が晴れると同時に、エギルの姿が見えた。
「これが......SAO本来のラスボスか!」
両手斧でなんとかガードしているが、太い腕は小刻みに震えている。ギリギリもいいところだ。
「行くぞ!!」
キリトが叫んだ。同時にシノンを除く全員が抜剣、突撃した。
ボスが大剣を振り下ろし、槍先のエギルを地面へと叩き下ろす。すぐさま振り向くと、体から色とりどりな10発のレーザーを斉射。キリト、ユウキ、マエトがギリギリで回避するが、いきなり曲がった光線を避けれなかったリズベットとシリカが大きく吹き飛んだ。
なんとか
柱に激突したキリトを追って、ボスが高速でホバー移動。大剣を振りかぶり、キリトに襲い掛かる。
その寸前で、高い場所に移動したシノンがボスを狙撃。剣や槍のリーチの外から
だが、シノンの放った光弾は全てシールドに防がれた。直後、ボスの目から赤黒いレーザーが放たれた。ボスが顔を振り、それに
「おぉぉぉぉぉらぁ!!」
太い雄叫びを上げ、エギルが突進。跳躍の勢いを乗せ、斧を障壁に叩き付けた。障壁の向こうから、ボスが無造作に突き出した槍を受けつつ叫ぶ。
「スイッチ!!」
直後、大ジャンプで飛び込んできたキリトが障壁を叩く。弾き返される直前で叫び、後ろに跳ぶ。
「スイッチ!!」
「「スイッチ!!」」
無防備となったボスの懐に、ユウキとマエトが飛び込んだ。掛け声もアイコンタクトもなしに放たれた全力の突き技と回転斬りが、同時にボスの体を
衝撃でボスの手を離れた大剣が、壁際に突き立った。
一時的に、少しだけとは言え、敵の攻め手が減った。シールドも割れたし、攻撃も届く。
そう思い、わずかに希望が見えた。
そのとき、ボスの後ろで何かが
樹だ。それも恐ろしく大きい。《白の
「くそっ......」
毒づくキリトの隣で、シリカとリズベットが絶望に満ちた声を
「そんな......」
「こんなの、倒せっこないわよ......」
あまりに理不尽な強さに、ユウキも珍しく息を呑んだ。
キリトたちがボスに苦戦している頃、ライブ会場ではボスモンスター群が変わらず大暴れしていた。ボスの中には、物理攻撃を無効化する巨大ゾンビだっているのだ。強大な怪物に恐怖し、逃げ惑い、頭を抱える者も多い。
エモーティブ・カウンターの平均値は、既に9030にまで達している。一斉スキャンも時間の問題だ。
アスナもまた、恐怖に震えていた。剣も抜かず、キリトの隣で頭を抱えていた。《閃光》や《バーサクヒーラー》の異名とはかけ離れた姿を見せる彼女に、声が降りかかった。
「ごめんね、アスナさん」
アスナが顔を上げると、防御をしたまま、悠那が振り向いていた。
「あなたが記憶をスキャンされたのは、あなたの記憶の中からアインクラッドで死んだ私の情報を
どういうことかと
「お父さんは全てのSAO生還者に、ボスモンスターに殺される恐怖を与えて、一斉に記憶を高出力スキャンしようとしている。それが実行されたら、脳に回復不可能なダメージが残るかもしれない。死を
「そ、そんな......!」
(これを外せば、キリトくんは助かる。でも、キリトくんが助けようとしている人たちを助けられなくなる......!)
恋人の命を守るか、恋人の決意を守るか。
ハッとすると、アスナは覚悟を決め、悠那に言った。
「ユナさん。昔のあなたがSAOで命を落としたなら、それは《
驚いて目を見開く悠那とユイに、アスナは決意を口にした。
「わたしももう一度戦う! ユイちゃん、キリトくんのところに行ってくるね」
「はいママ! あとで私も行きます!!」
椅子に座ると、アスナはキリトの手を握った。その手の温かさを感じると、不思議と勇気が
目を閉じ、短く息を吸うと、アスナは戦場への扉を開いた。
「リンク・スタート!!」
紅玉宮では、アン・インカーネイション・オブザ・ラディウスによる
「シノンさん、目ぇ
マエトが大声で出した指示を受け、シノンが素早くライフルを構えた。
どれだけ攻撃が多彩で高火力でも、相手を
だが狙撃より早く、ボスがレーザーで砲撃。大量の
「やめて!」
そう叫んで走るシリカに、ボスが視線を向けた。嫌な予感に突き動かされ、マエトはシリカに駆け寄った。突き飛ばして退避させようとするが間に合わず、ボスの目が血の色に光る。直後、足元の
「シリカ!!」
「とー君を離せ!」
2人を助けるべく飛び出したキリトとユウキだが、ボスは2人の体を無造作に
エギルとリズベットは黒の聖大樹で拘束されていて、助けに行けない。シノンは足が瓦礫に挟まっている上に、ライフルは離れた場所に落ちている。
そのとき、高い音を立ててマエトの長剣が
「あぁっ......!」
「いやぁぁっ......!」
あまりの圧力に、2人は悲鳴を上げた。
「逃げろぉぉぉぉっ!!」
そう叫ぶエギルだが、身動きが取れる者はもう1人もいない。シノンも
壁に半ば埋まった右手に、ボスが顔を近付けた。自分の手ごと、キリトとユウキをレーザーで撃つつもりだ。
「くそっ......!」
毒づくキリトともがくユウキの前で、ボスの目が激しく光った。やられる──。
瞬間、上空から超高速で何かが降ってきた。ボスの左目に直撃し、
岩盤が崩壊し、マエトとシリカが空中に投げ出された。マエトは岩の破片を蹴って近くの壁まで跳んだが、シリカは
地面に向かって落ちていく中、目を開いたシリカは、栗色の髪の少女がボスの左目から
「アスナさん!!」
「シリカちゃーん!!」
すぐそばを落下したシリカを追って、アスナは飛び出した。空中で追い付き受け止めると、年下の少女は泣きながら言った。
「ごめんなさい......あたしのせいなのに......!」
シリカはずっと、アスナが自分を
「ずっと気にしてたのね。ごめんね、シリカちゃん......」
涙を流すシリカを優しく抱き締めると、アスナは地面に生えていた黒の聖大樹に着地した。
「アスナ!」
アスナの奇襲で拘束が解け、脱出できたキリトやユウキたち、自力で移動したマエトも、アスナとシリカの元に向かった。
左目を抑えたボスがよろめいて壁にぶつかる中、アスナは仲間たちの顔を見て言った。
「みんな、遅くなってごめん!」
「大丈夫なのか......?」
「わたしも戦う。戦えるよ、キリトくん!!」
その瞳に宿る光は、かつてアインクラッドで何度も見てきた、《閃光》のアスナそのものだった。記憶を失ってなお変わらぬ闘志を感じ、キリトはアスナの覚悟を受け止めた。
「よぉーし、アスナがいれば百人力だよ!!」
やる気に満ちた声で叫び、拳を手の平にパシンと打ち付けるユウキだが、マエトは「どーかな」と呟いた。
「おれブレードもってかれて丸腰だから、トータルじゃ多分プラマイマイナスだよ」
そのとき、後方で射撃音が鳴った。振り向くと、
左目から
飛んできた大剣をバシッとキャッチするや、ボスはキリトたちに向かって突進した。
素早く構えるキリトたちに続いて、
(走り回って
そう決意し、マエトも身構えた。
背後から飛来した何かがボスの動きを止めたのは、それと同時だった。ボスの周囲で
ハッとして振り向くと、
「お兄ちゃーん! お待たせー!!」
そう言って手を振る彼女の大きな胸の谷間から、ユイが顔を出した。空中に躍り出ると、
「パパ、ママ、皆さんを呼んできました!」
ユイが示した先を見ると、いくつもの光が飛び込んできていた。赤、黄、緑、青──いや、あれはライトエフェクトではない。プレイヤーだ。
「楽しんでるな!」
そう言った
「よぉーし、VRじゃ無敵だぜェ!!」
急降下するや、3人のサラマンダーが続けざまにボスに斬りかかった。サクヤとアリシャも攻撃魔法を叩き込む。
怪物が悲鳴を上げるが、まだ終わらなかった。機銃音とマズルフラッシュが響き、弾丸の嵐がボスに
見上げると、実弾銃を構えたプレイヤーが4人いた。ダイン、ギンロウ、ベヒモス、
「あいつら......!」
驚きと
「時間がないぞ!」
「
叫ぶサクヤとクライン。そのとき、鈴の音のような声が響いた。
「大丈夫です、これを使って下さい!」
そう言ったユイが左手を
光が消え目を開けると、キリトのバトルコートが黒革のロングコートに、アスナのバトルドレスが白と赤の
「これは......?」
驚いて自分の体を見下ろす彼らに、「きゅるぅ!」と鳴きながらフェザーリドラが舞い降りてきた。シリカが「ピナ!」と
「このSAOサーバーに残っていたセーブデータから、皆さんの分をロードしました!」
両手でVサインをつくると、ユイは「シノンさんとユウキさんの分はオマケです!」と続けた。彼女の言う通り、シノンはGGOでの、ユウキはALOでの装備に変身していた。
吸い寄せられるように、マエトの両手が動いた。腰の後ろに交差して吊られた愛剣に手を伸ばす。
右手から氷のような冷たさが、左手から炎のような熱さが流れ込み、マエトの全身を駆け巡る。同時に、懐かしい声が聞こえた。
『な、言ったろ? また
(うるせー、
そんな思念が、マエトと剣の間を一瞬で行き交った。
武器はある。仲間も大勢いる。あとはぶつかるだけだ。
ガシャリと音を立て、キリトが黒と白銀の
「よし、みんなやろう!!」
「「おう!!」」
抜剣した《黒の剣士》に、熟練の剣士たちが頼もしい声で応じた。
いま、死闘が始まる──。
次回 平和の再開